大間原子力発電所
大間原子力発電所(おおまげんしりょくはつでんしょ)は、青森県下北郡大間町に建設中の電源開発の原子力発電所である。
大間原子力発電所 | |
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施設全景(2019年) | |
国 | 日本 |
座標 | 北緯41度30分35秒 東経140度54分37秒 / 北緯41.50972度 東経140.91028度座標: 北緯41度30分35秒 東経140度54分37秒 / 北緯41.50972度 東経140.91028度 |
運営者 | 電源開発 |
概要
編集大間原子力発電所は、ウラン燃料だけでなく、MOX燃料を全炉心に装荷できることが特徴であり、1995年8月の原子力委員会決定によると、「中期的な核燃料リサイクルの中核的担い手である軽水炉によるMOX燃料利用計画を拡げるという政策的な位置付けを持つ。」とされている。
大間原子力発電所で発電された電力は、沖縄電力を除く旧一般電気事業者9社へ売電される予定である[1][2]。(売電割合は後述)
沿革
編集- 1976年 4月 - 大間町商工会は大間町議会に原子力発電所新設に係る環境調査実施方を請願。
- 1982年原子力委員会は電源開発を実施主体とする新型転換炉実証炉計画を決定。 8月 -
- 1984年12月 - 大間町議会は原子力発電所誘致を決議。
- 1995年
- 1998年
- 通商産業省に環境影響調査書を提出(地元町村での縦覧、一般説明会の開催)。 9月 -
- 12月 - 通商産業省が第一次公開ヒアリングを開催。
- 1999年
- 6月 - 原子力安全委員会が「改良型沸騰水型原子炉における混合酸化物燃料の全炉心装荷について」を了承。
- 8月 - 国の電源開発基本計画への組入れが決定。
- 9月 - 電源開発が通商産業省に原子炉設置許可を申請。
- 2003年メートル程度移動させる[3]。 2月 - 電源開発は炉心建設予定地付近の用地買収を断念。炉心建設予定地を南へ200
- 2004年 3月 - 電源開発が発電所配置計画見直しに伴い、改めて経済産業省に原子炉設置許可を申請。
- 2005年10月 - 原子力安全委員会が第二次公開ヒアリングを開催。
- 2008年
- 2010年7月 - 青森県大間町や対岸の北海道函館市の市民グループ168人が、国と事業主の電源開発(東京都中央区)を相手取り、設置設計取り消しと建設差し止めを求める訴訟を函館地方裁判所に提起。総額510万円の損害賠償も求めている。なお、2018年3月19日、函館地方裁判所により原告側の訴えは棄却された。
- 2011年3月 - 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に伴い、本体建設工事休止。
- 2012年
- [6]。 3月 - 運転開始時期を変更(2014年11月の運転開始予定を未定に変更)
- 10月 - 本体建設工事再開。
- 2014年12月16日 - 電源開発が、原子力規制委員会に対し新規制基準適合性審査を申請。
- 2022年9月 - 運転開始時期を2030年度に延期[7]
発電設備
編集電源開発株式会社大間原子力発電所原子炉設置許可申請の概要に基づき記述。
原子炉形式 | 運転開始 | 定格出力 | 使用燃料 | 現況 | |
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1号機 | 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR) | 未定 | 138.3万kW | MOX燃料、低濃縮ウラン燃料 | 建設中 |
大間原子力発電所の売電割合は以下の表の通り[2]。
受電会社 | 受電電力 | 受電割合 |
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北海道電力 | 4.9万kW | 3.5% |
東北電力 | 12.4万kW | 9.0% |
東京電力 | 46.2万kW | 33.4% |
中部電力 | 20.5万kW | 14.8% |
北陸電力 | 4.3万kW | 3.1% |
関西電力 | 23.4万kW | 16.9% |
中国電力 | 9.3万kW | 6.7% |
四国電力 | 4.4万kW | 3.2% |
九州電力 | 12.9万kW | 9.3% |
合計 | 138.3万kW | - |
※四捨五入のため割合の合計は100%にならない。
反対運動と影響
編集大間原子力発電所は、1984年(昭和59年)の誘致決議から2008年(平成20年)5月に至るまで、着工すら行われていなかった。これは、原子炉建設予定地付近の土地を所有する地権者が、原子力発電所の建設を頑なに反対し、最後まで土地買収に応じなかったためである。
