塩谷歩波
塩谷 歩波(えんや ほなみ、1990年6月26日[1] - )は、日本の画家。東京都出身[2][注釈 1]。代表作のイラスト集『銭湯図解』で知られ、東京都杉並区の銭湯「小杉湯」に在籍していた2021年5月までは「番頭兼イラストレーター」の肩書で活動していた。
塩谷歩波 | |
---|---|
生誕 |
1990年6月26日(34歳) 茨城県 |
国籍 | 日本 |
出身校 | 早稲田大学大学院 |
著名な実績 | アイソメトリック図法による建築図解 |
代表作 | 『銭湯図解』 |
人物
編集1990年6月26日[1]、茨城県に生まれる。建築物を描く楽しさを知ったのは小中学生の頃で、インテリアコーディネーターの専門学校に通う母親が課題として空想の住宅の内観パースを描いている姿を見ていたのがきっかけとなった[4]。
2015年に早稲田大学大学院(建築専攻)を終了、建築設計事務所に勤めたが、機能性低血糖症と診断され[5]休職することになった。大学時代のサークルの先輩に誘われ、中目黒の「光明泉」を訪れたことから[6]銭湯通いを始める。かかりつけの医師からも「体を温めるのは良いこと」と推奨され、心理的な抵抗を持たずに銭湯に通うことができ、あつ湯と水風呂に繰り返し入浴する「交互浴」も身体に合っていた[4]。友人らに銭湯の魅力を伝えようと、大学で学んだアイソメトリックで銭湯の図解を試みる[7]。初めて描いたのは、台東区東上野の「寿湯」であった[8]。設計事務所に復職したが、集中力が持続しない状態は続いた[9]。
2016年末ごろより、Twitter上で銭湯図解シリーズを公開[10]。2017年6月からはITmedia社のウェブサイト「ねとらぼ」で『えんやの銭湯イラストめぐり』の連載を開始[11]。2017年11月号からは、交通新聞社の旅行雑誌『旅の手帖』で『百年銭湯』の連載を開始した。パンフレットの制作の依頼を受けたことをきっかけに、2017年3月に東京・高円寺の銭湯「小杉湯」に転職。小杉湯近くに転居して番頭[注釈 2]を務めるかたわら絵を描く生活を始めた。2018年3月放送のNHKのテレビ番組『人生デザイン U-29』[13]、2019年3月には毎日放送テレビの『情熱大陸』に取り上げられるなど[14]、メディアへの露出も増えた。反面、成功者として描かれることへの内心のギャップや、銭湯の仕事の責任と絵を描きたい気持ちとの葛藤に悩みを持つ[15]。小杉湯の人たちに打ち明けたところ快く独立を認めてくれて、2021年5月に退職。6月よりフリーの画家となり[16]、住居も高円寺から離れた[12]。2021年3月から双葉社のウェブサイトで連載されたエッセイ『40℃のぬるま湯につかって』は、2022年11月に『湯あがりみたいに、ホッとして』のタイトルで書籍にまとめられた。
2022年2月3日よりひかりTVで配信されたドラマ『湯上がりスケッチ』は、塩谷の体験をもとに制作され[17]、塩谷をモデルにした澤井穂波役を演じた小川紗良とは友人関係となる[18]。2023年に公開された映画『湯道』では、ヒロインの秋山いづみのモチーフともなり、作中の銭湯「まるきん温泉」の図解を書き下ろした[19]。
作品
編集「図解」の制作にあたっては寸法をミリメートル単位で実測し[20]、コピー用紙に手描きで下書きし、水彩紙に描き写し、彩色する手順で作られる。浴室のみの場合約1週間、建物全体では1~2か月を要する[21]。早稲田大学の恩師の入江正之から「人がいない絵は死んでいる」と教えを受けたこともあり、人物の表情をしっかり描き込んでいる[22]。雨に濡れ、ネオンサインの灯りに照らされた銭湯の建物にエロティシズムを見出す感性も、作品を印象深きものとしている[23]。15社の出版社から書籍化のオファーがあったが、編集者との感性が最も合った中央公論新社から出版することとなった[24]。描いた銭湯は100軒を超え[25]、銭湯にとどまらず茶室やホテルなど様々な建物の図解や[7]、POPなど図解以外の制作物、イベント企画なども手掛ける[26]。
エッセイの連載は、双葉社の編集担当が塩谷とサウナ仲間であることがきっかけとなった[2]。
著書
編集- 塩谷歩波『銭湯図解』中央公論新社、2019年。ISBN 978-4-12-005169-2。
- 塩谷歩波『湯あがりみたいに、ホッとして』双葉社、2022年。ISBN 978-4-575-31755-8。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b enyahonamiのツイート(1272503861350035456)
- ^ a b “『銭湯図解』で話題沸騰の著者・塩谷歩波さんによる笑いあり涙ありのエッセイ集『湯あがりみたいに、ホッとして』”. 双葉社 (2022年12月3日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ 塩谷歩波 (2021年3月25日). “エッセイ『40℃のぬるま湯につかって』第2回 銭湯に転職したはなし(1)”. 双葉社. 2023年4月16日閲覧。
