タナトテリステス(Thanatotheristes)(「刈り取る死神」の意)[1][2]は、後期白亜紀(約7950万年前)のララミディア大陸に生息していたティラノサウルス科獣脚類の一つ。アルバータ州フォアモスト層化石が発見された。中型ケラトプス類ゼノケラトプスや小型パキケファロサウルス類コレピオケファレなどと共存した[3]ダスプレトサウルスの可能性がある。

タナトテリステス
生息年代: 中生代後期白亜紀、80.1–79.5 Ma
タナトテリステスの復元図
地質時代
中生代後期白亜紀
(約8010万~7950万年前)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
階級なし : 真竜盤類 Eusaurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : 鳥吻類 Averostra
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
上科 : ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
: ティラノサウルス科 Tyrannosauridae
亜科 : ティラノサウルス亜科 Tyrannosaurinae
: ダスプレトサウルス族 Daspletosaurini
: タナトテリステス属 Thanatotheristes
学名
Thanatotheristes
Voris et al.2020
  • T. degrootorum Voris et al.2020(タイプ種)

命名

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2020年に模式種ナトテリステス・デグロオトルムが命名された。属名はを神格化したギリシャ神話の神タナトスに由来し、種小名は「刈り取る者」を意味し、併せて「死を刈り取る神」といった意になる[3]

特徴

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タナトテリステスとヒトとの大きさの比較

タナトテリステス・デグロオトルムのホロタイプ(TMP 2010.5.7) は、右上顎骨、右頬骨、右後眼窩骨、右上角骨、右方形骨、右の側蝶形骨、左前頭骨、両方の歯骨で構成される。頭骨長は約80センチメートル。近縁属であるダスプレトサウルスよりも小さいが、ホロタイプの個体は骨格的には未成熟である。参考標本TMP 2018.016.0001 は、亜成体の断片的な右上顎骨のみに基づく。 これはフォアモスト層のヘロントン砂岩上部のTwelve Mile Coulee で発見された。種小名は模式標本を発見したジョン・デ・グルートとサンドラ・デ・グルートへの献名である[1]

T・デグロオトルムは以下の形質によって特徴付けられる[1]

  • 頭骨の表面における、上顎骨の腹側と前眼窩窓に等間隔で並んだ正中線方向の一列の隆起。
  • 顎骨の丸みを帯びた膨らみのある眼窩縁。
  • 前頭骨側矢状突起は上顎骨稜の前方に広く丸みを帯びた隆起として延びる。
  • 前頭骨と涙骨の接触面が前頭骨間縫合線に対して60°以下で前方に延びる。
  • 頭頂骨の腹側表面に前頭骨と関節を形成する2つの後方に突出した枝を持つ。

このタナトテリステスの模式種の全長は、頭骨要素と近縁種からの比較情報に基づき約8メートルと推定されている[4]

系統発生

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タナトテリステスの正式記載により、ティラノサウルス科の中にティラノサウルス亜科の姉妹群であるダスプレトサウルス族という新分類群が誕生した。この分類群は1種のタナトテリステスと2種のダスプレトサウルス、そして未命名のダイナソーパーク層のティラノサウルス科 (FMNH PR308)を内包する。ダスプレトサウルス亜科の存在はティラノサウルス科の中でも地理的な棲み分けがあることを示しており、ララミディアの南部にはビスタヒエヴェルソルリトロナクステラトフォネウスによって形成されたクレードが、カナダおよびアメリカ北部にはアルバートサウルス亜科とダスプレトサウルス族が棲息していた[1]

以下のクラドグラムは Voris et al. (2020) の系統解析に基づく[1]

エウティラノサウリア

Dryptosaurus aquilunguis

Appalachiosaurus montgomeriensis

Bistahieversor sealeyi

ティラノサウルス科
アルバートサウルス亜科

Gorgosaurus libratus

Albertosaurus sarcophagus

ティラノサウルス亜科
アリオラムス族

Qianzhousaurus sinensis

Alioramus remotus

Alioramus altai

Teratophoneus curriei

Dynamoterror dynastes

Lythronax argestes

Nanuqsaurus hoglundi

ダスプレトサウルス族

Thanatotheristes degrootorum

Daspletosaurus torosus

Daspletosaurus horneri

Zhuchengtyrannus magnus

Tarbosaurus bataar

Tyrannosaurus rex

なお、Yun (2020) による亜成体のダスプレトサウルス・トロススの前頭骨の解析では、前頭骨の形態の差が大きいことから、ティラノサウルス科の前頭骨の固有派生形質のいくつかに不備があるとされた。すなわち、同研究ではタナトテリステス・デグロオトルムを独立した属と見なすための形質が不十分とされ、本種はダスプレトサウルスの種として扱われている[5]

出典

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  1. ^ a b c d e Voris, Jared T.; Therrien, Francois; Zelenitzky, Darla K.; Brown, Caleb M. (2020). “A new tyrannosaurine (Theropoda:Tyrannosauridae) from the Campanian Foremost Formation of Alberta, Canada, provides insight into the evolution and biogeography of tyrannosaurids”. Cretaceous Research 110: 104388. doi:10.1016/j.cretres.2020.104388. 
  2. ^ Thanatos, n.”. OED Online. Oxford University Press (September 2014). 18 November 2014閲覧。
  3. ^ a b 小林快次 (2021年3月10日). “50年ぶりの新種発見…カナダにはいつからティラノ軍団が棲息していたのか?”. 講談社. 2021年3月10日閲覧。
  4. ^ Black, Riley (February 10, 2020). “Newly Discovered Tyrannosaur Was Key to the Rise of Giant Meat-Eaters” (英語). Smithsonian. https://www.smithsonianmag.com/science-nature/newly-discovered-tyrannosaur-was-key-rise-giant-meat-eaters-180974156/ 2020年2月11日閲覧。 
  5. ^ Chan-gyu Yun (2020). “A Subadult Frontal of Daspletosaurus torosus (Theropoda: Tyrannosauridae) from the Late Cretaceous of Alberta, Canada with Implications for Tyrannosaurid Ontogeny and Taxonomy”. PalArch's Journal of Vertebrate Palaeontology 17: 1–13. https://www.researchgate.net/publication/344187485_A_Subadult_Frontal_of_Daspletosaurus_torosus_Theropoda_Tyrannosauridae_from_the_Late_Cretaceous_of_Alberta_Canada_with_Implications_for_Tyrannosaurid_Ontogeny_and_Taxonomy.