ストルワート級音響測定艦

ストルワート級音響測定艦英語: Stalwart-class ocean surveillance ship)は、アメリカ海軍音響測定艦(T-AGOS)の艦級。1979年度から1987年度で18隻が建造された[1]

ストルワート級音響測定艦
基本情報
艦種 音響測定艦 (T-AGOS)
運用者  アメリカ海軍
 ポルトガル海軍
 ニュージーランド海軍
就役期間 1984年 - 2004年
建造数 18隻
前級 なし
次級 ヴィクトリアス級音響測定艦
要目
満載排水量 2,285トン
総トン数 1,584トン
全長 68.28 m
13.10 m
吃水 4.57 m
機関方式 ディーゼル・エレクトリック方式
主機
推進器 スクリュープロペラ×2軸
出力 2,200馬力
速力 11ノット
航続距離 3,000海里 (11kt巡航時)
+6,480海里 (3kt巡航時)
燃料 834トン
航海日数 98日間
乗員 士官8名+船員11名+技術者11名
レーダー 航海用
ソナー AN/UQQ-2 SURTASS
テンプレートを表示

来歴

編集

アメリカ海軍では、1940年代より海洋における音波伝搬の研究に着手した。これはまず、墜落した航空機搭乗員の位置を局限するシステムとして結実したが、低周波の遠距離伝播という特性から、まもなく潜水艦の広域捜索への応用可能性が注目され[2]1960年末よりSOSUSとして実戦配備された[3]。当時、水上航走やシュノーケル航走が不要な原子力潜水艦の配備が進展したことで、レーダーやアクティブ・ソナーなどによる探知可能性は極めて低くなっていたのに対し、原子力潜水艦は常に原子炉蒸気タービンからノイズを発生するという特性があり、パッシブ・ソナーによる聴知は有望と期待された。SOSUSはこのパッシブ対潜戦システムの中核として、対潜捜索に非常に活躍した[2][4]

しかしソビエト連邦諜報活動などによってこのパッシブ対潜戦システムの重要性に気づき、1970年代中期より、ヴィクターIII型SSN(671RTM型)チャーリーII型SSGN(670M型)デルタ型SSBN(667B型)など、対抗策を講じて静粛性を格段に向上させた潜水艦の艦隊配備を開始した。これにより、アメリカ軍のパッシブ対潜戦システムの効果は減殺されはじめていた[4]

このことから、SOSUSを補完して機動的運用される広域捜索センサーとして開発されたのがSURTASSである。アメリカ海軍では、1960年代よりリニアアレイを用いた長距離探知の研究に着手しており、まず第一世代のシステムとして、1967年にAN/SQR-14、1971年にAN/SQR-15が配備されていた[5]。SURTASSはAN/SQR-15を代替して、1984年より配備された[3]。1985年には、SOSUSとSURTASSの組み合わせは、統合水中監視システム(IUSS)として認知された[2]。そしてそのSURTASSの搭載艦として設計されたのが本級である[1]

設計

編集

船体設計はポーハタン級艦隊航洋曳船との類似性が指摘されており[6]、チャイン形状はフラットで、ビルジキールも省かれている。低速時の安定性が求められたこともあり、減揺装置としては減揺タンクが採用された。機関方式はディーゼル・エレクトリック方式で、電源としてはキャタピラー-カトーD-398Bディーゼルエンジンを原動機とする発電機4基を搭載した。これらの発電機から船内サービスにも給電されており、この用途への出力は1,500 kVAである。この他に出力265キロワットの非常発電機も搭載された[1]

上記の経緯より、本級の主要な装備となったのがAN/UQQ-2 SURTASSである。これは艦尾から曳航される長大なパッシブ・ソナー・アレイであり、収集された音響情報はAN/WSC-6衛星通信装置を介して地上の海軍海洋信号処理施設(Naval Ocean Processing Facility, NOPF)に転送され、SOSUSの受信信号とともに解析される[2][3]。乗艦している技術者は、基本的には機器の維持管理にあたっている。なお任務の性格上、哨戒任務一回あたりの航海日数は60~90日間におよび、年に292日間は海に出ることになる[1]

なお、のちに一部の艦はSURTASSを撤去し、AN/SPS-40対空捜索レーダーを搭載して、麻薬密輸機の探知任務にあたった[6]

