ロクソマ科
ロクソマ科[6][7][8][9](ロクソマか、学名:Loxsomataceae)は、ヘゴ目に属する大葉シダ植物の科の1つである[1][2]。ロクスソマ科とも表記される[10]。
ロクソマ科 | |||||||||||||||||||||
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地質時代 | |||||||||||||||||||||
白亜紀 - 現代 | |||||||||||||||||||||
分類(PPG I 2016[1]) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Loxsomataceae C.Presl (1847) | |||||||||||||||||||||
タイプ属 | |||||||||||||||||||||
Loxsoma R.Br. ex Hook. in A.Cunn. | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ロクソマ科 | |||||||||||||||||||||
属 | |||||||||||||||||||||
現生ではロクソマ属とロクソモプシス属の単型属2属からなり、2種のみを含む[1]。また、白亜紀からの化石属 Loxsomopteris も記載されている[11]。
学名
編集タイプ属である Loxsoma は、1837年にアラン・カニンガムの著書中で Loxoma として記載された[3]。翌年、ウィリアム・ジャクソン・フッカーにより(明言されていないもののおそらくロバート・ブラウンの手稿に基づいて) Loxsoma の誤記であったとして訂正された[3]。正書法における誤字・脱字の訂正とみなされる場合には国際藻類・菌類・植物命名規約 (ICN) 第60.1条に基づいて訂正することができるとされる[3]。なお、Loxsoma は古代ギリシア語の λοξός(loxos「斜め」)と σώμα(-sōma「体」)の合成語である[3]。そのため、Loxsoma ではなく Loxosoma が正書法上の正しい綴りに当たり、フッカーによる訂正は規約において認められた修正ではないと考えられる[3]。しかしこの綴りは正しいと考えられて多くの著者に引用されてきたため、Alfarhan et al. (2009) により、学名の安定化のために Loxsoma を保存名とすることが提案された[3]。
ICN の第18.1条に基づき、科の学名は属格単数形の屈折語尾を語尾 -aceae に置き換えて形成されるため、Loxsomaceae ではなく Loxsomataceae と綴られる[3][注釈 1]。この著者であるプレスルは Loxsomaceae という綴りを用いたが、これは第16.3条のもと著者の変更なしに語尾が訂正される[3]。
形態
編集木生シダを擁するヘゴ目に属するが、木生ではない[4]。根茎は匍匐する[4][12]。ロクソマ属の根茎に比べ、ロクソモプシス属の方が長い[12]。中心柱は両篩管状中心柱である[13]。皮層内層には厚壁細胞に柔細胞群が交じる[13]。茎や葉柄には鱗片を持たない[4]。毛は基部が多細胞の円錐体で、先端に向かってだんだん細くなり、先端では1細胞列となる[14]。
葉は3回羽状複葉(ロクソマ属)または3回羽状深裂(ロクソモプシス属)で、前者は長さ 1 m(メートル)程度であるが、後者は 4 m に達する[12]。
胞子嚢群は葉縁に付着する[4][12]。コップ状包膜を持ち、成熟すると胞子嚢が突出する[12]。形状はコバノイシカグマ科やコケシノブ科に似ている[12]。ロクソマ属では胞子嚢に不完全環帯を持ち、縦裂開するのに対し、ロクソモプシス属では完全環帯を持ち横裂開を行う[15]。
分布と生息環境
編集現生の2属や化石種はいずれも分布域が大きく異なる[15]。
ロクソマ属はニュージーランド北島の固有属である[15][16][3][4]。低地や低山の明るい林縁や伐採跡地に生息している[9]。
ロクソモプシス属は中央アメリカおよび南アメリカ(ボリビアからコスタリカ)に分布する[9][15][4]。標高 1,600–2,900 m の雲霧林に生息し、周囲の木にもたれかかっている[12]。
下位分類
編集現生種は Hassler (2024) に基づく。かつてロクソモプシス属には3–4種が含まれるとされたが[15][12]、現在は1種にまとめられ、いずれも Loxsomopsis pearcei のシノニムであるとされる[17]。化石種は西田 & 西田 (1982) に基づく。
- ロクソマ科 Loxsomataceae C.Presl (1847)
- ロクソマ属[9][5](ロクスソマ属[10]) Loxsoma R.Br. ex Hook. in A.Cunn. (1837)[注釈 2]
- ロクソモプシス属[9] Loxsomopsis Christ (1904)
- †Loxsomopteris Skog (1976)
化石記録
編集白亜紀から化石記録(Loxsomopteris)が知られる[11][15]。この属は1976年にスコーグによりアメリカ合衆国メリーランド州の下部白亜系(バレミアンまたはアプチアン)から得られた根茎の化石 Loxsomopteris anasilla に基づいて記載されたものである[15]。
日本では、北海道夕張市の上部白亜系(コニアシアン–サントニアン)から Loxsomopteris loxsomoides が産出している[18][15]。これは1930年に小倉謙により Solenostelopteris loxsomoides として記載されたものである[15]。
上位分類
編集1947年のコープランドの分類でも既に独立した科として認識され、その後もほとんどの分類体系において、独立した科に位置付けられてきた[19]。かつては原始的で孤立した科であると考えられていたが、分子系統解析によりキジノオシダ科に近縁であることが明らかとなった[16]。
Christenhusz & Chase (2014) では、ヘゴ科にまとめられ[7][20]、そのうちの1亜科 Loxsomatoideae Christenh. (2014) とされた[21]。しかし、海老原 (2016) や PPG I (2016) ではこれは支持されず、ヘゴ目の1科としての分類が踏襲されている。
系統関係
編集分子系統解析では、ロクソマ科は何れの系統仮説においてもヘゴ目に属することが示されている[4][22][23][24][25]。その中でも、ティルソプテリス科、クルキタ科、キジノオシダ科とともに単系統群をなし、クルキタ科とキジノオシダ科を合わせた単系統群の姉妹群となる[7][4][22][23][24][25]。
Korall et al. (2006), Korall et al. (2007), Lehtonen (2011), PPG I (2016) | Nitta et al. (2022) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c PPG I 2016, p. 575.
