ギガントピテクス学名Gigantopithecus)は、ヒト上科絶滅したの一つである、大型類人猿身長約3m体重約300 - 540kg[2][3]に達すると推測される本種は、現在知られる限り、史上最大のヒト上科動物であり、かつ、史上最大の霊長類である。

ギガントピテクス
生息年代: 1.00–0.30 Ma
Gigantopithecus blacki
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
約100万- 約30万年前
新生代第四紀更新世前期後半カラブリアン- 後期前半イオニアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
: ヒト科 Hominidae
亜科 : ヒト亜科/オランウータン亜科 Homininae/Ponginae
: ギガントピテクス属 Gigantopithecus
学名
Gigantopithecus
von Koenigswald1935[1]
タイプ種
Gigantopithecus blacki
von Koenigswald1935[1]
和名
ギガントピテクス
英名
Gigantopithecus
下位分類群(
本文を参照のこと
ギガントピテクスの下顎骨の化石(米国カリフォルニア州サンディエゴ人類博物館en]所蔵)

約100万年前(新生代第四紀更新世前期後半カラブリアン)前後に出現したと見られ、中国南部から確実な記録が知られ、タイベトナムインドネシアなどからも同属のものとされる記録があるが[4][5]、30万年前(更新世後期前半イオニアン中期旧石器時代の初頭)あたりを境にしてそれ以降確認されない[2][6]。本種の生存期間はホモ・エレクトゥス類が栄えていた時期と重なり、両者の生息域はかなり重複していたようである。

呼称

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属名古代ギリシア語: γίγαςgigas語幹: gigant-)「巨人」 + πίθηκοςpithēkos)「猿」による造語。模式種G. blackiの種小名は北京原人の発見に貢献したカナダの解剖学者ダヴィッドソン・ブラック英語版への献名[1]

1935年香港の漢方薬局で竜骨として売られていた巨大な大臼歯を購入したオランダの古生物学者グスタフ・ハインリッヒ・ラルフ・フォン・ケーニヒスワルト英語版が命名した[7]

生物的特徴

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分類

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系統分類

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本種は、ケーニヒスワルトとその同僚で北京原人の研究者であるフランツ・ワイデンライヒ英語版の主張する人類祖先巨人説の根拠になったが、1960年代中国の研究者である董悌忱英語版によって人類の祖先ではない「巨猿」であると否定され[8]、現在は「人類の進化系統とは別系統の絶滅類人猿」であったと考えられている。

長らく、中新世の始原的類人猿であるドリオピテクスDryopithecus)に近縁の大型類人猿と考えられ、2000年前後からは、ヒト科チンパンジー亜科を認めない見地からゴリラチンパンジーと同じくヒト科ヒト亜科に分類されることが多かった。いずれにしても、進化系統上オランウータンよりヒト属に近縁で、ゴリラほど近縁ではない位置にある絶滅種と捉えられていたが[9]、近年ではむしろオランウータンに近縁な動物だったと考えられている[10][11]

下位分類

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ギガントピテクス属の下位分類としては、以下の3が知られていた。表記内容は左から順に、学名和名もしくは仮名転写例、特記事項。

ただし、インドから知られるG. giganteusIndopithecus属に属し、G. bilaspurensisI. giganteusのシノニムであるとする説もある。その場合、ギガントピテクス属はG. blackiただ一種のみから構成されることになる[4]

形態

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古人類学者フリーデマン・シュレンク (de)が手にする、ギガントピテクス・ブラッキーの大臼歯の化石

これまでに発見されたギガントピテクスの化石は3個の下顎骨と歯のみであり、情報量はきわめて乏しい。そのため、全体像の再現は憶測・推定によるところが大きい。少なくとも身長を推定し得る四肢骨が発見されていない以上、正確な数値を導き出すことは叶わない。

しかし、発掘された大臼歯は1in(25.4mm)四方もあり、下顎骨もホモ・サピエンスの2倍以上という巨大なものであった。そのことは確かである。そしてこの数値に基づいて、本種は身長約3m、体重約300- 500kg、最大で約540kgにもなったと推測され[2]、これまでに確認されたヒト上科の中で最も大型であったと考えられている。もっとも、本種は顎と歯がただ大きいだけで、実際の体格はゴリラ程度であったと考える研究者もいる。2017年には体重200-300kgほどであると推測された[4]

