共通テスト痴漢祭り
共通テスト痴漢祭り(きょうつうてすとちかんまつり)は、毎年1月中旬に行われる大学入学共通テストの直前に受験生(主に女子高生)への痴漢予告がインターネット上で多発する様子を表した用語である[1][2]。2020年以前は「センター試験痴漢」と呼ばれ[3][4][注 1]、例えば2020年には悪辣な書き込みが1,000件以上確認された[5]。
試験に遅刻できない受験生の心理につけ込み、警察に通報されないと踏んでの犯罪予告とみられ、実際の被害も確認されている[1][5]。なお、大学入試センターは「もしも被害に遭って遅刻してしまっても、救済措置があるので、受験票に書かれた問い合わせ番号にまず電話して欲しい」としている(後述)。
事例
編集書き込み例
編集- 「明日はJK(女子高校生)を痴漢しまくっても通報されない日です」[1]
- 「入試は遅刻厳禁だから、女子高生を痴漢し放題」[6]
- 「センター試験は絶好の痴漢日和です!受験生は試験に間に合わないと困るので、声を上げないから痴漢し放題」[3]
被害報告例
編集反響
編集対策
編集受験生を痴漢から守るための活動である#withyellowが、2020年よりRadarLab株式会社の発案で実施されている[6][4]。これは、Twitter上で「#withyellow」のハッシュタグを拡散したり、試験当日に「黄色いもの」を身に付けて電車内をパトロールする活動であり、誰でも参加できる。
2023年、twitterでは、大阪府のイラストレーターの投稿がきっかけで、「#共通テスト痴漢撲滅」を付けた投稿が大量に広まった[7]。
痴漢の被害に遭遇した・目撃した場合には、車内にある非常通報ボタンを押して通報することも推奨されている[8]。なお、これらのボタンは、駅構内にある非常停止ボタンとは異なり、押しただけでは列車は停止しない。
NPO法人ピルコン[注 2]の染矢明日香は、「痴漢被害には『第三者の介入』が有効」であり、第三者がDistract(注意をそらす)、Delegate(第三者に助けを求める)、Document(証拠を残す)、Delay(後からの対応)、Direct(直接介入)の「5D」を行うことで、被害者の救援と行動の抑止が可能だと述べた[9]。
痴漢抑止活動センター代表理事の松永弥生は、電車で試験場に向かう際のポイントとして、以下のことを挙げた[10]。
- 友だちや親などと一緒に乗る
- 受験生と気付かれないよう私服で行く
- 女性専用車両を選ぶ
意見
編集TBSアナウンサーの国山ハセンは、「受験生を狙い打ちにする卑劣な犯行です」「対策ということで、黄色のものを身につけて、駅の構内や電車に乗って痴漢を監視する活動も広がりつつあります。(中略)こういうことが認知されることも必要ですね」とコメントした[3]。
弁護士の太田啓子は、「実際に痴漢しなくても、性暴力を恐れる女性などに不安を与えることを楽しむこと自体悪質な『遊び』」であると指摘している[11]。
東京都内の学習塾では、最後の追い込みをかける受験生が、「痴漢被害は心に残り、試験当日の被害は平常心を保てなくなる。翌年以降もトラウマで再挑戦しにくくなるため、許せない」や、「弱みに付け込んだり対処に時間がかかって入試に影響するため、そういうところを付く行為は最低だと思うが、当日にどういう対策を取ればよいのかが分からない」などの声が聞かれた[12]。
岩井志麻子は、「痴漢を呼びかける投稿は普通の会社員や大学生が書いている。本当に狂暴凶悪な事件とは違うが、痴漢予告の悪の度合いはもしかしたら同じかもしれない」と述べ、「弱い立場の人間がさらに弱みに付け込むのが、無差別殺人に通じるあくどさ、恐ろしさ、黒さがある」と切り捨てた[13][注 3]。
対応
編集大学入試センター
編集共通テストの実施主体である大学入試センターは、RadarLabの問い合わせに対し、「もしも被害に遭って遅刻してしまっても、救済措置があるので、受験票に書かれた問い合わせ番号にまず電話して欲しい」「仮に受験生が警察への聞き取りに協力して遅刻したということであれば、証明できるものを出していただいたり、試験場の大学から警察に事実関係を確認させていただきます。申し出ている通りであれば、当日に時間をずらして受験していただいたり、別の日に追試験するなど対応方法があります」と返答している[14]。
交通機関
編集以下の交通機関では、痴漢防止のアナウンスを強化するなどの対策を行っている[2]。
警察
編集- 神奈川県警察は、SNSで注意喚起を行ったほか、試験当日の朝に警官を駅のホームなどに配置、駅周辺でのパトカーでの巡回などを実施した[1]。2023年1月12日にも、横浜駅付近で警察官やボランティアが痴漢撲滅キャンペーンを行った。県警は1月14日と15日に県内の主要駅で、制服警察官の巡回や列車内の警戒を強化する[16]。
