ザ・ウォールド・オフ・ホテル
ザ・ウォールド・オフ・ホテル(英: The Walled Off Hotel)は、パレスチナのヨルダン川西岸地区ベツレヘムにある宿泊施設である[1]。「全ての客室からパレスチナ人抑圧の象徴である分離壁が見える」ため、『世界一眺めの悪いホテル』といううたい文句でも知られている[1][4][2][3]。
ザ・ウォールド・オフ・ホテル | |
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ホテル概要 | |
正式名称 | The Walled Off Hotel |
階数 | 1 - 3階 |
部屋数 | 9[1]室 |
開業 | 2017年3月20日[1][2] |
所在地 | パレスチナベツレヘム[1][3] |
位置 | 北緯31度43分09秒 東経35度12分12秒 / 北緯31.7193度 東経35.2033度座標: 北緯31度43分09秒 東経35度12分12秒 / 北緯31.7193度 東経35.2033度 |
公式サイト | 公式サイト |
概要
編集ベツレヘム市を囲む分離壁に面して建っているホテルであり、2017年3月20日に開業した[1]。2005年頃から分離壁に風刺画を描き、分離壁を芸術の場へと変えた[3]、イギリスの覆面グラフィティアーティストのバンクシーが出資し[1]、地元ビジネスマン兼支配人のウィサム・サルサーと開いた[5][6]。元々は陶器製作所であり、改装工事中は何の施設になるかは公表されなかった[1]。 ホテルの開業にともない、バンクシーはパレスチナ問題に関する人々全てを歓迎するという声明を発表し[1]、ウィサムはパレスチナの人々に、暴力に訴えずとも芸術によって世界中の人々に声を伝えられると示せたということを語っている[3]。
特徴
編集分離壁までわずか4メートルの位置にある[6]ため、客室に直射日光が入るのは1日わずか25分である[4]。どの部屋からも分離壁とイスラエル軍の監視塔を見ることができる[1]。部屋によっては壁の向こうの、国際法下では違法な、イスラエルの入植地を見ることができる[4]。値段は30ドル[1]から965ドルの「プレジデンシャル・スイート」まである[5]。
中にはバンクシーの作品が多数飾られ、ディストピア・コロニアル調、またはデカダン・コロニアル調と評されている。ロビーの壁には監視カメラやパチンコなどが飾られ、クラシカルな煙に巻かれた男性の胸像や、ガスマスクで顔を覆った天使の像などが置かれている[3]。バルフォア宣言にサインするアーサー・バルフォアの動く人形もあり、ボタンを押すと再現が始まる[5][6]。
部屋の内装には、イスラエル兵とパレスチナ人が枕を振り回して戦っていて羽毛が飛び散っている絵が描かれたバンクシーの作品や[1]、プレジデンシャル・スイートのチーターの絵の前のシマウマ模様のソファーのクッションからは、内臓が出た蛇が飛び出ていたりする。またプレジデンシャル・スイートのジャグジーのお湯は、パレスチナ人の家の屋上にあるような給水タンクから漏れるように供される[4][5][6]。
20ドル払えば、分離壁に政治的ステンシルをスプレーすることができる[5]。
施設
編集館内には、パレスチナ人作家の作品を集めた、ベツレヘム初のギャラリーであるギャラリーや[4]、エセックス大学のギャビン・グリンドン教授が協力した[4][7]、地域の歴史や分離壁について解説した小博物館がある。また、イギリスが初めてパレスチナに手をつけた1917年をイメージしたピアノバーと、分離壁に付いてこれまでに書かれた本をすべて集めた本屋もある[8]。
付設のウォールマート(WallMart)ではステンシル用品に加え貸しハシゴも提供している[9]。
一時閉鎖
編集2023年10月7日にパレスチナ領域の飛び地であるガザ地区を支配するハマスがイスラエル南部を襲撃するとともにイスラエル領内に数千発のロケット弾を撃ち込み、イスラエルが国防軍によるガザへの地上進軍を示唆し緊張が高まる同年10月12日に、ザ・ウォールド・オフ・ホテルは、「地域の大規模な出来事」のため一時閉鎖し、予約も当分受けつけない事を発表した[10][11]。ザ・ウォールド・オフ・ホテル自体はガザ地区でなく、ヨルダン西岸地区に位置しているが、10月7日以降に同地区内のイスラエルによる急襲が急増した[12]。
ギャラリー
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目の前に分離壁が立ちはだかるホテルの入り口
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ホテル入り口とドアマン
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ピアノが置かれたホテルのラウンジ
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『フラワー・スローワー』などが飾られたホテル・ラウンジと小博物館の入り口
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汚職にまみれた権力者に最適な『プレジデンシャル・スイート』
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ホテルの前の分離壁。
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ホテルの前の分離壁。
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ホテルの前の分離壁。
出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k l “「世界一眺めの悪いホテル」 パレスチナで開業”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017-03-21日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ a b “「世界一眺めの悪いホテル」、パレスチナ人隔てた壁一望”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2017-03-21日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ a b c d e “バンクシーが手がけた「世界一眺めが悪いホテル」はキリスト生誕の地にある”. 朝日新聞GLOBE+ (朝日新聞社). (2018年10月4日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ a b c d e f “'Worst view in the world': Banksy opens hotel overlooking Bethlehem wall” (英語). ガーディアン. (2017年3月3日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ a b c d e “Banksy Hotel in the West Bank: Small, but Plenty of Wall Space” (英語). ニューヨーク・タイムズ. (2017年4月16日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ a b c d “Banksy opens Walled Off Hotel in Bethlehem” (英語). アルジャジーラ. (2017年3月4日) 2020年4月6日閲覧。
- ^ “「世界最悪の眺め」が売りのホテルが誕生”. CNN.co.jp (2017年3月7日). 2024年4月6日閲覧。
- ^ “Facilities” (英語). The Walled Off Hotel. 2020年4月6日閲覧。
- ^ “Wall Mart” (英語). TheWalled Off Hotel. 2020年4月6日閲覧。
- ^ “The Walled Off Hotel” (英語). The Walled Off Hotel. 2023年10月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月29日閲覧。
- ^ Velie, Elaine (2023年12月21日). “Banksy Hotel in Occupied West Bank Shutters” (英語). Hyperallergic. 2024年3月29日閲覧。
- ^ “Israel hits Bethlehem in Christmas raids on occupied West Bank” (英語). アルジャジーラ. 2024年3月29日閲覧。