生態

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四足歩行(現生の大型類人猿と同様、ナックルウォーキングによる四足歩行)をし、果実などを食べる植物食動物であったと見られており、生態はオランウータンに近かったようである。しかし、最近は「雑食性であった」とする説も示されており、これも無視はできない。なぜ絶滅したかについては詳しく分かっていないが、気候変動による生息環境の変化や、生態的に競合する動物の出現による淘汰圧(とうたあつ)が主な原因であろうと推定されている。後者については、同じ竹を食物とするジャイアントパンダとの直接的競合、もしくは、ホモ・エレクトゥス類とのより広い意味での生態的競合が、該当する可能性を持っている。

分布

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中国の柳州にある柳城洞窟やベトナムでは、模式種であるギガントピテクス・ブラッキーの歯の化石が数多く産出する。これは同種の狩猟採集範囲が東南アジア地域に限られていたことを示唆する。また、同属異種ギガントピテクス・ギガンテウス(G. giganteusの化石はインド北部や中国で発見されている。中国ではこの種の歯の化石が広西チワン族自治区大新武鳴南寧)の石灰岩土壌で見つかっている[3][2]

関連事項

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未確認動物

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未確認動物学者の中には、イエティ野人ビッグフットなどと呼ばれるUMA(未確認動物)の正体はギガントピテクス属であると考える者もいる。

創作作品

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キング・コング2005年版)
この映画に登場するキングコングは、ギガントピテクスから進化した大型類人猿という設定になっている。
恐竜惑星
1993年NHK教育テレビで放送されたSFアニメ。ギガントピテクスが現生人類並みに進化し青銅器時代程度の文化を持つに至った巨大な人類という設定のキャラクターが登場する。
エデンの檻
2008年から2013年にかけ連載された日本の漫画作品。本作に登場するギガントピテクスは、胸と頭部に体毛が生えていない。囮となった左治一馬に致命傷を負わせる。
ジャングル・ブック2016年版)
当作品のキング・ルーイはギガントピテクスの生存個体だとされている。詳しくは本項を参照。
ARK: Survival Evolved
ギガントピテクス属の架空の種である、G. fibraratorが登場する。

脚注・出典

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  1. ^ a b c von Koenigswald, G. H. R. (1935). “Eine fossile Säugetierfauna mit Simia aus Südchina”. Proceedings of the Koninklijke Akademie van Wetenschappen te Amsterdam 38 (8): 874–879. 
  2. ^ a b c d Christmas, Jane (2005年11月7日). “À partir de la dent du dragon” (英語). Eric Pettifor. 2007年10月23日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b Ciochon, Russell L. “The Ape that Was - Asian fossils reveal humanity's giant cousin”. University of Iowa. 2010年4月17日閲覧。[リンク切れ]
  4. ^ a b c Zhang, Yingqi; Harrison, Terry (2017-01). “Gigantopithecus blacki : a giant ape from the Pleistocene of Asia revisited” (英語). American Journal of Physical Anthropology 162 (S63): 153–177. doi:10.1002/ajpa.23150. ISSN 0002-9483. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ajpa.23150. 
  5. ^ Noerwidi, Sofwan; Siswanto; Widianto, Harry (2016-11-26). “PRIMATA BESAR DI JAWA: SPESIMEN BARU GIGANTOPITHECUS DARI SEMEDO” (英語). Berkala Arkeologi 36 (2): 141–160. doi:10.30883/jba.v36i2.241. ISSN 2548-7132. https://berkalaarkeologi.kemdikbud.go.id/index.php/berkalaarkeologi/article/view/241. 
  6. ^ Giant ape lived alongside humans” (英語). Daily News. McMaster University (2005年11月7日). 2010年4月17日閲覧。[リンク切れ]
  7. ^ Relethford, J. (2003). The Human Species: An Introduction to Biological Anthropology. McGraw-Hill. ISBN 978-0-7674-3022-7.
  8. ^ Tung, Tichen (1962), "The taxonomic position of Gigantopithecus in Primates", Vertebrata PalAsiatica, 6: 375–383
  9. ^ もっとも、これらの系統分類上の混乱は、本種だけに原因するものではない。類人猿とヒトの進化上の位置づけをいかに捉えるかで多くの説に分かれるがゆえの、避けがたい複雑さである。
  10. ^ Welker, F.; Ramos-Madrigal, J.; Kuhlwilm, M. et al. (2019). “Enamel proteome shows that Gigantopithecus was an early diverging pongine”. Nature. doi:10.1038/s41586-019-1728-8. 
  11. ^ Subfamily Ponginae”. The Primata (2007年). 2013年2月21日閲覧。 “A Taxonomy of Extinct Primates”[リンク切れ]

関連項目

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外部リンク

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