同型艦一覧

編集
# 艦名 就役 退役 その後
T-AGOS-1 ストルワート
USNS Stalwart
1983年
7月11日
2002年
11月15日
ニューヨーク海事大学の実習船として再就役
T-AGOS-2 コンテンダー
USNS Contender
1984年
7月29日
1992年
12月11日
合衆国商船大学の練習船として再就役
T-AGOS-3 ヴィンデケィター
USNS Vindicator
1984年
11月21日
1993年
6月30日
沿岸警備隊、2001年からは海洋大気庁で再就役
T-AGOS-4 トライアンフ
USNS Triumph
1985年
2月19日
1995年
1月6日
T-AGOS-5 アシュアランス
USNS Assurance
1985年
5月1日
1995年
1月6日
ポルトガル海軍「アルミランテ・ガゴ・コーティーニョ」として再就役
T-AGOS-6 パーシスタント
USNS Persistent
1985年
8月14日
1994年
10月12日
グレートレイク海事大学の実習船として再就役
T-AGOS-7 インドミタブル
USNS Indomitable
1985年
12月1日
2002年
12月2日
海洋大気庁の調査船として再就役
T-AGOS-8 プリヴェイル
USNS Prevail
1986年
3月4日
2003年10月17日、雑役船に類別変更
T-AGOS-9 アサーティヴ
USNS Assertive
1986年
9月8日
2004年
3月3日
シアトル海事大学の実習船として再就役
T-AGOS-10
→ T-AGM 24
インヴィンシブル
USNS Invincible
1987年
1月30日
2000年、ミサイル追跡艦として類別変更
T-AGOS-11 オーダシャス
USNS Audacious
1989年
6月12日
1996年
12月9日
ポルトガル海軍「ドン・カルロスI世」として再就役
T-AGOS-12 ヴィゴロス
USNS Vigorous
→ ボルド
USNS Bold
1989年
10月16日
2004年
3月3日
環境保護庁の調査船として再就役
T-AGOS-13 アドヴェンテュラス
USNS Adventurous
1988年
8月19日
1992年
6月5日
海洋大気庁の調査船として再就役
T-AGOS-14 ウォーシー
USNS Worthy
1989年
4月7日
1993年
5月20日
1995年、アメリカ陸軍のミサイル追跡艦として再就役
T-AGOS-15 タイタン
USNS Titan
1989年
3月8日
1993年
8月31日
海洋大気庁の調査船として再就役
T-AGOS-16 ケイパブル
USNS Capable
1989年
6月9日
2004年
9月14日
海洋大気庁の調査船として再就役
T-AGOS-17 イントレピッド
USNS Intrepid
→ テネイシャス
USNS Tenacious[注 1]
1989年
9月29日
1997年
2月6日
ニュージーランド海軍「レゾリューション」として再就役
2014年には中国企業に売却
T-AGOS-18 リレントレス
USNS Relentless
1990年
1月12日
1993年
3月17日
海洋大気庁の調査船として再就役

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 改名は、空母イントレピッド」の退役兵団体より、音響測定艦は歴戦の空母の艦名を襲名するには不適当であるとの抗議を受けた措置であった[1]

出典

編集
  1. ^ a b c d e Prezelin 1990, p. 865-866.
  2. ^ a b c d 小林 2018.
  3. ^ a b c Friedman 1997, pp. 23–24.
  4. ^ a b 山崎 2016.
  5. ^ Li 2012, p. 524.
  6. ^ a b Polmar 2005, p. 617.

参考文献

編集
  • Friedman, Norman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 9781557502681 
  • Li, Qihu (2012). Digital Sonar Design in Underwater Acoustics: Principles and Applications. シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア. ISBN 978-3642182907. https://books.google.co.jp/books?id=WZuBmNOLGo8C 
  • Prezelin, Bernard (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. ISBN 978-0870212505 
  • 小林, 正男「現代の潜水艦 第23回」『世界の艦船』第880号、海人社、2018年6月、141-147頁。 
  • 山崎, 眞「水上艦と潜水艦 今どっちが優勢か? (特集 世界の水上戦闘艦 その最新動向)」『世界の艦船』第832号、海人社、2016年3月、106-109頁、NAID 40020720360