バーチャルプロダクション
On-set virtual production(以下、OSVP)とは、テレビや映画の制作において、セットの背景にリアルタイムで映像やCGIを表示したLEDボリューム(ウォール)を使う撮影技術のこと。バーチャルプロダクション(VP)やインカメラVFXの呼び名で知られている[1]。入念な調節やキャリブレーションのもと、本物のセットや屋外のロケーションとほぼ変わらない現象を作り出すことができる[2] 。2019年配信のディズニー+のドラマシリーズ『マンダロリアン』のシーズン1でILMが自社開発したシステム・StageCraftが使用されてから広く普及した[3]。
ポストプロダクションでバーチャル環境を合成するバーチャルスタジオの技術とは対照的に、OSVPのバーチャル環境はカメラや俳優、クルーから目に見える形でセットの周りを囲んでいる。セットのオブジェクトを照らすLEDボリュームからの明かりは現実的に作用する照明効果を作り出し、ディストーションや被写界深度による効果、ボケ、レンズフレアといったわずかな自然現象の備わった景観をカメラで直接とらえることができる。これはバーチャルのセットで行うよりも速くかつ直感的な撮影・制作プロセスで、ロケーション撮影に限りなく近い自然な体験をもたらす。移動するカメラからの視差深度を正確にするため、低遅延かつリアルタイムでカメラを追跡するモーションキャプチャデータに基づいた背景映像のマッチムーブを必要とする。
SMPTEや映画芸術科学アカデミー、全米撮影監督協会などの業界団体ではOSVPの開発を支援する取り組みを行なっている[2][4][5][6]。
日本での発展・活用
編集日本でも2020年代からNHKの大河ドラマやテレビ朝日系列のスーパー戦隊シリーズをはじめとするテレビドラマやMVで用いられている[7][8]。
サイバーエージェント・CyberHuman Productionsのカムロ坂スタジオや[9]、ヒビノのHibino VFX Studio[10]、ソニーPCLの清澄白河BASE[11]とバーチャルプロダクション設備を常設したスタジオも作られている。
日本でOSVPを用いた主な事例
編集テレビドラマ
編集- 鎌倉殿の13人(2022年)[7]
- 暴太郎戦隊ドンブラザーズ(2022年 - 2023年)[12]
- どうする家康(2023年)[13]
- 王様戦隊キングオージャー(2023年 - 2024年)[14]
MV・PV
編集- ASKA「進化論」(2021年)[15]
- Vaundy「泣き地蔵」(2021年)[16]
- SixTONES PLAYLIST[17]「共鳴」「Gum Tape」(2022年)[18]
- King Gnu「Stardom」(2022年)[19]
- idom「GLOW」(2023年)[20]
- Def Tech「Automatic」(2023年)[21]
- tofubeats「自由」(2023年)[22]
CM
編集脚注
編集- ^ “空間丸ごとキャプチャー、映像クリエーターが感じた大変化の予兆”. 日経クロステック (2021年12月16日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ a b “2021: The On-Set Virtual Production Initiative” (英語). www.smpte.org. 2022年5月20日閲覧。
- ^ “ILM Used 'Fortnite' Tech to Make Virtual Sets for 'The Mandalorian'” (英語). WIRED (2020年2月20日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “Partnering to Develop Advisory Group of the On-Set Virtual Production (OSVP) Initiative.” (英語). systemscontractor (2022年1月18日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ “SMPTE Hollywood To Explore Lighting and Color Science For Virtual Production” (英語). SHOOTonline. 2022年5月20日閲覧。
- ^ “AMPAS Science & Technology Council Presents Virtual Production Primer - The American Society of Cinematographers”. theasc.com. 2022年5月20日閲覧。
- ^ a b “『鎌倉殿の13人』でも注目のインカメラVFX、どう使う?〜Virtual Production Day 2022(2)”. CGWORLD.jp (2022年5月10日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ 山川晶之, 吉川大貴, ITmedia「「王様戦隊キングオージャー」終幕 “無謀だった”という制作の舞台裏、上堀内監督に聞いた」『ITmedia NEWS』2024年2月25日。2024年2月25日閲覧。
- ^ “サイバーエージェントのバーチャルLEDスタジオに見る次世代撮影スタイル”. PRONEWS (2021年3月4日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ “バーチャルプロダクションスタジオ「Hibino VFX Studio」が映像作品を公開。世界初Ruby1.5Fとdisguiseで実現する衝撃の「インカメラVFX」とは”. HIBINO BREAK TIME (2021年6月25日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ “ソニーとソニーPCL、「清澄白河BASE」にバーチャルプロダクション常設スタジオを新設”. CreatorZine (2022年1月28日). 2022年5月20日閲覧。
- ^ “VFXアナトミー インカメラVFXによる特撮をTVシリーズで実現! 『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』”. CGWORLD.jp (2023年1月12日). 2024年2月28日閲覧。
- ^ “『どうする家康』新技術“バーチャルプロダクション”本格導入でロケ最小限に 背景に働き方&つくり方“改革””. ORICON NEWS (2023年12月14日). 2024年2月28日閲覧。
- ^ “地上波連続ドラマでのバーチャルプロダクション導入事例 CG技術を駆使して描く 『キングオージャー』の壮大な世界観”. VIDEO SALON (2023年7月21日). 2024年2月28日閲覧。
- ^ “ASCAが最先端技術“バーチャルプロダクション”を駆使したMV「進化論」をプレミア公開!”. リスアニ! (2021年2月26日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “Vol.00 バーチャルプロダクション技術を用いて制作されたVaundyの新曲「泣き地蔵」MV制作を解説[Virtual Production Field Guide 4]”. PRONEWS (2021年10月19日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ YouTube限定のパフォーマンス映像のシリーズ。
- ^ “VFXアナトミー ソニーPCL「清澄白河BASE」でのバーチャルプロダクション。SixTONES『共鳴』&『Gum Tape』”. CGWORLD.jp (2022年5月17日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “King Gnu、最新技術/CG/アニメーションを駆使した「Stardom」MVをプレミア公開”. Billboard JAPAN (2022年11月22日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “ボリュメトリックキャプチャ技術で新たな表現を追求。ソニーPCL「清澄白河BASE」ボリュメトリックキャプチャスタジオ”. CGWORLD.jp (2023年5月16日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “Def Tech「Automatic」”. P.I.C.S.. 2024年2月29日閲覧。
- ^ “バーチャルプロダクションを流行りもので終わらせない。“自由” に試しながら、創り上げたビジュアルとは?|tofubeats『自由』MV”. Vook (2023年8月4日). 2024年2月29日閲覧。
- ^ “美しい髪のボケ感をバーチャルプロダクションで実現! ラックス スーパーリッチシャイン CM「私をすすめるのは、私。」篇”. CGWORLD.jp (2021年12月10日). 2024年2月29日閲覧。