倉庫
倉庫(そうこ)は、有形の物品を保存・収納するための建造物である[1][2]。ただし、業務(いわゆる貸し倉庫)として営む場合は、建造物でないこともある(後述)。
歴史
編集類語
編集土蔵
編集伝統的な日本建築では木造で作られることがほとんどだが、技術の発展と共に火事や戦争、盗難対策に城郭建造技術を流用した土壁や漆喰による土蔵も建築されるようになった。基本的に倉庫として使われるが、住居、店舗、もしくはそのすべてを目的としたものも建設される。
上屋
編集倉庫のことを「上屋」(うわや) と言うこともあるが、これは倉庫を英語で「warehouse」ということから、「ウェアハウス」の「ウェア」が訛ったとされている[3]。
納屋
編集納屋は家庭内もしくは農業や漁業で使う消耗品や、時期が来れば使う物(脱穀機など)等、比較的利用頻度がある物を納めておく建物である。また、納屋内を仕事場として使うこともある[4][5]。
物置
編集当面使う予定の無いものや、雑多なものを保管しておく場所の事である。ガーデニングを施した庭に合わせたデザインの物置小屋はガーデンシェッドと呼ばれる[6]。
倉庫業
編集特に、事業として他人の物品を保存・収納する業種は倉庫業と呼ばれ、倉庫業が持つ施設は「営業倉庫」ともいい、倉庫業法第2条で次のような定義がされ、第3条で「国土交通大臣の行う登録を受けなければならない」と規定されている。
- 第2条 この法律で「倉庫」とは、物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作物又は物品の滅失若しくは損傷を防止するための工作を施した土地若しくは水面であつて、物品の保管の用に供するものをいう。
- 2 この法律で「倉庫業」とは、寄託を受けた物品の倉庫における保管(保護預りその他の他の営業に付随して行われる保管又は携帯品の一時預りその他の比較的短期間に限り行われる保管であつて、保管する物品の種類・保管の態様・保管期間等からみて第6条第1項第4号の基準に適合する施設又は設備を有する倉庫において行うことが必要でないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)を行う営業をいう。
- 3 この法律で「トランクルーム」とは、その全部又は一部を寄託を受けた個人(事業として又は事業のために寄託契約の当事者となる場合におけるものを除く。以下「消費者」という。)の物品の保管の用に供する倉庫をいう。
倉庫業の内容
編集倉庫業者の大きな機能は、「倉庫」という、工場から出荷されたり輸入されたりした製品を小売店に輸送するまでの間一時的に保管しておく、物流における重要な中継点となる施設を持ち、その施設のスペースと保管サービス(保管、荷役、場合によっては仕分けや輸送など)を他の会社に提供することである(また、スペースのみを他の会社に賃貸し、荷役や運送はその会社が独自に行う「貸庫(たいこ)」という不動産業のような形態もある)。
特に港湾の保税地域などで、通関前の外国貨物である輸入品を保管する倉庫は「保税倉庫」などと呼ばれている。また、倉庫業法の規定では、建物や工作物(簡単な上屋)などだけでなく、水面に木材を浮かべるような貯木場(往年の木場など)や、貨物や輸送コンテナなどを野積みするための地面(コンテナターミナルなど)も倉庫とみなされている。
物流と無関係な分野では、法律の規定などで一定期間保管の必要のある、各種帳簿などの書類を保管していることもある。(後述トランクルーム参照)
立地場所としては、貿易港の周辺の埋立地、郊外の高速道路のインターチェンジの近くなど、港湾・空港・幹線道路・鉄道などへのアクセスが容易な場所に立地していることが多い。
貨物の搬出入のため、新しい倉庫の多くはコンテナトレーラーやトラックをつけることのできるプラットホームを備えている。また、倉庫内で貨物を運ぶため、クレーン(ホイストクレーン)や、ISO標準パレットに載せた貨物を運ぶフォークリフトが用意されている。フォークリフトは、コンテナやトラックからの貨物の出し入れをする為にも用いられる。フォークリフトが乗ることのできる荷役用大型エレベータもある。扱う商品が細かい配送センターなどでは、全自動ラックを建物一杯に設置している場合もある。
倉庫の形態
編集収納する物品によって、
- 常温で保存する「常温倉庫」
- 美術品などのため空調・湿度調整を備えた「定温・定湿庫」
- 生鮮食品や冷凍食品を保管する「冷蔵・冷凍倉庫」
