段駄羅
石川県輪島で流行した五七五の短詩型文芸
段駄羅 (だんだら)は石川県能登半島の輪島で、漆塗り職人の仕事場を中心に、かつて大流行した五七五の短詩型文芸で、言葉の二重構造を楽しむ言葉遊びのこと。形の上では俳句や川柳と同じく五七五であるが、中の七音が二つの異なる意味を持って、上の五音と下の五音につながる構造をしている。もじり句ともいう。江戸時代に始まった文芸で、300年近い歴史を持っている。最近、能登地方の人々を中心に見直され、復活の兆しが見られる。
段駄羅作品例
編集- また潜る 海女、息吸って/甘いキスって 恋の味
- 野に山に 誘う緑/勇魚、海鳥 波しぶき
- 節分会 鬼も罪ない/お荷物見ない 気楽旅
- さあ戦 兜をかぶり/株十日ぶり 高騰し
- 地蔵さま 髪が皆無し/神々七氏 宝船
- すがすがし 元旦の雪/寒暖の行き めぐる四季
- 荒波に 機雷流れし/ 嫌いな彼氏 ひじ鉄砲
- 死んだふり 熊も遠くに/熊本お国 肥後芋茎
- 奥方が 御懐妊じゃが/五階、忍者が 現れた
- 預けても 最低の利子/咲いて祈りし 彼岸花
- 生命の水 沢が鹿には/騒がし蚊には 殺虫剤
- 呼び出され 至急出る家/四球で塁へ ゆっくりと
- 時は行く 隙間も無くに/好き、間もなくに 惚れた仲
- バンカーで 砂を均して/素直なら、して いい返事
- 海の中 静寂世界/聖者癖かい 首を振る
- 夕食に 鯛の塩焼き/大の字を焼き 京の夏
- 雪煙 立て、滑りゆく/蓼酢減りゆく 鮎料理
- お年寄り 超高齢化/兆候、冷夏 エルニーニョ
- 子の笑顔 撮って憩える/突堤越える 波頭
- 雪とけて 匂う土筆や/鳰美しや 夕茜
- 店頭の 墓石高値/破壊したかね 危険物
- 嗅ぎ当てた 鼻、きんつばを/花金、ツバを 飲む呑んべぇ
- スキャンダル 響く落選/日々苦楽せん 人の世は
- 実力は 前頭なみ/前が白波 露天風呂
- 鯔の稚魚 水面の黒さ/皆モノクロさ 雪景色
- 甘党は 羊羹が得手/よう考えて 置く碁石
- 能登地震 予期しなかった/ 良き品買った 朝市で
- 蝶群れて 乱舞するのか/ランプ擦るのが アラジンだ
- 夜学生 両立苦労/料理作ろう 君のため
- 段駄羅は 輪島で盛ん/わしまで左官 壁を塗り
江戸時代のもじり作品例
編集- 御祖師さま 有難かりし/ 蟻が集りし 瓜の皮
- 籠枕 転た寝にする/歌、種にする 恋の文
- 炙り餅 焦がしゃ固なる/子が釈迦となる 摩耶夫人
- 親に孝 するが第一/駿河第一 竹細工
- 瓦屋根 葺くと腐らぬ/福徳去らぬ 長者の家
参考文献
編集- 段駄羅に関するもの
- 『輪島町史』第三章第四節、若林喜三郎編、石川県鳳至郡輪島町、1954年
- 『能登半島』輪島だんだら、毎日新聞社編、毎日新聞社、1960年
- 「段駄羅ものがたり」、島谷宣秀齋、『東京輪島会会報』第十一号、1969年
- 『輪島市史』第六巻、輪島市史編纂専門委員会編、石川県輪島市、1973年
- 『自撰百句 段駄羅歌留多』、島谷吾六、私家版(かるた)、1980年
- 『段駄羅雪月花』、島谷宣秀齋、私家版、1983年
- 『輪島塗職場文芸 段駄羅雑蒐』、中村裕編、輪島高校だんだら研究会、1983年
- 『輪島塗』五 段駄羅考、輪島塗編集委員会編、京都書院、1983年
- 『現代段駄羅作品集』、中村裕編、輪島高校だんだら研究会、1984年
- 『段駄羅真似び』、松尾英一、私家版、1986年
- 『段駄羅佳境 島谷吾六翁作品抄』、中村裕編、私家版、1988年
- 『季刊だんだら』1~70、山王寺清編、段駄羅保存独歩会、1994年~2003年
- 『漆の里・輪島』、中室勝郎、平凡社、1997年
- 『段駄羅作品集』1~14、輪島段駄羅同好会、保存会、1997年~2021年
