大晦日興行(おおみそかこうぎょう)は、大晦日12月31日に開かれる格闘技興行。主に総合格闘技プロボクシングプロレスの興行を指す。狭義では2000年代にアントニオ猪木が提案し、各格闘技団体が毎年大晦日に行われる総合格闘技興行戦争を意味する[要出典]

経緯

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元々は、毎年恒例のNHK紅白歌合戦の対抗策として企画されたものである。1990年代当時の民放はTBS系列が『日本レコード大賞[注 1]テレビ東京系列が『年忘れにっぽんの歌』、テレビ朝日系列が『大晦日だよ!ドラえもん』を大晦日に放送していたが、それ以外は大作映画、ドラマ、バラエティの特別番組を放送するのが恒例となっていた。そんな中、2000年に、これらに対抗すべく、アントニオ猪木が総合格闘技のイベント「INOKI BOM-BA-YE」を計画し、大阪ドームで開催。成果は上々で、INOKI BOM-BA-YEは、しばらくは毎年行われるようになった。

ここに毎日放送がINOKI BOM-BA-YEの中継を実施、2000年は2001年の年明けの録画中継だったが、2001年はディレードで放送して結果は紅白に次ぐ2位を記録し、民放断トツという結果が大晦日興行に火を付け、テレビ朝日を除く民放各局が格闘技興行の中継に参入するようになった。

2003年には、日本最大の総合格闘技イベント『PRIDE」』の中継を担当していたフジテレビがTBSの対抗策として大晦日に『PRIDE』を放送を発表し、大晦日興行に参戦。さらにINOKI BOM-BA-YEが日本テレビに鞍替えをして日本テレビで放送された。これにより、2003年の大晦日にはTBSがK-1系列の『Dynamite!!』、フジテレビが『PRIDE男祭り』と民放3局が大晦日の18時~23時半頃というテレビ局にとって一番勝負となる時間帯に格闘技中継を実施した。これは『三大格闘技祭り』と呼ばれ、格闘技興行が大晦日にテレビ・お茶の間・日本の話題の中心となる『格闘技ブーム』を生み出した。格闘技マスコミは、それぞれの取材に追われた。放送後は、各局それぞれの放送した様々な試合が大きな話題となり続けたが、最終的にこの年に一番話題となったのは、世間の注目度の高い『 vs. ボブ・サップ』の試合を放送したTBSだった。この試合は瞬間最高視聴率43%を取って大晦日に民放放送が初めて紅白の視聴率を上回るという記録を打ち立てた。

2004年、日本テレビは前年に放送したINOKI BOM-BA-YEが、フジテレビの『PRIDE』とTBSの『Dynamite!』の2局に数字を奪われて興行失敗と低視聴率となったことで早々に撤退。2006年以降は『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の『笑ってはいけないシリーズ』に移行。紅白裏番組において民放視聴率トップに躍り出すようになったが、2020年を最後に休止した[注 2]

一方でフジテレビとTBSの2局は2003年の大晦日に放送した格闘技団体の『PRIDE』と『Dyamite!』の中継が大好評だったことから、2003年以降は格闘技興行の放送がそれぞれの局の大晦日の看板番組となった。

2006年には、テレビ東京も収録ながらPRIDEを経営するDSEによるプロレス団体『ハッスル』を大晦日に中継。一方でフジテレビは2006年に格闘技中継から一時的に撤退。その結果、フジテレビは大晦日に日本中で騒がれるような注目を浴びることがほぼ無くなった。TBSはDynamite!!の大晦日放送を2010年まで続けた。最終的にTBSの放送時間も5時間から2時間45分ほどに短縮。2011年2月にTBSが「同年の大晦日にDynamite!!の中継は無い」と発表。TBSの2011年の大晦日は、格闘技の中継をせずに「ビートたけしのスポーツ国民栄誉SHOW2011」を放送。TBSにとって『KYOKUGEN(~2017年まで[注 3])』の前身番組を放送した。しかし、定番となった格闘技の大晦日興行の放送を楽しみにしていた一般視聴者や格闘技ファンから大きな反発を受けてTBSの数字は低下。視聴率は時間帯によっては4%、最大で6%台となり、昨年に10%近い数字を上げていた格闘技興行の『Dynamite!!』から大きく数字を落とす結果となった。その後、TBSの大晦日興行に格闘技中継を戻し、後述のボクシングへとシフトすることとなった。

