熱波
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熱波(ねっぱ、英: heat wave)は、その地域の平均的な気温に比べて著しく高温な気塊が波のように連続して押し寄せてくる現象のことである。
世界気象機関(WMO)の定義では、日中の最高気温が平均最高気温を5°C以上上回る日が5日間以上連続した場合をいう[1][2]。熱波の定義は地域によって異なる。
原理
編集夏にブロッキング現象が起こると北半球では卓越風が極端に南寄りに南半球では北寄りに吹き、赤道付近の暖かい風が流れ込むとともにその地域に高気圧帯が出来る[注釈 1]。一度ブロッキング現象が起こると同じような天候が長時間継続する(ブロッキング高気圧)ため中緯度地域に暖かい風が次々と入り込み、気温はさらに上がっていく。これらが繰り返し起こることで暑さが増幅され、やがて熱中症、熱射病などで人間を死に至らしめるほどの暑さとなる。
熱波に特徴的な天候が、長期間安定した晴天である。そのため翌朝までの放射冷却では大気を冷ましきれずに気温が底上げされ気温が日に日に上昇し、熱波の収束前に気温のピークを迎えることが多い。また雨が少なくなり、湿度も下がって乾燥傾向になる。一般に風も弱くなる(特に高気圧の中心付近)ため大気汚染物質が浄化・拡散されにくくなり大気汚染の被害、特に光化学スモッグによる被害が発生しやすくなる。
ただ熱波がピークを過ぎて大気の安定が崩れ、寒気が近づいたりすると高温の影響のために対流活動が活発化し激しい驟雨や雷雨による荒天(夕立、スコールなど)が顕著になる傾向がある。
影響
編集熱波による影響は高温によるもの、少雨や乾燥によるものに大別できる。
熱波により、気温が体温を超えるような高温となることがある。これほどの高温となると熱中症、熱射病、脱水症状などの症状を訴える人が多くなり、死者も発生することがある[3]。多くの建造物や舗装された道路などは、気温よりも大幅に温度が高くなる。
また少雨や乾燥は高温により需要が増える水資源の不足を招き上水道の給水制限や河川の取水制限、断水、農業用水の不足といった悪影響が出ることも多い。
山火事の引き金になることもある[4]。
近年の主な熱波
編集ここでは、特に被害が甚大であったものを挙げる。文中異常(気候)とは、その地点として、30年に1回程度以下のまれな値となった場合を指す。
- 1977年7月10日 ギリシャのアテネで2015年までのヨーロッパ最高気温48.0°Cを記録[注釈 2]。
- 1980年6-8月 アメリカ中〜南部熱波[7](テキサス州ウィチタフォールズで最高気温47°C、同州ダラスで最高気温38°C以上の日が連続42日、オクラホマ州タルサ、カンザス州ウィチタで7月平均気温平年差(当時)が+5°C以上、ニューヨークで8月平均気温最高記録、全米で死者1,700人以上)[要出典]
- 1987年7月 ギリシア熱波(最高気温45°C、死者1,000人以上)[8][9]
- 1993年7月 アメリカ南東部熱波(ジョージア州アトランタ7月平均気温最高記録、ただし中西部は洪水、北西部は異常低温)[要出典]
- 1994年6-8月 日本や韓国で猛暑[要出典]
- 1995年 シカゴ熱波(死者739人。アメリカ中西部全体では3000人以上死亡[10]。同様の熱波は過去にもあったが、都市化の進展で被害が急増したとされる[要出典])
- 1998年 インドで2541人死亡(3028人とも)[要出典]
- 1999年 アメリカ東部熱波(ニューヨーク7月平均気温最高記録)[要出典]
- 2000年 パキスタンで140人死亡[要出典]
- 2003年 フランス、イタリア、ポルトガル、ベルギー、スイス[注釈 3]など500年来のヨーロッパの熱波(ヨーロッパ全域で死者52,000人以上[11])
- フランス14,800、ドイツ7,000、イタリア4,200、スペイン 4,200、イギリス2,139(1833年に150人の記録)、ポルトガル2,099、オランダ1,400、ベルギー1,250、スイス975
- 2005年 アメリカ全域熱波(気温40°C以上)[要出典]
- 2006年 アメリカ全域熱波(気温40°C以上。中でもカリフォルニアは最高気温48°Cで最高記録となった)[要出典]
- 2007年
- 2009年 オーストラリア南部熱波(最高気温45°C)[12][13]
- 2010年
- 6-8月 日本で「観測史上最も暑い夏」[14]
