八本松トンネル
八本松トンネル(はちほんまつトンネル)は、広島県東広島市にある山陽自動車道のトンネル。
概要 | |
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位置 | 日本 広島県東広島市 |
座標 | 北緯34度27分59.7秒 東経132度41分07.1秒 / 北緯34.466583度 東経132.685306度座標: 北緯34度27分59.7秒 東経132度41分07.1秒 / 北緯34.466583度 東経132.685306度 |
現況 | 供用中 |
所属路線名 | E2 山陽自動車道 |
起点 | 広島県東広島市 |
終点 | 広島県東広島市 |
運用 | |
開通 | 1988年(昭和63年)7月27日[1] |
所有 | 西日本高速道路 |
通行対象 | 自動車 |
技術情報 | |
全長 |
860m(上り線)[2] 844m(下り線)[3][4] |
道路車線数 | 片側2車線 |
八本松トンネル火災事故 | |
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場所 | 広島県東広島市 |
日付 |
2016年(平成28年)3月17日 午前7時26分 |
概要 | 渋滞の車列にトラックが衝突 |
原因 | 過労運転 |
死亡者 | 2人[3] |
負傷者 | 73人[5] |
犯人 | トラック運転手、運行管理者 |
刑事訴訟 |
トラック運転手 = 懲役4年[6] 運行管理者 = 懲役1年6月(執行猶予3年)[6] 運送会社 = 罰金50万円[6] |
影響 | トンネルの非常用設備の設置基準の見直しに向けた議論が開始 |
管轄 | 広島県警察、東広島市消防局 |
概要
編集1988年(昭和63年)7月27日に、山陽自動車道の西条ICから志和IC間が開通すると共に供用が開始された[1]。上り線(岡山方面)の延長は860メートルで[2]、下り線(山口方面)の延長は844mである[3][4]。
計画と建設
編集山陽自動車道の第六次施工区間として1972年(昭和47年)6月20日に本トンネルと含む志和・広島間の整備計画が発表され、即日施工命令が行われた。1973年(昭和48年)9月28日に実施計画の認可と路線の発表が行われている。この第六次施工区間は広島県内の山陽自動車道のなかで最初に着工された工事区域であった[7]。 そのなかで六本松トンネルは中央部分が在日米軍川上弾薬庫の北端にかかるため、施工にあたり発破作業の振動が弾薬に悪影響を及ぼさないよう[8]米軍と協議を重ねて慎重に進められた[9]。
トンネル火災事故
編集概要
編集2016年(平成28年)3月17日午前4時5分、下り線トンネルから約5km先の下り線で大型トラックの単独事故が発生した[3]。さらに、同日午前4時23分には、単独事故現場の大型トラックに中型トラックが追突する事故が発生した為、同日午前4時30分に山陽自動車道の志和ICから広島東ICの間が通行止めとなった[3]。この為、志和ICで強制的に流出される車両による渋滞が発生した[11]。渋滞の最後尾は、第1通行帯はトンネル内まで、第2通行帯はトンネル出口付近まで伸びており、時速50kmの臨時速度規制もかかっていた[3]。トンネル内は緩やかな下り坂かつほぼ直線であり[12]、事故当時は53台の車両が通行し、76人が乗車していた[13]。このような状況の中、同日午前7時26分[3]、4トントラック[11]がブレーキをかけることなく、時速80kmの速度で第1通行帯の渋滞の列に衝突した[3][14]。これにより車両12台が絡む事故となった上に[11]、衝突が原因で火災が発生し、車両5台が炎上し[11][3]、トンネル内は視界を遮る程の黒煙が充満した[15]。上り線のトンネルに繋がる避難坑を通り、上り線のトンネルから避難した人もいた[16]。一方で、事故現場である下り線トンネル出口付近から、約600メートル戻った入口まで戻って避難する人もおり、煙に追われる形になり気道熱傷を負った人もいた[15]。最終的にこの事故では2人が死亡し[3]、73人が負傷した[5]。
消防の対応
