マダガスカルの植物相

以下ではマダガスカルの植物相（マダガスカルのしょくぶつそう）について説明を行う。

Burgess et al. (2004:271–273) の定義によるエコリージョンの一つマダガスカル半湿潤林 (詳細は#エコリージョンを参照) に見られる固有タビビトノキ属 (Ravenala) の植物。マルジェジ国立公園にて。

Brummitt による地理区分

マダガスカルは Brummitt (2001) による植物分布の地理区分では「アフリカ > 熱帯アフリカ > インド洋西部 (英: Western Indian Ocean)」とされている。ほかに同じ区分とされているのはアルダブラ、コモロ（マイヨット含む）、セーシェル、チャゴス諸島、モーリシャス、モザンビーク海峡諸島、レユニオン、ロドリゲスである。

気候

マダガスカルは全土が熱帯に属す島であるが、中央に存在する高原が風を遮るため、東部、中央部、西部それぞれで気候に著しい差が見られる。島の東部は雨量が多く、対照的に西部は乾期と雨期との差が大きく降水量の少ない地域となっている。特に降水量が少ないのが南西部であり、年間でも500ミリメートル程度にしかならない乾燥地域が存在する。なお島の西側と東側とで乾燥地域と湿潤地域とに分かれている要因には、貿易風による影響も挙げられる。

また全土が熱帯に属すとはいっても南北で差が存在し、北部は1年を通して高温（亜赤道帯）であるが、南に向かうにつれて熱帯-亜熱帯地域となっていく。パキポディウム属（キョウチクトウ科）はマダガスカルに少なくとも17種が自生しているが、同属であっても種によって島内の分布域が分かれており、北部産のものが低温を嫌い耐寒性が非常に低いのに対し、南部産のものは北部産と比較するとやや耐寒性があるものと考えられる。

エコリージョン

エコリージョンという概念は「種（しゅ）、生育地、過程の独立した集合体を含み、また大規模な土地利用の前に自然共同体の起源的な程度を境界が描き出そうと試みている土地もしくは水系の大きな単位」と定義されるものである。Burgess et al. (2004) はマダガスカルに7種類のエコリージョンを認めているが、その全てがマダガスカルの名を冠するものとなっており、それぞれの詳細は以下の通りである。

番号	エコリージョン名	地域	地図	年間降雨量	主な種や属	備考
29.	マダガスカル湿潤林	東部		概して2000ミリメートル超	カキノキ属 (カキノキ科)、Ocotea属 (クスノキ科)、Symphonia属 (フクギ科)、Tambourissa (モニミア科)、ツルサイカチ属 (Dalbergia; マメ科)、Leptolaena属 (サルコラエナ科)、Weinmannia属 (クノニア科)、フカノキ属 (Schefflera; ウコギ科)	インドリはこのエコリージョンに分布する
30.	マダガスカル半湿潤林	高地に散在		約1500ミリメートル (北西部のサンビラヌは2000ミリメートル程、南西部は600ミリメートル程度)	サルコラエナ属 (サルコラエナ科)、Uapaca bojeri (コミカンソウ科)	リュウキュウベンケイ属 (Kalanchoe; ベンケイソウ科) やアロエ属 (ワスレグサ科) の数種や、耐火性のある Bismarckia nobilis (ヤシ科)、タビビトノキ (ゴクラクチョウカ科)、Uapaca bojeri といった固有種も存在するが、中央高地の大部分は外来種や汎熱帯性のイネ科草本からなる草原に覆われ、その草本の構成種も3-4種程度で極めて多様性や固有性が低く、移入されたユーカリ (フトモモ科) やアカシア (マメ科) が高原で最もありふれた木本となっている
33.	マダガスカル乾燥落葉林	西部		北部: 1500ミリメートル前後 南部: 1000ミリメートル前後	ホウオウボク (マメ科)、バオバブ属数種 (アオイ科)、パキポディウム属 (キョウチクトウ科) ツィンギはツルサイカチ属、ナンバンサイカチ属 (Cassia; マメ科)、イチジク属 (Ficus; クワ科)、アダンソニア・マダガスカリエンシス (アオイ科バオバブ属) を支え、低木層には様々なガガイモ科 (キョウチクトウ科に統合) のつる植物やマメ科・アカネ科の低木が見られ、草本層は閑散とするも森によってはEulophia属 (シノニム: Lissochilus) の蘭が繁茂	世界遺産ツィンギ・ド・ベマラハ厳正自然保護区はこのエコリージョンに含まれる
84.	マダガスカルエリコイド雑木林	(北から南へ) ツァラタナナ山塊、マルジェジ山塊、アンカラトラ山塊、アンドリンギトラ山塊		より湿潤な東側斜面においては2500ミリメートルを超えるが、雨の陰となる西側斜面は東側斜面を遥かに下回る	針葉樹林はマキ科、クノニア科、ツツジ科、パンダ科の種が優占、高度が上がるとキク科 (Psiadia属、ヘリクリサム属、「Stoebe属」)、ツツジ科 (Agarista属、エリカ属、スノキ属 Vaccinium)、マキ科 (イヌマキ属 Podocarpus)、クロウメモドキ科 (Phylica属)、アカネ科が優占するようになる	アンドリンギトラ山塊では150を超える固有の維管束植物が見られ、うち25種がラン科である
113.	マダガスカル有刺林	南部から南西部にかけて		500ミリメートル以下 (南西の海岸地域は350ミリメートル未満)	カナボウノキ (Didierea madagascariensis; カナボウノキ科)、フトカナボウノキ (Alluaudia ascendens; 左に同じ)、アリュウボク (Alluaudia procera; 左に同じ)、コミフォラ属 (Commiphora; カンラン科)、Tetrapterocarpon geayi (マメ科)、ボラドール (Gyrocarpus americanus; ハスノハギリ科)	有刺林東部においては次に挙げる科を最も優占的で多様とする報告がある: カンラン科、ディディエレア科、トウダイグサ科、ウルシ科、マメ科 ワオキツネザルはこのエコリージョンに分布する
114.	マダガスカル多肉ウッドランド	113. と 33. に挟まれた地域; 東部は 30. と接する		575-1330ミリメートル (うち乾期の11月-4月は750ミリメートル以下)	樹葉の天蓋を形成するのはアダンソニア・ザ (アオイ科バオバブ属)、アダンソニア・グランディディエリ (左に同じ)、トウダイグサ科、マメ科、パキポディウム属 低木層を形成するのはムクロジ科、トウダイグサ科、ウルシ科、カンラン科	植生は 33. に似るが、より乾生のものが目立つ
119.	マダガスカルマングローブ	西海岸沿岸		北は湿潤亜赤道帯の2000ミリメートルから南は乾燥亜熱帯の350ミリメートルまで気候帯により変動	Rhizophora mucronata (ヒルギ科)、オヒルギ (Bruguiera gymnorhiza; ヒルギ科)、コヒルギ (Ceriops tagal; ヒルギ科)、ヒルギダマシ (Avicennia maritima; キツネノマゴ科)、ハマザクロ (Sonneratia alba; ミソハギ科)、ヒルギモドキ (Lumnitzera racemosa; シクンシ科)

