ホロフェルネスの首を斬るユーディット (カラヴァッジョ)

カラヴァッジョの絵画

ホロフェルネスの首を斬るユーディット』(ホロフェルネスのくびをきるユーディット、伊: Giuditta e Oloferne)は、カラヴァッジョによる聖書の物語の絵画で、1598-1599年ごろ、または1602年に描かれた[1]。未亡人のユーディットは、最初にアッシリアの将軍ホロフェルネスを魅了し、次にテントの中でその首を絞める。この絵画は1950年に再発見され、ローマにあるバルベリーニ宮の国立古典絵画館に収蔵されている。ミラノのパラッツォ・レアーレでの「デントロ・カラヴァッジョ(カラヴァッジョの内面)」展(2017年9月-2018年1月)は、カラヴァッジョの初期の作品には見られないが、後の作品の特徴であるスケッチの根底にある光の使用のために、1602年の制作年を示唆している。展覧会カタログ(Skira、2018、p88)には、伝記作家のジョヴァンニ・バリオーネジェノヴァの銀行家オッタヴィオ・コスタから依頼されたという記述も引用されている。

『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』
イタリア語: Giuditta e Oloferne
英語: Judith Beheading Holofernes
作者カラヴァッジョ
製作年1598–1599年ごろ、または1602年
寸法145 cm × 195 cm (57 in × 77 in)
所蔵国立古典絵画館ローマ

まったく同じ主題に関する2番目の絵画(以下を参照)は、1607年のもので、カラヴァッジョに帰属している専門家もいるが、異議を唱えている専門家もいる。2014年に偶然に再発見され、2019年6月に『ユーディットとホロフェルネス』として売却された[2]

主題

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第二正典ユーディット記は、ユーディットアッシリアの将軍ホロフェルネスを誘惑し、歓喜させることにより自身の民に奉仕したことを物語っている。ユーディットはホロフェルネスを酔わせ、剣を取って殺す。「ベッドに近づくと、彼女は彼の頭の毛をつかんだ」(ユーディット記 13:7–8 )。

カラヴァッジョの主題へのアプローチは、通常、最大の劇的衝撃のある瞬間、つまり斬首の瞬間を選択することであった。人物は舞台の前面に配置され、漆黒の背景の中に隔離されて、側面から劇場の中のように照らされている。ユーディットの女中のアブラは、女主人の横に立っており、ユーディットは腕を伸ばしてホロフェルネスの首に刃を当てている。ホロフェルネスは腹ばいになり、暗殺者ユーディットに向かって頭を向けつつ首をねじっている。ホロフェルネスは無防備である。 X線検査により、カラヴァッジョはホロフェルネスの頭部の位置を調整し、胴体からわずかに離して、右に少々動かしたことが明らかになった。 3人の人物の顔は、画家が感情表現を習得したことを示しており、特にユーディットの表情は、決意と嫌悪感の混ざったものであることを示している。アルテミジア・ジェンティレスキやその他の人々は、本作に深く影響を受けた。彼らはカラヴァッジョの物理的写実主義を超えたが、ユーディットの心理的アンビバレンスを捕えることにおいてカラヴァッジョに匹敵するものはなかったと主張されている[3]

ユーディットのモデルは、おそらくローマの遊女フィリーデ・メランドローニであり、本作の制作年の前後にカラヴァッジョの他のいくつかの作品でポーズをとった。場面自体、特に血と斬首の細部表現は、おそらく1599年のベアトリーチェ・チェンチの公的処刑を画家が観察したことを拠り所にしている[4]

真筆の可能性のある第2版

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『トゥールーズのホロフェルネスの首を斬るユーディット』
 
作者カラヴァッジョ、または ルイ・フィンソン
製作年1606–1607年ごろ
寸法144 cm × 173.5 cm (57 in × 68.3 in)
所蔵J.トミルソン・ヒル・コレクション

