現場代理人
現場代理人(げんばだいりにん)とは、工事請負契約の当事者(注文者から仕事を請負う「請負人」と請負人の仕事の結果に報酬を支払う「注文者」)のうち、「請負人」の契約履行に関する権限を授与されたものである。
概要
編集建設工事の請負人(受注者)が、契約内容の変更の承諾など請負人の契約の定めに基づく行為を、請負人に代わって現場代理人に意思表示(契約約款や仕様書の定めに基づく協議、承諾、通知、指示、請求、報告、申出、解除など)させる[1]ために権限を授与するときは、現場代理人へ授与する権限の範囲及び現場代理人の代理行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法(代理人が請負人から与えられた権限の行使に関し、実行すべき事項を実行しないなど代理人として著しく不適当と認められる場合における注文者から請負人への措置請求の方法など)を、注文者へ書面(代理権授与通知書など)により通知しなければならない。(民法第99条から第118条まで、建設業法第19条の2第1項)
これについては、注文者と請負者が相互に交付する契約約款に予め代理人の権限と意見の申出方法が記載されている建設工事標準請負契約約款叉はこれに準拠した契約書を使用し、注文者への現場代理人の通知について簡略にしておくことが一般的である。
建設工事標準下請契約約款(抜粋) | 現場代理人の権限の考え方の例示 |
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(請負代金内訳書及び工程表)
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(請負代金内訳書及び工程表)
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(関係事項の通知)
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(関係事項の通知)
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(条件変更等)
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(条件変更等)
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なお、現場代理人は、上記のとおり注文者との請負契約における請負人(受注者)の代理人であるため、下請負人との請負契約など注文者としての立場での事業主の代理人(建設業法第19条の2第2項の「監督員」[4](建築士法の工事監理は、建築工事に限る。))の権限や官公署への手続きなど注文者との契約に関わりのない行為に関する権限及び自社の作業中の労働者[5]を直接指導又は監督する行為(職長、作業主任者の職務)は、現場代理人の権限には含まれていない。[6]
また、現場代理人の選任は請負人の判断によるもので法令による定めはなく、注文者との契約により強制されない限り、必ずしも選任をしなければならないものではない。但し、この場合における現場代理人の権限は、請負人本人が行使する。
現場代理人に必要な資格等
編集現場代理人には、請負人に代わり代理行為を行使するための能力は必要とせず(民法第102条)、代理権の範囲内の現場代理人の行為の効果は、本人に帰属するため(民法第99条)、無権代理に該当する行為や違法行為を除き、現場代理人が責任を負う事はない。
なお、現場代理人は、請負人の代理人であるため、請負人本人である代表権を有する取締役や事業主などの選任は適当ではない。
契約の定めによるもの
編集建設工事標準請負契約約款や個別の入札条件等によって、工事現場に常駐し、その運営、取締り、請負人と代理人との雇用関係について定めるものがある。(以下の職務内容、義務、責任については、現場代理人が負うべきものとしての根拠となる定めはない。実際に携わる職務内容に応じ、資格要件や事業者責任等について考慮する必要がある。)
- 工事現場に常駐(当該工事を専任で担当し、工事現場に常に駐在していること。)すること。
- 工事現場の一切の事項を処理し、
その責めを負う。(責任に関する事項は、現行の標準請負契約約款では削除されている。) - 工事現場の運営、取締りを行うこと。
- 請負人との直接的かつ恒常的な雇用関係(期間の定めがない雇用関係)を有すること。
その他
編集施工体制台帳・再下請負通知書(記入例)
編集現場代理人の代理権の範囲及び現場代理人の代理行為についての注文者の請負人(受注者)に対する意見の申出の方法[9]の記入について
- 請負人の法律行為、代理権の範囲及び意見の申出方法について契約約款に記載があり、かつ代理権の範囲等が契約約款記載のとおりである場合の記入例
- 権限・・・建設工事請負契約書第10条第1項記載のとおり
- 意見の申出方法・・・理由を明示した書面による(建設工事請負契約書第12条第1項記載のとおり(標準下請契約約款では第11条第1項))
- 契約約款に請負人の法律行為の記載はあるが、現場代理人の権限の範囲などの記載がないため、代理権授与通知書等により通知する場合の記入例
