公認射手
公認射手(こうにんしゃしゅ、英語: Authorized firearms officer, AFO)は、火器の携行および使用に関する権限を与えられ、特別の訓練を受けたイギリスの警察官である[1]。その存在が特別である理由は、イギリスにおいては警察官が日常的に火器を携行することが一般的ではないためである(所持するとしてもテーザー銃程度)。なお、イギリスにおいて日常的に火器を携行する警察官は、北アイルランド警察、国防省警察、民間核施設保安隊、ベルファスト港警察およびベルファスト国際空港保安隊などに限られている。
2019年から2020年の会計年度においては、イングランドおよびウェールズ全体で銃器の配備が許可された警察活動は19,372回あり、6,518名の武装警官(国内全体の132,467名の4.9%に相当)が動員された[2]。2015年11月のパリ同時多発テロ事件の後、特にロンドンにおいて武装警官の数を大幅に増やすことが決定された[3]。
AFOの上級資格として、Armed Response Vehicle Officer(ARVO)、Specialist Firearms Officer(SFO)、Counter Terrorist Specialist Firearms Officer(CTSFO)などがある。
訓練
編集英国のすべての警察にAFOの選抜課程が設置されている(細部は部隊ごとに異なる)[4]。多くの警察の専門官と同様に、公認銃器所持警官は全員が志願者からなる。選抜課程に参加するには予め原隊の上官の許可を受ける必要がある。選抜課程においては、銃器の訓練を開始する許可が与えられる前に、面接、心理テスト、体力テストおよび健康診断が行われる。選抜を通過できる保証はなく、必要な基準を満たさなければ、選抜課程のどの時点においても原隊復帰を命じられうる。
承認を受けた後も、資格を維持するためには定期的な再教育訓練と再テストに合格する必要があり、必要な基準を満たさなければ承認を取り消される可能性がある。健康面や体力面における問題がある場合も、銃器使用許可を一時的または恒久的に停止される可能性がある[要出典]。
AFOの配備
編集AFOは、英国全土において、その役割の性質上武装警官を配置する必要がある専門部隊に配備される。例えば、ロンドン警視庁の外交員警護課、国防省警察[5]および民間核施設保安隊などである。
国家犯罪対策庁がAFOを配備していること、特に武装作戦部隊を編成していることが知られている。これらの部隊は対テロ作戦に従事することは少なく、主に銃器の密売などの暴力犯罪・組織犯罪に対して集中的に対応している。
上級資格者のSFOやCTSFOは警察特殊部隊であるSCO19に配属され、武装応召車に搭乗して対テロ作戦にも従事する。
銃器使用の法的根拠
編集警察による銃器使用は、制定法(1984年警察・刑事証拠法および1998年人権法など)、行政機関の方針(内務省の「警察による銃器および非致死性兵器の使用に関する行動規範(Code of Practice on Police use of Firearms and Less Lethal Weapons)」および英国警察長協会(ACPO)の「警察による火器使用マニュアル(Manual of Guidance on Police Use of Firearms)」)ならびにコモン・ローによって規律されている。
AFOは、「適切な承認担当官」によって承認された場合にのみ銃器を携行することができる[6]。「適切な承認担当官」は警部以上の階級でなければならない[7]。空港および核施設での勤務、警護任務ならびに装甲車両に搭乗しての配備が行われる場合には、拳銃所持の「恒常的な権限」が与えられる[8]。なお、北アイルランド警察の警察官は、勤務中であると非番であるとを問わず、個人支給の拳銃を日常的に携行する権限を与えられている[9]。
英国の法律では、逮捕をなしもしくは犯罪を防止するため[10][11]または自衛のため[12]に必要な場合には、「合理的な有形力」を使用することが許可されている。しかし、欧州人権条約のもと、致死性武器の使用は「絶対的に必要」である場合にしか許されない[13]。したがって、AFOが発砲することが許されるのは、「生命への差し迫った脅威を阻止する」場合に限られる[14]。
ACPOの方針においては、銃器の「使用」とは、銃器を人に向けることおよび発砲(偶然か、過失によるかまたは故意かを問わない)の双方が含まれると規定されている[15]。イングランドおよびウェールズにおいては、他の有形力の行使と同様に、法廷において行動の正当性を証明する責任は個々の警察官にある[16]。
装備
編集配備される銃器の種類は部隊により異なる。イングランドおよびウェールズにおいては、ACPOおよび内務省から指針が示されている[17]。各警察がどの武器を使用するかについての決定権は、警察本部長に委ねられていることが多い。
人員数
編集AFOの人員数はウォリックシャーの31人からロンドン警視庁の2,394人まで幅広い。ただし、ロンドン以外で200人以上のAFOが配備されているのは、グレーター・マンチェスター、テムズバレーおよびウェストミッドランズの3つの警察本部にすぎない[18]。
警察署 | 人数 |
---|---|
エイボン・サマーセット | 106 |
ベッドフォードシャー | 63 |
ケンブリッジシャー | 59 |
チェシャー | 50 |
ロンドン市警察 | 80 |
クリーブランド | 49 |
カンブリア | 68 |
ダービーシャー | 56 |
デボン・コーンウォール | 154 |
ドーセット | 59 |
ダーラム | 52 |
ダベッド・ポーイス | 62 |
エセックス | 175 |
グロスターシャー | 71 |
マンチェスター | 257 |
グウェント | 42 |
ハンプシャー | 95 |
ハートフォードシャー | 62 |
ハンバーサイド | 79 |
ケント | 99 |
ランカシャー | 79 |
レスターシャー | 63 |
リンカンシャー | 47 |
マージーサイド | 109 |
メトロポリタン | 2,394 |
