ベリー
ベリー (英: berry) とは、小さく多肉質・多汁質で、しばしば食用となる果実のことである。代表的な例として、イチゴ(ストロベリー)、キイチゴ(ラズベリーなど)、クワ(マルベリー)、セイヨウスグリ(グースベリー)、ブルーベリーなどがある(図1)。
英語の berry は、一般用語としては日本語の「ベリー」と同義であるが、植物学用語としての berry は形態学的な果実の一型である「漿果(しょうか)」を意味している。イチゴやキイチゴはベリーであるが、漿果ではない。またブドウやトマトはベリーではないが、漿果である。
一般的にベリーとよばれる果実は食用とされ、生食されるほか、ジュースやジャム、菓子にも利用される[1]。抗酸化物質であるアントシアニンなどを多く含んでおり、健康食品などとしても注目されている。
定義
編集一般的な意味でのベリーとは、小型で多肉質・多汁質の丸い果実を意味する[2][1][3]。代表的な例として、イチゴ(ストロベリー)、キイチゴ(ラズベリー、ブラックベリー)、クワ(マルベリー)、セイヨウスグリ(グースベリー)、ブルーベリー、クランベリー、クコ(ゴジベリー)などがある[4]。この定義は多分に慣習的であり、似た特徴をもつブドウやサクランボなどは一般的な意味でのベリーにはふつう含まれない[5]。
英語の berry は、一般用語としては上記の日本語の「ベリー」と同義であるが[6][7]、植物学用語としての berry は「漿果(しょうか; 外果皮以外が多肉質・多汁質である単果)」を意味している[8][6][9][10][11]。一般的にベリーとよばれるもののうちグースベリーやブルーベリー[注 1]は漿果であるが、イチゴやキイチゴは漿果ではない(下表参照)。またブドウやトマト、ナス、バナナはベリーではないが、ふつう漿果とされる。
イギリスでは、イチゴやキイチゴ、クランベリーなど外皮が柔らかく大きな種子や核を含まない小さな果実は soft fruit ともよばれる[12][13]。また日本の生産分野では、キイチゴ類、コケモモ類(ブルーベリーなど)、スグリ類(グースベリーなど)、グミ(シルバーベリー)は低木性果樹や小果類に分類される[14]。またイチゴ(ストロベリー)は木本ではなく一年生草本に実るため、日本の生産分野では野菜(果菜、果物的果菜、果実的野菜)に分類される[15][16][17]。
おもなベリー
編集一般的にベリーとよばれるものとしては、下表に挙げたようなものがある[1][2][3][18][19][20][21][22][23]。分類学的には全く遠縁なさまざまなグループのものが含まれているが、特にバラ科やツツジ科のものが多い。表の最下段のジュニパーベリー(セイヨウネズ)は異質であり、裸子植物であるため果実は形成せず、球果の種鱗が肉質化した漿質球果を形成する[10]。
人間との関わり
編集ベリーは、古くから人間に採取され、食用として利用されてきた[32]。現在でも、野生のものを採取・利用することが広く行われているが、栽培されているものもある。ゴジベリー(クコ)は、中国で少なくとも約4000年前から栽培されていたと考えられている[2]。現代ではイチゴ、キイチゴ(ラズベリー、ブラックベリー)、ブルーベリーなどは大規模に栽培されており、品種改良も盛んに行われている[32]。
ベリーは生食されることが多いが、ゴジベリー(クコ)のように乾燥させて使用することもある[37]。ベリーにはしばしばペクチンが多く含まれ、ジャムやゼリーに利用される[38](下図2a, b)。またクランベリーなどはソースとしてよく用いられる[38]。ベリーは、パイやタルト、クッキー、マフィン、プディング、シャーベットなどにふつうに利用されている[38](下図2c–f)。ベリーはジュースなどにも用いられ、またアルコール飲料とされることもある[38]。ベリー類には、ビタミンCやポリフェノールが含まれ、ブラックカラント(カシス)をはじめとするスグリの仲間は酸味が強く、主にジャムなどに使われる[4]。
ベリーは、古くから薬用としても利用されていた[39]。ベリーはその赤や黒の色のもととなるアントシアニンなど抗酸化作用をもつフラボノイドを豊富に含んでおり、抗がん作用や抗菌作用、視力や記憶力の維持、美容効果などさまざまな効用が謳われ、部分的にはこれを支持する報告もある[39][40][41][42][43]。臨床レベルで実証されている例はほとんどないが、ベリーに関する健康食品の市場は非常に大きい[39]。
ベリーとよばれる果実の中には、有毒なものもある。ベラドンナやポークベリー(ヨウシュヤマゴボウ)、ヒイラギ、ヤドリギ、キヅタの果実は有毒であり、鳥には無毒であっても人間には有毒な例もある[39][44]。またニワトコのように、成熟果は無毒だが未熟な果実が有毒である場合もある[45]。古くは毒薬として利用されたベリーもあり、ベリーは魔女や死の象徴とされることもある[46]。
ベリーは古くから人間生活に関わっていたため、さまざまな地域において、さまざまなベリーが伝承、民話に登場する[46]。現代でも、ベリーがPC用OSのひとつBerry Linuxのロゴやコンピュータゲームのアイテムとされていることもある[46]。
脚注
編集注釈
編集- ^ a b c d e f 子房下位(子房が花托で包まれている)であるため、厳密には漿果とはされない(baccate)こともある[24]。
- ^ ホーベリー(hawberry)、ソーンアップル(thornapple)ともよばれる[2][20]。
- ^ サービスベリー(serviceberry, sarvisberry)、サスカトゥーンベリー(saskatoon berry)、シャドベリー(shadberry)ともよばれる[2][20]。
- ^ bayberry, candleberry ともよばれる[20]。またセッコウボク属(スイカズラ科)の果実も waxberry とよばれることがある[20]。
- ^ グーズベリー、グズベリーともよばれる[26]。
- ^ 赤スグリ、グロゼイユともよばれる[21]。また白実品種も存在し、ホワイトカラント(white currant)とよばれる[21][20]。
- ^ ブラックカラント(blackcurrant)ともよばれる[21][20]。
- ^ a b 蒴果が多肉質・液質の花被で包まれている[24]。
- ^ ミニキウイ、ベビーキウイともよばれる[23]。
- ^ ウルフベリー(wolfberry)ともよばれる[2][20]。
- ^ ワンダーベリー(wonderberry)、サンベリー(sunberry)、スタブルベリー、グソバともよばれる[2][20][31]。
- ^ ケープグースベリー(cape gooseberry)、インカベリー(Inca berry)、グラウンドチェリーともよばれる[32][21][20]。
- ^ ハニーベリー(honeyberry)ともよばれる[2][20]。
- ^ 2個の漿果が癒合している[29][34]。
出典
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外部リンク
編集- 「ベリー類」 。コトバンクより2022年12月8日閲覧。
- 山田智美 (2021年7月13日). “育てやすいベリー類14種類!ベリーの意味、英語やフランス語の名前、食べ方”. LOVEGREEN. 2022年12月9日閲覧。
- “ベリーの種類を一覧で紹介!定番のラズベリーや珍しい品種まで!”. グルメノート (2022年7月11日). 2022年12月10日閲覧。
- “ベリー類一覧”. 旬の食材百科辞典. 2022年12月10日閲覧。
- “ベリー類”. 果物ナビ. 2022年12月10日閲覧。
- “ベリーの種類”. 自然の休憩所. 2022年12月10日閲覧。