コメツキムシ

コウチュウ目の科、またそれに属する昆虫の総称

コメツキムシ(米搗虫、叩頭虫)は、昆虫綱コウチュウ目に属するコメツキムシ科に属する昆虫の総称である[7]。和名をコメツキムシとする種はない。

コメツキムシ
サビキコリ属の一種 Agrypnus murinus
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目(鞘翅目) Coleoptera
亜目 : カブトムシ亜目 Polyphaga
上科 : コメツキムシ上科 Elateroidea
: コメツキムシ科 Elateridae
和名
コメツキムシ
英名
Click beetle
下位分類(亜科)
擬死行動をとるコメツキムシ

仰向けにすると、自ら跳ねて元に戻る能力がある小型甲虫。米をつく動作に似ていることからこの名前がある。ただしベニコメツキ属など跳ねないものもいる[7]

特徴

編集
 
Pyrearinus termitilluminans の幼虫が居候するシロアリ塚で発光する。ブラジル、ゴイアス州ミネイロス英語版にて。

比較的硬い体の甲虫。外見的にはタマムシ類にも似ている。体型としては幅が狭く、縦長で腹背にやや扁平。小さい方は1ミリメートルほどのものから8センチメートルに達するものまであり、日本ではウバタマコメツキCryptalaus berus)やヒゲコメツキなどが3センチメートル程度になるのが大きい方である。

頭部はまっすぐ前を向き、口器は小さいがしっかりした噛む口となっている。触角は先細りの単純な形のものが多い。中には節ごとに突き出して鋸歯状や羽状になった例もあり、日本ではヒゲコメツキが立派な触角を持つことで有名。

胸部と腹部は幅広くつながる。前翅は後方に狭まる。体色は全体に単純で地味なものが多く、黒から褐色のものが多い。しかし熱帯では金属光沢を持っているものもあり、日本では八重山諸島に産するヨツモンオオアオコメツキなどはその例である。また多様な色や斑文を持つものもある。日本ではベニコメツキが真っ赤な前翅を持つのでよく目立つ。主に中南米に生息するヒカリコメツキ類[注 1]は、多くが胸部の背側に1対の発光器を有する[8]

生態

編集

コメツキムシには普段は草や低木の上などに住む種が多い。石の下に住むものもいる。天敵に見つかると足をすくめて偽死行動をとる(世に言う「死んだふり」)。その状態で、平らな場所で仰向けにしておくと跳びはね、腹を下にした姿勢に戻ることができる。(胸-腹の関節を曲げ、胸を地面にたたきつけると誤解されるが、頭-胸を振り上げている。地面に置かず手に持つことで確認できる。(昆虫の構造については昆虫へ))この時はっきりとパチンという音を立てる。英語名のClick beetleはクリック音を出す甲虫を意味する。

天敵などの攻撃を受けてすぐに飛び跳ねる場合もある。これは音と飛び跳ねることによって威嚇していると考えられている。この行動をとらないコメツキムシ科の種も存在する。

幼虫の多くは土壌性で、細長い円筒形で硬く、光沢のある茶色をしているものが多い。腐植質を食べるものや、他の虫を食べるものがいる。栽培植物の根や地下茎などを食害する種もおり、農業や園芸関係では一般に「ハリガネムシ」と呼んで防除の対象にしている。大根ジャガイモなどの害虫として知られるマルクビクシコメツキ、クロクシコメツキ、クシコメツキ、トビイロムナボソコメツキ、コガネコメツキ等の幼虫がこれにあたる。標準和名ハリガネムシと呼ばれているのは、類線形動物門に属しコメツキムシと全く異なる生物である。

ヒカリコメツキ類は夜になると自動車のヘッドライトのように連続発光するが、その目的は敵の威嚇と考えられており、刺激を与えることによっても発光する[8]ブラジルエマス国立公園で発見された Pyrearinus termitilluminans の幼虫はシロアリ塚に棲みつきしながら発光し、初めて「光るシロアリ塚」のことが記録された1850年以来、複数の旅行者たちから関心の的とされてきた[9]が、この発光に関してはシロアリなどが光に集まる習性を利用しておびき寄せ、捕食するためのものであると考えられている[10][8]

分類

編集

世界で約10000種[7]、日本で約700種が知られる[11]。一部を記した。なお、種名など、科以下の分類群名はコメツキムシの前に様々な修飾がつくが、コメツキムシの「ムシ」は省略して記するのが普通。

