カラゴとは、被差別部落で使われた隠語のこと。「唐語」「唐言」などの字があてられる。部落外の者にわからぬよう、部落民同士で意思の疎通を図るために考案された。地域によってはサンショウともいう[1]

語源は純然たる日本語ばかりであり、江戸時代後期以降につくられたものと推測されている。差別の原因ともなったため、今日ではカラゴの不使用を申し合わせた部落が多い。

以下、高知県宿毛市の貝礎地区のカラゴを紹介する。「ギンシャリ」「バラス」「ゲソク」のように部落外で使われている語も見られる。(>以下は語源)

  • シデジロー(一人前の男性。社会人。主人)>仕手、やりて
  • ワクツ(一人前の女性。主婦)
  • ボブジロー(おばあさん。老女)
  • ガリ(男女の子供。幼稚な子供)
  • シデガリ(男の子供。保育園児・小中高生)
  • ワクツガリ(女の子供)
  • カマル(人が現れる。人が来る。人の動き)>罷る
  • アオクナ(しゃべってはいけない。知らせるな)>(教えや命令などを)仰ぐ
  • アオケ(知らせてやれ。伝達してやれ)
  • フケル(その場を去る。逃げる。どこかに行くこと)>花札にふけるの用語あり。山窩の隠語にもフケル(逃走)あり[2]
  • ゴトシ(仕事。作業。労働)>仕事
  • リュウセン(何もしない。さぼる。遊んで仕事をしない)
  • ニヤク(金銭)>荷役?
  • ハム(来る。入る。受入する。収入)
  • フッタ(死亡。死人。死んだ動物など)>フルヒト=死人
  • セブッタ(死ぬ。死亡。命がなくなった)
  • ケハイイ(恥ずかしい。面倒な。赤面する)>「化粧い」。化粧して恥ずかしい。
  • ビラ(衣類。着物)>びらびらするもの=布
  • ジャネ(米。食料)>シャリ=米粒
  • ギンシャリ(白米)>銀舎利、白米
  • ヨミナ(よいところ。よいこと)
  • ダカセ(やる。もらう)>抱かせ
  • ボク(木材。薪。薪木)>材木、立木、樹木
  • タゲル(盗む)
  • トスク(盗み。泥棒)
  • ヤカメル(煮る。焼く)
  • ノース(食う。食事)
  • テンリョウ(杵でついた餅。ぼた餅)
  • ゼンギョウ(犬。野犬)
  • バラス(殺す)>ばらばらにする
  • ヅウジ(里芋。甘藷。ジャガイモ)
  • エンコ(肉。牛馬の肉。死んだ牛馬の肉)>エンコ(土佐の方言でカッパのこと)
  • カッポ(牛馬の肉。肉)>ガッポウ(岐阜の方言で牛のこと)、カッパ(愛媛の方言で老牛のこと)
  • キザエモン(肉)
  • ヘロ(牛馬や豚の内臓)
  • ネス(部落外のもの)
  • テコ(部落の人々)
  • スネグロ(部落外のもの)>スネはネスの倒語。クロは黒で、白の対義語。ジローの対義語がグロ。
  • ヤロク(泥棒。ならず者)
  • キス(酒。焼酎。ウィスキー)>好きの倒語。芸人やテキヤの隠語。
  • キスグレ(酒癖が悪い)
  • ゲソク(草履。履物。藁や竹の皮で編んだもの)>下足
  • グラ(目。体の一部。額の部分)
  • ツナゲン(目が見えない)
  • ゲソ(肺病。伝染病)
  • ツベ(腰。尻)>土佐全般の方言。
  • イッサンマイ(牛馬の内臓、腸)
  • ワヤナ。ブウイ(悪い人)

愛媛県新居郡泉川村(現・新居浜市)の部落では下記の言葉が使われていた[3]

  • つぐり、どうり(草履)
  • どうきん(雑巾)
  • だんぷ(ランプ)
  • でに(銭)
  • ゆす(椅子)
  • がらんす(ガラス)
  • だんきょう(らっきょ)
  • だくだい(落第)
  • だいさん(財産)
  • のし(おぬし)
  • おかぼいる、なく事(暴れる)
  • れんき(電気)
  • りてんしゃ(自転車)
  • しんずる(死ぬ)
  • へこ(癩病)
  • いんずる(帰る)
  • ばっ(嗚呼)
  • おらんく(わたくしところ=私処)

山口県光市の浅江高州地区では以下のような言葉が使われていた[1]

  • トウサン(東京)
  • ゴットン(汽車)
  • ゴウダベエ(田舎者)
  • メンキュウ(金)
  • チュウマア(宿)
  • セミ(店)
  • チマ(町)

なお栃木県塩谷郡に定住した箕直しの山窩の夫婦によると(夫は1909年生まれ、妻は1923年生まれ)、山窩の隠語で部外の者をネスと呼んでいたという[4]。また1915年生まれの埼玉県の山窩女性によると、山窩の隠語で足袋をゲソと呼んでいたという[5]。これは上記の高知県宿毛市のカラゴにおける「ネス(部落外のもの)」「ゲソク(草履。履物。藁や竹の皮で編んだもの)」と一致または類似している。

ネスという隠語はネスゴロウの略であり、部落外の一般民に対する敵意が含まれており、山口県萩市の部落でも使われていた[6]。ただしネスという隠語はテキヤの世界でも「素人」の意味で使われている[7][8][9][10][11][12][13][14]

カラゴの使用例

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  • ボク、タゲニ、カマル(薪木をとりにゆく)
  • シデン。カマツタケン。アオクナ。(男の人が来たのでなにも言うな)
  • ヅウジ。ヤカメテ。ノース。(芋を煮て、あるいは焼いて食う)
  • グラン。ツナゲン。(目が見えない)
  • ゲソク。バラシテ。ノース。(草履をつくって飯を食う)
  • ワクツガ。カマツタケン。ケハイイコト。アオクナ。(女の人が来ているので恥ずかしいことを言うな)
  • ワクツガ。フケテカラ。アオケ。(女の人が帰ってから話せ)

脚注

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  1. ^ a b 上原善広『日本の路地を旅する』文春文庫版140頁
  2. ^ 鷹野彌三郎『山窩の生活』への宮島貞亮の書評
  3. ^ 『海南新聞』1912年10月1日
  4. ^ 筒井功『サンカの真実 三角寛の虚構』113頁
  5. ^ 筒井功『サンカの真実 三角寛の虚構』112頁
  6. ^ 部落解放同盟新南陽支部発行『学習会資料』
  7. ^ 加太こうじ『わたしの日本語』56頁
  8. ^ 加太こうじ『日本のヤクザ』45頁
  9. ^ 日本人文科学会『社会的緊張の研究』113頁
  10. ^ 神崎宣武『わんちゃ利兵衛の旅: テキヤ行商の世界』94頁
  11. ^ 中村周作『行商研究: 移動就業行動の地理学』281頁
  12. ^ 南博『近代庶民生活誌: 盛り場、裏町』48頁
  13. ^ 林英夫『流民』261頁
  14. ^ 岩井弘融『病理集団の構造: 親分乾分集団研究』96頁

参考文献

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  • 『宿毛の部落史』483-489頁

外部リンク

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