幾何学においてヘロンの三角形(ヘロンのさんかくけい)とは、3の長さと面積の全てが整数となる三角形である。この名称は、3辺の長さと面積を関連付けたアレクサンドリアのヘロンに由来している。広義には、3辺の長さと面積が全て有理数であるものも含まれる。

性質

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3辺の長さがすべて整数である直角三角形は、面積も整数となる。よってこれらはすべてヘロンの三角形である。

 
c, e, b + d の3つの辺と高さ a を持つ三角形

直角三角形でないヘロンの三角形の例として、3辺の長さが 5, 5, 6 の三角形がある(面積は 12)。この三角形は合同な2つの直角三角形をつなぎ合わせたものと見ることができる。この考え方は右の図のように一般化できる。

a, b, c が直角三角形の3辺であり a, d, e もそうであるとすると、長さ a の辺で両者をつなぎ合わせた三角形(3辺の長さは c , e , b + d )の面積は   となる。a が偶数であれば A は整数である。a が奇数の場合、bd が共に偶数となる。b+d が偶数なので、A は整数となる。

すべてのヘロンの三角形が2つの「3辺の長さが整数である直角三角形」に分割されるとは限らない。一例として、3辺の長さが 5, 29, 30 である三角形がある。この三角形の面積は 72 でありヘロンの三角形の条件を満たすが、どの方向に配置しても高さが整数とならない。最初の条件を「3辺の長さが有理数である直角三角形」に緩和すると、常に分割は可能となる。例にあげた 5, 29, 30 の三角形は、7/5, 24/5, 5 と 143/5, 24/5, 29 の2つの三角形に分割することができる。全て有理数なので、適当な整数(この場合は5)をかけることにより全ての辺を整数にすることができる。

定理

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全てのヘロンの三角形は、3辺の長さが有理数である2つの直角三角形に分割することができる。

証明

右の図において、b + d, c, e および面積 A は整数と仮定する。 b + dc, e より長いと仮定しても一般性を失わない。この仮定により、垂線の足が辺上に来ることが保障される。c, e は有理数(整数)なので、a, b, d が有理数であることを示せばよい。

この三角形の面積の式は以下の通りである。

 

この式を a ついて解くと以下のようになる。

 

仮定より    が整数なので、a も有理数である。

ピタゴラスの定理より以下の2式が得られる。

 
 

上の式から下の式を引いて変形する。

 
 
 

c, e, b + d は整数なので b - d も有理数となる。

 
 

なので、b, d も有理数となる。

3辺の一般式

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ヘロンの三角形の3辺の長さは以下の式で表すことができる[1]

 
 
 
半周長 
面積 
内接円の半径 
 
 
 

m, n, k は以下の条件を満たす整数である。

 
 
 

上の条件を満たさない m, n, k を用いてもヘロンの三角形になるが、これは小さいヘロン三角形を拡大したものになる。例えば m = 36, n = 4, k = 3 とすると、a = 5220, b = 900, c = 5400 という三角形ができる。これは、5, 29, 30 という三角形と相似である。

面積の小さいヘロンの三角形の例をあげる。

ここでは、3辺の長さが互いに素であるヘロンの三角形を、面積・周長の順に並べている。

面積 周長 b+d の長さ e の長さ c の長さ
6 12 5 4 3
12 16 6 5 5
12 18 8 5 5
24 32 15 13 4
30 30 13 12 5
36 36 17 10 9
36 54 26 25 3
42 42 20 15 7
60 36 13 13 10
60 40 17 15 8
60 50 24 13 13
60 60 29 25 6
66 44 20 13 11
72 64 30 29 5
84 42 15 14 13
84 48 21 17 10
84 56 25 24 7
84 72 35 29 8
90 54 25 17 12
90 108 53 51 4
114 76 37 20 19
120 50 17 17 16
120 64 30 17 17
120 80 39 25 16
126 54 21 20 13
126 84 41 28 15
126 108 52 51 5
132 66 30 25 11
156 78 37 26 15
156 104 51 40 13
168 64 25 25 14
168 84 39 35 10
168 98 48 25 25
180 80 37 30 13
180 90 41 40 9
198 132 65 55 12
204 68 26 25 17
210 70 29 21 20
210 70 28 25 17
210 84 39 28 17
210 84 37 35 12
210 140 68 65 7
210 300 149 148 3
216 162 80 73 9
234 108 52 41 15
240 90 40 37 13
252 84 35 34 15
252 98 45 40 13
252 144 70 65 9
264 96 44 37 15
264 132 65 34 33
270 108 52 29 27
288 162 80 65 17
300 150 74 51 25
300 250 123 122 5
306 108 51 37 20
330 100 44 39 17
330 110 52 33 25
330 132 61 60 11
330 220 109 100 11
336 98 41 40 17
336 112 53 35 24
336 128 61 52 15
336 392 195 193 4
360 90 36 29 25
360 100 41 41 18
360 162 80 41 41
390 156 75 68 13
396 176 87 55 34
396 198 97 90 11
396 242 120 109 13

(5,12,13), (6,8,10), (6,25,29), (7,15,20), (9,10,17) の5つは、周長と面積が等しい。

正三角形に近いヘロンの三角形

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辺の長さが整数である正三角形の面積は無理数となるので、全ての正三角形はヘロンの三角形ではない。3辺の長さが公差1の等差数列をなす「正三角形に近い」ヘロンの三角形は無限に存在する(オンライン整数列大辞典の数列 A003500)。以下に最初のいくつかを示す。

辺の長さ 面積 内接円の半径
n − 1 n n + 1
3 4 5 6 1
13 14 15 84 4
51 52 53 1170 15
193 194 195 16296 56
723 724 725 226974 209
2701 2702 2703 3161340 780
10083 10084 10085 44031786 2911
37633 37634 37635 613283664 10864

中央の値 n は、前の n を4倍してもう1つ前の n を引いたものになっている(52 = 4 × 14 − 4, 194 = 4 × 52 − 14, etc.)。漸化式で表すと以下のようになる。

 

この数列はリュカ数列の一種であり、  と表すこともできる。面積 = A, 内接円の半径 = yとおくと、

 

となり、{n, y} の組は n2 − 12y2 = 4 を満たす。n = 2x と変換すると、ペル方程式 x2 − 3y2 = 1 が得られる。この解は√3の連分数展開によって得られる。

関連項目

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外部リンク

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  • Weisstein, Eric W. "ヘロンの三角形". mathworld.wolfram.com (英語).
  • Online Encyclopedia of Integer Sequences Heronian
  • Wm. Fitch Cheney, Jr. (January 1929), “Heronian Triangles”, Am. Math. Monthly 36 (1): 22–28, JSTOR 2300173, https://jstor.org/stable/2300173 
  • S. sh. Kozhegel'dinov (1994), “On fundamental Heronian triangles”, Math. Notes 55 (2): 151–6, doi:10.1007/BF02113294, http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02113294 

脚注

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  1. ^ Carmichael, R. D., 1914, "Diophantine Analysis", pp.11-13; in R. D. Carmichael, 1959, The Theory of Numbers and Diophantine Analysis, Dover.