大陸棚に関する条約
大陸棚に関する条約(たいりくだなにかんするじょうやく)は、1958年4月29日に作成され1964年6月10日に発効した15カ条からなる条約である[1]。大陸棚条約と略称される[1]。
大陸棚に関する条約 | |
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通称・略称 | 大陸棚条約[1] |
起草 | 国際連合国際法委員会[2] |
署名 | 1958年4月29日 |
署名場所 | ジュネーヴ |
発効 | 1964年6月10日[1] |
寄託者 | 国際連合事務総長[3] |
言語 | 中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語[3] |
主な内容 | 大陸棚の制度を規定[1]。 |
関連条約 | 国連海洋法条約、領海条約、公海条約、公海生物資源保存条約 |
条文リンク |
[1](日本語訳) [2](英語正文)[リンク切れ] |
ウィキソース原文 |
第1次国連海洋法会議にて採択されたジュネーブ海洋法4条約のひとつ[1][4]。58カ国が批准している[5]。
大陸棚の制度を規定する[1]。大陸棚の上部水域とその上空の法的地位、大陸棚における海底電線や海底パイプラインの敷設、大陸棚における航行・漁業・科学調査、大陸棚沿岸国の権限、大陸棚の境界画定、トンネルの掘削などが規定される[6]。現代の大陸棚制度は本条約を機に世界的に定着した[1]。
背景
編集大陸棚条約ではかつて国家の管轄権が及ばないと考えられていた海域にまで国家の権利が及ぶこととされたが、それ以前の国家実行では国家の主権は非常に限られた幅の海域に対してしか及ばないものとされてきた[7]。しかし1945年9月28日にアメリカ合衆国がトルーマン宣言において、公海でありかつアメリカの海岸に隣接する大陸棚の地下と海床にある天然資源がアメリカの管轄に服するものとみなすことを宣言し、これにならって各国が自国周辺の大陸棚に対して自国の管轄権を主張するようになった[8][9]。中にはアメリカが主張した権限よりもはるかに大きな権利を主張する国も現れるなど各国は自国周辺海域に対してまちまちの権利を主張するようになった[10]。
条約採択
編集1947年、国連総会は国際法の法典化を任務とする国際法委員会を設立し、同委員会の第1会期においては14の項目が法典化の対象として議題となったが[11]、領海制度や公海制度といった海洋法に関するテーマもその議題に含まれた[12][13][14]。国際法委員会はJ.P.A.フランソワを特別報告者に任命し、フランソワの報告書や関係国の意見を参考にして委員会は1956年の第8会期において大陸棚に関する規定を含む73カ条からなる海洋法の草案を採択した[15][12][13]。国際法委員会はこの草案を条約として実効性あるものにすべく、国連総会に対して外交会議を招集し草案の審議を行うよう勧告した[12][13]。この勧告を受けて国連総会は決議1105 (XI)を採択し[16]、これにもとづき1958年にスイスのジュネーヴで開催された第1次国連海洋法会議に国際法委員会が作成した73カ条の草案が提出された[12][13][17]。86カ国の参加による同会議では国際法委員会の草案をもとに審議がなされ、その結果本条約とともに領海条約、公海条約、公海生物資源保存条約の4つの条約が採択された[12][17]。この4つの条約はジュネーヴ海洋法4条約といわれる[18][1][19][20]。
概要
編集本条約で定義される大陸棚とは、海岸に隣接しているが領海の外にある海底であって、水深が200メートルまでのものか、または水深が200メートル以上のものであっても天然資源の開発が可能な限度にある海底、とされる(第1条)[1][21]。大陸棚沿岸国は大陸棚の天然資源の探査・開発のための主権的権利を有するとし(第2条第1項)、その開発方式を規定した(第5条)[1]。同一の大陸棚に接して複数の国が向かい合っているか、または隣り合っている場合には、第6条では大陸棚の境界画定は特別の合意がない限り向かい合っている場合には中間線、隣り合っている場合には等距離線によって国家間の大陸棚境界画定を行うとした[22]。北海大陸棚事件国際司法裁判所判決ではこの第6条が国際慣習法化し大陸棚条約を批准していない国をも拘束するかが争点となったが、国際司法裁判所はこれを否定した[23]。
国連海洋法条約との関係
編集本条約では水深200メートル以上の海底であっても天然資源の開発が可能であればその海底区域も沿岸国の管轄に服する大陸棚としうることとされたが(第1条)、こうした要件は開発技術が進むにつれて大陸棚の範囲が拡大してしまうという問題点を抱えていた[24]。1982年に第3次国連海洋法会議で採択された国連海洋法条約の第6部では、大陸棚の範囲を距岸200カイリまで、または領土の自然の延長をたどって大陸棚縁辺部までの海底部分とし、その最大幅は距岸350カイリまでか、または2500メートルの等深線から沖合100カイリの線をこえてはならないとされた(国連海洋法条約第76条)[24]。その他若干の相違はあるものの、国連海洋法条約は本条約を含めたジュネーヴ海洋法4条約の制度を統合し発展させたもので[18][25]、国連海洋法条約の締約国の間では4条約より国連海洋法条約の方が優先されることとなった(国連海洋法条約第311条第1項)[12]。
出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k 筒井(2002)、230頁。