- ^ a b Christenhusz et al. 2011, p. 12.
- ^ a b c d e f g h i j k Alfarhan et al. 2009, p. 1370.
- ^ a b c d e f g h i Korall et al. 2006, pp. 830–845.
- ^ a b 岩槻 1975, p. 184.
- ^ 海老原・嶋村・田村 2012, p. 318.
- ^ a b c 海老原 2016, p. 26.
- ^ 巌佐ほか 2013, p. 1643.
- ^ a b c d e 加藤 1997, pp. 70–71.
- ^ a b 大場 2009, p. 5.
- ^ a b 西田 2017, p. 205.
- ^ a b c d e f g h i j k 加藤 1997, p. 71.
- ^ a b 西田 & 西田 1982, p. 305.
- ^ 西田 & 西田 1982, p. 304.
- ^ a b c d e f g h i 西田 & 西田 1982, p. 302.
- ^ a b 加藤 1997, p. 70.
- ^ Hassler 2024, "019.0001 Genus Loxsomopsis".
- ^ 西田 2005, p. 6.
- ^ 海老原 2016, pp. 26–27.
- ^ Christenhusz & Chase 2014.
- ^ Christenhusz & Chase 2014, p. 588.
- ^ a b Korall et al. 2007, pp. 873–886.
- ^ a b Lehtonen 2011: e24851
- ^ a b PPG I 2016, p. 567.
- ^ a b Nitta et al. 2022: 909768
参考文献
編集- Alfarhan, A.H.; Sivadasan, M.; Thomas, J. (2009). “(1912) Proposal to conserve the name Loxsoma (Loxsomataceae) with that spelling”. Taxon 58: 1370–1371.
- Christenhusz, M. J. M.; Zhang, X.-C.; Schneider, H. (2011). “A linear sequence of extant families and genera of lycophytes and ferns”. Phytotaxa 19: 7–54. doi:10.11646/phytotaxa.19.1.2. ISSN 1179-3155.
- Christenhusz, M. J. M.; Chase, M. W. (2014). “Trends and concepts in fern classification”. Annals of Botany 113: 571–594. doi:10.1093/aob/mct299.
- Cunningham, A.. Floræ Insularium Novæ Zelandiæ Precursor; Or A Specimen of the Botany Of the Islands of New Zealands. pp. 358 .
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- Lehtonen, S. (2011). “Towards Resolving the Complete Fern Tree of Life”. PLoS One 6 (10): e24851. doi:10.1371/journal.pone.0024851. PMID 22022365.
- Nitta, J. H.; Schuettpelz, E.; Ramírez-Barahona, Santiago; Iwasaki, W. (2022). “An Open and Continuously Updated Fern Tree of Life”. Frontiers in Plant Science 13: 909768. doi:10.3389/fpls.2022.909768. PMC 9449725. PMID 36092417 .
- PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563–603. doi:10.1111/jse.12229.
- 岩槻邦男 著「シダ植物門」、山岸高旺 編『植物分類の基礎』(2版)図鑑の北隆館、1975年5月15日、157–193頁。
- 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也、塚谷裕一『岩波生物学辞典 第5版』岩波書店、2013年2月26日、2171頁。ISBN 9784000803144。
- 海老原淳、嶋村正樹、田村実 著「コケ植物・シダ植物・裸子植物の新しい分類体系」、戸部博、田村実 編『新しい植物分類学Ⅱ』日本植物分類学会 監修、講談社、2012年8月10日、314–319頁。ISBN 978-4061534490。
- 海老原淳『日本産シダ植物標準図鑑1』日本シダの会 企画・協力、学研プラス、2016年7月15日、344頁。ISBN 978-4-05-405356-4。
- 大場秀章『植物分類表』アボック社、2009年11月20日。ISBN 978-4900358614。
- 加藤雅啓「ロクソマ科」『朝日百科 植物の世界[12] シダ植物・コケ植物・地衣類・藻類・植物の形態』岩槻邦男、大場秀章、清水建美、堀田満、ギリアン・プランス、ピーター・レーヴン 監修、朝日新聞社、1997年10月1日、70–71頁。
- 西田誠; 西田治文 (1982). “Loxsomopsis の根茎の形態と Solenostelopteris loxsomoides Oɢᴜʀᴀ の類縁”. 植物分類,地理 33: 302–307. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001079175.
- 西田治文 (2005). “鉱化化石から探る日本の白亜紀植物の世界”. 化石 78: 5–20. doi:10.14825/kaseki.78.0_5.
- 西田治文『化石の植物学 ―時空を旅する自然史』東京大学出版会、2017年6月24日。ISBN 978-4130602518。
外部リンク
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