一石二鳥
一石二鳥(いっせきにちょう)とは、「一つの行為で二つの利益を得ること」という意味を持つ四字熟語であり、鳥が2羽集っていたところで1羽の鳥を狙って石を投げたら、鳥が2羽とも落ちてきたという、17世紀のイギリスのことわざ「kill two birds with one stone.」(一つの石で二羽の鳥を殺す)の訳語である。四字熟語として世間一般に広く定着しているが、イギリス発祥なので漢籍の言葉ではない。
一石二鳥は、一つの行為で二つの利益を得るという意味の四字熟語だが、日本人なら誰でも知っているその四字熟語を活用して、3つ以上の利益が得られる場合は「一石三鳥」や「一石四鳥」などという造語が使われることもある[1]。
一石二鳥の事例
編集- 愛犬と一緒に運動すること - 飼い主のメタボ防止となりまた愛犬の体力づくりとなる一石二鳥の運動療法[2]。
- 残り物を活かして料理を作ること - 鍋を片付けたり冷蔵庫内を整理できるうえに、新たに食材の段階から作るより簡単に一品作れるという一石二鳥。前の食事で食べきれず鍋に残ったり冷蔵庫で保存した残り物を活用して食事や弁当を用意することは広く行われている。たとえばカレーの残り物なら、御飯にのせて加熱して カレードリアにしたり[3]、白身魚のカレーチーズソテー を作ったり[4]、食パンに挟んで焼いてカレーホットサンドを作るといったことである。あるいは和風の煮物の残り物なら、胡麻和えに味変(あじへん)してみたり、御飯にのせて"まかない飯風"にしたり、御飯に混ぜて混ぜ御飯を作ったり炊き込み御飯を作ったり、韓国の調味料を加えて韓国風雑炊を作ったり、あげ寿司用の"あげ"に詰めてみたり[5]と、やり方はほとんど無限にある。フードロスも削減できているので、一石三鳥と言っていいかも知れない。
- 土壌への炭素貯留 - 気候変動緩和(二酸化炭素除去)と食料生産増産の一石二鳥[6]
- 焼却炉で生石灰を使うこと - 臭素系ダイオキシン類が発生することを抑制しなおかつ焼却炉の腐食も防止する一石二鳥[7]
- 胃のヘリコバクターピロリ菌の早期除菌 - 胃癌予防と新規感染防止の一石二鳥[8]
- 一石二鳥プログラミング - たとえばひとつのプログラムをそのままコンパイルするだけでUNIXとWindowsでそのまま同じように使えること[9]。通常はUNIX用はUNIX用、Windows用はWindows用として別々に2度プログラミングしなければならないが、一回で済むプログラミング。
類義語
編集類義語としては「一挙両得」や「一挙両全」、「一箭双雕」が挙げられる。
一挙両得は『晋書』の束晰伝から出た言葉であり、一石二鳥とは違い漢籍の語である。一挙両全は一挙両得と同義である。一箭双雕(いっせんそうちょう)の出典は『北史』である。「箭」は「矢」を意味し、「雕」は「鷲」を指す。よって一本の矢を用いて二羽の鷲を撃ち落とす意になる。
- 将棋用語
将棋用語で、「味がいい」はまさに一石二鳥の手を言い、たとえば「銀にひもをつけつつ飛車の横利きを通す味のいい手」などと言う。 「幸便(こうびん)」は一石二鳥感のある手のことで、相手の狙いに対応した手が、駒取りや自玉の受けになっているなどして一石二鳥感があることであり、例えば「3六歩に4五桂とはねるのが金に当たって幸便なので先にそれを消す」などと使う。
なお将棋で自軍の一枚の駒を敵軍の二枚の駒に対して効かせる状態にする手は"両取り"というが、この両取りは次の手でどちらかは取れるが、両方取れるわけではないので一石二鳥とは別概念である。
- 他
一石三鳥、一石四鳥...関連概念
編集一石二鳥よりも効果が大きく、最初にひとつのことを起こすと、わずか2つどころではなく、3つのことを得られる一石三鳥の事例を挙げ、またそれ以上の大きな変化が起きることを指す概念も挙げておく。
- 一石三鳥
- 新型コロナのパンデミックが起きていた際に山梨県で僧侶が進めた「寺―CO―屋」プロジェクト - シングルマザーにはほっとする時を、学びたい子どもには勉強を、仕事を失った学生にはアルバイトを提供する一石三鳥[12]