- 権限・・・代理権授与通知書記載のとおり
- 意見の申出方法・・・理由を明示した書面による(代理権授与通知書記載のとおり)
土木工事共通仕様書等における用語の定義(参考)
編集- 指示とは、契約図書の定めに基づき、監督職員が受注者に対し、工事の施工上必要な事項について書面により示し、実施させることをいう。
- 承諾とは、契約図書で明示した事項について、発注者若しくは監督職員または受注者が書面により同意することをいう。
- 協議とは、書面により契約図書の協議事項について、発注者または監督職員と受注者が対等の立場で合議し、結論を得ることをいう。
- 提出とは、監督職員が受注者に対し、または受注者が監督職員に対し工事に係わる書面またはその他の資料を説明し、差し出すことをいう。
- 提示とは、監督職員が受注者に対し、または受注者が監督職員または検査職員に対し工事に係わる書面またはその他の資料を示し、説明することをいう。[10]
- 報告とは、受注者が監督職員に対し、工事の状況または結果について書面により知らせることをいう。
- 通知とは、発注者または監督職員と受注者または現場代理人の間で、監督職員が受注者に対し、または受注者が監督職員に対し、工事の施工に関する事項について、書面により互いに知らせることをいう。
- 連絡とは、監督職員と受注者または現場代理人の間で、監督職員が受注者に対し、または受注者が監督職員に対し、契約書第18条に該当しない事項または緊急で伝達すべき事項について、口頭、ファクシミリ、電子メールなどの署名または押印が不要な手段により互いに知らせることをいう。
- なお、後日書面による連絡内容の伝達は不要とする。
- 受理とは、契約図書に基づき受注者の責任において監督職員に提出された書面を監督職員が受け取り、内容を把握することをいう。
- 確認とは、契約図書に示された事項について、監督職員等が臨場若しくは請負者が提出した資料により、監督職員がその内容について契約図書との適合を確かめ、受注者に対して認めることをいう。
- 把握とは、監督職員等が臨場若しくは請負者が提出又は提示した資料により施工状況、使用材料、提出資料の内容等について、監督職員が契約図書との適合を自ら認識しておくことをいい、受注者に対して認めるものではない。
- 立会いとは、契約図書に示された項目について、監督職員等が臨場し、内容を確かめることをいう。
(契約図書と書面)
- 契約図書とは、契約書、共通仕様書[11]、特記仕様書[12]、図面[13]、現場説明書[14]及び現場説明に対する質問回答書[15]をいう。また、土木工事においては、工事数量総括表[16]を含むものとする。
- 書面とは、手書き、印刷物等による工事打合せ簿等の工事帳票[17]をいい、発行年月日を記載し、署名または押印したものを有効とする。
代理人による契約書などへの記名押印(参考)
編集代理人によって契約締結などする場合、
- (書面には、何者の代理であるかを明らかにするため、請負人の名を記入する方が客観的に確実であり妥当。)
- 例)□□建設株式会社
- 現場代理人 ◇◇ ◇◇ 印
- 現場代理人 ◇◇ ◇◇ 印
- 例)□□建設株式会社
現場代理人の現状
編集現場代理人に選任された者が兼任する他の職務[20]との混同、建設業法の施工体制台帳や再下請負通知書など書類の空欄を埋めるための実態が伴わない記名など、現場代理人への代理権授与行為の事実がない、または現場代理人に代理権を授与された自覚がないものや、請負契約に係る請負人の法律行為の定めがない契約[21]などにおける現場代理人の職務内容の思い込みによる行為の行使(無権代理、代理権の濫用)や、発注者の担当監督職員の理解不足により、書面への請負人本人の記名押印(いわゆる角印や丸印の押印)や、その書面を現場代理人から直接届出させるよう指図するなど使者[22]との混同が見受けられる。
また、請負人または請負人の現場代理人による見積条件と実際の施工条件が異なった場合における通知などについて、発注者または発注者の監督職員の都合により、受付を拒否(無視)または受け付けた書面を破棄あるいは差し替えを指図されるなど実務においても問題がある。
なお、現場代理人に限らず、直接の雇用関係にない請負人の作業中の労働者[5]への工事を施工させるための指示・管理などにあたる行為(当該請負人の職長や作業主任者の職務)は、労働基準法第6条、第24条、職業安定法第44条、労働者派遣法第4条第1項に接触する。(民法第623条、第632条)
労災保険関係成立票の事業主の代理人
編集事業主が、自ら行うべき労働保険事務の全部又は一部を行わせるための代理人を選任し、労働保険代理人選任・解任によって事前に提出した者を記載したもの掲げたもの。現場代理人である必要はなく、必ずしも選任しなければならないものではない。 選任しない場合は、労災保険関係成立票の事業主の代理人の欄は記入しない。(労働者災害補償保険法施行規則第3条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則第73条)
注釈
編集- ^ 署名叉は記名押印が必要な書面によって意思表示するときは、請負人に代わって、現場代理人の署名叉は記名押印するなど。
