等時帯
等時帯(とうじたい)とは、共通の標準時や常用時を使う地域全体のことである[1][注釈 1]。その地域の標準時や常用時を示す際には協定世界時(UTC)との差で示すことが多い。時刻帯(じこくたい)[注釈 2]、等時刻帯(とうじこくたい)[注釈 3]、時間帯(じかんたい)、タイムゾーン(英: time zone; TZ)、標準時間帯(ひょうじゅんじかんたい)ともいう。 船では時刻帯を記述する正負の符号を付けた数字を時刻帯名(じこくたいめい、英: zone description; ZD)といい、経度0度の時刻を用いる時刻帯を 0 とし、これより1時間ずつ遅くなる毎に +1 から +12 まで、1時間ずつ早くなる毎に -1 から -12 までで表す[20][21][22][23]。これは ISO 8601 や RFC 3339 の offset とは逆の符号になる[24]。
等時帯の情報収集団体
編集コンピュータ向けなどに等時帯の情報(夏時間の開始日など)を収集している団体として主なものとして以下の3つがある[25]。
- IANA Time Zone Database - Windows 以外のコンピュータや電子機器で広く使われている
- IATAタイムゾーン - 航空業界向け
- マイクロソフト[26] - Microsoft Windows などのマイクロソフト製品向け
等時帯一覧
編集歴史
編集地球は球形であり、また地球は太陽の周りを公転することから、場所によって太陽が一番上に上る正午は異なった(太陽時)。これによって経度1度につき約4分の時差ができるわけである。
航海技術とグリニッジ標準時の決定
編集大航海時代で航海技術が発達すると、緯度経度の考え方が重要であることが認識されていった。イングランド王チャールズ2世は、緯度経度を研究するために、1675年にグリニッジ天文台を設立したが経度に関する研究は進まず、1714年7月に海上で正確に経度を割り出す方法を発見した者に懸賞金を与える経度法が施行された。この懸賞金を獲得したのが、時計職人ジョン・ハリソンが作ったクロノメーターであった。
18世紀のクロノメーターの発明によって飛躍的に航海技術は向上して海図が整備され、場所と経度の関係を他国と共有する方法について統一基準を作る必要が出てきたことから、1884年に米国ワシントンで国際子午線会議が開かれ、世界中の船が使用していたイギリス製の海図が利用しやすいようグリニッジを基準点とすることに決定した[27]。
鉄道技術とタイムゾーン
編集経度と時間の関係の理解が進み、標準時は決まったものの、各地の時計は各地の太陽が一番上に上る時間が基準であった。しかし、この状況は鉄道によって様々な問題を引き起こした。時計が各地でバラバラだと衝突事故を起こしかねなかったのである。1840年にイギリスのグレート・ウェスタン鉄道がグリニッジ標準時をもとにした鉄道時間を運用していたが、1880年までイギリス各社で対応が異なり混迷を極めていた。
1852年8月23日にイギリス王立天文台から電信技術によって時刻信号が送られるようになり、駅時計が合わせられるようになったが、この時刻信号がイギリスの法定時刻になったのは1880年8月2日の事である。この中間期の時計は、現地時間と標準時で2本の分針があった[28]。
1800年頃の北米では、少なくとも144のタイムゾーンが存在した。それ以前では長距離移動する事がなく問題なかったが、鉄道が使われるようになると問題になっていった。1879年、カナダの鉄道技師サンドフォード・フレミングが鉄道に乗り遅れたことからタイムゾーンを統一するアイデアを思いつき、1883年11月18日にアメリカとカナダの鉄道業界はタイムゾーンのアイデアを採用し、北米大陸は4つのタイムゾーンに区分けされた[29][30]。
脚注
編集注釈
編集- ^ 「等時帯」という語は1966年には地理の学習参考書に用例がある[2]。また、高等学校学習指導要領(平成21年)の解説や中学校学習指導要領(平成29年告示)の解説にも「等時帯」が現れる[3][4]。
- ^ 2022年(令和4年)現在において航空従事者は「時刻帯」という語を用いている[5]。1921年(大正10年)11月1日公布、1922年(大正11年)4月1日施行の海軍艦船使用時規則(大正10年海軍省令第18号)により公海上を航行する艦船は同規則の附図「時刻帯図」に掲載する25個の時刻帯の時を用いることになった。この時刻帯図及び海軍艦船使用時規則は「東洋灯台表」大正11年上巻にも掲載された[6]。1937年(昭和12年)2月に水路雑図(現代の水路特殊図)として発行した時刻帯図(海図6016号)は[7][8]、1941年(昭和16年)の小改正を経て[9][10][11]、1958年(昭和33年)頃にも利用された[12][13]。1970年代も「時刻帯図」が利用され海上保安庁はその内容の更新に努めていたが[14][15]、2002年頃には海図第6016号「時刻帯図 (Time Zone Chart)」は歴史的資料として扱われている[16]。
- ^ 二宮書店の地図帳では2023-2024年版まで「等時刻帯」と表記していたが[17][18]、2024-2025年版では「等時帯」と表記している[19]。
出典
編集- ^ デジタル大辞泉. “等時帯(トウジタイ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年3月23日閲覧。
- ^ 野村正隆『図解対照地理の整理』学習研究社、東京、1966年7月。doi:10.11501/1682116。NDLJP:1682116。
- ^ 文部科学省 編「第2章 各科目 第6節 地理B 2 内容とその取扱 (1) 様々な地図と地理的技能」『高等学校学習指導要領解説 地理歴史編(平成26年1月28日更新)』(PDF)文部科学省、東京、2014–01-28、100頁。オリジナルの2024年4月12日時点におけるアーカイブ 。2024年6月10日閲覧。
- ^ 文部科学省 編「第2章 社会科の目標及び内容 第2節 各分野の目標及び内容 1 地理的分野の目標,内容及び内容の取扱い (2)内容 A 世界と日本の地域構成」『【社会編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説』(PDF)文部科学省、東京、2017年7月、41頁。オリジナルの2024年4月11日時点におけるアーカイブ 。2024年6月10日閲覧。
