交響曲第7番 (シューベルト)

シューベルト作曲の未完成の交響曲

交響曲第7番(こうきょうきょくだいななばん)は、オーストリアの作曲家フランツ・シューベルトの作曲した7番目の交響曲であるが、シューベルトの後期の交響曲は何度も番号が変更されており、『交響曲第7番』が示す曲もその都度変化している。詳細はフランツ・シューベルト#交響曲の番号づけを参照。

  1. D 944ハ長調)→新シューベルト全集(Neue Schubert-Ausgabe)における第8番。未完成作品を除いて7番目の交響曲であるため、かつては第7番と呼ばれていた。その後、第9番、第10番と呼ばれたこともある。『ザ・グレート』(大交響曲)ハ長調。
  2. D 729(ホ長調)→新シューベルト全集では番号はついていない。大半がスケッチのみの未完の交響曲。後世の指揮者や音楽学者らによりオーケストレーションされた版で演奏されることもある。交響曲ホ長調 (シューベルト) を参照。
  3. D 759(ロ短調)→新シューベルト全集における第7番。旧第8番。『未完成交響曲』ロ短調。1978年のヴァルター・デュルドイツ語版アルノルト・ファイルドイツ語版らによるドイチュ番号改定により、自筆譜のままで演奏できるという意味で完成されていると認められる交響曲の7番目のものであることから第7番とされ、テュービンゲンの「国際シューベルト協会」(Internationale Schubert-Gesellschaft e.V.)をはじめ[1]多くの楽譜出版社がこれに従った。

本項では、新シューベルト全集での交響曲第7番である『未完成交響曲』ロ短調 D 759について扱う。


交響曲第7番 ロ短調 D 759 は、フランツ・シューベルト1822年に作曲した未完の交響曲である。

シューベルトの代表作のひとつであり、一般的に『未完成』(Die Unvollendete)の愛称で親しまれ、ベートーヴェンの『運命』やドヴォルザークの『新世界より』などと並んで大衆的な人気がある。かつてのレコード業界では『運命』と『未完成』のカップリングは、いわゆる「ドル箱」として重視されていた[注釈 1]

作曲経緯

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音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
  Schubert: 7. Sinfonie (»Unvollendete«) アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮
  Schubert: Sinfonie h-Moll (»Unvollendete«) クリストフ・エッシェンバッハ指揮
以上は何れもhr交響楽団の管弦楽、hr交響楽団公式YouTubeより。
  Franz Schubert:'Unvollendete' - ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団による演奏。NDR Klassik公式YouTube。

シューベルトはグラーツ楽友協会から「名誉ディプロマ」を授与された。わずか25歳でのこの授与に対し、シューベルトは返礼として交響曲を作曲することにした。しかし、シューベルトが送付したのは第1楽章と第2楽章だけで、残りの楽章は送付しなかったとされる。

そのままシューベルトはなぜか別の交響曲(ハ長調 D 944)を作曲しだし、ロ短調交響曲を完成させる前に逝去した。シューベルトの名声が確実なものとなった没後数十年を経て、残された2楽章分のみが出版されることになった。

初演は1865年12月17日ウィーン[2]。初演された当時、シューベルトはすでに「大家」の扱いであり、未完成の理由について多くの推察が行われたが、決定的な証拠は遺されなかった。

交響曲は通常4つの楽章から構成され、その最も典型的な形が『運命』や『新世界より』などに見られるアレグロ・ソナタ - 緩徐楽章 - スケルツォ - フィナーレ という形式である。シューベルトも当初はそのようなものを構想して、この交響曲ロ短調の作曲を進めていったのであろうと考えられる。しかし、シューベルトは第2楽章まで完成させ、スケルツォ(第3楽章)をスケッチまでほぼ仕上げながら、そこで作曲を中止してしまったとされているが、諸説ある。

