ペットボトル症候群
ペットボトル症候群(ペットボトルしょうこうぐん、英: Pet Bottle Syndrome[1])は、糖分を含むスポーツドリンク、清涼飲料水を大量に飲み続けることによって起こる、急性の糖尿病である。正式名称はソフトドリンク(清涼飲料水)・ケトアシドーシス。清涼飲料水ケトーシスとも呼ぶこともある。ソフトドリンクやスポーツドリンクの急激な大量摂取だけでなく、みかんの缶詰やアイスクリームなど、糖分の多い食品の大量摂食でも発症することが報告されている[2]。
概要
編集1992年5月、聖マリアンナ医科大学の研究グループが報告し、糖尿病性ケトアシドーシスの症状となった若い人達の多くがペットボトルで清涼飲料水を飲んでいたことから命名された。
市販の清涼飲料水の多くは、糖質が100mLあたり10g程度と、かなり多く含まれている。スポーツドリンクには、たいてい100mLに6g程度の糖分が含まれている。ペットボトル飲料の普及とその手軽さから、知らないうちに過剰な糖分を摂取することになる。
ソフトドリンクを普段水代わりとして飲んでいる場合、1日に2L程度飲むと仮定すれば120 - 200gもの糖分を摂ることになり、熱量にして470 - 780kcal。WHO/FAOは、レポート『食事、栄養と慢性疾患の予防』(Diet、Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases WHO/FAO 2002年)という報告書において、慢性疾患と高カロリー食の関連を指摘し、食事中の総熱量(総カロリー)に占める砂糖の熱量を10%(200 - 260kcal)以下にすることを推奨している[3]。
発症メカニズム
編集高血糖によって引き起こされる喉の渇き(口渇)を、糖分を含有する清涼飲料水の飲用で癒やそうとするが、繰り返しの清涼飲料水の多飲により高血糖を引き起こし、高血糖が膵臓β細胞を疲弊させ、インスリン分泌不全を引き起こして糖が代謝されず、高血糖のままによる喉の渇きは解決せずさらなる高血糖がより喉の渇きを誘発し清涼飲料水の摂取が助長される。この悪循環が糖尿病性ケトアシドーシス(ペットボトル症候群)の発症につながる[4]。高血糖であってもインスリンが欠乏するとインスリン感受性であるグルコーストランスポーターのGLUT4を介した細胞のグルコースの取り込みが困難となり、飢餓に陥った細胞にエネルギー源を供給するため肝臓で脂肪組織、遊離脂肪酸を酸化させてグルコースの代替品であるケトン体が大量につくられアシドーシスが亢進し糖尿病性ケトアシドーシスが発症する[5]。このため、インスリン投与などによりインスリン分泌不全が解決される必要がある[6]。
症状
編集糖尿病の一形態であるため基本的な症状は糖尿病と変わらない。
「喉の渇き」「倦怠感」「体重の急激な減少」など。典型的なのどの乾きの症状を単純な水分不足による喉の乾きと誤認し、更に清涼飲料水を飲むことで、いっそうの悪化を招く。
重篤な場合は、糖尿病性ケトアシドーシスとなり、「多尿」「嘔吐」「腹痛」「意識混濁」「昏睡(糖尿病性昏睡)」から死亡に至る事がある。
合併症
編集清涼飲料水の大量摂取が原因となっているが、基礎疾患として肥満、生活習慣病(メタボリックシンドローム)を有している例が多数報告されている[7][8][9]。その為、基礎疾患の悪化のほかに、ケトーシス発症後に高カルシウム血症、高トリグリセライド血症、急性膵炎、大腸輪状潰瘍、高脂血症、肺梗塞などの合併症の発症も報告される[10][1]。
検査・治療
編集脚注
編集- ^ a b 澤田雅彦、丸山太郎、北澤吉明、前田憲男、岩崎良二、鈴木裕也、「肺梗塞を合併して死亡した“ペットボトル症候群”の1剖検例」『糖尿病』 1996年 39巻 6号 p.431 - 437、doi:10.11213/tonyobyo1958.39.431
- ^ 大濱俊彦、金城一志、知念希和、曽爾浩太郎、武田英希、諸見里拓宏、張同輝、宮平健、 「みかん缶詰・アイスクリームの大量摂取を契機に清涼飲料水ケトーシスと同様の病態を来たした1例」『糖尿病』 2009年 52巻 3号 p.255 - 258、日本糖尿病学会、doi:10.11213/tonyobyo.52.255、NAID 10024929720
- ^ Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases、pp.56 - 57
WHO/FAOレポートでは"free sugar"を"all monosaccharides(単糖類) and disaccharides(二糖類) added to foods by the manufacturer、cook or consumer、plus sugars naturally present in honey、syrups and fruit juices"と定義している。村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。 - ^ 「糖尿病・代謝 -清涼飲料水ケトーシスを契機に診断されたCushing病の一例-」『日本内分泌学会雑誌』 Vol.85(2009) No.Supplement-1 特集号 第19回臨床内分泌代謝Update Proceeding p.152 - 172、doi:10.1507/endocrine.85.Supplement-1_152
- ^ 高光義博、「代謝性アシドーシス」『日本内科学会雑誌』 Vol.86(1997) No.10、doi:10.2169/naika.86.1873
- ^ 清涼飲料水ケトーシスとは! - 久留米大学医学部医学科
- ^ 蘆立恵子、川村光信、東田寿子、宮崎滋、平意結喜緒、清涼飲料水ケトーシスにIII型高脂血症と糖尿病性黄色腫を合併した1例 糖尿病 Vol.47(2004) No.12 p.939 - 943、doi:10.11213/tonyobyo1958.47.939
- ^ 今枝憲郎、加藤岳史、一柳亞季、北田はるか、岩瀬宗司、大口英臣、谷田諭史、岡山直司、城卓志、「清涼飲料水多飲に伴うケトアシドーシスに大腸輪状潰瘍を合併したインスリン欠乏型の糖尿病の1例」『糖尿病』 2012年 55巻 5号 p.345 - 351、doi:10.11213/tonyobyo.55.345
- ^ 田中正巳、宮崎康、「清涼飲料水の多飲を契機に発症、高カルシウム血症、高トリグリセリド血症と無痛性急性膵炎を合併した2型糖尿病での糖尿病性ケトアシドーシスの1例」『糖尿病』 Vol.44(2001) No.11 p.913 - 916、doi:10.11213/tonyobyo1958.44.913
- ^ 山本直、岡田洋右、新生忠司、西田啓子、田中良哉、「ソフトドリンクケトアシドーシスに高トリグリセライド血症と重症急性膵炎を合併した1例」『糖尿病』 2011年 54巻 1号 p.34 - 39、doi:10.11213/tonyobyo.54.34
関連文献
編集- 食べもの文化編集部『清涼飲料上手な飲み方選び方』芽ばえ社、2003年4月。ISBN 4-89579-267-6。ISBN 978-4-89579-267-7。
関連項目
編集外部リンク
編集- 清涼飲料水ケトーシスをご存知ですか?(久留米大学内分泌代謝内科) - ウェイバックマシン(2016年3月4日アーカイブ分)
- 二田哲博、野見山理久、浅野喬、「治療によりインスリン初期分泌正常化を認めた再発性清涼飲料水ケトーシスの1例」『糖尿病』 2000年 43巻 5号 p.393 - 396、doi:10.11213/tonyobyo1958.43.393