ヌクレオポリン (nucleoporin, Nup) は、核膜孔複合体の構成要素となるタンパク質ファミリーである[1]。核膜孔複合体は核膜の内膜と外膜が融合する部位に埋め込まれた巨大な構造で、細胞核細胞質の間の高分子の移動を調節する出入口を形成している。核膜孔は、核膜を越える分子輸送 (受動輸送と促進輸送) を可能にする。ヌクレオポリンは約30種類のタンパク質からなるファミリーで、真核生物細胞の核膜孔複合体の主要な構成要素である。Nup62英語版 (p62) がこのファミリーで最も豊富に存在するメンバーである[2]。核膜孔複合体は核膜を越える分子輸送を極めて高率で行うことができ、1個の複合体あたり毎分6万個のタンパク質を輸送することができる[3]

Nucleoporin
識別子
略号 Nucleoporin
Pfam PF03177
InterPro IPR004870
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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機能

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真核生物において、ヌクレオポリンは細胞核と細胞質の間の高分子の輸送を媒介する。ヌクレオポリンファミリーの特定のメンバーは、核膜孔複合体の構造的な足場を形成する。一方で、ヌクレオポリンの主要な機能は、カリオフェリンとして知られる輸送分子との相互作用である[4]。カリオフェリンは、フェニルアラニン (F) とグリシン (G) からなるリピート配列を持つヌクレオポリンと相互作用する[5]。このFGヌクレオポリンとの相互作用によって、カリオフェリンは積み荷とともに核膜を越えて往復することが可能になる。ヌクレオポリンは 40 kDaを超える巨大な親水的分子の輸送のみに必要であり、それよりも小さな分子は受動拡散によって核膜を通過する。ヌクレオポリンは、転写後にmRNAを核から細胞質へ輸送する際に重要な役割を果たす[6]。それぞれの機能に応じて、ヌクレオポリンは核膜孔複合体の細胞質側または核質側のいずれかに局在している。また、他のヌクレオポリンは両側に見つかることもある。近年、FGヌクレオポリンの配列に存在する進化的に保存された特徴によって、核膜孔複合体を通過する分子輸送が調節されていることが示された[7][8]

構造

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基本的構造要素の一部は、全てのヌクレオポリンに共通している。ヌクレオポリンは集合し、核膜孔を貫通する八角形のリング構造である核膜孔複合体を形成する。ヌクレオポリンには、それぞれが独自の構造と機能を持つ3つのタイプが存在する。構造ヌクレオポリン (structural nucleoporin)、膜ヌクレオポリン (membrane nucleoporin)、FGヌクレオポリン (FG-nucleoporin) の3つである[3]

構造ヌクレオポリンは核膜孔複合体のリング部分を形成する。それらは核膜を貫通しており、しばしば核膜孔の足場と呼ばれる。構造ヌクレオポリンは集合して、7つのヌクレオポリンから構成されるY複合体を形成する。各核膜孔複合体は16個のY複合体、計112個の構造ヌクレオポリンを含んでいる。Y複合体の構造はCOPIIの構造ときわめて類似している。核膜孔における膜の湾曲とY複合体の関係は、COPII被覆小胞の出芽形成と相似である[3]

膜ヌクレオポリンは核膜孔の湾曲した膜の部分、核膜の内膜と外膜が連結される領域に埋め込まれている。

FGヌクレオポリンは、フェニルアラニンとグリシン残基のリピートを含むため、この名前が付けられている。FGリピートは、長い親水性アミノ酸領域を区切る小さな疎水性部分から構成される。これらのFGリピートは核膜孔チャネルへ伸びる長いランダムコイル部分に存在し、核膜孔複合体の選択的特異性の主要な機能を担う。これらは鎖の塊を形成し、小さな分子は拡散するが、大きな親水的高分子は通過させない。FGリピートと一時的な相互作用を行うシグナル伝達分子を伴っているときのみ、これらの高分子は核膜孔を通過することができる。また、FGヌクレオポリンは核膜孔複合体へ結合するアンカー部位として機能する球状部分を含んでいる[3]

ヌクレオポリンは、互いにさまざまな部分的複合体を形成することが示されている。このような複合体で最もよくみられるものはp62複合体であり、Nup62、Nup58、Nup54、Nup45からなる集合体である[9]。他の例としては、Nup107-160複合体があり、多数のヌクレオポリンから構成される。Nup107-160複合体は動原体に局在し、有糸分裂時に機能する[10]

輸送機構

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ヌクレオポリンは、輸送分子であるカリオフェリンと相互作用することで、核膜を通過する高分子輸送を調節する。カリオフェリンは積み荷に結合し、ヌクレオポリンのFGリピートと可逆的に相互作用する。カリオフェリンと積み荷はFGリピートの間を通過し、濃度勾配に従って核膜孔複合体を通って拡散する。カリオフェリンは核内への輸送を行うインポーチン、もしくは核外への輸送を行うエクスポーチンとして機能する[3]。カリオフェリンからの積み荷の解放はGタンパク質であるRanによって駆動される。Ranは、ヌクレオポリンと相互作用せずに濃度勾配に従って核膜孔を通過できるほど小さい分子である。RanはGTPまたはGDPを結合し、積み荷に対するカリオフェリンの親和性を変化させる能力を有している。核内では、GTPを結合したRan (RanGTP) はインポーチンのコンフォメーション変化を引き起こし、その積み荷を解放する。また、RanGTPはエクスポーチンにも結合し、核膜孔を通過することができる。細胞質へ到着するとRanGTPはRanGDPへと加水分解され、エクスポーチンの積み荷が解放される[11]