- 危険物を専門に貯蔵する「危険物倉庫」や「弾薬庫」
- 貴重品を扱う「金庫」
- 防災用品を備蓄する「防災倉庫」
に分けられる。輸入食品などを消毒する燻蒸庫を備えた倉庫や、危険品など物品によってはさらに防火や防水対策などが強化された倉庫もある。
倉庫の配送センター化
編集もっとも現在、各企業は在庫の削減や、ジャストインタイム生産システム(JIT)によるリードタイムの軽減など、貨物の滞留時間をいかに減らし物流コストを下げるかで頭を悩ませている。サプライチェーン・マネジメントなどロジスティクスの高度化により、倉庫は入ってきたものを何ヶ月も保管する場ではなく、海外や国内から原料が集められて工場に送られ、生産された商品が小売店に配送され販売されるまでの、「物流チェーンの一部」となりつつあり、貨物の滞留時間も早い場合、数時間や数日以下にまで短くなってきている。
ここでは倉庫は、各工場の要求に応じて搬入される原料を一時的に保管し、即時に各工場へ配送する拠点であり、また工場から配送されてくる商品を、小売店からの要求に応えて仕分けて、全国へ配送する拠点である。また商品の梱包・包装・値札つけなど、商品を店に出す形へ仕上げるための流通加工を行う場でもある。倉庫にあるコンピュータなど情報機器は、生産から販売までをつなぐ情報システムの一部として運用され(その情報システムは顧客企業が構築することもあれば、倉庫会社が代行して構築することもある)、内部の貨物(商品や原料)の位置はすべてシステムで把握されており、各貨物の配送が小売店や顧客本社などから指示されれば貨物はすぐにトラックの待つプラットホームへ送られる。位置把握や荷役に便利なように、情報システムと連動した建物大の自動ラックを備える倉庫もある。ラックに納められた商品は、情報システムの指示で自動的にコンベアに送られ、梱包作業場やトラックヤードへと直行する。
倉庫業にとっては主たる収益源だった保管料が激減し苦しくなるが、逆に顧客の物流業務のアウトソーシングにともない、これまで顧客が自営していた物流業務を受注し全面的に代行して、それを新規の大きな収益源とすることもできる。
廃倉庫の再利用と不動産業
編集この物流高度化の流れに応えられない老朽化した倉庫は、廃業してオフィスビルかマンションか駐車場になる場合が多い。
現に、日本国内の多くの倉庫業者の利益の源泉は、かつて川や運河沿い、古い幹線道路沿いなどに持っていた倉庫を取り壊して作ったオフィスビルやマンション、ショッピングセンター等の経営による不動産賃貸業である。老舗の倉庫業者は、地価の安い時代に買った多くの土地資産(いわゆる含み益)を所有することから、その資産の有効活用の行方をめぐりしばしば株式公開買い付けによる企業買収の対象となる。
コンテナリゼーションにより貨物が新型のコンテナ港湾に移っていく流れの中で、欧米の多くの街では、港湾地区や川沿いなどに老朽化して廃墟と化した大型倉庫が大量に打ち捨てられており、景観やセキュリティー(防犯)上の頭の痛い問題となっている。犯罪の温床となるほか、1980年代末にはイギリスなどでしばしば不法占拠された上、レイヴパーティーの会場とされたこともあった。
荒れた旧港湾の再生のため、欧米では廃倉庫群はさまざまに処理されてきた。取り壊されてウォーターフロント地区のビジネスセンターのオフィスビルの敷地となるか、あるいは倉庫の建物そのままで改修(リノベーション)されて美術館・博物館・瀟洒なショッピングセンターとなってウォーターフロント地区に賑わいを生み出すか、ほとんど手を加えない状態で大きなアパート兼アトリエ、ギャラリー、レストラン、クラブに改造され先端的な芸術地区を形成したりすることもある。(今日高級ショッピング街として有名なニューヨークのソーホー地区は、もとは廃業した繊維倉庫などのロフト(上層階、屋根裏部屋)を芸術家がアトリエとして利用し、ギャラリーなど美術関係者が集積したことが発展の端緒である。)
しかし日本の場合、倉庫を住居や商業施設に用途変更するには、消防法や建築基準法の厳格な基準(窓、防火設備、耐震補強)をクリアしなければならないという壁があるため、転用するにはかえって巨額の改造費用がかかるためなかなか実現しない。よってスクラップ&ビルドもしくは放置となり、安価で個性的な手法で日本の倉庫街が再活性化する道は閉ざされている。