2011年、『Dynamite!!』の主催に当たるFEGが大晦日興行の開催を目指していたが経営悪化のため断念。代わってそれまでFEG主体となっていた格闘技興行『DREAM』と猪木が会長を務めるイノキ・ゲノム・フェデレーション(IGF)の合同興行として「元気ですか!! 大晦日!! 2011」を開催することになった。

2012年、『DREAM』『IGF』それぞれが分かれて大晦日興行を開くことが発表。前者はグローリー・ワールドシリーズを主催するグローリー・スポーツ・インターナショナルとの共同でさいたまスーパーアリーナにて「DREAM.18 & GLORY 4」を、後者は両国国技館にて「INOKI BOM-BA-YE 2012」を開催した。後者のイノキボンバイエは関東ローカルで数日後の2013年の年明けにフジテレビで録画放送された。

2013年、IGFの前年同様両国開催に加えパンクラスが「BaysideFIGHT.2」を大晦日にベイサイドヨコハマで開催した[1]。一方で2001年から12年興行主体を変えながら続いていた、さいたまスーパーアリーナでの大晦日興行の連続開催がこの年に1度途絶えた[2]

2014年は、DEEPが初の大晦日興行「DEEP DREAM IMPACT 2014 〜大晦日SPECIAL〜」さいたまスーパーアリーナにて開催することを発表し、2年ぶりに同所での大晦日興行が復活することになった[3][4][5]

そして2015年、旧PRIDE運営の榊原信行が中心としたDSE首脳部が立ち上げた総合格闘技団体『RIZIN』こと、RIZIN FIGHTING FEDERATIONが、さいたまスーパーアリーナでRIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2015 さいたま3DAYSを開催。その2大会の様子をフジテレビが12月29日に約2時間半。大晦日に約5時間半枠の計8時間の枠を使い、ゴールデンタイムで放送した。また、TBSでは大晦日の『KYOKUGEN』放送内の企画で『NIPPON FIGHT』と題して魔裟斗VS.山本KID徳郁の再戦(エキシビションマッチ)が組まれた。

これ以降、2022年頃まで、フジテレビは毎年大晦日に総合格闘技団体『RIZIN』の大晦日大会を地上波で約5~6時間枠で中継及びに生中継を行い続けた。その後、RIZIN運営の手掛けた2022年7月のTHE MATCH 2022からフジテレビがRIZINの中継から一時撤退[注 4]。しかし同時に、RIZINは団体の価値と人気が高まり続け、RIZINのPPVが圧倒的な売上を見せるようになったことでフジテレビが放映料を払えるレベルではなくなり、RIZINはフジテレビが放送していた頃とは比べ物にならないほどの利益が出る団体となった。そのため、RIZIN側もフジテレビ側も、2022年以降は互いに放送契約は結べずに保留し続ける状況となった。そのような経過もあり、フジテレビは2022年の大晦日に「RIZIN.40」ではなく「逃走中 大晦日SP」を放送。しかし、約6年以上も大晦日のフジテレビの定番・看板番組となっていた『RIZIN』を毎年楽しみにしていた一般視聴者達や格闘技ファンから批判が殺到。さらにフジテレビはマスコミや大手の個人サイト達などからもRIZINの放送を取りやめたことで否定的な記事を大量に書かれるなどして、大きな批判・反発を受ける結果となった[6]。結果、フジテレビがRIZINの代わりに放送した『逃走中』の大晦日SPは『RIZIN』の半分程度の視聴率しか取れず、フジテレビは大幅に数字を落とす結果となった。

