ヴィクラモールヴァシーヤ
ヴィクラモールヴァシーヤ(Vikramorvasīyam)は、インドの詩人、劇作家であるカーリダーサの戯曲。全5幕。『勇気、武勇(ヴィクラマ)によって得られたウルヴァシー』の意。アプサラスのウルヴァシーとプルーラヴァス王との恋物語を改作し、戯曲化したもの。
物語
編集恋人たちの恋と、別離、そして再会という大筋に変化はないが、しかし多くの部分で改作が見られる。
- 第1幕:プルーラヴァスは悪魔に連れ去られたウルヴァシーを救い出し、その美しさに魅了される。しかしウルヴァシーはインドラ神に召還され、2人は引き離される。
- 第2幕:2人はつかの間の逢瀬を楽しむが、ウルヴァシーが書いた手紙を王妃に発見され、プルーラヴァスは謝るが聞き入れてもらえない。
- 第3幕:ウルヴァシーは呪いにかかり、プルーラヴァスに自分たちの子を見られると、2人は別れなければならない運命となる。
- 第4幕:ウルヴァシーとプルーラヴァスがカイラス山付近を彷徨っているとき、ウルヴァシーは女人禁制のクマーラ神の森に入り込んでしまい、神の怒りによってつる草に姿を変えられてしまう。プルーラヴァスは森の木々や動物たちにウルヴァシーがどこにいるか聞きながら捜す。すると天から声が聞こえてきて、彼を導く。彼がつる草を発見して抱くとウルヴァシーは元の姿に戻る。
- 第5幕:数年後、プルーラヴァスはウルヴァシーが密かに産んで隠していた我が子アーユスに偶然出会う。呪いによってウルヴァシーは天界に戻るが、インドラは悪魔討伐のためにプルーラヴァスの協力が必要であると考え、ウルヴァシーを夫の元に戻ることを許す。
主な登場人物
編集- プルーラヴァス王。
- マーナヴァカ:王の側近であるバラモン僧。
- ウルヴァシー:アプサラス。
- ラムバー:有名なアプサラス。
- メーナカー:有名なアプサラス。
- チトラレーカー:アプサラス。ウルヴァシーとともにさらわれる。
- サハジャニャー:アプサラス。
- 奥方:プルーラヴァスの正妃。カーシー国の王女。
- ニプニカー:奥方の腹心の侍女。
- ラータヴィヤ:後宮執事。
- キラータ(山民)の女:王の払子係。
- ヤヴァナ(ギリシア人)の女:王の武具係。
- ナーラダ仙:有名な聖仙。
- アーユス:プルーラヴァスとウルヴァシーの子。
- サティヤヴァティー:苦行女。ウルヴァシーの知り合い。
- ガーラヴァ、パッラヴァ:ともにバラタ仙の弟子。
- チトララタ:ガンダルヴァ族の王。
- その他:座頭、小頭、御者、詩人、神々の使者。
評価
編集改作や脚色の手際の良さが高く評価されるカーリダーサにあっては、平凡というのが『ヴィクラモールヴァシーヤ』に対する共通の評価であるが、第4幕のプルーラヴァスがウルヴァシーを見失って狂気に陥り、大半の部分を一人で演技する場面はきわめて独特である。もっともこの場面はインドの詩論学者の非難を受けている。カーリダーサは多くの模倣作を生んだが、この4幕と同様の演出はその後ほとんど見られなかった。
日本語訳
編集- 「武勲(王)に契られし天女ウルヴァシー」-『公女マーラヴィカーとアグニミトラ王 他一篇』に収録(大地原豊訳、岩波文庫、1989年3月)