- ^ 国土交通省 (2022年11月). “航空従事者等学科試験解答及び過去問 令和4年11月期 問題 定期運送用操縦士(回)” (PDF). 国土交通省. 国土交通省. p. 2. 2024年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月14日閲覧。
- ^ 水路部 編「海軍艦船使用時規則」『東洋灯台表』 大正11年上巻、水路部、東京、1922年5月17日、213-215頁。doi:10.11501/933816。NDLJP:933816/135。
- ^ 水路部 編『時刻帶圖 海軍艦船使用時規則附圖』水路部、東京、1937年2月。国立国会図書館書誌ID:000008446039。
- ^ 水路部 編「水路雜圖」『普通水路圖誌目録』 昭和13年、水路部、東京〈書誌 ; 第220號〉、1938年3月31日、11頁。doi:10.11501/10304642。NDLJP:10304642/20。
- ^ 水路部 編『時刻帶圖 海軍艦船使用時規則附圖』水路部、東京、1941年。国立国会図書館書誌ID:000008446040。
- ^ 水路部 編「水路雜圖」『普通水路圖誌目録』 昭和17年、水路部、東京〈書誌 ; 第220號〉、1942年1月1日、11頁。doi:10.11501/10304646。NDLJP:10304646/20。
- ^ 水路部 編「天文略説 時 7.時刻帯と船舶使用時」『天體位置表』 昭和18年、水路部、東京〈書誌 ; 第684號〉、1942年12月30日、475頁。doi:10.11501/10304773。NDLJP:10304773/244。
- ^ 海上保安庁水路部 編「天文略説 時 7.時刻帯と船舶使用時」『天体位置表』 昭和33年、海上保安庁、東京、1956年12月30日、496頁。doi:10.11501/12607972。NDLJP:12607972/258。
- ^ 海上保安庁水路部 編「天文略説 時 7.時刻帯と船舶使用時」『天体位置表』 昭和34年、海上保安庁、東京、1958年3月30日、474頁。doi:10.11501/12607973。NDLJP:12607973/247。
- ^ 原田美道、長谷實「第6回国際連合アジア極東地域地図会議報告」(PDF)『地図』第9巻第1号、日本国際地図学会、東京、1971年3月31日、1-9頁、doi:10.11212/jjca1963.9.1、ISSN 2185-646X、2024年6月13日閲覧。
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- ^ 坂戸直輝「海図に関する昭和の技術小史 水路部とともに歩んだ60年 (1)」(PDF)『地図』第40巻第2号、日本国際地図学会、東京、2002年8月8日、12-30頁、doi:10.11212/jjca1963.40.2_12、ISSN 2185-646X、2024年6月13日閲覧。
- ^ 二宮書店編集部「【主題図】 等時刻帯」『新コンパクト地図帳』 2022-2023巻(改訂版)、二宮書店、東京、2022年3月、後2-後3頁。国立国会図書館書誌ID:032007192。
- ^ 二宮書店編集部「【主題図】 等時刻帯」『高等地図帳』 2023-2024巻、二宮書店、東京、2023年3月、前2頁。国立国会図書館書誌ID:032657645。
- ^ 二宮書店編集部「【主題図】 等時帯」『高等地図帳』 2024-2025巻、二宮書店、東京、2024年3月10日、前2頁。ISBN 978-4-8176-0520-7。
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- ^ 水路部 編「海軍艦船使用時規則」『燈臺表』 第2巻、水路部、東京〈書誌 ; 第100號B〉、1922年5月17日、655-656頁。doi:10.11501/10304767。NDLJP:10304767/351。
- ^ 日本海洋データセンター (1998年6月). “海洋略語辞典” (PDF). 日本海洋データセンター. 海洋略語辞典. 日本海洋データセンター. p. 120. 2014年9月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月15日閲覧。
- ^ U.S. Naval Observatory. “World Time Zone Map” (html) (English). Astronomical Applications Department. Information Center. U.S. Navy. 2024年6月15日閲覧。
- ^ Klyne, Graham; Newman, Chris (21 January 2020). Date and Time on the Internet: Timestamps (Report). Internet Engineering Task Force. p. 5. RFC 3339. 2024年6月23日閲覧。
- ^ ZoneId (Java SE 11 & JDK 11 )
- ^ Daylight Saving Time & Time Zone - Microsoft Tech Community
- ^ 1. “ロンドン・グリニッジはなぜ経度0なのか? - グリニッジと天文台にまつわる10の謎”. www.news-digest.co.uk. 2024年11月22日閲覧。
- ^ “Bristol Time”. GreenwichMeanTime.com. June 28, 2006時点のオリジナルよりアーカイブ。December 5, 2011閲覧。
- ^ “Sir Sandford Fleming” (英語). www.britannica.com. 2024年11月22日閲覧。
- ^ “How railroads inspired the creation of time zones” (英語). www.bbc.com. 2024年11月22日閲覧。