- ^ a b (塩谷 2019, pp. 116–117)
- ^ “活躍の裏で"2度の休職"「銭湯図解」塩谷さんの体験”. 東洋経済オンライン. p. 3 (2023年2月26日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ “「ドロップアウトではなく原点に帰った」 塩谷歩波さんが設計事務所を辞めて『銭湯図解』を出版するまで”. ハフィントンポスト (2019年4月14日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ a b “『銭湯図解』著者 塩谷歩波さんが救われた「ケの日のハレ」”. さくらインターネット (2022年8月1日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ (塩谷 2019, pp. 120–121)
- ^ “活躍の裏で"2度の休職"「銭湯図解」塩谷さんの体験”. 東洋経済オンライン. p. 4 (2023年2月26日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “イラストで銭湯を元気にしたい――『銭湯図解』塩谷歩波さんに聞く、銭湯の魅力とこれから”. ねとらぼ (2019年2月22日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ “”銭湯神”ヨッピーも太鼓判 高円寺・小杉湯が「交互浴の聖地」と呼ばれる理由”. ねとらぼ (2017年6月17日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ a b “お湯につかってほぐれた生き方。銭湯図解 塩谷歩波の好きと長く付き合う方法”. JAFMATE (2023年4月14日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “人生デザイン U-29 「銭湯番頭兼イラストレーター」”. NHKクロニクル (2018年3月3日). 2023年4月8日閲覧。
- ^ “Vol.1042 塩谷歩波”. 毎日放送『情熱大陸 (2019年3月3日). 2023年4月8日閲覧。
- ^ “「情熱大陸」にも出た彼女が絶望→休職経て見た光 「銭湯図解」塩谷さんが経験した"キャリアブレイク"”. 東洋経済オンライン. p. 2 (2023年2月27日). 2023年4月6日閲覧。
- ^ “「情熱大陸」にも出た彼女が絶望→休職経て見た光 「銭湯図解」塩谷さんが経験した"キャリアブレイク"”. 東洋経済オンライン. p. 3 (2023年2月27日). 2023年4月15日閲覧。
- ^ 湯上がりスケッチ(ひかりTV)
- ^ “画家・塩谷歩波を知るための10のポイント【止まった時代を動かす、若き才能 B面】”. LIFULL STORIES (2022年9月21日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “『湯道』×「銭湯図解」コラボ 「まるきん温泉」図解誕生!”. 映画『湯道』公式サイト (2022年11月9日). 2023年4月15日閲覧。
- ^ “トップサウナーインタビュー4 苦難を乗り越え、自分を取り戻し、夢に向かって邁進する 塩谷歩波さん”. サウナタイム (2019年3月21日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “本が売れ、『情熱大陸』に取り上げられても踏ん切りがつかず 銭湯イラストレーターが絵描きとしての独立を決意したワケ”. ログミー (2021年9月30日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “銭湯は人の弱さを許す場所”. 早稲田ウィークリー (2019年7月19日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “銭湯のライバルは、スタバ?『銭湯図解』24軒の緻密なイラストを描いた小杉湯番頭・塩谷歩波さん”. ダ・ヴィンチ (2019年3月3日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “「銭湯未経験」の友だちに魅力を絵で表現したら、大ヒット イラスト集『銭湯図解』が生まれるまで”. ログミー (2021年9月30日). 2023年4月16日閲覧。
- ^ “銭湯に癒し救われた日々。銭湯図解イラストで湯の個性を描き出す。”. itoshino. 2023年4月16日閲覧。
- ^ “描いて「愛でる」。想いに寄り添い、形にしていく ──小杉湯番頭・イラストレーター 塩谷歩波さん”. CREATIVE VILLAGE (2023年2月8日). 2023年4月16日閲覧。