病理学

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いくつかの疾患、特に糖尿病原発性胆汁性胆管炎パーキンソン病アルツハイマー病が、ヌクレオポリンと関連している。また、さまざまなヌクレオポリンをコードする遺伝子の過剰発現が悪性腫瘍の形成と関係していることが示されている。

ヌクレオポリンは、グルコースの濃度変化に対する感受性が極めて高いことが示されている。そのため糖尿病の患者では、ヌクレオポリン、特にNup62のグリコシル化がしばしば増加している[2]

p62複合体を阻害する抗p62抗体英語版などが見つかる自己免疫状態は、肝臓胆管が破壊される原発性胆汁性胆管炎と関係している[9]

p62複合体の産生の減少は、多くの神経変性疾患でみられる。p62のプロモーター酸化による修飾は、神経変性疾患の中でもアルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病との相関がみられる[12]

Nup88英語版をコードする遺伝子の発現の増加は、前がん段階の異形成悪性新生物でよくみられる[13]

ヌクレオポリンタンパク質ALADIN英語版は核膜孔複合体の構成要素である。aladin遺伝子の変異は、常染色体劣性神経内分泌疾患であるAAA症候群英語版の原因となる。ALADINの変異によってタンパク質の核内輸送が選択的に損なわれ、酸化ストレスに対して過剰な感受性を示すようになる[14]DNA修復タンパク質アプラタキシン英語版DNAリガーゼIの核内輸送が選択的に減少し、それによって酸化ストレス損傷に対するDNAの脆弱性が増大している可能性がある[14]

ヌクレオポリンは、それぞれその分子量に対応する名前が付けられている。下に挙げられているのは、ヌクレオポリンファミリーのタンパク質の一部の例である。

出典

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  1. ^ “From nucleoporins to nuclear pore complexes”. Current Opinion in Cell Biology 9 (3): 401–11. (June 1997). doi:10.1016/S0955-0674(97)80014-2. PMID 9159086. 
  2. ^ a b “Responsiveness of the state of O-linked N-acetylglucosamine modification of nuclear pore protein p62 to the extracellular glucose concentration”. The Biochemical Journal 350 Pt 1: 109–14. (August 2000). doi:10.1042/0264-6021:3500109. PMC 1221231. PMID 10926833. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1221231/. 
  3. ^ a b c d e Lodish H (2013). Molecular Cell Biology (Seventh ed.). New York: Worth Publ.. ISBN 1-4292-3413-X 
  4. ^ “Deciphering networks of protein interactions at the nuclear pore complex”. Molecular & Cellular Proteomics 1 (12): 930–46. (December 2002). doi:10.1074/mcp.t200012-mcp200. PMID 12543930. 
  5. ^ “Introduction to nucleocytoplasmic transport: molecules and mechanisms”. Methods in Molecular Biology 322: 235–58. (2006). doi:10.1007/978-1-59745-000-3_17. PMID 16739728. 
  6. ^ “Molecular basis for specificity of nuclear import and prediction of nuclear localization”. Biochimica et Biophysica Acta 1813 (9): 1562–77. (September 2011). doi:10.1016/j.bbamcr.2010.10.013. PMID 20977914. 
  7. ^ “Evolutionarily Conserved Sequence Features Regulate the Formation of the FG Network at the Center of the Nuclear Pore Complex”. Scientific Reports 5: 15795. (November 2015). doi:10.1038/srep15795. PMID 26541386. http://www.nature.com/articles/srep15795. 
  8. ^ “Physical motif clustering within intrinsically disordered nucleoporin sequences reveals universal functional features”. PLOS One 8 (9): e73831. (2013-09-16). doi:10.1371/journal.pone.0073831. PMC 3774778. PMID 24066078. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3774778/. 
  9. ^ a b “Profile and clinical significance of anti-nuclear envelope antibodies found in patients with primary biliary cirrhosis: a multicenter study”. Journal of Autoimmunity 20 (3): 247–54. (May 2003). doi:10.1016/S0896-8411(03)00033-7. PMID 12753810. 
  10. ^ “The entire Nup107-160 complex, including three new members, is targeted as one entity to kinetochores in mitosis”. Molecular Biology of the Cell 15 (7): 3333–44. (July 2004). doi:10.1091/mbc.E03-12-0878. PMC 452587. PMID 15146057. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC452587/. 
  11. ^ “Ran, a GTPase involved in nuclear processes: its regulators and effectors”. Journal of Cell Science 109 ( Pt 10): 2423–7. (October 1996). PMID 8923203. 
  12. ^ “Oxidative damage to the promoter region of SQSTM1/p62 is common to neurodegenerative disease”. Neurobiology of Disease 35 (2): 302–10. (August 2009). doi:10.1016/j.nbd.2009.05.015. PMC 2718328. PMID 19481605. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2718328/. 
  13. ^ "Entrez Gene: NUP88 nucleoporin 88kDa"
  14. ^ a b “ALADINI482S causes selective failure of nuclear protein import and hypersensitivity to oxidative stress in triple A syndrome”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103 (7): 2298–303. (February 2006). doi:10.1073/pnas.0505598103. PMC 1413683. PMID 16467144. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1413683/. 

関連人物

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外部リンク

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