2023年もフジテレビは大晦日に日本最大の格闘技団体『RIZIN』を放送できないことから、さらに話題の有名芸能人を大量投下した『逃走中』の大晦日SPを放送。しかし格闘技・RIZINを放送できなくなったことで大晦日にインパクトのある番組作りが一切できなくなり視聴者が離れ、2022年よりもさらに数字を落とし19時~23時までのゴールデンタイムに視聴率が3%台という結果となった。そして、フジテレビは現在も大晦日に、PRIDE・RIZIN放送時のような年をまたいで日本のトレンドとなるような反響を得られることが無くなり、数字も回復できない状況が続いている。

一方で、『RIZIN』の大晦日興行は2022年以降も毎年滞りなく行われ続け、フジテレビが中継から離れたことでRIZINの中継を見るためにスカパー・U-NEXT・AbemaなどでRIZINのPPVを買う人が急増。結果的にRIZIN大晦日大会は毎年PPVを何十万件も売り上げて1夜で数十億円の興行成績を上げる日本屈指のモンスター興行に成長。テレビ局と団体の明暗がくっきりと分かれる結果となった。

2024年、大晦日にRIZINが「RIZIN.49」を開催予定。

その他

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プロレス

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INOKI BOM-BA-YE以前よりもプロレス興行は盛んで、中継は無かったが幾つかの団体にて年またぎ興行が行われていた。プロレス界において初めて大晦日興行を開いたのは、1992年W★INGである。また、いずれも実現こそならなかったものの日本プロレスが存在していた時代、日本テレビ主導の下でジャイアント馬場1964年東京オリンピック柔道金メダリストのアントン・ヘーシンクによる一騎討ち、1980年代に活動したジャパンプロレスが中心となった「格闘技大戦争」(TBSで放送予定)がそれぞれ企画されたこともあった。

1990年代後半に入ると大晦日興行は途絶えるが、2000年代にINOKI BOM-BA-YEの成功を受けて主にインディ団体でいくつか大晦日興行が目立つようになった。多くは団体の枠を越えて選手が集い興行が打たれた。

2006年からは、プロレスの聖地後楽園ホールにて「年越しプロレス」が形を変えながら開かれている。この興行は、プロレス・格闘技専門チャンネル「FIGHTING TV サムライ」にて中継されている。

2023年は全日本プロレス国立代々木競技場第二体育館にて初の大晦日興行「#ajpwMANIAx2023」を開催[7]

ボクシング

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プロボクシング界においても大晦日興行の歴史があり、プロレスよりも以前から行われてきた。

大晦日興行が盛んであったのは、テレビ中継の視聴率が非常に高かった1960年代前半であった。1961年から64年にかけてフジテレビで中継され、61年は海津文雄小坂照男のダブルメインイベントとして開かれた。63・64年は関光徳が2年連続出場、64年はTBSも高山勝義 vs. 斉藤勝男で参入し、興行戦争になったが、63年に紅白歴代最高の81.4%(ビデオリサーチ調査による歴代最高でもある)を記録するなどしたため、太刀打ちできず撤退した。

その後は、長らく大晦日の試合は途絶えるものの2008年には坂田健史の世界王座防衛戦が組まれ、TBSでDynamite!!との2部構成で中継を行い、史上初となる大晦日の世界戦開催となった。だが、この時は大晦日の世界戦定着には至らなかった。

その後2011年に井岡一翔の世界戦がTBS、内山高志細野悟のダブル世界戦がテレビ東京で放送された。

2012年もTBS・テレビ東京ともに前年に引き続き世界戦中継を発表し、前者は井岡の2階級制覇挑戦と宮崎亮の世界初挑戦、後者は内山を始めとしたトリプル世界戦を放送し、国内史上最多の世界戦1日5試合となる。