- 『連句 理解・鑑賞・実作』第二章、二村文人、おうふう、1999年
- 「渋川もじり句と輪島段駄羅」、平沢文夫、『群馬歴史散歩』第154号、1999年
- 「輪島の塗師文芸『段駄羅』」、藤平朝雄、加能民俗の会、1999年
- 「能登輪島の漆職文芸『段駄羅』」、中村裕、『連句協会会報』117号、2000年
- 『だんだらのほん 段駄羅草子』、稲忠段駄羅愛好会編、稲忠漆芸堂、2000年
- 「『段駄羅 輪島塗の職場文芸』の研究」、谷内文佳、富山大学卒業論文、2001年
- 『ことばもよう』段駄羅 花繚乱、織田道代、踏青社、2002年
- 『不思議な日本語 段駄羅』、木村功、踏青社、2003年
- 『段駄羅五十音順作品集』、木村功編、輪島段駄羅同好会、2003年
- 「詠み捨てられた文芸 能登輪島段駄羅」、堀切実、『近世文芸研究と評論』第66号、早稲田大学研究と評論の会、2004年
- 「段駄羅とは」、中道風迅洞、風のたより、2004年
- 「言葉遊びが好き」、阿刀田高、『図書』第669号、岩波書店、2005年
- 『ことば遊びの楽しみ』第二章、阿刀田高、岩波新書、2006年
- 『おとこ坂おんな坂』第九話 恋の行方、阿刀田高、毎日新聞社、2006年
- 「能登輪島の漆職文芸 段駄羅」、木村功、『季刊古川柳』第135号、川柳雑俳研究会、2007年
- 「もじりと段駄羅に関する考察」、木村功、『季刊古川柳』第161号、川柳雑俳研究会、2014年
- 『段駄羅作品鑑賞』1~5、夢岡樽蔵、踏青社、2012年~2013年
- 『老のくりごと』48能登の段駄羅、島津忠夫、和泉書院、2017年
- 『生意気にほんかくちゅうか四川省』、小西正太郎、文芸社、2018年
- 『段駄羅連句作品集』1~10、夢岡樽蔵編、オリンピア印刷、2019年~2021年
- もじりに関するもの
- 『川柳雑俳の研究』、麻生磯次、東京堂、1948年
- 『ことば遊び辞典』、鈴木棠三、東京堂、1959年
- 『狐の茶袋』第十編、仁盛堂二樹編、松籟会、1962年
- 『言語遊戯の系譜』、綿谷雪、青蛙房、1964年
- 『黄表紙 川柳 狂歌』(日本古典文学全集46)、浜田義一郎・鈴木勝忠・水野稔校注、小学館、1971年
- 『雑俳史の研究』、宮田正信、赤尾照文堂、1972年
- 『俳諧史要』、鈴木勝忠、明治書院、1973年
- 『狐の茶袋』第十一編、呑月庵吐峰編、喜楽会、1974年
- 『ことば遊び』、鈴木棠三、中公新書、1975年
- 『潁原退蔵著作集』第十四巻、第十五巻、、中央公論社、1979年
- 『川柳と雑俳』、鈴木勝忠、千人社、1979年
- 『ジョークとトリック』、織田正吉、講談社現代新書、1983年
- 『雑俳集成』第一期五(享保京都会所本集)、鈴木勝忠校訂、東洋書院、1985年
- 『雑俳集成』第一期七(宝暦京都会所本集)、鈴木勝忠校訂、東洋書院、1987年
- 『京都享保万句秀詠』、鈴木勝忠略解、私家版、1988年
- 『京都宝暦万句秀詠』、鈴木勝忠略解、私家版、1988年
- 『素敵にことば遊び 子どもごころのリフレッシュ』、向井吉人、学芸書林、1989年
- 『雑俳集成』第二期四(京都享保雑俳集)、鈴木勝忠校訂、私家版、1990年
- 『江戸の粋 短詩型文学 前句附け』、渡邉信一郎、三樹書房、1994年
- 『雑俳集成』第三期一(享保京都会所本集)、鈴木勝忠編、私家版、1995年
- 『黄表紙 川柳 狂歌』(新編日本古典文学全集79)、棚橋正博・鈴木勝忠・宇田敏彦注解、小学館、1999年
- 『短詩文芸バイブル 雑俳諧作法 言葉遊びのいろいろ』、佐藤紫蘭、葉文館出版、1999年
- 『定型詩学の原理』、筑紫磐井、ふらんす堂、2001年
- 『雑俳ことば遊び抄』もじり、下山弘、太平書屋、2005年