十字キー(じゅうじキー)は、主にゲーム機コントローラ携帯電話リモコンなどで使用される、コンピューターやゲーム内におけるカーソルや、プレイヤーが操作するキャラクターの移動に使われるキーボタンの総称である。

ファミリーコンピュータ(任天堂)のコントローラ(コントローラーI)。一番左にあるのが十字キー。
SG-1000IIオセロマルチビジョンセガ・マークIIIマスターシステムのジョイパッド(セガ・エンタープライゼスツクダオリジナル)。レバー(つまみ)が取り外し可能な8方向ボタンを用いている。
PCエンジンNECホームエレクトロニクス)の初期型コントローラー。
PlayStationソニー・コンピュータエンタテインメント)の初期のコントローラー。
十字キーボタンを2つ搭載したバーチャルボーイのコントローラー。

概要

編集

コンピュータにおける方向キーと同じ働きをするものであるが、に配置された4つのスイッチの上を十文字のカバーが覆っている。十字の中心には支点があり、カバーがシーソーのように動くことで、上と下または左と右のスイッチが同時に押せないようになっている。十字キーを斜めに押すことで上と右、下と左のように隣り合う2つのスイッチを同時に押せるようになっており、これにより8方向の入力が可能になっている。基本的に親指で操作する。

名称

編集

任天堂としての公式名称は十字ボタンである。主にAV仕様ファミリーコンピュータニンテンドーゲームキューブゲームボーイミクロニンテンドー3DSなど、近年の任天堂ゲーム機の取扱説明書[1] などでは、「十字ボタン」と呼んでいる[2]

任天堂以外のメーカーでは「十字キー」、「方向キー[3]、「方向パッド[4] などの名称を用いている。

英語圏では「directional pad」(方向パッド)を略して「D-pad」(Dパッド)や、「control pad」(コントロール・パッド)と呼ばれる。

歴史

編集

前史

編集

十字キーの前身となるものは、アーケードゲーム(例えばUPLブロッケード(1976年)[5]SNKヴァンガード英語版(1981年)[6] など)で使われた4つの方向ボタンだった。家庭用テレビゲーム機で十字キーの前身となるものは、マテルが1980年に発売したインテレビジョンによって初めて使用された。インテレビジョンの特徴的なコントローラーは、家庭用ゲーム機では初めてジョイスティックに代わる方向キーを採用したもので、円形のパッドを親指で押すことで、16方向の入力が可能であった。短命に終わったエンテックスのセレクト・ア・ゲーム英語版は、(十字キーのようには繋がっていない)上下左右の方向ボタンが特徴的であった。同様の方向ボタンは、アタリ2600の前身で発売されなかったアタリ・ゲームブレイン英語版や、VideoMaster Star Chess gameのような初期の専用ゲーム機のいくつかで使用された[7]

ミルトン・ブラッドリー・カンパニー英語版携帯型ゲーム機Microvision用のソフトとして1981年に発売された"Cosmic Hunter"では、十字キーに類似したコントローラを使用していた。このゲームでは、スクリーン上のキャラクターを、親指で4方向のうちの1つのボタンを押して操作した[8]

任天堂の「十字ボタン」登場以降

編集

十字キーは、任天堂在籍の開発者横井軍平によって、1982年発売のゲーム&ウオッチドンキーコング』のために開発されたもので[9]、同社の澤野貴夫により提案された[10]。それ以前と同様の分離した方向ボタンを採用したゲーム&ウオッチのタイトル(その中には『スーパーマリオブラザーズ』も含む)も当分の間は発売されたが、十字キーを採用したタイトルの方に人気が出た。任天堂は十字キーの実用新案権を取得し、技術・工学エミー賞を受賞した[11][12]。1984年、エポック社は携帯型ゲーム機「ゲームポケコン」を発売した。それは十字キーを特徴としていたが、人気が出ず短期間で市場から姿を消した。

コンパクトながら親指だけで4方向にキーを押す感覚が伝わる画期的な操作性は、携帯型ゲーム機だけでなく据え置き型ゲーム機にも適切であると任天堂は判断し、ファミリーコンピュータなどの家庭用ゲーム機にも十字キーが装備された。その後、任天堂以外の会社のものも含めて、主要なテレビゲーム機には十字キーが装備された。しかし、アーケードゲームでは主としてジョイスティックが使用されている。

