政治資金
政治資金(せいじしきん)とは、個人、政治団体、政党などが、それぞれの政治目的を達成するために、その活動上必要とする資金をいう。
政治資金の公開に関しては、政治団体の収支については政治資金規正法に基づき、政治資金収支報告書を、総務大臣または都道府県の選挙管理委員会に対し毎年提出しなければならない。この他、政治資金の規正・公開に関しては公職選挙法、政党助成法などに規定がある。
日本における政治資金
編集政治資金規正法においては、国政政党や政党支部、政治資金団体、政治家個人の資金管理団体などを政治団体とし、政治団体間の寄付は原則として無制限に行うことができる(ただし、政党、政治資金団体以外の政治団体間での寄付は年間5000万に限られる)[1]。
国政政党
編集日本の国政政党の主な収入源としては、政党交付金、寄付、党費、事業収入、立法事務費などがある[2][3]。
政党交付金は政党助成法に基づき、議席数や得票数に応じて交付される[4]。
事業収入には、機関紙収入などのほか、政治資金パーティのチケット収入も含まれる。寄付には、個人や政治団体からの寄付のほか、企業や労働組合等の団体からのものが含まれる[3][5][6]。
立法事務費は立法事務費交付法によるもので、所属議員の数に応じて、会派に支給される資金である[7]。
また、政党は一政党につき一つの政治資金団体を指定することができる[8]。
公職候補者
編集政治家(公職候補者)個人の収入源として、歳費法による手当と、一人につき一団体指定できる資金管理団体が管理する資金があるほか[1]、政党から個人への寄付である政策活動費[9]などがある。政党は政治家の資金管理団体に寄付することによって政治家個人に対して資金を供給することができる[10]。
個人や政治団体から公職候補者に対する金銭等での寄付は原則として禁止されているが、物品で寄付をすることができる[11]。また、選挙運動に関するものであれば、金銭等での寄付を行うことができる[11][12]。
歳費
編集歳費法による手当には、基本給や、調査研究広報滞在費(旧文通費)が含まれる。
資金管理団体
編集政策活動費
編集政策活動費は政党が政治家個人に対してする寄付金の通称である[9]。資金管理団体でなく個人に寄付される資金であり、使途の公開義務がない[13]。
2024年の改正政治資金規正法の附則で項目ごとの使いみちと支出年月、10年後に領収書を公開することとされたが、具体的な制度の設計については先送りされている[14][15]。立憲民主党は、政党から政治家個人への寄付を全面的に禁止し、政党が寄付をできる対象を政治家の政党支部あるいは資金管理団体とすることを主張している[16]。
2024年12月16日、自由民主党と立憲民主党は政策活動費を全面的に廃止することで合意し、翌17日に衆議院で政治資金規正法改正案が可決された[17]。当初の自民党案では、政策活動費を廃止する一方で、政党の外交上の秘密に関わる支出などを対象として、政党が行う支出に対して支出先を非公開とし、第三者機関においてその内容の監査を行うとする「公開方法工夫支出」を創設するとされたが[18][19]、抜け道を残すことになるとする野党側の反対によりこれは取り下げられている[20]。
政治団体の資金規制・使途の公開
編集政治資金規正法第12条に基づき、政治団体には収入の詳細と、支出の使途の公開が原則として義務付けられている[21]。政治団体には、政党と政治資金団体、資金管理団体、そのほかの政治団体が含まれる[22]。
一方で、寄付で年5万円を超えない場合と、政治資金パーティのチケット購入で20万円を超えない場合は収入の詳細を公開する義務がない[21]。
批判
編集政党への企業・団体献金には、政策を歪めているという批判がある[6]。
公職候補者への寄付について、企業や団体が公職候補者やその資金管理団体、後援団体に寄付を行うことは一律に禁止されているが[8]、政治資金パーティのチケットを購入することは禁止されておらず[23][24]、これは実質的に寄付と変わらないという批判があるほか[25]、政治家個人が代表を務める政党支部への寄付は認められているという問題がある[23]。
政治資金に関する主な規制
編集政治資金の制限
編集主に収入に関するもの
編集- 政治家への金銭による寄附の禁止(選挙運動に関するもの、政党がするものを除く。)(政治資金規正法21条の2)
- 会社等による政党等以外の政治団体・政治家への寄附の禁止(政治資金規正法21条)
- 国または自治体からの補助金受給・出資会社等による政党等への寄附の禁止(政治資金規正法22条の3)
- 国または自治体と請負その他特別の利益を伴う契約の当事者による選挙に関する寄附の禁止(公職選挙法199条)
- 国または自治体から利子補給を受けた金融機関から融資を受けた会社等による選挙に関する寄附の禁止(公職選挙法199条)
- 赤字会社による政党等への寄附の禁止(政治資金規正法22条の4)
- 外国人・外国団体による政治団体・政治家への寄附の禁止(政治資金規正法22条の5)
- 政治団体・政治家が受ける寄附の額の制限(政治資金規正法21条の3~22条の2)
- 政治資金パーティーの対価の支払額の制限(政治資金規正法22条の8)
主に支出に関するもの
編集- 政治家による選挙区内の者への寄附の禁止(公職選挙法199条の2)
- 政治家の関係会社、後援会等による選挙区内の者への寄附の禁止(公職選挙法199条の3~5)
- 選挙運動費用の制限(公職選挙法194条)
- 政治資金の投機的運用の禁止(政治資金規正法8条の3)
- 資金管理団体による不動産等の取得の禁止(政治資金規正法19条の2の2)
政治資金の公開
編集政治資金収支報告書の支出項目
編集経常経費
編集- 人件費
- 政治団体の職員の給料や諸手当、社会保険料
- 光熱水費
- 電気、ガス、水道の使用料及びこれらの計器使用料等
- 備品・消耗品費
- 机、コピー機、自動車、封筒などの購入費や、新聞・雑誌代、ガソリン代
- 事務所費
- 事務所の賃料損料(地代、家賃)、公租公課(事業所住民税など)、火災保険金等の各種保険金、電話使用料、切手購入費、修繕料その他これらに類する経費で事務所の維持に通常必要とされるもの
政治活動費
編集- 組織活動費
- 行事費や組織対策費、交際費
- 選挙関係費
- 公認推薦料や陣中見舞いなど選挙関連の経費
- 機関紙誌の発行その他の事業費
- 機関紙誌の材料費や印刷代、発送費、パーティー開催費