なぜ第2楽章までで作曲を中止してしまったのかには、さまざまな説がある。例えば「第1楽章を4分の3拍子、第2楽章を8分の3拍子で書いてしまったために、4分の3拍子のスケルツォがありきたりなものになってしまった」というもの、また「シューベルトは、第2楽章までのままでも十分に芸術的であると判断し、それ以上のつけたしは蛇足に過ぎないと考えた」という説などである。事実、第3楽章のスケッチの完成度があまり高くないため、シューベルトのこの判断は正しかったと考える者は多い。もっとも、このように音楽作品を完成させないまま放棄するということをシューベルトはきわめて頻繁に行っており[注釈 2]、「未完成」であることは、この交響曲の成立に関してそれほど本質的な意味はないとする考えもある。

これとは別に、シューベルトはこの交響曲を完成させていたが、劇付随音楽ロザムンデ』に音楽を流用するためグラーツ楽友協会に第3・第4楽章の楽譜の返還を求め、結果として楽譜が散逸した、とする説もある[3]

シューベルトの多くの作品で見られることであるが、第1楽章の第1主題冒頭の自筆譜にかかれた記号は、アクセントなのかデクレッシェンドなのか判然とせず、今日でも見解が分かれたままである。「そのどちらでもなく」演奏することが慣例であるが、どちらかとして解釈する演奏も見られる[注釈 3]

補筆の試み

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シューベルトが残したスケルツォにオーケストレーションをほどこして第3楽章とし、『ロザムンデ』の間奏曲第1番を流用して第4楽章とする全4楽章の補筆完成版には、イギリスの音楽学者エイブラハム英語版ニューボールド英語版による[4]ものや、SAMALE=COHRS復元2015年版[5]や、ニューボールド=ヴェンツァーゴ補筆2016年版[6]などがある。20世紀の名指揮者・作曲家であったフェリックス・ワインガルトナーは、この曲の未完の第3楽章を補筆し、自作の『交響曲第6番』作品74の中に使用している。2019年、マティアス・レーダー (Matthias Roeder) をリーダーとする音楽学者とプログラマーによるチームがAIを使って補筆を試みたこともあったが、完成した曲はシューベルトの曲というよりアメリカの映画音楽のようだと酷評されている[7]。このチームはベートーヴェンの『交響曲第10番』、またマーラーJ.S.バッハの未完成曲についても同様の作業を試みている[7]

楽器編成

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フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 2、トランペット 2、トロンボーン 3、ティンパニ弦五部

曲の構成

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第1楽章

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【上】第1楽章の冒頭部。
【下】第2楽章の冒頭部。

アレグロモデラートロ短調、4分の3拍子。

冒頭から「ロ - 嬰ハ - ニ」の有名な動機が現れる。単に序奏というのではなく楽章の最後まで執拗に支配している。オーボエとクラリネットのユニゾン木管の甲高い第1主題を弦楽が支えながら第2主題に入る。第2主題では、伸びやかなチェロシンコペーションに乗って歌われる。通常のソナタ形式であれば、短調の第1主題に対して3度上の平行調であるニ長調で書かれる第2主題が、ここでは逆に3度下であり平行調の下属調であるト長調で書かれている。展開部は序奏を発展させる形のもの。半音階ずつ転調を繰り返す。再現部では、第2主題は提示部とは逆の3度上(平行調)のニ長調で再現される。

第2楽章

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アンダンテコン・モートホ長調、8分の3拍子。

通常の演奏会ではここまでが演奏される。展開部を欠くソナタ形式。穏やかな第1主題が提示される。コーダでは、シューベルトが好んで用いた三度転調により一時変イ長調に転調する。

第3楽章

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第3楽章冒頭部(自筆総譜)

アレグロ(未完)、ロ短調、4分の3拍子。

20小節目までが総譜にされ、残りはピアノスケッチ(主部114小節)のみ。主部は最初ユニゾンで始まり、転調がめまぐるしく、最初の主題がすぐに同主調のロ長調で繰り返された後、すぐにもとのロ短調のユニゾンに戻り、第1楽章と同じく遠隔調(フリギア調の関係)にあるト長調へと移調する。トリオはやはりト長調であるが、16小節で自筆譜は途切れている。楽譜の発見当時、見つかった総譜部分はほとんどユニゾンの9小節までだったため、現在流布している楽譜には補遺として9小節まで収録されているものが多い。10小節以降20小節目までの総譜は近年になって切り取られた形で発見された。マリオ・ヴェンツァーゴ補筆構成版では第1トリオのみならず、第2トリオも『ロザムンデ』の総譜から復元している。