編集東広島市消防局は同日午前7時27分に事故を覚知し、まず消防車と救急車をそれぞれ2台出動させた[5]。その後、午前7時46分に第2出動、午前7時57分には第3出動を発令している[5]。さらに午前8時43分にはDMATが事故現場に到着した[5]。これは広島県からの要請によるもので、三原赤十字病院と広島赤十字・原爆病院[17]、広島市立安佐市民病院[18]、国立病院機構呉医療センター[19]、広島大学病院[20]から派遣された。負傷者は東広島医療センターや西条中央病院[4][5]、三原市や尾道市の病院に分散され搬送された[12]。東広島医療センターではトリアージが実施された[21]。
広島市消防局や三原市消防本部、尾道市消防局、呉市消防局が応援として出動した[5]。 広島市の消防防災ヘリコプターやドクターヘリ[20]など、3機のヘリコプターも出動した[5]。合計の出動人員は204人で、出動車両は合計40台(そのうち救急車は13台)にのぼった[5]。
刑事裁判
編集事故の直接的な原因はトラック運転手の居眠りであった[14]。運転手は事故3日前から2日前にかけて、睡眠を一切とることなく36時間もの運転を続けた後、約8時間の睡眠をとり、事故の前日の夕方から運転を再開していた[14]。トラック運転手は、自動車運転処罰法(過失致死傷)と道路交通法違反(過労運転)の罪により、懲役4年の判決が確定した[14]。 また、トラック運転手に過労運転をさせたとして、広島県警察はトラック運転手の勤務する運送会社の取締役でもあった統括運行管理者を、道路交通法違反(過労運転の下命)の疑いで逮捕した[22][23]。運行管理者の逮捕は異例である[23]。その後、当時の運行管理者には懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決が言い渡された[6]。法人としての運送会社も罰金50万円の有罪判決を受けた[6]。
事故の影響
編集この事故の影響で、上り線の広島東ICから西条ICが約11時間通行止めとなり[12]、事故がおきた下り線は、西条ICから志和ICが、事故翌日の午前11時15分まで通行止めになった[15]。このため、広島空港と広島市内を結ぶバスが運行を停止するなど、交通に大きな影響が出た[15]。
トンネル内には非常電話や押しボタン式の通報器、消火器や消火栓は設置されていたが、スプリンクラーや排煙設備などは設置されていなかった[11]。トンネルは1日に2万3000台あまりが通行する[11]。被害が拡大した背景には、スプリンクラーや排煙設備の未設置があると見られる[15]。しかし、当トンネルは国の定めた非常用設備の設置基準には該当せず[24]、西日本高速道路の定めた条件にも当てはまっていなかった[15]。これを受け、参議院の国土交通委員会で谷合正明は、安全性を高めるために、設置基準の見直しの検討を訴えた[24]。公明党も、「これまでの基準のままでいいのか今後、検証すべき」とした[25]。
接続
編集脚注
編集- ^ a b “中国支社の歴史(あゆみ)”. 西日本高速道路株式会社. オリジナルの2016年8月16日時点におけるアーカイブ。 2015年3月17日閲覧。
- ^ a b “AH1”. Google ストリートビュー. (2011年9月) 2025年1月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j “事業用自動車事故調査報告書〔特別重要調査対象事故〕中型トラックの追突事故(広島県東広島市)” (PDF). 事業用自動車事故調査委員会. 2025年1月3日閲覧。
- ^ a b c {“山陽道 トンネルで事故、5台炎上…2人死亡、71人けが”. 毎日新聞 (2016年3月17日). 2016年3月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i “八本松トンネル火災事故について” (PDF). 東広島医療センター (2016年5月). 2016年5月時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ a b c d e “山陽道多重事故、過労認識しながら運行命令した元運行管理者に執行猶予付有罪判決!”. 株式会社ヒューマンテクノロジーズ (2016年11月21日). 2025年1月3日閲覧。
- ^ 広島県埋蔵文化財調査センター 1983, p. 1.
- ^ 辻 1986, p. 70.
- ^ トンネルと地下 1988, p. 24.