- 警視庁は、2023年1月に痴漢防止キャンペーンを展開し、主要駅での制服警官の巡回、鉄道警察隊の乗車、防犯アプリ「Digi Police」の紹介など、警戒を強化した[17]。警視庁はスマートフォン向けの防犯アプリ「DigiPolice」をApp StoreとGoogle Playで配信しており[18]、痴漢被害を受けた時に周囲に知らせる機能もある[12]。警視庁生活安全総務課の課長総崎由希は、「痴漢行為を目撃したら、見逃さず、傍観せず、被害者を救助してほしい」と述べた[12]。
- 愛知県警察は、愛知工業大学名電高等学校の生徒に作成を依頼した[7]、痴漢被害の対策方法を紹介した動画を、Youtubeで配信している[12]。
- 大阪府警察も、公式に配信している「安まちアプリ」に、痴漢撃退や通報の機能を持たせている[19]。宣伝キャラクターにはキン肉マンを起用した[20]。
その他
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e “「痴漢祭り」 大学入学共通テスト前、ネットで予告相次ぐ”. 毎日新聞 (2022年1月14日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b “大学共通テスト 受験生狙った"痴漢予告"に非難殺到「恥を知れ」「全員逮捕して」”. 女性自身 (2022年1月15日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b c d “卑劣な「センター試験痴漢」 受験生は「試験に間に合わない」と声をあげられないから狙い撃ち”. J-CASTニュース (2020年1月14日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b “「まじで痴漢やめろ」センター試験痴漢に電車内パトロールで対抗、女子中高生や男性も”. ビジネスインサイダー (2020年1月18日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b c d “「センター試験痴漢」遅刻できない受験生を狙う卑劣犯罪の実態”. FRIDAY DIGITAL (2020年1月31日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b “「入試は遅刻厳禁だから受験生が狙い目」 卑劣な痴漢から守る活動、ネットで拡散中”. 弁護士ドットコム (2020年1月17日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b いよいよ大学入学共通テスト #痴漢撲滅 受験生を守れ | NHK | News Up | 教育
- ^ a b “痴漢から受験生を守れ! 相次ぐ卑劣な書き込み、私たちができること”. 朝日新聞 (2023年1月13日). 2023年1月14日閲覧。
- ^ 性被害を防ぐために!「第三者介入」の重要性と5つのアクション
- ^ a b “共通テスト受験生狙う痴漢 電車内の注意点は【Q&Aで詳しく】”. NHK (2023年1月11日). 2023年1月12日閲覧。
- ^ a b “痴漢から受験生守れ”. 日本共産党 (2022年1月15日). 2022年1月17日閲覧。
- ^ a b c d 「痴漢チャンスデー」受験生の弱みにつけ込み“痴漢煽る”書き込み相次ぐ 身を守るために出来ることは?【news23】 | TBS NEWS DIG
- ^ 岩井志麻子さん、「受験生には痴漢し放題」書き込みに怒り「無差別殺人にも通じちゃうような悪どさ、黒さがある」 : スポーツ報知
- ^ “黄色のものを身につけてみんなで受験生を守ろう!”. RadarLab Inc.. 2022年1月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月17日閲覧。
- ^ 「受験生狙う痴漢の撲滅」を都営地下鉄が宣言。「電車内の非常通報器は躊躇なく押して」 | Business Insider Japan
- ^ 受験生の痴漢被害防げ 神奈川県警、鉄道事業者と啓発活動 | カナロコ by 神奈川新聞
- ^ “受験生狙った痴漢許すな 共通テスト期間に警戒強化 警視庁”. 産経新聞 (2023年1月11日). 2023年1月12日閲覧。
- ^ 防犯アプリ Digi Police 警視庁
- ^ 安まちアプリ/大阪府警本部
- ^ OPP_seianのツイート(1613838398413803522)
- ^ “痴漢防止へ駅アナウンス実現 阪神電鉄など”. 日本共産党 (2022年1月13日). 2022年1月17日閲覧。