このため、電源開発は2003年(平成15年)2月、土地収用法の適用を求めず、ついに用地買収を断念し、炉心位置を南に200メートル程度移動させる建設計画の見直しと原子炉設置許可申請の変更を強いられることとなった[3]。反対運動の影響により、原子力発電所の原子炉設置許可申請が変更されたのは、初めてのケースである。
なお、この用地買収をめぐっては、買収金に関する不明朗な噂がいくつか飛び交っていたことが報道されている[8]。
TBSテレビの『報道特集』で、2002年(平成14年)に原子力発電に関わる企業が用意した用地買収のための資金7,000万円が、狂言強盗によって横領された事件があり、その元実行犯と当時を知る元大間町議の話によると、反社会的勢力が用地買収に関わっていたと証言したが、電源開発は他の民間業者に用地買収を依頼したことはないと証言し、関与を否定したと報道された[9]。
大間原発予定地のほぼ中央には原発に反対して、用地買収に応じなかった地元住民の熊谷あさこのログハウス「あさこはうす」がある。熊谷が亡くなってからは長女の熊谷厚子が「あさこはうす」を守っている[10]。
震災の影響
編集災害対策の追加
編集東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)発生時、本発電所は建設中であり、運転開始後の状態にあった炉は1基もなかった。
建設主体の電源開発は5月2日、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を受け、津波対策として、タービン建屋・原子炉建屋などの前面に防潮壁を設置することを発表した[11]。一方、東通原子力発電所と本発電所の一次変電所が上北変電所を共用し、送電ルートの多重化がなされていないと報じられた。同様に原子力施設の集中している福井県の敦賀半島では、北陸電力・関西電力による多重化が進められている[12]。
福島第一原子力発電所事故後、東北電力が管内の原子力施設の安全性を緊急に再検討した資料によれば、大間原子力発電所に対しては、上北変電所からの500kV幹線2回線に加え66kV大間線が接続され、2ルート3回線となっており、上北変電所自体も回路の2重構成化を実施済みであるという。ただし、報告書の10ページで想定されている上北変電所が全故障した場合などの超過酷ケースにおいてはこの3回線による外部からの電源供給が絶たれるため、更なる多重化を目的として、上北変電所を経由しないで六ヶ所変電所に至る154kV回線を本発電所の運転開始前に1回線増設し、下北半島の原子力施設全体の信頼性向上にも資することとされた。また、変電所が故障した場合、移動ケーブル等の復旧資材などを確保することも決められた[13]。
政治的影響
編集地震後の2011年5月の青森県知事選挙に伴い、県内の原子力施設問題が争点に浮上した[14]。現職で今回も立候補している三村申吾は「福島第一原発事故の収束と、東電が事故収束に向けて示した工程の順守が最優先」と述べた。民主党県連幹事長の山内崇は原子力は基幹電力であるとしながらも、県内での原発新設を凍結し、「安全基準の見直しや防災避難道路の整備など、防災体制の構築が工事再開に向けた議論の第一歩」「安全基準や耐震指針に高いレベルを求める」などと述べた[15]。民主党幹事長の岡田克也は、5月12日の記者会見で「福島原発の重大な事故を教訓とし、より安全性の高い原子力発電を実現していかなければいけない」として建設続行方針を表明した。一方、知事選候補で日本共産党青森県委員会書記長の吉俣洋は、青森県民の安全が第一と訴え、東北電力東通原子力発電所2号機、および東京電力の同発電所2号機の計画を「当然中止」とし、東京電力の1号機の建設に対しても中止を求めた[16]。
函館市の工藤壽樹市長は、経済産業省などに大間原発無期限凍結を要請[17]。民主党総括副幹事長で衆議院議員の逢坂誠二が民主党道8区総支部、北海道議会民主党、道民連合を率い、北海道知事の高橋はるみに「北海道は大間原発建設の永久凍結を求めよ」との要望書を提出。高橋は民主党総括副幹事長が北海道庁まで来たついでに「大間原発の安全性に関して、国は明確に説明せよ」他との要望書を逆提出した[18]。
一方で2012年9月15日には経済産業大臣の枝野幸男が「すでに建設の許可が出ている原発の扱いを変更することは考えていない」と述べ、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)後に工事を止めている着工済みの国内原発について、建設の再開を容認する考えを閣僚として初めて示した[19][20]。
