由旬
由旬(ゆじゅん、サンスクリット名:ヨージャナ योजन yojana)は、古代インドにおける長さの単位である。踰繕那とも書く[1]。「くびきにつける」の意で、牛に車をつけて1日引かせる行程のこと[2]。 牛にくびきを付けるのが普及したのは、主に牛耕の為なので、一日の田畑の耕しの距離とも考えられる。
古代インドでは度量衡が統一されておらず、厳密に「1ヨージャナは何メートル」とは定義できないが、一般的には約11.3キロメートルから14.5キロメートル前後とされる。また、仏教の由旬はヒンドゥー教のヨージャナの半分とも言われ、仏教の経典のひとつ阿毘達磨倶舎論(倶舎論)の記述などでは普通1由旬を約7 - 8キロメートルと解釈する[注釈 1]。 上記のように、仮に牛耕の距離と仮定すると、その距離は大幅に減少して、100m以下の可能性もある。
古くから様々な定義があり、例えば天文学書『アールヤバティーヤ』(en:Aryabhatiya)では「人間の背丈の8,000倍」となっている。他にも「帝王の行軍の1日分」「 牛の鳴き声が聞こえる最も遠い距離の8倍」などの表現がある。
また、「32,000ハスタ」とする定義もある[注釈 2]。ハスタ(hasta)とは本来「手」の意味だが、古代インドでは長さの単位として用いられており、この場合は「肘から中指の先までの長さ」(キュビット)と定義される。以下のように倍量単位が続く。4ハスタが1ダヌ(dhanu「弓」)または1ダンダ(daṇḍa「棒」)、2,000ダヌが1クローシャ(krośa)[注釈 3]、2クローシャが1ガヴユーティ(gavyūti)、2ガヴユーティが1ヨージャナ。仮に1ハスタを45センチメートルとした場合、1ヨージャナは14.4キロメートルとなる。
一方、仏教では1拘盧舎(倶盧舎ともいう[4]。クローシャ。500尋と同じともいわれる[3]。)が1,000弓(ダヌ。4,000ハスタと同じ。倶舎論では500弓〈後述〉)、そして4拘盧舎(倶舎論では8倶盧舎〈後述〉)が1由旬とされている。
阿毘達磨倶舎論では、物質的量の最小を「極微」とし、7極微(中心に1極微とその前後左右上下に1極微ずつ)を1微、7微を1金塵、7金塵を1水塵、7水塵を1兎毛塵、7兎毛塵を1羊毛塵、7羊毛塵を1牛毛塵、7牛毛塵を1隙遊塵(隙間から差し込む光の中に浮遊して見える塵ほどの粒子の大きさ)、7隙遊塵を1蟣(シラミの卵ほどの粒子の大きさ)、7蟣を1蝨(シラミほどの粒子の大きさ)、7蝨を1麥(麦)、7麥を1指、7指を1節、24指を1肘、4肘を1弓、500弓を1倶盧舎、8倶盧舎を1由旬としている[5] 。
由旬を使ってその大きさが示されているものとしては、須弥山の高さが8万由旬[6]、太陽の直径が51由旬[7]、月の直径が50由旬[7]、大気の層の厚さが160万由旬[3]などがある。ただし、太陽と月は天球上の見かけ上の大きさを示したものであり、実際の大きさは太陽の方が遥かに大きい。
脚注
編集注釈
編集出典
編集参考文献
編集- 櫻部建『倶舎論』大蔵出版、1981年。ISBN 978-4-8043-5441-5。
- 櫻部建、上山春平『存在の分析<アビダルマ>―仏教の思想〈2〉』角川書店〈角川ソフィア文庫〉、2006年。ISBN 4-04-198502-1。(初出:『仏教の思想』第2巻 角川書店、1969年)
- 中村元他『岩波仏教辞典』岩波書店、1989年。ISBN 4-00-080072-8。
- 米澤敬『はかりきれない世界の単位』株式会社創元社、2017年、39頁。ISBN 978-4-422-70107-3