コメツキムシ亜科 Elaterinae

編集
  • オオナガコメツキ属 Elater
  • クチボソコメツキ属 Glyphonyx
  • アシブトコメツキ属 Anchastus
  • ヒメコメツキ属 Dalopius
  • ホソコメツキ属 Dolerosomus
  • チャイロコメツキ属 Ectamenogonus

オオコメツキ亜科 Pityobiinae

編集

京都府レッドデータブック (2002) ではPectocera属のヒゲコメツキがこの亜科のものとして扱われているが、Kundrata et al. (2019:129–130) は以下の2属しか認めていない。

Oxynopterinae

編集

大平 (1962:13) はこの下にヒゲコメツキを置き、亜科名を「ヒゲコメツキ亜科」としている。

ベニコメツキ亜科 Denticollinae

編集
  • ベニコメツキ属 Denticollis
  • シモフリコメツキ属 Actenicerus
  • ツヤハダコメツキ属 Hemicrepidius
  • オオツヤハダコメツキ属 Stenagostus
  • トラフコメツキ属 Selatosomus

クシコメツキ亜科 Melanotinae

編集
  • クシコメツキ属 Melanotus

ミズギワコメツキ亜科 Negastriinae

編集
  • ミズギワコメツキ属 Fleutiauxellus
  • ツヤミズギワコメツキ属 Oedostethus

ハナコメツキ亜科 Cardiophorinae

編集
  • ハナコメツキ属 Dicronychus
  • コハナコメツキ属 Paracardiophorus

サビキコリ亜科 Agrypninae

編集

分類情報は Kundrata et al. (2019:87–123) に従う。

Campyloxeninae

編集

分類情報は Kundrata et al. (2019:121–122) に従う。

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 「ヒカリコメツキ (類)」の用語は少なくともサビキコリ亜科英語版 PyrophoriniPyrophorus属およびPyrearinus属の総称として用いられる。

出典

編集
  1. ^ a b 京都府レッドデータブック (2002).
  2. ^ Kundrata et al. (2019:129).
  3. ^ a b c d e 大平 (1962).
  4. ^ Kundrata et al. (2019:87).
  5. ^ Costa (1975:114).
  6. ^ Kundrata et al. (2019:121).
  7. ^ a b c コメツキムシ」『『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館』https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%84%E3%82%AD%E3%83%A0%E3%82%B7コトバンクより2022年3月14日閲覧 
  8. ^ a b c d 大場 (2015).
  9. ^ Costa, C. (1982). “Pyrearinus termitilluminans, sp.n., with description of the immature stages (Coleoptera, Elateridae, Pyrophorini)”. Revista Brasileira de Zoologia 1 (1): 23–24. doi:10.1590/S0101-81751982000100003. 
  10. ^ Redford, K.H. (1982). “Prey attraction as a possible function of bioluminescence in the larvae of Pyrearinus termitilluminans (Coleoptera, Elateridae)”. Revista Brasileira de Zoologia 1 (1): 31–34. doi:10.1590/S0101-81751982000100004. 
  11. ^ コメツキムシ」『『百科事典マイペディア』平凡社』https://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%84%E3%82%AD%E3%83%A0%E3%82%B7コトバンクより2022年3月14日閲覧 
  12. ^ a b c d e f g h 森本 (2007).
  13. ^ Costa (1975:81).
  14. ^ a b c Van Zwaluwenburg, R.H. (1959). “Some type designations, with notes on Pacific Elateridae (Coleoptera)”. Pacific Insects 1 (4): 400–401 of 347–414. http://hbs.bishopmuseum.org/pi/pdf/1(4)-347-414.pdf. 
  15. ^ Rosa, S.P.; Costa, C. (2009). “Metapyrophorus pharolim a new genus and species of Pyrophorini (Coleoptera, Elateridae, Agrypninae)”. Revista Brasileira de Entomologia 53 (1): 45–48. doi:10.1590/S0085-56262009000100012. 
  16. ^ ブシャー (2016:327).
  17. ^ Riese, S. (2012). “Note sul genere neotropicale Vesperelater Costa, 1975 con descrizione di cinque nuove specie e chiavi dicotomiche per le specie note (Coleoptera Elateridae)” (イタリア語). Bollettino della Società Entomologica Italiana 144 (3): 117–124. doi:10.4081/BollettinoSEI.2012.117. 
  18. ^ Costa (1975:114–115).
  19. ^ Arias-Bohart, E.T. (2015). “Malalcahuello ocaresi gen. & sp. n. (Elateridae, Campyloxeninae)”. Zookeys 508: 1–13. doi:10.3897/zookeys.508.8926. 

参考文献

編集
日本語
英語