最新のゲーム機では、十字キーの他に親指で操作するアナログスティック英語版がついているものもある。アナログスティックはNINTENDO64で初めて採用されたもので、ゲームによってはどちらかだけで操作した方が良い場合もある。アナログスティックを使うゲームの多くでは、十字キーは方向指示以外の用途で使われる。例としてWiiの『スーパーマリオギャラクシー』では、移動操作はヌンチャクのコントロールスティックを用い、Wiiリモコンの十字ボタンは視点切り替えに使われる。

基本的には一つの機器に一つであるが、例外で任天堂のバーチャルボーイのコントローラーはこれを唯一2つ装備しており、ゲームによって両方または片方を使う。

任天堂ではファミコン以降のハードに十字ボタンを伝統的に採用し続けてきたが、2017年に発売されたNintendo Switchに付属されているコントローラーであるJoy-Conには十字ボタンは装備されておらず、スティックキーが装備されている。またボタンはひし形上に配置され、十字ボタンの役割を果たしている。2019年に発売された廉価版モデルであるNintendo Switch Liteや、周辺機器のNintendo Switch Proコントローラーなどには十字ボタンは装備されている。

ゲーム機以外での利用

編集

十字キーは、メニューから動作を選択する方式の装置で単純な操作用のボタンとしても使われる。それはゲーム機の十字キーに似ているが、ゲーム機のようなリアルタイムの操作のために最適化する必要はなく、また、ゲーム機のように斜めの方向を指示することはできない。多くの場合、十字キーの中央に「決定」「OK」などと書かれたメニューを実行するためのボタンがついている。十字キーではなく、上下・左右の1軸方向の2つのボタンがついているものもある。

実用新案権

編集

十字キーについては、1982年に任天堂が実用新案権登録出願を行い、1992年に「方向性スイッチ」という名称で実用新案権を取得している(出願番号:実願昭57-57437、公開番号:実開昭58-159132、公告番号:実公平3-13951、登録番号:実用新案登録1889504号)[13]。ただし、これは十字キーそのものについての包括的な権利ではなく、特定の構造の十字キーについてのものである。このため、他のメーカーはこの実用新案権を侵害しないように、任天堂とは構造の異なる十字キーを採用する場合が多かった。そのため、登録されている実用新案権の数が多い(「十字キー」検索一覧より)。なお、当時の実用新案権の存続期間は出願から12年間(または出願公告から10年のうちの短い方)であったため、この権利は1994年に消滅している。

脚注

編集
  1. ^ 具体的にはAV仕様ファミリーコンピュータ取扱説明書P.3「各部の名称と働き」、ニンテンドーゲームキューブ取扱説明書P.16「各部の名称」、ゲームボーイミクロ取扱説明書P.3「8各部の名称と働き」、ニンテンドーDS Lite取扱説明書P.24~P.25「各部の名称」、ニンテンドー3DS取扱説明書P.25「各部の名称」などの各本体、各ソフトの取扱説明書の操作方法の項目に記載されている。
  2. ^ ニンテンドー3DS 本体の主な仕様”. 任天堂. 2016年2月11日閲覧。
  3. ^ 各部のなまえ PlayStation 4 ユーザーズガイド”. ソニー・コンピュータエンタテインメント. 2015年2月23日閲覧。
  4. ^ Xbox One ワイヤレス コントローラーの概要”. 日本マイクロソフト. 2015年2月23日閲覧。
  5. ^ Blockade - Killer List of Videogames(英語)
  6. ^ Matt Barton & Bill Loguidice, The History of Robotron: 2084 - Running Away While Defending Humanoids, Gamasutra
  7. ^ Videomaster Star Chess”. Ultimate Console Database. 2010年8月30日閲覧。
  8. ^ Sony's PlayStation Portable and Milton Bradley's Microvision - The PSP and the History of Handheld Video Gaming, Part 2, Niko Silvester, about.com. Accessed on line June 7, 2010.
  9. ^ ただし、実用新案を登録する際、発明者の名前を十字キーの図面を書いた人物の名前で登録したため、後日山内溥に怒られるというエピソードもあった。[要出典]
  10. ^ 【任天堂「ファミコン」はこうして生まれた】第7回:業務用機の仕様を家庭用に、LSIの開発から着手”. 日経BP. 2014年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年5月22日閲覧。
  11. ^ Nintendo Wins Emmy For DS And Wii Engineering | Technology | Sky News”. News.sky.com (2008年1月9日). 2012年7月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月30日閲覧。
  12. ^ Magrino, Tom (2008年1月8日). “CES '08: Nintendo wins second Emmy - News at GameSpot”. Gamespot.com. 2010年8月30日閲覧。
  13. ^ 特許検索ガイドブック ∼電子ゲーム∼ 平成17年3月 特許庁 (PDF) 15ページ

関連項目

編集