バンド・オン・ザ・ラン (曲)
「バンド・オン・ザ・ラン」 (Band on the Run) は、ポール・マッカートニー&ウイングスの楽曲である。1973年にオリジナル・アルバム『バンド・オン・ザ・ラン』の表題曲として発売された。「ジェット」の商業的な成功を受けて、1974年4月にアメリカ、6月にイギリスでシングル・カットされ、アメリカのBillboard Hot 100で第1位、全英シングルチャートで最高位3位を獲得した。シングル盤『バンド・オン・ザ・ラン』は、1974年にアメリカで100万枚以上の売上を記録した。
「バンド・オン・ザ・ラン」 | ||||||||||||||||
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ポール・マッカートニー&ウイングス の シングル | ||||||||||||||||
初出アルバム『バンド・オン・ザ・ラン』 | ||||||||||||||||
B面 | ||||||||||||||||
リリース | ||||||||||||||||
規格 | 7インチシングル | |||||||||||||||
録音 |
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ジャンル | ロック | |||||||||||||||
時間 | ||||||||||||||||
レーベル | アップル・レコード | |||||||||||||||
作詞・作曲 |
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プロデュース | ポール・マッカートニー | |||||||||||||||
ゴールドディスク | ||||||||||||||||
後述を参照 | ||||||||||||||||
チャート最高順位 | ||||||||||||||||
後述を参照 | ||||||||||||||||
ポール・マッカートニー&ウイングス シングル 年表 | ||||||||||||||||
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3種類の異なるセクションをメドレーにした「バンド・オン・ザ・ラン」は、演奏時間が5分9秒とマッカートニーのシングル作品で最も長い。曲全体のテーマは「自由と逃避」で、1973年3月にジョージ・ハリスン、ジョン・レノン、リンゴ・スターの3人がマネージャーのアラン・クレインと決別し、マッカートニーとかつてのバンドメイドの関係が改善された時期に制作された。
背景・曲の構成
編集1973年に行なわれたポール・ガンバッキーニとのインタビューで、マッカートニーは「If we ever get out of here(もしここを出られたら)」というフレーズは、ビートルズの仕事の打ち合わせの際に幾度となくハリスンが口にしていた言葉から着想を得たことを明かしている。マッカートニーは、「彼は、僕らはみんなある意味で囚人だと言っていたよ。アルバムの冒頭に丁度いいと思ったんだ」と振り返り、「他にもいろんな理由があったと思う。たくさんあったけど、それを細かく掘り起こす気はない。『バンド・オン・ザ・ラン』にはいろんなテーマを盛り込んだ。逃避とか自由とか無法者とか、そう呼ばれるものが詰まっている」と語っている[1][注釈 1]。
1988年の『ミュージシャン』誌のインタビューで、マッカートニーは「バンド・オン・ザ・ラン」のインスピレーションの1つとして、1960年代後半から1970年代前半にミュージシャンが経験した麻薬捜査について言及している。マッカートニーは、自身もマリファナ所持で法的な問題を抱えていたこともあり、「僕らはマリファナで無法者にされていた。『バンド・オン・ザ・ラン』での僕たちの主張は『僕らを悪い方に立たせないでくれ…。僕らは犯罪者ではないし、そうなりたいとも思わない』ということ。だから刑務所から脱獄する人たちの物語を作ったんだ」と語っている[3]。
『モジョ』誌に寄稿したトム・ドイルは、本作の歌詞はアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』の制作に際して録音したデモ・テープが盗まれた後の出来事を思い出すもので、「狭い独房のようなスタジオの4つの壁の中で、厳しい不安に直面して立ち往生している」当時のバンドの状況を反映したものと解釈している[4]。
アルバム『バンド・オン・ザ・ラン』の最後に収録されている楽曲「1985年」のエンディング部分には、本作のサビがわずかに抜粋されている[5]。
「バンド・オン・ザ・ラン」は、3部構成のメドレーになっており、最初のセクションはスローテンポのバラード、2つ目のセクションはファンク・ロック調、最後のセクションはカントリー調になっている[6]。『オールミュージック』のスチュワート・メイソンは、最後の最も長いセクションについて「アコースティックのリズムギター、カントリー調のスライド・フィル、そしてコーラスでの3声ハーモニーの巧みな混合物」と評し、そのサウンドをイーグルスに喩えている[6]。歌詞は「自由と逃避」がテーマとなっており[7][8]、音楽評論家のロバート・クリストゴーは「大麻狂いの官僚によるロック・ミュージシャンへの弾圧について歌ったもの」と解釈している[9]。
レコーディング
編集バンドがナイジェリアのラゴスでレコーディングをしていた時に、「バンド・オン・ザ・ラン」をはじめとする楽曲のデモテープが盗まれた[2]。ナイフで脅されたバンドはデモ音源を手放し、記憶を頼りに楽曲制作を続けた[4]。
本作の最初の2つのセクションはラゴスでレコーディングされ、3つ目のセクションは1973年10月にロンドンにあるAIRスタジオでレコーディングされた[10]。本作のオーケストラ・アレンジを手がけたトニー・ヴィスコンティは、T・レックスの楽曲のアレンジメントを気に入ったマッカートニーによって雇われた。ヴィスコンティは、本作の60人編成のオーケストラを含むアルバム全体のアレンジを3日間で書き上げることを命じられ、マッカートニーとの共同でアレンジを手がけたが、発売25周年を記念した再発売まで自身の名前がクレジットにないことに驚いたと後に明かしている[11]。
リリース
編集マッカートニーは、当初『バンド・オン・ザ・ラン』からはシングル・カットしないつもりでいたが[12]、キャピトル・レコードのプロモーション担当であるアル・クーリーの説得により、「ジェット」と「バンド・オン・ザ・ラン」をシングルとして発売することにした[13]。