- ^ 条件変更の確認通知書(53ページ参照)
- ^ 条件変更の確認書及び変更指示書又は、条件変更による変更指示書(54、55ページ参照)
- ^ 直接の雇用関係にない、受注者の労働者(職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者)への指揮・監督は法令違反となる。
- ^ a b c 職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者
- ^ 兼任するためには、代理権授与や資格要件を満たすことが別途必要。
- ^ 事業を行う者で、労働者を使用するもの。労働安全衛生法における主たる義務者である「事業者」とは、法人企業であれば当該法人(法人の代表者ではない。)、個人企業であれば事業経営主を指している。
- ^ 法違反があった場合の罰則の適用は、労働安全衛生法第122条に基づいて、当該違反の実行行為者たる自然人(本件では、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者)に対しなされるほか、事業者たる法人または人に対しても各本条の罰金刑が課せられることとなる
- ^ ここでいう、「意見の申出方法」とは、協議等ではなく、代理人が請負人から与えられた権限の行使に関し、実行すべき事項を実行しないなど代理人として著しく不適当と認められる場合における注文者から請負人への必要な措置の請求等の方法を指す。
- ^ 提示については、工事打合せ簿を作成する必要はない。(「土木工事書類作成マニュアル」より)
- ^ 各建設作業の順序、使用材料の品質、数量、仕上げの程度、施工方法等工事を施工するうえで必要な技術的要求、工事内容を説明したもののうち、あらかじめ定型的な内容を盛り込み作成したもの
- ^ 特記仕様書とは共通仕様書を補足し、工事の施工に関する明細または工事に固有の技術的要求を定める図書。設計図書に基づき監督職員が受注者に指示した書面及び受注者が提出し監督職員が承諾した書面は、特記仕様書に含まれる。
- ^ 入札に際して発注者が示した設計図、発注者から変更または追加された設計図、工事完成図等をいう。なお、設計図書に基づき監督職員が受注者に指示した図面及び受注者が提出し、監督職員が書面により承諾した図面を含むものとする。
- ^ 工事の入札に参加するものに対して発注者が当該工事の契約条件等を説明するための書類
- ^ 質問受付時に入札参加者が提出した契約条件等に関する質問に対して発注者が回答する書面
- ^ 工事施工に関する工種、設計数量及び規格を示した書類
- ^ 施工計画書、工事打合せ簿、品質管理資料、出来形管理資料等の定型様式の資料、及び工事打合せ簿等に添付して提出される非定型の資料をいう。
- ^ 押印不要
- ^ 裁判になった場合を考慮し、契約上の権利・義務に関する事項のうち、現場代理人が権限内の事項として処理することが適当でない重要なものについては、現場代理人の権限から除外するべきであるが、それらを含めた権限を授与するときは、実印の使用(予め、代理権授与通知書に実印を押印。印鑑証明書添付。)が望ましい。
- ^ 使者、監督員(注文者としての立場の事業主の代理人)、主任技術者、職長、作業主任者、統括安全衛生責任者、元方安全衛生管理者、安全衛生責任者
- ^ 注文書叉は注文書と請書のみを交付する約款がない契約
- ^ 代理人の意思表示に関する権限と異なり、使者は請負人本人の意思を伝える行為に留まる。請負人の署名叉は記名押印した書面の提出等。
関連項目
編集外部リンク
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- 誌上法学講座 - 国民生活センター
- 建設工事標準請負契約約款 - 国土交通省
- 注文書及び請書による契約の締結について (PDF) - 国土交通省
- 監督・検査・工事成績評定・土木工事共通仕様書関係 - 国土交通省
- 官庁営繕の関係法令 - 国土交通省
- ガイドライン・マニュアル - 国土交通省
- 建設生産システム合理化推進協議会活動状況 - 一般財団法人 建設業振興基金
- 瑕疵保証のあり方に関する研究会報告について - 国土交通省
- 建設工事紛争審査会 - 国土交通省
- 「建設業法令遵守推進本部」の活動結果 - 国土交通省
- 「歩切り」の廃止による予定価格の適正な設定について - 国土交通省
- 景品表示法関係ガイドライン等 - 消費者庁
- リーフレット・調査研究報告等 - 建設業労働災害防止協会
- 優越的地位の濫用 (PDF) - 公正取引委員会
- 民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会
- 日弁連住宅建築工事請負契約約款 - 日本弁護士連合会
- 告示(平成15年) - 財務省
- e-Gov法令検索 - 総務省
- 労働者派遣事業・職業紹介事業等 - 厚生労働省
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律 - 国土交通省
- 消費者制度 - 消費者庁