- 7月 ヨーロッパ〜西ロシアで異常高温、ロシア西部では異常少雨、干ばつや森林火災(偏西風の蛇行に伴い背の高い高気圧が発生した状態が7月を通して継続[注釈 5]、高気圧の高温域・晴天域に覆われた事に因る)
- 2015年
- 5月 インドの熱波(2200人以上死亡。アラーハーバードで47.7°C、デリーで45.5°C[16][17][18][19])
- 6月 パキスタンの熱波(2000人以上死亡[20]。サッカルで48°C、6月22日にはカラチで45°C、ラマダーンと停電で被害拡大[21][22])
- 7月31日 イランのバンダルマズハー (Bandar-e Mahshahr) (クウェート近くのペルシャ湾沿岸都市)で最高気温46.1°C(115°F)、最低気温32.2°C(90°F)、湿度を考えた体感気温74°C(165°F)[注釈 6][23]。前日にも最高気温42.8°C(109°F)、最低気温32.2°C(90°F)、体感温度68°C(154°F)[24]
- 7月
- 2016年
- 2019年 フランスでは、6月24日-7月7日と7月21日-27日の二度を中心に大きな熱波に見舞われ、7月28日にはフランス南部のガール県ガラルグルモンテュ村にて同国観測史上最高となる45.9°Cを記録した。フランス保健省は9月9日までに、熱波に関連して1435人が死亡したことを明らかにした[31]
- 2022年7月 スペインでは最高気温が45°Cを超える日が続き山火事が相次いだ[32]。また熱波による死者数は500人以上に達したものと推計された[33]
脚注
編集注釈
編集- ^ 寒気や暖気の強さに差はあるが、ブロッキング現象自体は年間を通して発生する。
- ^ アテネの通常の7月の最高気温は32°C。[要出典]
- ^ スイスでの2015年7月までの過去最高気温は、グラウビュンデン(Graubunden)地方のグロノ(Grono)村で2003年に観測された41.5°C。[要出典]
- ^ 日最高気温観測値は以下の通り。(1)デミール・カピヤ(マケドニア) 45.7、(2)バリ・パレーセー(イタリア) 45.6、(3)ゲイゲリア(マケドニア) 45.3、(4)アメンドリア(イタリア) 45.2、(5)スメデレスカパレンスカ(セルビア・モンテネグロ) 44.6、(8)サンダンスキ(ブルガリア)44.6(単位はすべて°C)。なおブルガリアでは1916年に45.1°Cを記録している。[要出典]
- ^ モスクワ付近の一部で、月平均500hPa高度5820m(平年差+150m)以上の顕著な正偏差。ロシアのモスクワでは7月29日の日最高気温が38°C(平年値約22°C)に達した[15]。
- ^ 体感温度の世界記録は2003年7月8日にサウジアラビアのダーランで記録された81°C(178°F)である。[要出典]
- ^ これまでの記録は1921年の38.9°C。[要出典]
- ^ ラジャスタン州Alwarで1956年に記録した50.6°C。
出典
編集- ^ Bhattacharya, Suryatapa (2015年5月29日). “インドの摂氏45度の熱波はどうして起きたのか”. ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 2015年8月6日閲覧。
- ^ “Weather_ A summer heat wave” (英語). WeatherCast. 2015年8月6日閲覧。
- ^ 都内で初の40度超え “殺人熱波”今週ピークに 夕刊フジ公式サイト
- ^ ギリシャで山火事 写真特集 時事通信社
- ^ “Climate Change Indicators: Heat Waves”. EPA(U.S. Environmental Protection Agency ). 2024年8月25日閲覧。
- ^ “SAP 3.3. Weather and Climate Extremes in a Changing Climate”. CCSP (U.S. Climate Change Science Program). 2024年8月25日閲覧。
- ^ 田代茂夫「1980年の世界の異常天候」『水利科学』第25巻第2号、日本治山治水協会、1981年6月1日、20-21頁。
- ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『熱波』 - コトバンク
- ^ 小泉耕「7月の世界の天候」(pdf)『天気』第34巻第9号、日本気象学会、1987年9月、595頁。