2014年4月3日、函館市は国と電源開発を相手取って、原子力発電所の建設差し止めを求める訴訟を、東京地方裁判所に起こした[21]。これに先立つ同年3月26日に函館市議会はこの訴訟の可否を問う議案を全会一致で可決している[22]。また函館市はふるさと納税による寄付金の用途に「大間原発建設差し止めの訴訟費用」を2017年4月3日に追加[23]、2017年度に3880万6000円を集め[24]、2018年7月13日時点で寄付金・ふるさと納税の合計額が1億円に達した[25]。
脚注
編集- ^ “経営方針 リスク要因”. 電源開発株式会社. 2023年7月30日閲覧。
- ^ a b “平成22年度 電力供給計画の概要について”, 電力供給計画の概要について (経済産業省 資源エネルギー庁)
- ^ a b “建設進む大間発電所 全炉心にMOX燃料が装荷可能なABWR”. 原子力産業新聞. (2009年4月9日)
- ^ 大間原発運転開始2年8カ月延期(asahi.com)[リンク切れ]
- ^ 大間原子力発電所の工程変更について(電源開発)
- ^ “一般社団法人 日本原子力産業協会 » 震災以来初の建設再開 大間発電所 運転開始時期は「未定」”. www.jaif.or.jp. 2023年6月18日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2022年9月9日). “大間原発の安全対策工事5回目延期 電源開発が地元自治体に説明 | NHK”. NHKニュース. 2023年6月18日閲覧。
- ^ 朝日新聞青森総局『核燃マネー 青森からの報告』岩波書店
- ^ 2011年5月21日TBS「報道特集」(内容はノート参照)
- ^ 青森県大間町の「あさこはうす」を訪ねて 原発に食い込んだ反対の標 母の遺志を継いだ闘い今も(2022年09月号)北方ジャーナル WEB版
- ^ 大間原発に防潮壁_県に計画報告 再処理施設も対策説明 『読売新聞』2011年5月2日[リンク切れ]
- ^ “青森の2原発、電源が同一変電所 冷却確保へ多重化急務”. 共同通信 (2011年5月4日). 2012年8月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月9日閲覧。
- ^ “原子力発電所の外部電源の信頼性確保について(報告)”. 東北電力. 2013年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月9日閲覧。 2011年5月P9-12(経済産業省プレスリリース2011年5月16日)
なお、この報告では電源開発の責任分界内である発電所構内については報告の対象外である。 - ^ “原子力政策 争点に浮上/知事選”. 東奥日報. (2011年4月28日). オリジナルの2011年4月28日時点におけるアーカイブ。
- ^ “民主・山内氏 原発新設凍結を/知事選”. 陸奥新報社 (2011年4月28日). 2011年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月9日閲覧。
- ^ 原発が争点に浮上 知事選 『朝日新聞』2011年04月28日 朝日新聞[リンク切れ]
- ^ “工藤市長ら経産省などに大間原発無期限凍結を要請”. 函館新聞. (2012年1月25日) 2012年4月22日閲覧。
- ^ 2012年3月12日 毎日新聞
- ^ “経産相、大間原発建設を容認 青森県に表明”. 日本経済新聞. (2012年9月15日) 2021年6月21日閲覧。
- ^ “原発ゼロにほころび 経産相、大間建設継続を容認”. 日本経済新聞. (2012年9月15日) 2021年6月21日閲覧。
- ^ “大間原発の建設中止求め提訴 国など相手に、函館市が自治体初”. 北海道新聞. (2014年4月3日). オリジナルの2014年4月19日時点におけるアーカイブ。 2016年8月9日閲覧。
- ^ “大間原発の建設差し止め議案可決 函館市議会、提訴条件満たす”. 北海道新聞. (2014年3月26日). オリジナルの2014年3月26日時点におけるアーカイブ。 2016年8月9日閲覧。
- ^ “大間原発訴訟費をふるさと納税に加えたら・・・ 函館市に寄付続々”. 北海道新聞. (2017年5月3日) 2017年5月9日閲覧。
- ^ “函館市ふるさと納税|過去の納税結果について”. 函館市 (2018年6月10日). 2018年7月29日閲覧。
- ^ “「大間訴訟費用に」函館市へ寄付1億円 全国から”. 北海道新聞. (2018年7月18日) 2018年7月29日閲覧。
参考文献
編集- 朝日新聞青森総局『核燃マネー 青森からの報告』岩波書店 ISBN 4000224530
外部リンク
編集- 大間原子力発電所の建設計画 - 電源開発
- 大間原子力発電所の建設状況 - 日立GEニュークリア・エナジー
- 大間原子力発電所の概要 - 青森県原子力立地対策課
- 大間原子力発電所に係る情報 - 北海道原子力安全対策課
- 大間原発に係わる主な経過 - 函館市