シングル盤『バンド・オン・ザ・ラン』は、B面に「1985年」を収録して、『ジェット』の後続シングルとして1974年4月8日にアメリカで発売された。シングル盤はバンドにとってスマッシュヒットとなり、マッカートニーにとってはソロ名義では3作目、ウイングスとしては2作目となるアメリカのシングルチャートで第1位を獲得した作品となった[14]。イギリスではB面曲を「ズー・ギャング」に変更して発売され、全英シングルチャートで最高位3位を獲得した[15]。また、ヨーロッパ圏のシングルチャートでも上位40位以内にチャートインした[16][17][18][19]。
アメリカでは、「Well, the undertaker drew a heavy sigh...」から始まるヴァースなどをカットし、演奏時間を3分50秒に縮めたラジオ・エディット版も制作された[20]。
「バンド・オン・ザ・ラン」は、『ウイングス・グレイテスト・ヒッツ』[21]、『オール・ザ・ベスト』[22]、『夢の翼〜ヒッツ&ヒストリー〜』[23]、『ピュア・マッカートニー〜オール・タイム・ベスト』[24]などのコンピレーション・アルバムにも収録されている。マッカートニーのライブでも度々演奏されており、1976年に発売されたライブ・アルバム『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』にはライブ音源が収録されている[25]。
ミュージック・ビデオ
編集「バンド・オン・ザ・ラン」のミュージック・ビデオは、当時大学生であったマイケル・コールソンによる自主制作映画で、後に映像作品『The McCARTNEY YEARS / ポール・マッカートニー・アンソロジー 1970-2005』や2010年に再発売された『バンド・オン・ザ・ラン』に収録された。主にビートルズへのトリビュートとなっており、映像内ではメンバーの写真がコラージュされている[26]。
2014年には、マッカートニーのツアー・ヴィジュアルや、2013年に発売されたアルバム『NEW』のジャケットを手がけたベン・イブがデザインを手がけた新たなミュージック・ビデオが公開された[27]。
評価
編集「バンド・オン・ザ・ラン」について、ジョン・レノンは、「良い曲だ。アルバムも良い」と評している[28]。2014年に『ビルボード』誌は、「バンド・オン・ザ・ラン」について「コーラスに依存しない3つの異なるパートを持ちながら、聖歌のような雰囲気がある」と称賛している[29]。オールミュージックのスチュワート・メイソンは、本作を「典型的なマッカートニーの作品」とし、「実験的な形式を取りながらも、その構造の奇妙さがほとんど気づかれないほど心地よいメロディを持っている」と評している[6]。
ポール・マッカートニー&ウイングスは、本作で第17回グラミー賞の最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞した[30]。『NME』誌が発表した「100 Best Tracks of the Seventies」では第10位[31]、「The Best Of The Post-Beatles」では第15位[32]にランクインしている。2010年のAOLラジオのリスナーによる投票「10 Best Paul McCartney Songs」では、「恋することのもどかしさ」や「心のラヴ・ソング」を抑えて第1位[33]、2012年の『ローリング・ストーン』誌の読者投票では、「恋することのもどかしさ」、「ヘイ・ジュード」、「イエスタデイ」に次ぐ第4位[34]にランクインしている。また、同誌の読者投票「The 10 Greatest Solo Beatle Songs」では第5位にランクインしている[35]。
シングル収録曲
編集# | タイトル | 作詞・作曲 | 時間 |
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1. | 「バンド・オン・ザ・ラン」(Band on the Run) |
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2. | 「1985年」(Nineteen Hundred and Eighty-Five) |
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合計時間: |
# | タイトル | 作詞・作曲 | 時間 |
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1. | 「バンド・オン・ザ・ラン (ラジオ・エディット)」(Band on the Run (Radio Edit)) |
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2. | 「ズー・ギャング」(Zoo Gang) |
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合計時間: |
クレジット
編集- ポール・マッカートニー - ボーカル、ギター、ベース、ドラム、音楽プロデューサー
- リンダ・マッカートニー - バッキング・ボーカル、キーボード
- デニー・レイン - バッキング・ボーカル、ギター
- トニー・ヴィスコンティ - オーケストレーション
- ジェフ・エメリック - プロデュース、エンジニア
チャート成績
編集週間チャート
編集チャート (1974年) | 最高位 |
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ベルギー (Ultratop 50 Flanders)[16] | 21 |
ベルギー (Ultratop 50 Wallonia)[17] | 38 |
Canada Top Singles (RPM)[36] | 1 |
ドイツ (GfK Entertainment charts)[18] | 22 |
アイルランド (IRMA)[37] | 7
|
日本 (オリコン) | 58 |
オランダ (Single Top 100)[19] | 7 |
ニュージーランド (Listener)[38] | 1 |
南アフリカ (Springbok Radio SA Top 20)[39] | 2 |
