愛は面影の中に
「愛は面影の中に」(あいはおもかげのなかに、The First Time Ever I Saw Your Face)は、英国のシンガーソングライター、イーワン・マッコールが作詞作曲した楽曲。1960年代に数々のフォーク・グループに歌われたあと、ロバータ・フラックが1972年にシングルカットしたバージョンが大ヒットした(同年のビルボード年間チャートの1位を記録)。
「愛は面影の中に」 | ||||
---|---|---|---|---|
ロバータ・フラック の シングル | ||||
初出アルバム『First Take』 | ||||
B面 | トレイド・ウィンド | |||
リリース | ||||
規格 | 7インチ・シングル | |||
録音 | ニューヨーク、アトランティック・スタジオ(1969年2月24日 - 26日) | |||
ジャンル | ソウル | |||
時間 | ||||
レーベル | アトランティック・レコード | |||
作詞・作曲 | イーワン・マッコール | |||
プロデュース | ジョエル・ドーン | |||
チャート最高順位 | ||||
| ||||
ロバータ・フラック シングル 年表 | ||||
| ||||
沿革
編集曲が書かれたのは1957年。経緯には二つの説がある。英国のシンガーソングライター、イーワン・マッコールによれば、当時恋人だったアメリカのフォーク・シンガーのペギー・シーガー(ピート・シーガーの異母妹)に頼まれ本作品を書き、電話で曲をシーガーに伝えたという[2]。シーガーの記憶では、マッコールは二人が離ればなれにある間、書いた曲をテープに吹き込んでせっせと彼女に送っており、本作品もその中の一つだという[3]。
シーガーのバージョンは1962年のアルバム『The New Briton Gazette Volume 2』に収録されている。前述のように60年代、多くのフォーク・グループにカバーされた。タイトルは「The First Time」「The First Time Ever」など一定でなかった。
ロバータ・フラックのバージョン
編集ロバータ・フラックはジョー&エディーのバージョン(1963年のアルバム『Coast to Coast』に収録)で本作品を知った[4]。フラックはワシントンD.C.にあるバネカー高校で音楽教師としてグリークラブの指導しているとき、女子生徒らに本作品を教え、自身もペンシルベニア大通りのクラブ「ミスター・ヘンリーズ」に雇われていたときに歌った。1968年のことであった。
やがてフラックはアトランティック・レコードと契約し、デビュー・アルバムの制作のために1969年2月24日から26日にかけて、ニューヨークのアトランティック・スタジオでレコーディングに入った。この時録音されたバージョンは5分22秒と長く、一度プロデューサーのジョエル・ドーンから再録音を提案される。理にかなった提案だったが、フラックは作り直すことを結局断った。同年6月20日発売のアルバム『First Take』に収録される。
1971年のある日、バージニア州アレクサンドリアの彼女の自宅に突然、クリント・イーストウッドから電話がかかる。イーストウッドはロサンゼルスのフリーウェイで車を運転中、ラジオでフラックの歌う「愛は面影の中に」を聴いたと言い、「今度自分が監督する映画にあなたの曲を使いたいんです。主人公はディスクジョッキーで、音楽がたくさん流れて・・・映画の中で唯一、紛れもない愛を描いた部分があるのですが、その場面でこの曲を使おうと思っています」と言った。フラックが了承すると、話題はお金の話に移った(イーストウッドは2000ドルの使用料を払った[5])。「ほかに何かありますか?」とイーストウッドが尋ねると、フラックは「使うのならもう一度やり直したいのだけれど。あれはテンポが遅すぎるので」と言った。イーストウッドは簡単に答えた。「いや、そんなことはない」[6]
イーストウッドの初監督映画『恐怖のメロディ』は同年11月12日に公開され、「愛は面影の中に」は主演のイーストウッドと恋人役のドナ・ミルズが林の中や滝壺で愛し合う、イメージビデオ風のシーンで使われた。
アトランティック・レコードは1972年1月24日、1分ほど縮めたバージョンをシングルA面として発売した。B面にはアルバム未収録の「トレイド・ウィンド(Trade Winds)」が選ばれた。同年4月15日から5月20日にかけて6週連続でビルボード・Hot 100の1位を記録し、イージーリスニング・チャートでも1位を記録。そしてついに1972年のビルボード年間チャートの1位を獲得し、第15回グラミー賞の最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞をともに受賞した。
その他のカバー・バージョン
編集アーティスト名 | レコード・CD | |
---|---|---|
1962年 | キングストン・トリオ | 『New Frontier』 |
1963年 | ジョー&エディー | 『Coast to Coast』 |
1964年 | ザ・ハイウェイメン | 『One More Time!』 |
1965年 | ピーター・ポール&マリー | 『See What Tomorrow Brings』 |
1966年 | マリアンヌ・フェイスフル | 『North Country Maid』 |
1966年 | バート・ヤンシュ | 『自画像』 |
1967年 | ウィ・ファイヴ | 『Make Someone Happy』 |
1967年 | ブラザース・フォア | 『A New World's Record』 |
1969年 | ナナ・ムスクーリ | 『Dans le soleil et dans le vent』。フランス語詞。 |
1972年 | アンディ・ウィリアムス | 『アローン・アゲイン』 |
1972年 | エルヴィス・プレスリー | シングル「An American Trilogy」のB面 |
1972年 | ボビー・ヴィントン | 『Sealed With a Kiss』 |
1972年 | アニタ・ブライアント | 『Naturally』 |
1972年 | ティミー・トーマス | 『Why Can't We Live Together』 |
1972年 | ヴィッキー・カー | 『The First Time Ever (I Saw Your Face)』 |
1973年 | バート・ヤンシュ | 『ムーンシャイン』。メリー・ホプキンとのデュエット。 |
1973年 | アイザック・ヘイズ | 『Live at the Sahara Tahoe』 |
1973年 | クインシー・ジョーンズ | 『You've Got It Bad Girl』 |
1974年 | マーシャ・グリフィス | 『Play Me Sweet and Nice』 |
1999年 | セリーヌ・ディオン | 『ザ・ベリー・ベスト』 |
1999年 | ジョージ・マイケル | 『ソングス・フロム・ザ・ラスト・センチュリー』 |
2005年 | Fayray | 『COVERS』 |
2011年 | アルフィー・ボー | 『アルフィー』 |
2020年 | ジェイムス・ブレイク | カバーシングル |
脚注
編集- ^ a b 45cat - Roberta Flack - The First Time Ever I Saw Your Face / Trade Winds - Atlantic - USA - 45-2864
- ^ Quarrington, Paul; Doyle, Roddy (2010). Cigar Box Banjo. Greystone Books. p. 89. ISBN 9781553656296 August 21, 2011閲覧。
- ^ Picardie, Justine (1995). “The first time ever I saw your face”. In De Lisle, Tim. Lives of the great songs. London: Penguin. pp. 122–26. ISBN 978-0-14024957-6
- ^ “"The First Time Ever I Saw Your Face" - Roberta Flack”. Superseventies.com. January 8, 2019閲覧。
- ^ McGilligan, Patrick (1999). Clint: The Life and Legend. Harpercollins Pub Ltd. p. 194. ISBN 0-00-255528-X
- ^ de Yampert, Rick (January 20, 2012). “Roberta Flack serenades Daytona”. GateHouse Media. September 10, 2018閲覧。
関連項目
編集先代 アメリカ 「名前のない馬」 |
Billboard Hot 100 ナンバーワン・シングル 1972年4月15日 - 5月20日(6週) |
次代 シャイ・ライツ 「オー・ガール」 |