散乱状態を定常状態と見なせる場合を考える。弾性散乱がこれに対応する。
入射してくる自由粒子のハミルトニアンを とする。
入射粒子のエネルギー固有値・エネルギー固有状態の組は、以下の固有値関係を満たさなければならない。
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実験者がある決まったエネルギーの粒子を入射させたとする。つまりいくつもある「 のエネルギー固有値 ・エネルギー固有状態 の組」の中から1つを実験者が選んだとし、以下の議論では と は決まっているとする。
散乱状態を表すハミルトニアンが、以下のように自由粒子のハミルトニアン と相互作用 で書けるとする。
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は以下の固有関係式をみたす多数のエネルギー固有値 ・エネルギー固有状態 の組を持っている。
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弾性散乱では入射状態のエネルギーと散乱状態のエネルギーが等しい。よって入射状態のエネルギーはすでに決まっているため、散乱状態のエネルギー固有値もすでに指定されている。弾性散乱の散乱理論では、そのエネルギー固有値に対応するエネルギー固有状態を求めるのである。よってこれは固有値問題ではなく、(1)式が境界条件となっている微分方程式である。
エネルギー固有値の連続性のため、 のとき とならなければならない。
解くべき式は(2)であり、その中の は(1)を満たすような値でなければならない。解の候補として以下が考えられる。
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これは両辺に を作用させると、(1)を満たすならばたしかに(2)が満たしていることがわかる。
しかし は の固有値であるために、演算子 は特異性がある。この特異性は分母をわずかに複素数にすることで解消される。
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時間依存シュレディンガー方程式は次のように与えられる。
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この方程式のグリーン関数が満たすべき式は次のように表される。
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これを のとき となるとして解くと、次のような遅延グリーン関数が得られる。
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この を(1)式の両辺に掛けて時間で積分すると、
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ただし は次を満たす。
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ここで と として、 と の固有状態を考える。
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さらに摂動を無限の過去から徐々に加えていく。
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すると(2)式は
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とすることでリップマン–シュウィンガー方程式が得られる[2]。