- ^ “Heat Wave 1995”. Chicago Now. (2015年7月11日) 2015年7月13日閲覧。
- ^ ブラウン, レスター (2006年5月). “夏の熱波で5万2千人以上のヨーロッパ人が死亡”. Eco Economy Update. WWJ地球環境メールマガジンEpsilon. 2009年8月23日閲覧。
- ^ “世界の年ごとの異常気象 対象期間:2009年”. 気象庁. 2022年8月18日閲覧。
- ^ “オーストラリア”最悪の森林火災”で死者200人・1800棟が焼失”. 防災情報新聞 無料版 (2009年2月). 2022年8月18日閲覧。
- ^ “異常気象レポート2014 近年における世界の異常気象と気候変動 〜その実態と見通し〜(VIII)” (PDF). 気象庁. p. 3 (2015-27-03). 2015年8月6日閲覧。
- ^ “ヨーロッパ東部からロシア西部周辺にかけての異常高温について”. 平成22年報道発表資料. 気象庁 (2010年8月6日). 2010年8月10日閲覧。
- ^ “インド各地で熱波、500人強死亡 首都は43.5度”. ロイター. (2015年5月26日) 2015年5月26日閲覧。
- ^ “インド熱波、死者800人超に 首都で道路溶ける”. AFP=時事 (Yahoo!ニュース). (2015年5月26日) 2015年5月26日閲覧。 [リンク切れ]
- ^ “Heat wave continues to sweep across India, toll over 1,700”. Ummid.com. (2015年5月28日) 2015年5月29日閲覧。
- ^ “インド 熱波による死者2100人超に”. NHK. (2015年5月31日) 2015年5月31日閲覧。 [リンク切れ]
- ^ “Blistering Pakistan heat wave leaves nearly 2,000 dead over last two weeks”. Bloomberg Japan Times (AP). (2015年6月24日) 2015年7月13日閲覧。
- ^ “パキスタン、熱波の死者400人に 南部の酷暑続く”. 産経新聞. (2015年6月23日) 2015年6月23日閲覧。
- ^ “パキスタン熱波、死者1000人超える”. AFP=時事 (Yahoo!ニュース). (2015年6月25日) 2015年6月25日閲覧。 [リンク切れ]
- ^ “Extreme temperature: Iran city sizzles with near world record-breaking heat of 165°F”. Christian Today. (2015年7月31日) 2015年8月2日閲覧。
- ^ “Iranian city Bandar Mahshahr hits 'incredible' temperature of 43C during Middle East heatwave”. The Independent. (2015年7月30日) 2015年8月2日閲覧。
- ^ “スイス・ジュネーブで史上最高気温”. AFP. (2015年7月8日) 2015年7月8日閲覧。
- ^ “欧州、北米…世界中で熱波 ドイツでは40度超え最高更新”. 産経新聞. (2015年7月10日) 2015年7月12日閲覧。
- ^ “世界各地を熱波襲う イランで体感温度74度、インド2300人死亡、アルプスの氷河ピンチ”. 産経新聞. (2015年8月5日) 2015年8月5日閲覧。
- ^ “クローズアップ2015:ダブル高気圧で猛暑”. 毎日新聞. (2015年8月9日) 2015年8月22日閲覧。
- ^ インド:熱波に関する注意喚起 外務省海外安全情報(スポット情報) 2016年4月25日
- ^ インド北部で気温51度を観測、国内新記録 AFP=時事 2016年5月20日
- ^ “今夏のフランス、熱波関連の死者1435人に 保健省が発表”. CNN (2019-0-09). 2019年9月9日閲覧。
- ^ “欧州でも熱波襲来 スペインで45°C超え、山火事が相次ぎ「気候変動は間違いなく起きている」”. 東京新聞 (2022年7月16日). 2022年7月20日閲覧。
- ^ “スペイン、熱波の死者推計「500人以上」 首相が注意喚起”. AFP (2022年7月21日). 2022年7月20日閲覧。