ノーフォーク | 155 |
北ウェールズ | 49 |
ノースヨークシャー | 68 |
ノーサンプトンシャー | 56 |
ノーサンブリア | 146 |
ノッティンガムシャー | 62 |
南ウェールズ | 95 |
サウスヨークシャー | 98 |
スタッフォードシャー | 80 |
サフォーク | 54 |
サリー | 60 |
サセックス | 139 |
テムズバレー | 204 |
ウォリックシャー | 31 |
ウェスト・マーシア | 106 |
ウェストミッドランズ | 231 |
ウェストヨークシャー | 165 |
ウィルトシャー | 48 |
脚注
編集- ^ 今野 2000, pp. 118–120.
- ^ Shaw. “Police use of firearms statistics England and Wales: April 2019 to March 2020”. Home Office. 20 July 2021閲覧。
- ^ White, Mark (13 January 2016). “Met Police To Double Armed Officers On Patrol”. Sky News 13 January 2016閲覧。
- ^ Waldren, Michael J. (2007). Armed Police, The Police Use of Firearms since 1945. England: Sutton. p. 224. ISBN 978-0-7509-4637-7
- ^ “Ministry of Defence Police and Guarding Agency”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。[リンク切れ]
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 3.2.1 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 3.6.6 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 3.8 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 3.8.5 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ en:Police and Criminal Evidence Act 1984, Section 117 or Police and Criminal Evidence (Northern Ireland) Order 1989, Article 88
- ^ en:Criminal Law Act 1967, Section 3 or Criminal Law Act (Northern Ireland) 1967, Section 3
- ^ Common Law, as cited in ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 2.3.4 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 2.3.7 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms, 5.6.1 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms 3.2.4 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ ACPO (2003), Manual of Guidance on Police Use of Firearms Chapter 3.3.1 Archived 2008-04-13 at the Wayback Machine.
- ^ “Police Arms and Weaponry”. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 “All the forces in the UK and Wales are also issued with the 'Firearms Guidance to Police' manual, a lengthy document detailing the legal regulation of firearms in the UK and covers the vast range of domestic legislation and international guidance on firearms use. Codes of practice are also issued by the Home Office providing comprehensive guidance on the policy and use of firearms and less lethal weapons by police.”[リンク切れ]
- ^ Gov.uk (27 July 2017). Police use of firearms statistics, England and Wales: April 2016 to March 2017: data tables. Retrieved 1 August 2017.
参考文献
編集- 今野耿介『英国警察制度概説』原書房、2000年。ISBN 978-4562032457。
- Neville, Leigh『欧州対テロ部隊』床井雅美 (監修), 茂木作太郎 (翻訳)、並木書房、2019年(原著2017年)。ISBN 978-4890633852。
関連項目
編集- イギリスの銃規制
- Garda Armed Support Unit - アイルランド版のAFO
外部リンク
編集- 銃器政策について - スコットランド警察