第4楽章

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多くの補筆完成版では作曲時期や編成の類似、調性がロ短調であることから、『ロザムンデ』の間奏曲第1番(アレグロ・モルトモデラート)を基にしており、またこの間奏曲はそもそも完成されていたこの交響曲の第4楽章を流用したものである、とする説もある[3]。その中には「シューベルトは『ロザムンデ』を完成させるため、グラーツ楽友協会へ『第3楽章と第4楽章を返してくれないでしょうか』と自筆譜の返還を申し出たのであり、未完成交響曲は実は完成していた[8]。完成していたことを証明するため、第3楽章の第1フォリオ(第1ページと第2ページ)のみを協会の預かりにした……」という意見がある。マリオ・ヴェンツァーゴ補筆構成版は「フィナーレだから失われた第1括弧部分がある」という説に基づき、バレエ音楽の前半をまず第1括弧部分として演奏し、モノディー・トータル・ユニゾン部分に差しかかると第1間奏曲冒頭に戻って最後までカットなしですべて演奏する。SAMALE=COHRS復元版は、ノーカットのヴェンツァーゴ版よりは適度なカットを施している。

脚注

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注釈

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  1. ^ LPレコードは、片面の収録時間が約30分だった。この2曲の交響曲は、通常のテンポでの演奏時間がほぼこれに合致し、かつ大作曲家のニックネーム付きの有名な曲ということもあり、多くの指揮者とオーケストラによる録音が多数発売された。CD時代になり、廉価盤のBOXセットによるベートーヴェンの交響曲全集盤が多数発売されるようになると、『未完成交響曲』の方は単独で発売されることがあまりないため、シューベルト交響曲全集の一環として録音されたものでない限り、LP当時にカップリングされていた『未完成』を容易に入手できないことがある。
  2. ^ この曲以外にあと5曲の未完成交響曲がある。
  3. ^ シューベルトはアクセントを長めに書く癖がある(『ムジカ・ノーヴァ』:音楽之友社)。

出典

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  1. ^ Musikwissenschaftliches Institut, Neue Schubert-Ausgabe, Schubert-Database, Sinfonie, 2. 2013-04-03 閲覧。
  2. ^ 東条碩夫(音楽評論家) (2014年9月12日). “PROGRAM NOTE(曲目解説)” (PDF). 第72回定期演奏会・公演プログラム冊子. 兵庫芸術文化センター管弦楽団. 2018年12月15日閲覧。
  3. ^ a b Schubert: The Finished "Unfinished" (Symphony No.8 D.759, Reconstructed by Mario Venzago) マリオ・ヴェンツァーゴ 、 バーゼル室内管弦楽団 - tower.jp
  4. ^ その他の未完成交響曲も含めて録音したネヴィル・マリナー指揮によるシューベルト交響曲全集がある。”. www.deutschegrammophon.com. 2019年12月3日閲覧。
  5. ^ Schubert (Un)Finished”. www.musicweb-international.com. 2019年12月2日閲覧。
  6. ^ The Finished “Unfinished””. www.musicweb-international.com. 2019年12月2日閲覧。
  7. ^ a b AIがベートーベンの未完の交響曲第10番を完成へ 2019年12月14日 11:20 発信地:ベルリン/ドイツ [ ドイツ ヨーロッパ AFP]
  8. ^ 舞台上演まで時間がなかったため(初演時に序曲として『アルフォンソとエストレッタ』のそれを転用したように)、この交響曲の第4楽章の音楽を転用するべく急遽グラーツのヒュッテンブレンナーに楽譜の返還を求め、ヒュッテンブレンナーはスケルツォの2ページ目以降を作曲者に戻した”. tower.jp. 2018年12月11日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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