ブレーンバスター
ブレーンバスター(英語: Brainbuster)は、プロレス技の一種である。日本名は脳天砕き(のうてんくだき)。
かつてはブレーンバスターをパイルドライバー、バックドロップ、ジャーマン・スープレックスと並ぶ四大必殺技と形容することもあった。[要出典]
概要
編集多くの派生技が存在するが基本的な形は、相手を逆さまに抱え上げて後方へ投げ、相手の背面をマットへ叩き付けるというものである。
しかし、最初に考案された形のフォームはのちの基本形とは異なり、相手を上下逆さまの状態で落下させて相手は背中の上部で受け身をとるという形であった。しかし、危険だったため、改良がなされて背面全体で受け身をとる形に変化して、それが定着している。背面から落とす技であるのに「ブレーンバスター」、「脳天砕き」という名称なのは、その名残である。
しかし、1990年代前半に弧を描いて相手を投げるのではなく、より垂直に近い角度で落とす形が再び、使用されはじめ、すでに「ブレーンバスター」、「脳天砕き」の名称が定着していた背面から落とす形と区別するため、垂直落下式、元祖、オリジナルの単語をブレーンバスター(脳天砕き)の技名の前に付けて呼ぶようになった(なお、厳密には垂直落下式と元祖(オリジナル)は若干違いがある。詳細は後述の「起源」を参照)。
日本以外では考案時のフォームが使用されなくなり、背面から落とすフォームが使用され始めたとき、混同を避けるために背面から落とす形の方をバーティカル・スープレックス(Vertical Suplex)と呼んで明確に区別している。
起源
編集ブレーンバスターの開発者は1950年代にデビューしたキラー・カール・コックスとされる[1]。アメリカ南部でコックスと抗争していたディック・マードックも名手として名を馳せた。両者共に頭部を下にした体勢から垂直に落とすスタイルのブレーンバスターを使用していた。
なお、のちにプロレス界で垂直落下式ブレーンバスターと呼ばれた技は垂直に近い角度で落とす点で共通しているものの厳密にいえば、コックスやマードックが使用していたものとはフォームなどが若干異なる。彼等のブレーンバスターの特徴は自身は完全に倒れ込まず、尻餅をつくような体勢になりながら相手をマットに落とす点にあり、これに対して「垂直落下式ブレーンバスター」と呼ばれた技は受身をとり易く改良されたものである。このため、コックスやマードックが使用したブレーンバスターおよび、それとほぼ同型のものを元祖ブレーンバスター(オリジナル・ブレーンバスター)と呼んで一般化している垂直落下式と区別する場合もある。例として小橋建太はコックスらと同型のブレーンバスターをリアル・ブレーンバスターと称して通常のものと使い分けている。また、テレビゲームなどでも同様の例がある(詳しくは後述の「追記」を参照)。
一方、相手を背面から投げ落とす形のブレーンバスターの開発者は1956年デビューのサイクロン・ネグロであるとされる。垂直落下式は危険性が大きいが反り投げ式は見た目が派手でマットに叩きつけたときの音も大きく、なおかつ安全であるなどの理由から、この方式が広く普及したといわれている。この反り投げ式ブレーンバスターは、多くのレスラーが得意技として用いた。のちにこの形のブレーンバスターで決着がつくことはほとんどなくなり、試合序盤から中盤で出される繋ぎ技や痛め技として用いられている。
かけ方
編集両フォームに共通だが、技を掛ける際に受け手と掛け手の組み方が全く同じになるため、相手に投げ返されることもある。
- 背面から投げ落とす形
- 立っている相手の正面に立ち、相手を前屈みにさせ(レスリングでの「がぶり」の体勢)て相手の頭部を自分の腋に抱え込み、もう片方の腕で相手のタイツを持って、相手の身体が逆さまになるように真上に持ち上げる。ここから自ら後ろに倒れこみ、相手の背面をマットに叩きつける。
- 垂直に近い角度で落下させる形
- 相手を逆さまに抱え上げるまでは同じである。そこから相手をリングに対してほぼ垂直になるよう抱えた状態のまま、自ら後方へ倒れ、同時に相手の背中の上部をマットへ叩き付ける。
- また、前述の通りコックスやマードックの使用した元祖の形は、落とすときに違いがあり、自分が後方へ倒れるのでなく尻餅を着くような姿勢となりながら相手の背中の上部をマットへ叩き付ける。
返し方
編集- 組まれた際に踏ん張り、逆にブレーンバスターを仕掛ける。とくに巨漢レスラーが軽量級レスラーを投げようとして逆に投げられたり、2人がかりで巨漢レスラーを投げようとして逆に2人まとめて投げられるなどといった、お約束的なムーブも生まれている。
- 空いた片腕で相手の腹をパンチして逃れる。
