横紋筋肉腫
横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ、英語: Rhabdomyosarcoma)とは骨、そして筋肉や脂肪といった軟部組織にできる腫瘍である。小児や青少年がかかることが多いが、まれに成人でも発症する[1]。腫瘍は体の様々な部分にできるが、自覚症状がなく発症頻度が低いため、腫瘍が大きくなってから初めて気が付くこともある。
横紋筋肉腫 | |
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低エコー画像による頭蓋内の横紋筋肉腫 (耳後部にできた胞巣性の腫瘍) | |
概要 | |
診療科 | 腫瘍学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | C49.M50 |
ICD-9-CM | 171.9 |
ICD-O | M8900/3-M8920/3 |
OMIM | 268210 |
DiseasesDB | 11485 |
MedlinePlus | 001429 |
eMedicine | ent/641 |
Patient UK | 横紋筋肉腫 |
MeSH | D012208 |
疫学
編集性比は男(1.4):女(1.0)[2]、小児がん全体に占める割合は3%程度[3]から 8%程度[4]とされ、1歳から4歳くらいまでは特に多く[5]、全体の2⁄3 が 6 歳以下[2]。乳児期、5-7 歳頃、10 歳代に発生のピークがある[2]。日本での発症者数は年間90人程度とされる[4]。
当該疾患の発症率を高める疾患として、リー・フラウメニ症候群、神経線維腫1型(NF1)、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、コステロ症候群、ヌーナン症候群、MEN2A症候群などが知られているが、充分に解明されていない[4]。
横紋筋肉腫の特徴
編集全ての部位に発生する可能性はあるが、好発部位が存在する[3]。
- 頭頸部(約35%)、通常は眼窩または上咽頭道:学齢期の小児で最も多くみられる
- 泌尿生殖器系(約25%)、膀胱、前立腺、腟
- 四肢(約20%):青年で最も多くみられる
- 体幹/その他の部位(20%)
転移は患者の15-25%に発生し最も多い部位は肺である。骨、骨髄、リンパ節にも転移する[3]。
胎児型と胞巣型の2種類に大別される。
- 胎児型
- 特徴は、染色体11p15.5のヘテロ接合性の消失[3]。
- 胞巣型
- PAX3遺伝子をFOXO1(FKHR)遺伝子と融合させる転座t(2;13)、およびPAX7遺伝子をFOXO1(FKHR)遺伝子と融合させる転座t(1;13)と関連するもの[3][6]。
症状と症候
編集小児の典型例では、全身症状は現れない。腫瘍発生部位に触って判別出来る硬い腫瘤が認められる。深部に発生した腫瘍では近隣臓器が圧迫され、圧迫された臓器の機能障害や血尿、声質の変化、疼痛などが現れる。
- 眼窩および上咽頭
- 流涙、眼痛、眼球突出。
- 上咽頭腔
- 鼻閉、声質の変化、粘液膿性の分泌物。
- 泌尿生殖器
- 腹痛、触知可能な腹部腫瘤、排尿困難、血尿。
- 四肢
- 密着した硬い腫瘤が上肢または下肢のあらゆる部位。無症状のままリンパ節への転移。肺、骨髄
胎児型(ERMS)と胞巣型(ARMS)
編集小児の横紋筋肉腫は、病理組織学診断を目的とした、顕微鏡下での観察による腫瘍細胞の増殖パターン、及び形状に応じて[4]、胎児型(ERMS)と胞巣型(ARMS)との2大組織型亜型に分けられる[6]。胎児型は小児に多く、眼窩や頭頚部、泌尿生殖器系などに腫瘍ができることが多い。長期予後は比較的良好といえる[6]。また鼻腔、膣、膀胱など粘膜で覆われた管腔臓器にもできることがある。この場合は胎児型の特殊型である、ブドウの房状の組織所見が出現する[4]。一方、胞巣型は年長の子供や青年に多く、体幹や四肢に主に発生する。しかも転移や再発が起こりやすく、治療抵抗性[注釈 1]となりやすいため、胎児型よりも悪性である[6]。
胎児型と胞巣型はさらに以下のタイプに分けられる。
胎児型
編集- ブドウ状亜型 (botryoid variant)
- 紡錘細胞亜型 (spindle cell variant)
- 退形成亜型(anaplastic variant)
胞巣型
編集- 固形亜型(solid variant)
- 胎児胞巣混合亜型(mixed embryonal / alveolar) 胎児型と混在するため、混合型と診断される場合もある。