- ^ 筒井(2002)、136頁。
- ^ a b 中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、その条約の原本は、国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、第8条に規定するすべての国にその認証謄本を送付するものとする。 — 大陸棚に関する条約第15条
上記は国際条約集(2007)、215-216頁より同条の日本語訳を引用したもの。 - ^ 小寺(2006)、250頁。
- ^ “Convention on the Continental Shelf” (英語). United Nations Treaty Collection. 2013年5月6日閲覧。
- ^ Dupuy(1991), p.328
- ^ “The United Nations Convention on the Law of the Sea(A historical perspective)” (英語). 国連海事海洋法課. 2013年4月20日閲覧。
- ^ 杉原(2008)、150頁。
- ^ “PRESIDENT TRUMAN'S PROCLAMATIONS ON U. S. POLICY CONCERNING NATURAL RESOURCES OF SEA BED AND FISHERIES ON HIGH SEAS” (英語). ibiblio. 2013年4月20日閲覧。
- ^ 島田(2010)、74-75頁。
- ^ 筒井(2002)、136-137頁。
- ^ a b c d e f “Law of the Sea: Régime of the Territorial Sea” (英語). 国際連合国際法委員会. 2013年5月6日閲覧。
- ^ a b c d “Law of the Sea: Régime of the High Seas” (英語). 国際連合国際法委員会. 2013年5月6日閲覧。
- ^ “Survey of International Law in Relation to the Work of Codification of the International Law Commission: Preparatory work within the purview of article 18, paragraph 1, of the of the International Law Commission - Memorandum submitted by the Secretary-General” (PDF) (英語). 国際連合国際法委員会. pp. 40,43. 2013年5月6日閲覧。
- ^ “Special Rapporteurs of the International Law Commission (1949-2011)” (英語). 国際連合国際法委員会. 2013年5月6日閲覧。
- ^ “United Nations General Assembly resolution 1105(XI), "International conference of plenipotentiaries to examine the law of the sea"” (PDF) (英語). United Nations Dag Hammarskjöld Library. 2013年5月6日閲覧。
- ^ a b 筒井(2002)、132頁。
- ^ a b 筒井(2002)、340頁。
- ^ 筒井(2002)、85-86頁。
- ^ 筒井(2002)、67頁。
- ^ Shaw(2003), p.523
- ^ 杉原(2008)、154頁。
- ^ 松井(2009)、168-172頁。
- ^ a b 杉原(2008)、151頁。
- ^ 筒井(2002)、48頁。
参考文献
編集- 大沼保昭『国際条約集』有斐閣、2007年。ISBN 978-4-641-00137-4。
- 小寺彰、岩沢雄司、森田章夫『講義国際法』有斐閣、2006年。ISBN 4-641-04620-4。
- 島田征夫、林司宣『国際海洋法』有信堂高文社、2010年。ISBN 4842040602。
- 杉原高嶺、水上千之、臼杵知史、吉井淳、加藤信行、高田映『現代国際法講義』有斐閣、2008年。ISBN 978-4-641-04640-5。
- 筒井若水『国際法辞典』有斐閣、2002年。ISBN 4-641-00012-3。
- 松井芳郎『判例国際法』東信堂、2009年。ISBN 978-4-88713-675-5。
- Dupuy, René Jean; Daniel Vignes (1991). A Handbook on the New Law of the Sea. Martinus Nijhoff Publishers. ISBN 0-7923-0924-3, 9780792309246
- Shaw, Malcolm Nathan (2003). International Law. Cambridge University Press. ISBN 0-521-82473-7, 9780521824736
関連項目
編集- 国際海洋法
- 海洋法に関する国際連合条約
- ジュネーブ海洋法4条約
外部リンク
編集- 国連国際法委員会(英語)
- "Articles concerning the Law of the Sea (PDF) "(英語). 国連国際法委員会が起草し本条約のもととなった73カ条の海洋法草案。