- 頂点まで持ち上げられたあと体を軽く捻って脱出してバックドロップ、ジャーマン・スープレックス、スリーパー・ホールドなどで反撃する。
- 藤原喜明は脇固めで切り返していた。
- PACは上空で相手のロックを抜け出して、そのまま体を空中で前方へと半回転してウラカン・ラナで切り返していた。
ブレーンバスターをこらえたあと両者が組み合ったまま力比べに移行する様はファンに古くから好まれている見せ場の1つである。
バリエーション
編集- ブレーンバスター・ホールド
- ブレーンバスターで投げた後、相手の体を離さずそのままブリッジするような体勢になり、相手をフォールする。のちにあまり使用者はいなくなった。
- 雪崩式ブレーンバスター
- 相手をコーナーポスト上に座らせた状態から投げる。スーパー・D(スーパー・デストロイヤー)ことスコット・アーウィンが考案者とされ、そのため海外では「スーパープレックス(Superplex)」と呼ばれる[2]。日本でこの技を初めて披露したのは阿修羅・原である(1981年4月18日、アメリカ武者修行からの帰国第1戦である対スティーブ・オルソノスキー戦。原は当時アーウィンが主戦場としていたミッドサウス地区のMSWAに遠征していた)。他の主な使い手は、カウボーイ・ボブ・オートン、ビル・アーウィン、ハーキュリーズ、バリー・ウインダム、レザーフェイス(テキサス・マサカーの名称で使用)、クリス・キャンディード、AJスタイルズ、ボビー・ラシュリー、ランディ・オートン、セザーロ、シェイマス、PACなど。ダイナマイト・キッドはコーナー最上段からも放った。通常は背中から落とす形で投げるが、獣神サンダー・ライガー、金丸義信、ブラック・タイガー時代のエディ・ゲレロなどは垂直落下式も使う。なお、原の初披露の前日に木村健吾が、この技を試している(後述)。
- 高速ブレーンバスター
- 低空式ブレーンバスターとも呼ばれる。通常は完全に相手が逆さまになるように抱え上げてから放つが、この抱え上げる時間をなくして、相手の体を捕まえた状態から「反り投げ」のように、ブリッジするかのごとく自分の体を後方へ反らして相手をマットへ投げつける。英語圏では「スナップ・スープレックス(Snap suplex)」と呼称される。
- ダイナマイト・キッドをはじめ、クリス・ベノワ、天山広吉、菊地毅などが使い手。
- 長滞空式ブレーンバスター
- 高速式とは反対に、相手を抱え上げた状態でしばらく静止した後に相手を投げる。基本は背面から投げ落とすタイプだが、垂直落下式でも使用されることがある。後述のリバウンド式などにも応用される。長時間抱え上げるほど客が盛り上げるが、その分掛ける側も受ける側も全身の筋力が必要。
- ハーリー・レイス、リック・フレアー、アレックス・スミルノフ、カウボーイ・ボブ・オートン、デイビーボーイ・スミス、アーン・アンダーソン、クリス・キャンディード、マイク・バートン(バート・ガン)、小橋建太、齋藤彰俊、志田光などが使い手。
- 旋回式ブレーンバスター
- 相手を持ち上げた後、その場で180-360度旋回してから投げる。垂直落下式で投げる場合が多い。垂直落下式ではリッキー・フジがローリングストーン、望月成晃がツイスター、金丸義信がタッチアウト、永田裕志がサンダー・デス・ドライバー、背面から投げる形は矢野通がナイトキャップの名前で使用している。
- リバウンド式ブレーンバスター
- ブレーンバスターの要領で持ち上げるが、後ろへは投げず前方のロープに相手の腹部を叩き付け、その後の反動を利用してそのまま反り投げ式で投げる。タリー・ブランチャード、齋藤彰俊が使い手として有名。齋藤は滞空時間が長いのが特徴。英語圏では「スリングショット・スープレックス(Slingshot suplex)」と呼称される。
- 前方叩き付け式ブレーンバスター
- ブレーンバスター・スラム、ブレーンバスター・ホイップ、前方投げ捨て式ブレーンバスター等とも呼ばれる。ブレーンバスターの体勢から、前方に向かって相手を投げ落とし、背面からマットへ叩き付ける。ブルーザー・ブロディ、ジャンボ鶴田、田上明などが使い手。ブロディは大きく跳躍しながらダイナミックに繰り出したのが特徴で、ゴールドバーグが、この技をヒントにジャック・ハマー(後述)を考案したと言われている。
- 連続式ブレーンバスター
- 起き上がり小坊師式、ロコモーション式ともいう。投げた後、相手の体を捕まえたまま自分の体を横に捻りながら立ち上がり、再びブレーンバスターに移行する。
- スリー・アミーゴス
- 3回連続での連続式高速ブレーンバスター。投げた後、自分の腰を上げ横に捻ることで、次の投げの体勢へ移行する。エディ・ゲレロ、田口隆祐、りほの得意技。
- Brainbustaaaaahhhhh!!!!!
