第90回帝国議会

日本史上で初めて女性議員が登院した帝国議会

第90回帝国議会(だい90かい ていこくぎかい)は、1946年(昭和21年)5月16日に召集され10月12日[1]まで行われた大日本帝国帝国議会(臨時会)である。太平洋戦争大東亜戦争)が終結してから3回目の帝国議会の召集であり、また、初めて男女普通選挙が実施された第22回衆議院議員総選挙によって、初めて女性議員が登院した議会である。

概要

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登院し、議席につく女性議員たち

日本国憲法制定に向けて、1946年6月に枢密院で可決された大日本帝国憲法の改正草案[2]第90回帝国議会に提出され、貴族院衆議院において修正を受けた[3]

経緯と比較

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帝国憲法改正案の衆議院による修正

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第90回帝国議会における衆議院の議席の内訳。

第90回帝国議会に提出された「帝国憲法改正案」は、衆議院にて主に次の点が修正され、1946年(昭和21年)8月24日に議決された[4][5]

現行第1条

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総司令部側の強い意向により主権在民が明文化された。

第1条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、日本国民の至高の総意に基く。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第1条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第9条

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原案第9条の表現は、日本がやむをえず戦争を放棄するような感じを与え、自主性に乏しいという意見が強かったため、修正案懇談のための小委員会において、芦田均小委員長から試案が提出され、小委員長において案文を調整し、修正案が決せられた。

この第9条の修正については、総司令部側からはなんらの異議もなかった。

第9条
国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第9条

① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第10条(新設)

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各派一致した見解に基づき、国民の要件に係る条項が新設された。

第10条
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第17条(新設)

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各派一致した見解に基づき、国家賠償に係る条項が新設された。

第17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第25条(1項新設)

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社会党委員の主張により、1項が新設された。

第23条
法律は、すべての生活部面について、社会の福祉、生活の保障及び公衆衛生の向上及び増進のために立案されなければならない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第25条

① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

② 国は、すべての生活部面について、社会の福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第27条

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「休息」は社会党委員の主張により挿入されたが、「勤労の義務」は各派一致した見解に基づき挿入された。

第23条

① すべて国民は、勤労の権利を有する。

② 賃金、就業時間その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。児童は、これを酷使してはならない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第25条

① すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ
② 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

③ 児童は、これを酷使してはならない。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第30条(新設)

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各派一致した見解に基づき、納税の義務に係る条項が新設された。

第30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第40条(新設)

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各派一致した見解に基づき、刑事補償に係る条項が新設された。

第40条
何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行第44条

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総司令部側の申入れにより修正された。

第40条
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、又は門地によつて差別してはならない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第44条
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行67条

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総司令部側からの要請により修正された。

第63条

① 内閣総理大臣は、国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

② (略) — 帝国憲法改正案(修正前)
第67条

① 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

② (略) — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行68条

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総司令部側からの要請により修正された。なお、この要請と同時に、総司令部からは、「内閣総理大臣及び国務大臣はシビリアンでなければならない。」という条項を加えることの要請がなされたが、第9条との関係上、不合理であることを総司令部側に説明し、その了解を得た。

第64条

① 内閣総理大臣は、国会の承認により、国務大臣を任命する。この承認については、前条第二項の規定を準用する。

② (略) — 帝国憲法改正案(修正前)
第67条

① 内閣総理大臣は、(※「国会の承認により、」を削除)国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。

② (略) — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行88条

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世襲財産を存置しながら、その収入はすべて国庫に帰属することは不合理であるとし、「世襲財産以外の皇室財産は、すべて国に属する。法律の定める皇室の支出は、……」とする案を小委員会でまとめたが、総司令部側からは、むしろ「すべて皇室財産は、国に属する。」とすべきとの提案があり、やむをえずそのように決した。

第84条
世襲財産以外の皇室の財産は、すべて国に属する。皇室財産から生ずる収益は、すべて国庫の収入とし、法律の定める皇室の支出は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第88条
※「世襲財産以外の」を削除)すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

現行98条

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憲法のほかこれに基づく法律及び条約までも最高法規としていた点については、委員会、総司令部側ともに不合理であるとして、削除された。 国際法規尊重に関する規定(2項)の追加は日本側の発意である。

第94条
この憲法並びにこれに基いて制定された法律及び条約は、国の最高法規とし、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第98条

① この憲法(※「法律及び条約」を削除)は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

② 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

帝国憲法草案補則97条(削除)

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各派一致の意見に基づき削除された。

第97条
この憲法施行の際現に華族その他の貴族の地位にある者については、その地位は、その生存中に限り、これを認める。但し、将来、華族その他の貴族たることにより、いかなる政治的権力も有しない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
削除 — 帝国憲法改正案(衆議院による修正後)

帝国憲法改正案の貴族院による修正

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衆議院にて修正議決された「帝国憲法改正案」は、貴族院にて主に次の点が修正され、昭和21年(1946年)10月6日に議決された[6]。貴族院による修正議決の後、10月7日に回付案が衆議院で同意された。

現行15条(3項新設)

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総司令部側からの要請に基づき普通選挙の保障に係る条項が新設された。

第14条

① 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
② すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

③ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第15条

① 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
② すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
③ 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

④ すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。 — 帝国憲法改正案(貴族院による修正後)

現行59条(3項新設)

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貴族院の発意に基づき修正された。

第55条

① 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
② 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

③ 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第59条

① 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
② 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
③ 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

④ 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。 — 帝国憲法改正案(貴族院による修正後)

現行66条(2項新設)

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総司令部側からの要請に基づき国務大臣の文民条項が新設された。文民条項は衆議院の段階でいったん取り止めになったが、極東委員会からの強い要請であったため、総司令部側も乗り気ではなかったが、結局修正することとなった。

第62条

① 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

② 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。 — 帝国憲法改正案(修正前)
第66条

① 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
② 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

③ 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。 — 帝国憲法改正案(貴族院による修正後)

関連項目

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外部リンク

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脚注

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  1. ^ 第90回帝国議会 貴族院 本会議(閉院式) 昭和21年10月12日”. 帝国議会会議録検索システム. 2022年9月19日閲覧。
  2. ^ 帝国憲法改正案”. 2022年10月3日閲覧。
  3. ^ 昭和21年(1946)11月|日本国憲法が公布される:日本のあゆみ”. www.archives.go.jp. 2022年9月18日閲覧。
  4. ^ 「日本国憲法の制定過程」に関する資料”. 2022年9月19日閲覧。
  5. ^ 修正点の詳細は、第90回帝国議会衆議院(本会議)議事速記録第35号を参照。
  6. ^ 修正点の詳細は、第90回帝国議会貴族院(本会議)議事速記録第39号を参照。