外傷学(がいしょうがく、英語: traumatlogy)とは事故、暴力や自傷行為によって生じた様々な外傷が人体に及ぼす影響やその治療法などについて研究する外科学の一分野である[1][2][3]。 英語ではtraumatlogy、ロシア語ではтравматоло́гияと呼ぶが、それらはギリシャ語で「傷」や「怪我」を表すτραῦμαに「~学」という意味の接尾辞であるλόγος が合わせられた語である[3]

大腿骨骨折の手術の様子

欧米諸国においては外傷学が独自に発展していたが、日本においては救急医学外科学の一部に過ぎなかった[4]重症外傷患者では、多くの場合、身体の複数の部位が損傷を受けるため、臓器別診療科による対応では診療が困難な場合が生じる。緊急度・重症度の高い外傷に対して、横断的に検査や治療の優先順位を判断できる医師の必要性にもとづいて、外傷専門医が存在する[5]救急科専門医には外傷初期診療能力が求められるが、難易度の高い蘇生周術期集中治療を行う能力までは必要とされていない。また、外科系専門医には外傷診療能力が求められているものの、横断的な知識や判断能力は必須とされていない。外傷専門医は救急科外科整形外科脳神経外科麻酔科放射線科形成外科などの専門医取得の上に更なる臨床経験を積み、高度な外傷診療の知識と技能を修得している[6]

日本における外傷専門医の要件としては、外傷患者の救命に不可欠な手術やIVRの実施だけでなく、蘇生に必要な高度な技術として気道緊急時の気管挿管困難例に対して輪状甲状靭帯切開術を施行できることが求められる。そのほかには、心タンポナーデに対する心嚢穿刺および心嚢開窓術を行う能力、緊張性気胸に対して胸腔ドレナージを行う能力、大動脈閉鎖バルーンや蘇生的開胸術を行う能力などが必要である[7]。2024年6月現在、日本外傷学会が認定する専門医は194名である。外傷専門医を24時間365日体制で確保するためには一施設に少なくとも5名を必要とするため、外傷専門医は著しく不足している[6]。そのため、日本において外傷診療は外科系医師が行っている[8]。多くの先進国においては、外傷専門医が交代勤務し24時間体制で様々な外傷を受け入れる外傷センターが設置されている。日本においては三次救命救急センターで対応しているが、重症外傷に対応可能な外科系医師が交代勤務し、常時緊急手術が可能な体制が整っている三次救命救急センターは存在しない[9]

関連項目

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脚注

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  1. ^ LT-Trauma”. Landstinget i Uppsala län (2010年4月19日). 2020年3月30日閲覧。
  2. ^ http://mesh.kib.ki.se/swemesh/show.swemeshtree.cfm?Mesh_No=H02.403.810.850&tool=karolinska
  3. ^ a b Травматология — Официальный сайт ОБУЗ”. 2021年10月27日閲覧。
  4. ^ 研修プログラム | 島根大学医学部 Acute Care Surgery 講座”. 日本外傷学会. 2024年6月25日閲覧。
  5. ^ 日本外傷学会専門医制度10年を迎えて: 見えてくる問題点と,取得への道”. 日本外傷学会. 2024年6月25日閲覧。
  6. ^ a b 外傷専門医の必要性と定義”. 日本外傷学会. 2024年6月25日閲覧。
  7. ^ 外傷学会専門医研修カリキュラム案 ver12”. 日本外傷学会. 2024年6月25日閲覧。
  8. ^ 外傷専門医の赴任と外傷診療における当院での取り組み/藤枝市立総合病院 ”. 藤枝市立総合病院. 2024年6月25日閲覧。
  9. ^ わが国の救急外傷治療体制の充実に向けて”. 医学書院. 2024年6月25日閲覧。