- 雪崩式ブレーンバスターの体勢から、マットでなくコーナーポストの頂点、もしくはトップロープへ垂直に落とす技。エル・ジェネリコのオリジナルホールド。ジェネリコはこの他にも、エプロンサイドへ垂直に落とす「Brainbustaaaaahhhhh at apron」という技も使用する。
派生技
編集- リバース・ブレーンバスター
- 背後から相手を仰向けにのけ反らせ、相手の首を脇に抱えるように組み付き(立った状態でのドラゴン・スリーパーのような形)、そこからブレーンバスターと同じ体勢で相手のタイツを片腕で掴んで持ち上げ、そのまま後方へ投げて、前面から相手をマットへ叩き付ける。エル・サムライが得意としており、雪崩式や垂直落下式も使う(ただし、垂直落下式の場合は「リバースDDT」と呼んでいる)。
- ジャック・ハマー
- ブレーンバスターの体勢で抱え上げ、パワースラムやアバランシュ・ホールドのように自分の体を相手に浴びせるようにして、体重をのせながら相手を背面からマットへ叩き付ける。ジャガー横田が考案し、ゴールドバーグのフィニッシャーとして知られた。前述のブレーンバスター・スラムが原型とされる。
- 他にもGammaがガンマ・スラッシュ、ブルー・ウルフがモンゴル・ハマー、浜亮太がリョータ・ハマーとして使用している。
- ライスシャワー
- ブレーンバスターの体勢で相手を抱え上げ、相手の首をつかんだまま自らは尻餅をつき、同時に相手の体を肩を支点に後方へ反転させ、尻餅の衝撃で相手の後頭部辺りを肩へ打ち付ける。いわばブレーンバスターからネックブリーカーへ移行する複合技である。肩に負担がかかるため、完全な形で成功させるのは難しいが、成功すれば相手の首に大きなダメージを与えられる技。
- 朝日放送『探偵!ナイトスクープ』の中で依頼者(依頼者が米屋の店員だったため、それに因んだ技名を依頼者が考えた)が考案した。完成した暁には小橋建太が実際に試合で使用する予定だが、上記の通り非常に高難度の技であり小橋本人も番組内で「充分な練習が必要」と語っている。
- ゴー・フラッシャー
- 潮崎豪のオリジナル技。
- ブレーンバスターの体勢で相手を抱え上げ、前方へ放り投げて、ネックブリーカー・ドロップの様にして体重を浴びせながらマットへ背中から叩き落とす。
類似技
編集- フロント・ネックチャンスリー・ドロップ
- フロント・ネックロックの体勢から、相手を後方へ反り投げる技。日本ではサンダー・ザボーが初公開し、後にアントニオ猪木もアントニオ・ドライバーとして使用した。ブレーンバスターは、レスリングの基本的な投げ技として知られるこの技からの派生技とする説があるが、開発者であるキラー・カール・コックス本人が否定している。
- フィッシャーマンズ・スープレックス
- ブレーンバスターホールドを放つ際、相手の片脚の膝裏から脹脛の辺りを抱えて投げる。別名、網打式原爆固め。主な使い手は、小林邦昭。若手レスラーがフィニッシュとして使うことも多い。カート・ヘニングはWWF時代、自分のギミックをもじって「パーフェクト・プレックス」と称して使用。
- フィッシャーマンズ・バスター
- 投げ捨て式フィッシャーマンズ・スープレックス。獣神サンダー・ライガーが考案し、垂直落下式も使用する。女子プロレスラーのハーレー斉藤も使用。
- スタガリン・ブロー
- ブレーンバスターの体勢から、右手で相手の右足の膝裏をすくうように四の字型にロックし抱え上げてから落とす、変形のフィッシャーマンズ・バスター。井上亘のオリジナルホールド。
- フェイス・バスター