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  30. Uapaca bojeri が立ち並ぶイトレム保護区。
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  33. キョウチクトウ科 (旧ガガイモ科) イケマ属 の Cynanchum phillipsonianum。北部のアンカラナ特別自然保護区にて。
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  84. アンドリンギトラ国立公園。
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  113. アリュウボク (亜竜木) などが生育するイファティ。
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  114. アダンソニア・グランディディエリ (グランディディエバオバブ) が生育するムルンダヴ。
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  119. マハヴァヴィ・キンクニ保護区。

種

マダガスカルには植物が6000種以上確認されており、そのうちの約4000種が木本である。

脚注

参考文献

英語

• Dinerstein, Eric; Olson, David M.; Graham, Douglas J.; Webster, Avis L.; Primm, Steven A.; Bookbinder, Marnie P.; Lebec, George (1995). A Conservation Assessment of the Ecoregions of Latin America and the Caribbean. Washington, DC: World Bank. doi:10.1596/0-8213-3295-3. ISBN 978-0-8213-3295-5. https://www.google.co.jp/books/edition/A_Conservation_Assessment_of_the_Terrest/2NcsAQAAMAAJ?hl=ja&gbpv=0 
• Rakotomalaza, Pierre Jules; Messmer, Nathalie (1999). “Structure and floristic composition of the vegetation in the Réserve Naturelle Intégrale d’Andohahela, Madagascar. A floral and faunal inventory of the Réserve Naturelle Intégrale d’Andohahela, Madagascar: with reference to elevational variation”. Fieldiana: Zoology new series 94: 51–96. https://www.biodiversitylibrary.org/page/2855398. 
• Brummitt, R. K. (2001). World Geographical Scheme for Recording Plant Distributions (2 ed.). Pittsburgh: Hunt Institute for Botanical Documentation, Carnegie Mellon University. https://grassworld.myspecies.info/sites/grassworld.myspecies.info/files/tdwg_geo2.pdf 
• Olson, David M.; Dinerstein, Eric; Wikramanayake, Eric D.; et al. (2001). “Terrestrial ecoregions of the World: a new map of life on Earth”. BioScience 51 (11): 933–938. doi:10.1641/0006-3568(2001)051[0933:TEOTWA]2.0.CO;2. 
• Burgess, Neil; Hales, Jennifer D'Amico; Underwood, Emma; Dinerstein, Eric; Olson, David; Illanga, Itoua; Schipper, Jan; Ricketts, Taylor et al. (2004). Terrestrial Ecoregions of Africa and Madagascar – A Conservation Assessment. Washington DC: Island Press. https://www.researchgate.net/publication/292588815  499 pp

日本語

• isla del pescado; 石倉, ヒロユキ; 藤屋, 翔子 (2019). 多肉植物 & コーデックス GuideBook. 主婦の友社. ISBN 978-4-07-434371-3 

関連文献

英語

• Preston-Mafham, Ken (1991). Madagascar: A Natural History. New York, USA: Facts on File Inc. 

関連項目

• Category:マダガスカル固有の植物相