抑止力
相手を抑止する力
(抑止から転送)
抑止力(よくしりょく、英: deterrence)とは、抑止する力であり、つまり相手に有害な行動を思いとどまらせる力、作用[1]。なにかをしようと思っている者にそれを行うことを思いとどまらせる力。やろうかと思っている活動をやめさせる力[2]。
安全保障における抑止力
編集安全保障分野で抑止力は、一方が他方に軍事力の行使を行えば、被攻撃国は攻撃国に報復攻撃を行い、攻撃国は利得に見合わない損害を被ることをあらかじめ明白に認識させることで、軍事力行使を思いとどまらせることを言う[2][3]。抑止力にはさまざまな形があるものの、その中核部分は、相手に恐怖を与える威嚇であり[4]、報復の脅しによる「懲罰的抑止」である[1][3]。相手国が望ましくない行動をすることを思いとどまらせて、現状を維持し変更させないことを目的とする[3]。
抑止力が成立するには、次の3つの要件を満たしている必要がある[1][3]。
- 1.相手が耐えがたいまたは受け入れがたい効果的な報復攻撃の能力
- 2.相手に対する報復の意思の明示
- 3.相手に1および2を信憑性をもって伝達し、相手がそれらを認識し信頼すること[5]
具体例
編集- 日米韓3ヶ国と北朝鮮の例
- 北朝鮮に対する日米韓3ヶ国の抑止力 - 日米韓3ヶ国側は、通常戦力の優位性を北朝鮮に示し、またアメリカの核戦力も明示することで、北朝鮮が大規模な挑発的軍事行動に出ることを思いとどまらせる作用を維持している[1]
- アメリカに対する北朝鮮の抑止力 - 北朝鮮側は、同様に、核・ミサイルによる攻撃能力や局地戦能力の高さを宣伝することで、アメリカが北朝鮮に対して軍事介入することを思いとどまらせる作用を成り立たせようとしている[1]。2017年にアメリカのマティス国防長官が記者会見で「北朝鮮問題を軍事的に解決しようとすれば、想像を絶する規模の悲劇が生じる」と指摘した[6]が、これは北朝鮮の報復能力への一定の理解を背景にした発言である[1]。
両方とも上述の「抑止力の3条件」の維持あるいは成立に取り組んでいる[1]。
- インドとパキスタンの例
- インドは1974年に、パキスタンは1998年に核実験を行い、両国とも核保有国となり互いに報復を恐れ核兵器の使用は行っていない。なお小規模紛争を抑止することはできず、2000年代に入っても両国の紛争は続いた[7]
→「インド・パキスタン関係」も参照
脚注
編集参考文献
編集- 神保謙 (2017年5月31日). “抑止力成立の3条件: 報復能力・意思と相手の理解”. キャノングローバル戦略研究所. 2023年9月6日閲覧。
- 後瀉桂太郎「抑止概念の変遷: 多層化と再定義」『海幹校戦略研究』第5巻第2号、海上自衛隊幹部学校、2015年12月、ISSN 21871868。
- 山本哲史「抑止理論における認知について」『エア・アンド・スペース・パワー研究』第7巻、航空自衛隊幹部学校、2021年3月、ISSN 24362395。
関連項目
編集- 罰、制裁、脅し
- 核抑止力
- Massive Ordnance Air Blast bomb - 核兵器はいろいろな意味で被害が大きすぎて使えない、ということで開発された爆弾。核兵器ではないので放射能汚染は無く実際に使えるが、猛烈な破壊力を持つ爆弾。
- ダイナマイト - 発明者のアルフレッド・ノーベルは強力な爆弾であるため、各国が使用を躊躇し戦争抑止になると期待していたが、実際には戦争の激化を招いた。
- 敵基地攻撃能力
- サダム・フセイン - 報復力、抑止力を持たず米国に滅ぼされた。
- ムアンマル・アル=カッザーフィー -報復力、抑止力を持たず米国に滅ぼされた。
- チベット - 報復力、抑止力を持たず中国共産党にすっかり侵略された。
- 台湾 - 大陸の中国共産党側から侵略のターゲットにされつづけている。現状は台湾単独では十分な報復能力つまり抑止力を持たず、米国や日本が中国に対するしっかりとした報復能力つまり強烈な攻撃能力を持ち、もし台湾を侵略すれば中国の中枢に対して報復するとの意思も明示することで抑止力を持たないと、2025年~2026年前後には台湾は中国によって侵略され半導体生産なども中国に握られてしまう、と米国の分析官などから指摘されている。
- アメリカ同時多発テロ事件 - イスラーム側からの米国に対する報復能力の明示と意思の明示。米国の軍事展開(イスラーム側から見た侵略)に対する抑止の試み。
- 新しい戦争 - 近年の戦争は国家対国家という枠にはおさまらない、という指摘を含んだ概念。古典的な抑止の仕組みからはずれている。