UK シングルス (OCC)[15] | 3 |
US Billboard Hot 100[40] | 1 |
US Adult Contemporary (Billboard)[41] | 22 |
認定
編集国/地域 | 認定 | 認定/売上数 |
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アメリカ合衆国 (RIAA)[47] | Gold | 1,000,000^ |
^ 認定のみに基づく出荷枚数 |
カバー・バージョン
編集発売後、「バンド・オン・ザ・ラン」は、多数のアーティストによってカバーされている。元ウイングスのメンバーであるデニー・レインは、1996年に発売したアルバム『Wings at the Sound of Denny Laine』で本作をカバーしている。
2007年にフー・ファイターズがBBC Radio 1開局40周年を記念したアルバム『Radio 1: Established 1967』で本作をカバー[48]し、翌年1月にフー・ファイターズのリード・シンガーであるデイヴ・グロールは、リヴァプールでの公演でマッカートニーと共に本作を演奏[49]。
ハートは、2014年に発売されたトリビュート・アルバム『アート・オブ・マッカートニー〜ポールへ捧ぐ』で本作をカバー[50]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ Gambaccini 1976.
- ^ a b Harper 2010.
- ^ McGee 2003, pp. 223–224.
- ^ a b Doyle 2014, p. 92.
- ^ Jackson 2012, p. 122.
- ^ a b c Mason, Stewart. Band on the Run - Paul McCartney & Wings | Song Info - オールミュージック. 2021年6月27日閲覧。
- ^ Rodriguez 2010, pp. 160.
- ^ Jackson 2012, pp. 108–109.
- ^ Christgau, Robert. “Paul McCartney: Band on the Run > Consumer Guide Album”. robertchristgau.com. 2021年6月27日閲覧。
- ^ Perasi 2013, pp. 103.
- ^ Visconti, Tony (2007). Tony Visconti: The Autobiography. Harper Collins. pp. 204-206. ISBN 0-0072-2944-5
- ^ Badman 2009.
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- ^ “Radio 1 Cover Versions”. BBC. 2021年6月29日閲覧。
- ^ “Paul McCartney watched by Yoko Ono in Liverpool as Dave Grohl helps out”. NME (BandLab Technologies). (2008年6月2日) 2021年6月29日閲覧。
- ^ Grow, Kory (2014年9月9日). “Paul McCartney Tribute Comp: Bob Dylan, Kiss and More Cover the Beatle”. Rolling Stone. Jann Wenner. 2021年6月29日閲覧。
参考文献
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- Doyle, Tom (2014). Man on the Run: Paul McCartney in the 1970s. Ballantine Books. ISBN 978-0-8041-7914-0
- Gambaccini, Paul (1976). Paul McCartney: In His Own Words. Music Sales Corp. ISBN 978-0-9662649-5-1
- Harper, Simon (2010年). “The Making Of Paul McCartney”. Clash Music. 2021年6月27日閲覧。
- Jackson, A.G. (2012). Still the Greatest: The Essential Solo Beatles Songs. Scarecrow Press. ISBN 978-0-8108-8222-5
- McGee, Garry (2003). Band on the Run: A History of Paul McCartney and Wings. Taylor Trade Publishing. ISBN 0-8783-3304-5
- Perasi (2013). Paul McCartney: Recording Sessions (1969-2013). L.I.L.Y. Publishing. ISBN 978-88-909122-1-4
- Rodriguez, Robert (2010). Fab Four FAQ 2.0: The Beatles' Solo Years, 1970-1980. Backbeat Books. ISBN 978-0-87930-968-8
- Spizer, Bruce (2005). The Beatles Solo on Apple Records. 498 Productions. ISBN 0-9662649-5-9
- Wiener, Allen J. (1994). The Beatles: The Ultimate Recording Guide. Bob Adams Press
関連項目
編集外部リンク
編集- Band on the Run - Geniusの歌詞ページ
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Billboard Hot 100 ナンバーワンシングル 1974年6月8日(1週) |
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