ただし、函館(金森赤レンガ倉庫)、小樽(小樽運河煉瓦倉庫街)、横浜(横浜赤レンガ倉庫)、金沢(石川県立歴史博物館)、舞鶴(赤レンガ倉庫群)、綾部(グンゼ博物苑)、神戸(神戸ハーバーランド煉瓦倉庫レストラン街)、姫路(姫路市立美術館)、高松(北浜alley)など、戦前の倉庫を擁する港町などでは、それなりの予算をかけて古建築の倉庫を保存・修復・転用した商業施設や博物館運営がおこなわれ、集客に成功している。
トランクルーム
編集日本では昭和40・50年代より、一般個人や企業を対象に、倉庫のスペースの一部をトランクルームと名付けて貸す業態が登場した。骨董品、絵画などの美術品、スキー板・サーフボードや毛皮など季節限定の家財、引越や改築時の家財道具の一時的な保管場所のほか、企業の各種書類や帳簿、病院の古いX線フィルムやカルテ、放送局などの撮影済み・放映済みフィルムの保管などのためのスペースとして販売している事業者も多い(こうした業者は、注文に応じ顧客への配送サービスも行っている)。
都市周辺では多くの個人が一戸建てではなくマンションに住み、収納スペースも少ないことからトランクルームへのニーズは高まっており、今後はトランクルームは富裕層向けから中間層までに顧客が広がることが期待できる。
組み立て式物置
編集戦後に登場して、各社から販売されている小型ユニット式の物置。基本的に鋼板製で、主に戸建住宅の屋外物置やガレージ、防災倉庫などに用いられる。
メーカー
編集倉庫市場
編集日本の物流不動産市場について、2010年時点において物流大手の日本GLPとプロロジス(AMB含む)で、日本の物流不動産市場の床面積の51%の供給を行っていた。大手デベロッパーの三井不動産のシェア1%、ハウスメーカーの大和ハウス工業のシェアは2%程度である。
日本の物流不動産市場の主要プレーヤーと床面積シェア(2010)[7]
順位 | 物件名称 | シェア |
---|---|---|
1 | GLP(日本GLP) | 26% |
2 | プロロジス | 15% |
3 | AMB | 10% |
4 | ラサール | 10% |
5 | オリックス | 7% |
6 | 日ロジファンド投資法人 | 6% |
7 | 日本レップ(グッドマン) | 3% |
8 | 野村不動産 | 3% |
9 | 大和ハウス工業 | 2% |
10 | メープルツリー | 2% |
11 | 産業ファンド投資法人 | 2% |
12 | 三井不動産 | 1% |
物流施設のプロバイダー
編集先進的物流施設
編集先進的な機能を有する物流不動産(倉庫)のことを「先進的物流施設」という。この用語は、プロロジス、GLP(GLP投資法人)[8]、三井不動産(三井不動産ロジスティクスパーク投資法人)[9]、住友商事(SOSiLA物流リート投資法人)[10]等により使用されている。
先進的物流施設のブランド
デベロッパー名 | ブランド名 | 概要 |
---|---|---|
GLP(日本GLP) | 「ALFAKINK」 | GLP ALFALINK流山の延床面積90万㎡は世界最大級 |
プロロジス | 「プロロジスパーク」 | |
三井不動産 | 「MFLP」 | |
住友商事 | 「SOsiLA」 |
日本の物流REIT
編集脚注
編集- ^ “倉庫業について|日本倉庫協会”. 日本倉庫協会. 2023年2月12日閲覧。
- ^ “倉庫ってなんだろう?定義や歴史を通じて詳しく解説|三井倉庫グループ”. 三井倉庫株式会社. 2023年2月12日閲覧。
- ^ (財)伏木富山港・海王丸財団 「舵輪 第92号」 p.3 「SPLICING THE MAIN-BRACE」
- ^ 新明解国語辞典
- ^ 世界大百科事典 第2版
- ^ 畠山潤子「 Vol.7.裏庭を機能的なバックヤードに」 AllAbout 2017年6月23日閲覧。
- ^ “物流不動産第1部 ファンドバブルは復活するか[特集:ロジスティクス・ビジネス[LOGI-BIZ]バックナンバー]”. magazine.logi-biz.com. 2021年7月24日閲覧。
- ^ 先進的物流施設への重点投資|GLP J-REITの特徴|GLP投資法人の概要|GLP投資法人
- ^ MFLPへの重点投資|投資戦略|投資法人の特徴|三井不動産ロジスティクスパーク投資法人
- ^ SOSiLAについて|投資法人の特徴|SOSiLA物流リート投資法人
関連項目
編集外部リンク
編集- 社団法人日本倉庫協会
- 『倉庫』 - コトバンク
- 『農業倉庫』 - コトバンク