- ^ トンネルと地下 1985, p. 24.
- ^ a b c d e f “八本松トンネル火災事故に関する一考察” (PDF). 日本機械学会. 2025年1月3日閲覧。
- ^ a b c “トンネル多重事故2人死亡 東広島の山陽道下り線 5台炎上 67人が負傷(2016年3月18日掲載)”. 中国新聞デジタル (中国新聞社). (2019年10月18日). オリジナルの2025年1月8日時点におけるアーカイブ。 2025年1月8日閲覧。
- ^ “山陽道トンネル事故 「もし自分が…」生々しく残る焼け跡、側壁タイル15メートル剥落 事故現場ルポ”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月24日). オリジナルの2025年1月8日時点におけるアーカイブ。 2025年1月8日閲覧。
- ^ a b c d “過酷勤務で居眠り運転 広島の山陽道2人死亡事故”. 日本経済新聞社 (2017年12月6日). 2025年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ a b c d e f “山陽道トンネル事故 スプリンクラー、排煙設備なし 設置基準見直しも”. iza. 産経デジタル (2016年3月18日). 2025年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ 「暗闇 数百メートル走り避難」『朝日新聞』2016年3月18日付朝刊、第39面。
- ^ “山陽自動車道八本松トンネル多重事故へのDMAT派遣”. 日本赤十字社 (2016年3月17日). 2025年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ “平成27年度 業務実績報告書” (PDF). 地方独立行政法人 広島市立病院機構. 2025年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月8日閲覧。
- ^ “救命救急センター”. 国立病院機構呉医療センター. 2025年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月8日閲覧。
- ^ a b “2016年3月17日 山陽自動車道八本松トンネルでの多数傷病者事案対応について。ドクターヘリスタッフとしての備忘録”. 県立広島病院 救命救急センターブログ (2016年3月18日). 2025年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月8日閲覧。
- ^ “山陽道トンネル事故 運転手、必死に出口へ…「何とか逃げ切れた」「笹子の事故を思い出した」 ツイッター上などに書き込みも相次ぐ”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年3月17日). オリジナルの2025年1月8日時点におけるアーカイブ。 2025年1月8日閲覧。
- ^ “広島トンネル事故 運行管理者を逮捕 過労運転の下命容疑”. 毎日新聞 (2016年8月16日). 2025年1月3日閲覧。
- ^ a b “山陽道多重衝突事故、運賃改善「不可欠」 模範的な運行管理徹底を”. 物流ニッポン新聞社 (2016-08-). 2025年1月3日閲覧。
- ^ a b “「国民生活」「安全」で活発質疑”. 公明党大阪本部 (2016年3月24日). 2025年1月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年1月4日閲覧。
- ^ @komei_koho (2016年3月20日). "山陽道トンネル事故". X(旧Twitter)より2025年1月3日閲覧。
参考文献
編集- 広島県埋蔵文化財調査センター 編『山陽自動車道建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告 1』広島県教育委員会、1983年3月、1頁。NDLJP:12258246/8。
- 辻久雄(著)、日本トンネル技術協会(編)「土木情報No.146」『トンネルと地下 : 日本トンネル技術協会誌』第16巻第6号、土木工学社、1985年6月、24頁、NDLJP:3234432/32。
- 辻久雄(著)、日本トンネル技術協会(編)「銘酒どころ東広島市より / 株式会社青木建設」『トンネルと地下 : 日本トンネル技術協会誌』第17巻第12号、土木工学社、1986年12月、70頁、NDLJP:3234450/55。
- 日本トンネル技術協会(編)「トンネルジャーナル 西条~志和間開通 山陽自動車道」『トンネルと地下 : 日本トンネル技術協会誌』第19巻第9号、土木工学社、1988年7月、24頁、NDLJP:3234471/36。
関連項目
編集- 山陽自動車道
- 日本坂トンネル火災事故(高速道路のトンネル内火災事故の一例)
- 境トンネル多重衝突炎上事故(高速道路のトンネル内火災事故の一例)
- 過労運転