ストークスシフト: Stokes shift)は、同一の電子遷移吸光および発光スペクトル(例えば蛍光ラマンなど)のバンド極大の位置の間の差(波長あるいは周波数単位)である[1]。名称はアイルランドの物理学者ジョージ・G・ストークスに由来する[2][3][4]

~25 nmのストークスシフトを持つローダミン6Gの吸光および発光スペクトル

系(分子あるいは原子)が光子を吸収する時、系はエネルギーを得て、励起状態に入る。系が緩和する1つの方法は光子を放出しエネルギーを失うことである(他にはエネルギーを失う方法もある)。放出された光子が吸収された光子よりも小さいエネルギーを持つ時、このエネルギー差がストークシフトである。放出される光子のエネルギーが吸収された光子のエネルギーより大きい時は、このエネルギー差は反ストークスシフトと呼ばれる[5]。この追加エネルギーは結晶格子中の熱フォノンの散逸から来ており、この過程で結晶は冷却される。酸硫化ガドリニウムをドープされた酸硫化イットリウムは一般的な工業的反ストークス色素であり、近赤外光を吸収し、可視光領域で発光する。フォトン・アップコンバージョンも反ストークス過程の一つである。ストークスシフトは、振動緩和(あるいは散逸)および溶媒の再組織化の2つの作用の結果である。フルオロフォア(蛍光体)は水分子で囲まれた双極子である。フルオロフォアが励起状態に入った時、その双極子モーメントは変化するが、水分子はこれに素早く適応することができない。振動緩和の後にのみ、それらの双極子モーメントの再編成が起こる。

ストークス蛍光

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ストークス蛍光は、より短い波長(高周波数、高エネルギー)の光子を吸収している分子によるより長い波長(低周波数、低エネルギー)の光子の再放出である[6]。エネルギーの吸収と放射(放出)の両方は特定の分子構造に固有の特徴である。材料が可視光領域に直接バンドギャップを持つとすると、それを照らす光は吸収され、電子はより高いエネルギー状態へ励起する。この電子は励起状態におよそ10−8秒間留まる。この数字は試料によって数桁異なり、試料の蛍光寿命と呼ばれる。振動緩和によって少量のエネルギーが失われた後、分子は基底状態に戻り、エネルギーが放出される。

脚注

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  1. ^ Gispert, J.R. (2008). Coordination Chemistry. Wiley-VCH. p. 483. ISBN 3-527-31802-X. https://books.google.com/books?id=9d893122U6kC 
  2. ^ Albani, J.R. (2004). Structure and Dynamics of Macromolecules: Absorption and Fluorescence Studies. Elsevier. p. 58. ISBN 0-444-51449-X. https://books.google.co.uk/books?id=9CiMA3K1aPkC&hl=en 
  3. ^ Lakowicz, J.R. 1983. Principles of Fluorescence Spectroscopy, Plenum Press, New York. ISBN 0-387-31278-1.
  4. ^ Guilbault, G.G. 1990. Practical Fluorescence, Second Edition, Marcel Dekker, Inc., New York. ISBN 0-8247-8350-6.
  5. ^ Kitai, A. (2008). Luminescent Materials and Applications. John Wiley and Sons. p. 32. ISBN 0-470-05818-8. https://books.google.co.uk/books?id=yLy07tnBZ90C&hl=en 
  6. ^ Rost, F.W.D. (1992). Fluorescence Microscopy. Cambridge University Press. p. 22. ISBN 0-521-23641-X. オリジナルの2012年11月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20121113051227/http://books.google.co.uk/books?id=RU_6doL1q0IC 

関連項目

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