- 調査研究費
- 研修会費や書籍購入費
- 寄付・交付金
- 政治活動における寄付や会費
- その他の経費
- 借入金返済や貸付金
政治資金規正法
編集政治資金規正法は、昭和23年(1948年)にGHQの指導のもと制定された。終戦後の混迷した政治情勢のもと現出した、政治腐敗と群小政党の乱立に対処するため制定された法律である。制定当初は政治資金の収支の公開に主眼が置かれ、量的制限は設けられていなかった。
改正の歴史
編集- 昭和50年(1975年) - 造船疑獄、売春汚職事件、田中彰治事件、共和製糖事件(黒い霧事件)などの汚職・疑獄事件を受けて抜本的に改正された。
- 寄附の量的制限の導入、個人献金に対する税制上の優遇措置の創設
- 平成4年(1992年) - 政治資金パーティーに関する規制が導入された。
- 平成6年(1994年) - 衆議院議員総選挙における小選挙区比例代表並立制の導入を中心とした選挙制度改革、政党助成制度の創設と軌を一にして、企業・団体献金に関する規制の強化を中心とした大改正が行われた(いわゆる「政治改革」)。
- 企業・団体献金は、政党、政治資金団体、新たに創設された資金管理団体に対するものに限定
- 寄附・政治資金パーティー収入の公開の強化
- 平成12年(2000年) - 資金管理団体への企業・団体献金が禁止された。
- 平成19年(2007年) - 国会議員関係政治団体に関する改正。
脚注
編集出典
編集- ^ a b “政治団体の手引き”. 2024年10月21日閲覧。
- ^ “政党収入、依然税金頼み 交付金が5割超―政治資金:時事ドットコム”. 時事ドットコム (2023年11月25日). 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b admin (2024年5月16日). “公費であるほど使途が不透明になる政治資金”. 情報公開クリアリングハウス. 2024年10月19日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “政党交付金 | ねほりはほり聞いて!政治のことば”. NHK政治マガジン. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “【そもそも解説】企業から「政党支部」への献金、なぜ認められる?:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年2月17日). 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b “「政治とカネ」の象徴「企業・団体献金」は生き残った 当事者から思わず漏れた「自民党の力」というホンネ:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年10月18日閲覧。
- ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “立法事務費(りっぽうじむひ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b “総務省|なるほど!政治資金 政治資金の規正”. 総務省. 2024年10月20日閲覧。
- ^ a b admin (2024年5月16日). “政治資金規正法改正 「政策活動費」の使途公開って意味あるのか?”. 情報公開クリアリングハウス. 2024年10月20日閲覧。
- ^ “政治家個人への寄付、禁止なのに...「抜け穴」から与野党が計22億円 使い道報告義務なく:東京新聞デジタル”. 東京新聞デジタル. 2024年12月17日閲覧。
- ^ a b “政治資金規正法のあらまし(令和6年7月(令和6年6月法改正反映))”. 総務省 (2024年7月). 2024年10月21日閲覧。
- ^ 江戸川区. “政治家に寄附したいけれど、できますか。”. 江戸川区. 2024年10月20日閲覧。
- ^ “「政策活動費」とは 用語解説・ニュース:時事ドットコム”. 時事ドットコム (2023年12月27日). 2024年10月18日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年10月17日). “政策活動費 争点 衆議院選挙2024|NHK”. www.nhk.or.jp. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “e-Gov 法令検索”. laws.e-gov.go.jp. 2024年10月20日閲覧。
- ^ 立憲民主党 (2024年5月20日). “政治資金の透明化を図る「政治資金規正法等の一部を改正する法律案」を2党1会派で衆院に共同提出”. 立憲民主党. 2024年10月20日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年12月17日). “「政策活動費」廃止など3法案 衆議院本会議で可決 | NHK”. NHKニュース. 2024年12月17日閲覧。
- ^ “要配慮支出→公開方法工夫支出に変更 自民が法案提出 規正法再改正”. 毎日新聞. 2024年12月17日閲覧。
- ^ “国会会議録検索システム”. kokkai.ndl.go.jp. 2024年12月17日閲覧。
- ^ 共同通信 (2024年12月16日). “政策活動費の全面廃止で合意 自民、非公開支出の新設見送り | 共同通信”. 共同通信. 2024年12月16日閲覧。
- ^ a b “e-Gov 法令検索”. laws.e-gov.go.jp. 2024年10月18日閲覧。
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- ^ “政治資金規正法 主な改正12回、「抜け道」いまなお”. nippon.com (2024年2月13日). 2024年10月18日閲覧。
- ^ “政治資金パーティ―とは何か”. 早稲田リーガルコモンズ法律事務所. 2024年10月20日閲覧。
参考文献
編集- 桐原康栄 (2004-08). “欧米主要国の政治資金制度” (PDF). 調査と情報-Issue Brief- (国立国会図書館) (454). NDLJP:1000733 .
- 加藤一彦『議会政治の憲法学』日本評論社、2009年。