- 退形成亜型(anaplastic variant)
検査
編集血液検査、尿検査、画像検査、骨髄検査(生検)を組合せて行う。
- 画像検査
- 核磁気共鳴画像法、コンピュータ断層撮影、ポジトロン断層法
治療
編集ステージ分類
編集- TNM分類
- T 腫瘍
- T1:原発部位に限局、T2:原発巣の周囲組織に浸潤 腫瘍径/ a < 5cm 、b > 5cm
- N リンパ節
- N0:臨床的に浸潤なし、N1:臨床的に浸潤あり、Nx:臨床的に浸潤不明
- M 遠隔転移
- M0:遠隔転移なし、M1:遠隔転移あり
記号 | 原発部位 | 腫瘍 | 腫瘍径 | リンパ節 | 遠隔転移 |
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1 | 眼窩、頭頸部(傍髄膜を除く)、 泌尿生殖器系(膀胱・前立腺を除く) |
T1/T2 | a/b | N0/N1/Nx | なし(M0) |
2 | 膀胱 / 前立腺、四肢、傍髄膜、 その他(後腹膜,躯幹など含む) |
T1/T2 | a | N0/Nx | なし(M0) |
3 | 膀胱 / 前立腺、四肢、傍髄膜、 その他(後腹膜,躯幹など含む) |
T1/T2 | a | N1 | なし(M0) |
b | N0/N1/Nx | なし(M0) | |||
4 | 全て | T1/T2 | a/b | N0/N1 | あり(M1) |
※『横紋筋肉腫 診療ガイドライン』[2]より引用し改変。
I | 局所限局性腫瘍、完全切除 |
II | 顕微鏡的腫瘍残存、肉眼的には全摘、所属リンパ節転移なし/あり、微小残存+/− |
III | a.生検のみ、 b.亜全摘/50 %以上の部分切除 |
IV | a.遠隔転移、 b.髄液/胸水/腹水中に腫瘍細胞あり、 c.胸膜播種/腹膜(大網)播種 |
※『横紋筋肉腫 診療ガイドライン』[2]より引用し改変。
予後因子
編集究報告からの予後因子[2]
因子分類 | 予後良好 | 予後不良 |
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初発年齢 | 1歳以上、10歳未満 | 1歳未満、10歳以上 |
腫瘍因子 腫瘍原発部位 |
眼窩、 傍髄膜を除く頭頸部泌尿生殖器(膀胱・前立腺を除く)、 胆道 |
傍髄膜、膀胱・前立腺、四肢など |
腫瘍直径 | 5 cm 未満 | 5 cm 以上 |
切除の可否 | 完全切除 | 腫瘍残存 |
遠隔転移(ステージ 4) | 遠隔転移なし | 遠隔転移+ |
遠隔転移肺 | 2 個未満で切除可能 | 2 個以上で切除不能 |
骨、骨髄転移 | なし | あり |
CPK や LDH の著しい高値 | なし | あり |
病理組織型 | 胎児型(含ブドウ肉腫など) | 胞巣型,未分化肉腫 |
遺伝子異常 | なし | 融合遺伝子あり |
遺伝子異常 (PAX 遺伝子間での比較) |
PAX7-FKHR | PAX3-FKHR(FOXO1) |
治療開始後 100 日未満の増悪 |
なし | あり |
放射線治療 | 規定通りに照射されている | 規定の照射なし、規定違反 |
※ CPK:クレアチンホスフォキナーゼ,LDH:乳酸脱水素酵素
横紋筋肉腫に関連した映像作品
編集注釈
編集脚注
編集- ^ 森正樹, 今村好章, 前川秀樹, 法木左近, 都築秀明、「頬部に発生した胞巣型横紋筋肉腫の1例」 『日本臨床細胞学会雑誌』 2000年 39巻 6号 p.502-506, doi:10.5795/jjscc.39.502, 日本臨床細胞学会
- ^ a b c d e f 横紋筋肉腫 診療ガイドライン (PDF) 日本小児血液・がん学会
- ^ a b c d e 横紋筋肉腫 MSDマニュアル プロフェッショナル版
- ^ a b c d e 横紋筋肉腫 京都府立医科大学 小児科学教室
- ^ 横紋筋肉腫〈小児〉 国立がん研究センター 小児がん情報サービス
- ^ a b c d 菊地顕、細井創 「筋発生分化と横紋筋肉腫の発生病態 (PDF) 」『京府医大誌』122(6)、341-348、2013年。
- ^ 編集:特定非営利活動法人日本緩和医療学会、緩和医療ガイドライン作成委員会 5章 推奨と委員会合意3 治療とケアの実際 1. 医学的適応の検討『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン』2010年版、2010年。 (PDF)
関連項目
編集外部リンク
編集- 横紋筋肉腫〈小児〉 国立がん研究センター 小児がん情報サービス