カラヴァッジョが1607年6月14日にナポリを去ったとき、2人のフランドルの画家兼画商、ルイ・フィンソンとアブラハム・フィンクと共有していたナポリの工房に、カラヴァッジョは『ロザリオの聖母』と『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』を残していった。フィンクはナポリを離れ、1609年頃にアムステルダムに定住したときに、2枚の絵画を持っていったようである。その後、フィンソンもアムステルダムに引っ越した。 2点の絵画は、今度はアムステルダムにいたフィンソンによって作成された1617年9月19日付けの遺言で再び言及されている。フィンソンは自分の遺言で、ナポリ以来、共同所有していた2点のカラヴァッジョ絵画をフィンクに残した。フィンソンは遺言を表明した直後に亡くなり、その相続人であるフィンクは2年後に亡くなった。フィンクが亡くなった後、その相続人は1619年以降に、『ロザリオの聖母』を1800フローリンでアントワープドミニコ会の聖パウロ教会のためにピーテル・パウル・ルーベンスが率いるフランドルの画家と「アマチュア」の委員会に売却した[5] 。1786年、オーストリア皇帝ヨーゼフ2世は、最初にすべての「役立たずの」修道会の閉鎖を命じ、次にカラヴァッジョによる『ロザリオの聖母』を自身の芸術コレクションのために要求した。『ロザリオの聖母』は、現在、ウィーン美術史美術館で鑑賞することができる。アントワープの主要な芸術家からの寄贈品であり、彼らの深い宗教的献身の表現であったカラヴァッジョの作品は、このようにしてフランドルのオーストリア支配者による略奪の対象となった[6]

1600年代初頭以来、フィンクとフィンソンが共同所有していた『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』を表す2番目のカラヴァッジョ作品は行方不明であり、ナポリのインテーザ・サンパオロ銀行のコレクションにある絵画と同一視されるべきであると提案された。 2014年にトゥールーズの屋根裏部屋で発見された『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』は、特定の学者によって失われたカラヴァッジョの作品であると信じられている[5]。他の学者は、トゥールーズの作品とインテーザ・サンパオロ銀行のコレクションにある作品は、両方ともフィンソンの手によって描かれた作品というだけでなく、失われたカラヴァッジョのオリジナル作品の複製ではなく、実際にはフィンソンのオリジナルの作品であると主張している。トゥールーズの判は、フィンソンの傑作とさえ言われている。異なる見解を取る美術史家の両方の陣営は、様式的および技術的特徴に基づいて作品の帰属をしている[7]

絵画の真筆性を立証するためのテストが行われている間、フランス政府によって絵画の輸出禁止が課された[8][9]。2019年2月、ルーヴル美術館が1億ユーロで購入する機会を断った後、絵画はオークションで売却されると発表された[10]。ところが、アートコレクター兼ヘッジファンド・マネージャーのJ.トミルソン・ヒルが、2019年6月に予定されていたオークションの直前に絵画を非公開の金額で購入した[11][12]。絵画の新しい所有者はメトロポリタン美術館の理事である[13]

外部リンク

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脚注

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  1. ^ Judith Beheading Holofernes”. www.artble.com. Artble. April 2, 2018閲覧。
  2. ^ Alex Greenberger (25 June 2019). “Caravaggio Painting Estimated at $170 M. Sold Privately Ahead of Auction in France”. ARTnews. http://www.artnews.com/2019/06/25/caravaggio-marc-labarbe-sale-canceled 
  3. ^ Puglisi, Catherine (1998). Caravaggio. Phaidon Press. pp. 137–138 
  4. ^ Peter Robb, M: The Caravaggio Enigma (Duffy and Snellgrove, 1998), p. 96
  5. ^ a b Report written by Nicola Spinosa on the Toulouse Caravaggio
  6. ^ Caravaggio en de St.Paulus (オランダ語)
  7. ^ Olivier Morand, Le Finson de Toulouse, 2019
  8. ^ “Painting thought to be Caravaggio masterpiece found in French loft”. BBC News Online. (12 April 2016). https://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-36024865 12 April 2016閲覧。 
  9. ^ McGivern, Hannah. “'Caravaggio' found in French attic unveiled in Milan”. Art Newspaper. http://theartnewspaper.com/news/caravaggio-found-in-french-attic-unveiled-in-milan/ 26 January 2017閲覧。 
  10. ^ Brownc, Mark (28 February 2019). “'Lost Caravaggio' rejected by the Louvre may be worth £100m”. The Guardian. https://www.theguardian.com/artanddesign/2019/feb/28/lost-caravaggio-rejected-by-the-louvre-may-be-worth-100m 1 March 2019閲覧。 
  11. ^ Alex Greenberger (25 June 2019). “Caravaggio Painting Estimated at $170 M. Sold Privately Ahead of Auction in France”. ARTnews. http://www.artnews.com/2019/06/25/caravaggio-marc-labarbe-sale-canceled 
  12. ^ Pogrebin, Robin (2019年6月27日). “Mystery Buyer of Work Attributed to Caravaggio Revealed” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2019/06/27/arts/design/caravaggio-buyer-j-tomilson-hill.html 2019年6月28日閲覧。 
  13. ^ BBC World News, 25 June 2019