- ブレーンバスターの体勢から、前方へ倒れ込み、相手を前面からマットへ叩き付ける。リッキー・マルビンがプリドゥーラクの名称で使用。ちなみに、フェイス・バスターはブレーンバスターの体勢から仕掛ける形の他に、パイルドライバーの体勢からかける形のものもある。
- 垂直落下式DDT
- 橋本真也の得意技として有名な技。フォームは垂直落下式ブレーンバスターと酷似しているが、落とす際のステップが異なり、垂直落下式ブレーンバスターとは区別されている。
追記
編集この節に雑多な内容が羅列されています。 |
- ハーリー・レイスは自身の試合前にブレーンバスターが使われることを嫌がり、「自分以外、ブレーンバスターの使用禁止」とするよう全日本プロレスに訴えたことがあった。ダイナマイト・キッドはブレーンバスターに加え、レイスが大一番の時に使用していたダイビング・ヘッドバットも得意技としていたことから、同時期に全日本プロレスで活躍していたレスラーの中でも特に影響を被ったという。プロレス界では古くから「トップレスラーと同じフィニッシュ・ホールドは使わない」という暗黙の了解が存在していたとされているが、この一件は、その極端な例の1つとして伝えられている。
- ジョニー・バレンタインやブラックジャック・ランザも「ブレーンバスター」と呼ばれる技を使用していたが、バレンタインの技はエルボー・スタンプ、ランザの技は拳によるブレーン・ドリルであり、この項で述べられる投げ技のブレーンバスターとは別の技である。
- 1981年4月17日、東京スポーツに阿修羅・原が雪崩式ブレーンバスターの公開練習をしている記事が出ているのを目にした木村健吾(のちの木村健悟)は新日本プロレスの鹿児島県立体育館大会において、見よう見まねで藤波辰巳に雪崩式ブレーンバスターを仕掛けようとしたが空中で藤波に切り返されて、そのままフォール負けを喫して失敗に終わった[3]。4月18日、原は国際プロレスの後楽園ホール大会において、スティーブ・オルソノスキーに雪崩式ブレーンバスターを成功させて正真正銘の初披露になった。
- 2002年から2003年の闘龍門JAPANの3WAY6人タッグマッチではセコンドやレフェリーも巻き込んで総勢10人以上のレスラーが合体低空式ブレーンバスターの掛け合いを行い、「世界一長いブレーンバスター」と呼ばれていた。毎回、ドン・フジイが誤ってタッグパートナーのCIMAらとは反対側から組んで投げられるのがオチであった。この世界一長いブレーンバスターはDRAGON GATEで行われることがある。
- テレビゲーム『ファイヤープロレスリングシリーズ』の一部作品にはキラー・カール・コックスやディック・マードックが用いた独特のモーションを再現した「元祖ブレーンバスター」が登場している。
- 漫画『ろくでなしBLUES』の主人公である前田太尊が新入生の海老原昌利から学校の体育館でタイマン勝負を受けたさい、最後に勝負を決めたのが太尊が繰り出した「元祖ブレーンバスター」だった。また、勝負後に海老原から「変な形のブレーンバスターっすね…」と呟かれたが太尊は「マードックを真似しただけだ」と返している。
- LUNA SEAのJは楽曲『ROSIER』の間奏で英語詞で歌うところがあり、ライブでは、その部分を歌った後、マイクスタンドにブレーンバスターを仕掛けていた。
脚注
編集- ^ “キラー・カール・コックスの元祖ブレーンバスター”. 昭和プロレス研究室. 2018年10月16日閲覧。
- ^ “Scott Irwin”. Online World of Wrestling. 2018年10月16日閲覧。
- ^ 週刊プロレス 2010.06.23号