2015年より名古屋のCBCテレビも参入し、田中恒成の世界戦を東海ローカル(2015年はTBSなど一部系列局でもネット)で放送されている。

2017年よりテレビ東京・CBCが撤退。残されたTBSがそれまでテレビ東京が放送していた田口良一のWBA・IBF王座統一戦を放送した。

以降もTBSは2022年まで大晦日のボクシング中継を続けていたが、2023年は中継は行わず、例年のボクシング中継だった枠でも「WBC2023大晦日・生放送スペシャル」(仮)を放送すると発表している[8]。この結果、大晦日興行の地上波放送が、完全に消滅することとなった。なお、2020年より興行を手掛ける志成ボクシングジムは大晦日興行の開催[9]

海外

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備考

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  • 2008年から2010年まで活動していたSRC(戦極)でも大晦日興行ではないものの、年末年始に大型興行を打っていた。2009年始に「戦極の乱2009」、2010年12月30日に「戦極 Soul of Fight」を開いた。2009年には大晦日興行の開催を一度発表していたが中止となり、参戦予定で調整を進めていた選手の多くが「Dynamite!!」に合流した。
  • 世界最大の総合格闘技団体UFCも大晦日ではないが、2006年12月30日に興行を開催したことがあった。しかし、日本時間では31日の昼間となるため昼はWOWOWでUFC、夜はDynamite!!またはPRIDEを視聴した者も少なくなかった。2011年も12月30日にUFC 141が開催され、やはりWOWOWが31日昼に生中継した。

脚注

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注釈

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  1. ^ その後、レコ大は紅白の出場歌手の移動の配慮から2006年から放送日を12月30日に変更し、TBSも大晦日興行へ本格的に参戦することとなる。
  2. ^ 2008年の大晦日は「山崎VSモリマン」との2部構成となっており、その中では「スガッスル」と呼ばれる大晦日興行のパロディと言える企画を放送している。
  3. ^ 2018年以降は、「SASUKE」のスペシャル特番に切り替え。
  4. ^ 「THE MATCH」はABEMA PPVで生中継、全国の独立放送協議会加盟局にて録画で地上波放送された。

出典

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  1. ^ ケージ大会『BaysideFIGHT.2』大晦日開催決定』(プレスリリース)株式会社SMASH、2013年9月10日http://www.pancrase.co.jp/tour/2013/1231/index.html 
  2. ^ “格闘技の火は消さない DEEPが大晦日さいたまSA興行を開催”. 東京スポーツ. (2014年10月6日). https://web.archive.org/web/20141006131612/http://www.tokyo-sports.co.jp/prores/mens_prores/319720/ 
  3. ^ “大みそか「DEEP」さいたまスーパーアリーナ大会正式発表”. 東京スポーツ. (2014年10月8日). https://web.archive.org/web/20141008182248/http://www.tokyo-sports.co.jp/prores/mens_prores/320807/ 
  4. ^ “日本格闘技の火を消さない! DEEPが大晦日にさいたまSA大会を開催”. スポーツナビ. (2014年10月8日). https://web.archive.org/web/20141011092344/http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141008-00000101-spnavi-fight 
  5. ^ “【DEEP】大みそかにさいたまスーパーアリーナで開催”. eFight. (2014年10月8日). http://efight.jp/news-20141008_68538 
  6. ^ mana (2022年10月10日). “フジテレビ大晦日は『逃走中』放送で格闘技ファンが悲鳴「『RIZIN』ないとかマジか」「絶対に許さない」”. Smart FLASH/スマフラ[光文社週刊誌]. 2023年12月15日閲覧。
  7. ^ 【全日本プロレス初の大晦日開催!】12月31日(日)代々木大会の大会概要が決定!”. 2023年11月20日閲覧。
  8. ^ “中居12・31WBC生放送の陰で消える“TBS大みそかの風物詩””. スポニチアネックス. (2023年11月20日). https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/11/20/kiji/20231119s00041000851000c.html 
  9. ^ “井岡一翔 23年大みそかに世界戦濃厚 対戦相手は後日明らかに”. スポニチアネックス. (2023年11月20日). https://www.sponichi.co.jp/battle/news/2023/11/20/kiji/20231120s00021000339000c.html