日米デジタル貿易協定
デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(デジタルぼうえきにかんするにほんこくとあめりかがっしゅうこくとのあいだのきょうてい、(英語: Agreement between Japan and the United States of America concerning Digital Trade)とは、 日本とアメリカ合衆国間のデジタル貿易についての協定。日米貿易交渉において、物品貿易に加えて、デジタル貿易についても交渉され、最終的に物品の貿易については日米貿易協定が、デジタル貿易については、別の協定として日米デジタル貿易協定が締結された。両協定とも両国の国内手続が完了した旨の通報が完了し、2020年1月1日付の発効について両国が合意したため、2020年1月1日に発効した[1]。
デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定 | |
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通称・略称 | 日米デジタル貿易協定 |
署名 | 2019年10月7日 |
発効 | 2020年1月1日 |
言語 | 日本語及び英語 |
主な内容 | 日米両国間のデジタル貿易を促進 |
条文リンク | デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定 (PDF) 、Agreement between Japan and the United States of America concerning Digital Trade (PDF) - 外務省 |
日本法においては、国会承認を経た「条約」であり、 日本国政府による日本語の正式な題名・法令番号は「デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(令和元年条約第11号)」である。
交渉開始までの経緯
編集交渉開始から署名の経緯
編集交渉地、署名・効力発生の通知地
編集国内手続
編集日本
編集日本においては、関税の引下げ・撤廃をもたらす協定は、国会承認条約の扱いとなるため、締結のための承認案件が2019年10月15日の閣議決定[2]を経て、10月15日に衆議院に提出[3] された。国内法の改正は必要としない[4]。
国会審議
編集米国
編集米国においては、日米デジタル貿易協定は、議会承認を要しないものとして扱われる見込み[5][6][7]と報道された。2019年9月16日、トランプ大統領は、議会に対し、2015年TAA法第103条(a)(2)に基づき関税に関する協定を日本と締結する意図を通知し[8]、この通知において併せて、" I also will be entering into an Executive Agreement with Japan regarding digital trade."「私は、日本との間でデジタル貿易に関する行政協定を締結する」としており、議会による承認を要しない行政協定とである旨を明言している。
発効
編集日米貿易協定は、協定第9条の規定により「両締約国がそれぞれの関係する国内法上の手続を完了した旨を書面により相互に通告した日の後三十日で、又は両締約国が決定する他の日に効力を生ずる。」となっている[9]。
前述のように米国側は、議会承認を要しない行政協定のためえ行政府の手続のみで国内手続が完了する。日本の国会での承認を受け、2019年12月10日米国のワシントンD.C. において、日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定及びデジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の定める手続に従い,書面により相互に通告を行い、かつ、両協定の発効日を2020年1月1日とすることが日米両国で決定された。両協定は、2020年1月1日に効力を生ずることが法的に確定した[1]。
協定の主要内容
編集市場アクセス交渉の概要
編集2019年9月25日に発表された概略[9][10]では、日米デジタル貿易協定には、具体的には以下の内容が規定されている。
- いずれの締約国も、締約国間における電子的な送信に対して関税を賦課してはならない。
- 一方の締約国は、他方の締約国のデジタル・プロダクトに対し、他の同種のデジタル・プロダクトに与える待遇よりも不利な待遇を与えてはならない。
- 締約国は、電子署名が電子的形式によるものであることのみを理由に法的な有効性を否定してはならない。
- いずれの締約国も、対象者の事業のために行われる場合には、公共政策の正当な目的のための措置を除いて、情報の電子的手段による国境を越える移転を禁止又は制限してはならない。
- いずれの締約国も、自国の領域で事業を行うための条件として、対象者に対し、自国内でのコンピュータ関連設備の利用・設置を要求してはならない。金融サービスについては、金融当局による規制や監督のためのアクセスが認められる限りにおいて同様。
- 各締約国は、オンライン上で、消費者に損害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある詐欺的な商業活動を禁止するため、消費者保護に関する法令を制定し、又は維持する。
- 各締約国は、個人情報の保護について定める法的枠組みを採用し、又は維持する。
- 各締約国は、迷惑メールの受信防止等の措置を採用し、又は維持する。
- 一方の締約国は、自国における輸入・販売等の条件として、ソフトウェアのソースコードやアルゴリズムの移転等を要求してはならない。但し、規制機関や司法当局の措置については、例外がある。
- SNS等の双方向コンピュータサービスについて、情報流通等に関連する損害の責任を決定するにあたって、提供者等を情報の発信主体として取り扱う措置を採用し、または維持してはならないこと等を規定する。
- いずれの締約国も、暗号を使用する情報通信技術産品の販売や輸入の条件として、製造者に対して、暗号法に関する情報の移転等を要求してはならない。
- その他、一般的例外、安全保障のための例外を規定。信用秩序の維持のための措置等については本協定を適用しないことを規定する。
協定条文
編集協定は、前文及び本文(22条)から構成されている[11]。通常、条約の趣旨や理念、目的等を掲げる。締約国の権利や義務を規定したものではないが条約の一部であり解釈の指針となる[12]、TPP協定では19項目、CPTPP協定では7項目から前文が構成されている。日米デジタル貿易協定の前文はこれらの協定とは異なり、単に「日本国及びアメリカ合衆国(以下「両締約国」という。)は、次のとおり協定した。」とするのみであり、理念、目的等は一切規定していない[13]。
脚注
編集- ^ a b “日米貿易協定・日米デジタル貿易協定の効力発生のための通告”. 外務省. (2019年12月10日) 2019年12月16日閲覧。
- ^ “令和元年10月15日(火)定例閣議案件”. 首相官邸 (2019年10月15日). 2019年10月15日閲覧。
- ^ “条約 第200回国会 2 デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の締結について承認を求めるの件”. 衆議院. 2019年10月16日閲覧。
- ^ “デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定の説明書”. 外務省 (2019年10月15日). 2019年10月16日閲覧。
- ^ ワシントン時事 (2019年10月8日). “日米貿易協定、正式署名=来年1月1日発効目指す”. 時事通信. 2019年10月9日閲覧。
- ^ “日米、貿易協定に正式署名 20年1月にも発効”. 日本経済新聞. (2019年10月8日) 2019年10月8日閲覧。
- ^ “日米貿易協定に正式署名 来年1月1日発効目指す”. NHK (2019年10月8日). 2019年10月9日閲覧。
- ^ “Presidential Message to Congress Regarding the Notification of Initiation of United States–Japan Trade Agreement”. White House. 2019年9月30日閲覧。
- ^ a b “日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の概要”. 内閣官房TPP等政府対策本部 (2019年9月25日). 2019年9月26日閲覧。
- ^ “渋谷政策調整統括官による事務ブリーフ概要”. 内閣官房TPP等政府対策本部 (2019年9月25日). 2019年9月26日閲覧。
- ^ 日米貿易協定の説明書(外務省)
- ^ コーメンタール(2019)p2、p28
- ^ デジタル貿易に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定 (PDF)
参考文献
編集- 内田聖子「片務的かつ非対称な異形の貿易交渉」『世界』第924号、岩波書店、2019年9月、127-136頁。
- 鈴木宣弘「失うだけの日米FTA」『世界』第924号、岩波書店、2019年9月、137-145頁。
- 『TPPコーメンタール』日本関税協会、2019年6月。ISBN 978-4-88895-445-7。
- 上谷田 卓「日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定の概要」(pdf)『立法と調査』第417号、参議院、2019年11月、111-118頁。