- 第80期将棋名人戦A級順位戦1回戦 第5局第5譜(先手山崎隆之八段、後手斎藤慎太郎八段)で打たれた一手[13]
- 女性が行うボクササイズ - 気分がスッキリし、ダイエットになり、ジムでイケメンに会える、という一石三鳥[14]
- 近江商人が行っていた「三方よし」の商売 - 売り手に良く、買い手にも良く、さらに世間(社会)にも良い、という結果を生む商売(取引)のこと。自分のことだけでなく社会(人類の皆)のことを常日頃から想っている人にとっては、自分だけでなく取引相手や人々にもたらされるものがいずれも、まぎれもなく"利益"と思え、そういう志の高い商人にとっては、そういう取引ができることは一石三鳥である。
- さらに大きな変化
対義語
編集対義語としては「虻蜂取らず」や「二兎を追う者は一兎をも得ず(英語では「He that hunts two hares loses both.」もしくは「 If you run after two hares you will catch neither.」)、「一も取らず二も取らず」、「花も折らず実も取らず」、「欲の熊鷹股裂くる」、「欲す鷹は爪落とす」などがある。
上記の語全てに通じる意味は、「同時に複数個の物を狙い、結局何も得られない結果に終わる」という意味である。「虻蜂取らず」ではアブとハチを同時に狙っているというシチュエーションである「二兎を追う者は一兎をも得ず」は、ローマの諺からという説と、デジデリウス・エラスムスの『格言集』からという説がある[15]。
- 対義語関連項目
- ヤン・ティンバーゲン - オランダの経済学者。「N個の独立した政策目標を同時に達成するためにはN個の独立な政策手段が必要である」という、かなりあやしげな"定理"を提唱した。現実の政治や行政では、1つの政策を実施することで2つや3つの効果を得る(2つや3つの目標を達成する)ことはよく行われている。
参考文献
編集- 松村明『大辞林』三省堂、2006年、ISBN 978-4385139050
出典・脚注
編集- ^ Googleで朝日新聞から「一石三鳥」を検索
- ^ 出田陽子. 愛犬と一緒にメタボ運動: あなたと愛犬の体力づくり一石二鳥の運動療法 2025年1月13日閲覧。.
- ^ “残り物カレーで簡単カレードリア”. クックパッド. 2025年1月14日閲覧。
- ^ “残り物のカレーで白身魚のカレーチーズソテー”. 2025年1月14日閲覧。
- ^ “煮物の残りを大変身 一石二鳥三鳥”. Cookpad. 2025年1月14日閲覧。
- ^ 白戸康人. 食料生産と気候変動緩和の一石二鳥 2025年1月13日閲覧。.
- ^ 岸智裕(ファルマシア) (2007). 一石二鳥の生石灰- 臭素系ダイオキシン類生成抑制と焼却炉の腐食防止 2025年1月13日閲覧。.
- ^ 水野元夫 (2009). Helicobacter pylori 除菌を加えた新たな胃癌撲滅戦略案2 胃癌予防と新規感染の防止-早期の除菌で一石二鳥- 2025年1月13日閲覧。.
- ^ 木村博美 (2004). UNIX/Windows一石二鳥プログラミング .
- ^ “アイデアとはなにか?”. ほぼ日刊イトイ新聞. 2025年10月16日閲覧。
- ^ “社長の代わりに糸井重里さんが訊く”. 任天堂. 2025年10月16日閲覧。
- ^ “コロナ禍、苦しむ人々支えたい 僧侶が進める一石三鳥”. 朝日新聞. 2025年1月14日閲覧。
- ^ “一石三鳥 第80期将棋名人戦A級順位戦1回戦 第5局第5譜”. 朝日新聞. 2025年1月14日閲覧。
- ^ “アイドルや女優さんたちがはまるボクササイズに挑戦! 一石三鳥の魅力とは?”. 朝日新聞. 2025年1月14日閲覧。
- ^ 日本語「語源」辞典より
関連項目
編集外部リンク
編集- めざせ漢字検定一級 一箭双雕(一箭双雕についての解説)
- 英語ことわざ教訓辞典 教訓 84. 一時に一事をせよ。(英語での表現が掲載されている)
- 知識欲ドットコム