カウンターカルチャー
カウンターカルチャー(英: counterculture)、対抗文化(たいこうぶんか)とはサブカルチャー(下位文化)の一部であり、その価値観や行動規範が主流社会の文化(メインカルチャー/ハイカルチャー)とは大きく異なり、しばしば主流の文化的慣習に反する文化のこと[1][2]。しかし、カウンターカルチャーの価値はメインカルチャーに取って代わりうるポテンシャルを持つ(オルタナティブ・カルチャー)。カウンターカルチャー運動は、ある時代の市井の人々の精神と願望を表現するが、カウンターカルチャーの力が大きくなると、劇的な文化の変化を引き起こす可能性がある。
ボヘミアン主義(1850-1910)、ビート・ジェネレーション(1950年代が中心)などフラグメント(断片的)、地域的なカウンターカルチャーと、1960年代の世界的カウンターカルチャー(1964-1974)がある。1960年代のヒッピーのサブカルチャーに対して、1970年代後半のパンク・サブカルチャーは反発を表明していた。
概要
編集カウンターカルチャーとは、既存の社会の根幹に関わる制度や規範、文化に対して、反発する価値をその存在意義として掲げる集団によって形成される文化である[3]。既存の政治体制の他にメインストリーム・カルチャーや大衆主義、商業主義、権威主義、または伝統や古い大人の価値観に対抗することが多い。そして、彼らの提示する新しい社会こそがより良い人生をもたらすという希望を抱いている[4]。メインストリーム・カルチャーとは何かは曖昧なところがあるが、カウンターカルチャーを通じて既存の体制や文化の問題点や利点が浮き彫りにされること効果がある。
ヒッピー文化や、1969年のウッドストック・フェスティバルに代表されるような、1960年代のアメリカで隆盛をきわめた若者文化にその代表例を見る意見が広く一般化している。しかし、50年代や70年代以降にもカウンターカルチャーは存在したとされる。また、当時のベトナム戦争、文化大革命、公民権運動もカウンターカルチャーに大きな影響を与えた[5]。
- アンダーグラウンド・カルチャーとの関係
カウンターカルチャー・ムーブメントに後押しされて、いくつものアンダーグラウンド文化が開拓された。カウンターカルチャーとアンダーグラウンド・カルチャーの違いは、どちらも主流(メインストリーム)の文化や体制に対抗するが、カウンターカルチャーは実際に対抗勢力や新たな体制になりうる価値を持ち社会全体を巻き込むレベルとなるのに対し、アンダーグラウンドは常にメインストリームにはなり得ず一部のコアな層に支持されるサブカルチャーのレベルに止まることである[6]。メインストリームになった時点で新たな体制の一部となり、もはやアンダーグラウンドではなくなるのである。アンダーグラウンドは、社会の大半が価値を見出せなかったり不快に感じたりさせる性質がある。
1960年代の世界的カウンターカルチャー
編集1960年代のアメリカやヨーロッパを起点として、西側社会(主に資本主義システム)、旧来のキリスト教社会(同性愛、自由な性行為、離婚、中絶の禁止、厳しいものは自慰、避妊も禁止、多神教への不寛容と軽蔑、人間中心主義)に対する文化的な対抗、権威主義(家父長制、男性中心主義、国家主義、警察の暴力、戦争、徴兵、パワハラ)や保守主義(女性差別、人種差別、他文化への不寛容、民族主義)、エスタブリッシュメント、政治家、資本家・大企業(商業主義、金欲主義、弱者搾取、自然破壊)への反発などの抵抗は、ヒッピーなどの若者を中心にしたカウンターカルチャーとして発展した[7]。彼らが唱えた価値観は、価値・文化多元主義、東西の宗教を融合したニューエイジ宗教、社会主義的平等、自由恋愛(と性行為)、マイノリティの尊重、フェミニズム、LGBT(性的マイノリティ)の受容、ドラッグの合法化、自然との調和・エコロジーなどである。
人種差別や女性差別、性的マイノリティの差別は、60年代のカウンターカルチャームーブメントによって社会のメインストリームの座を譲った。また、旧来のキリスト教(特にカトリック)による婚前交渉や離婚の禁止など厳格な性の規範は跡形もなく消え去り、自由恋愛が社会のメインストリームとなった。しかし、ドラッグの推奨などは中毒などの危険性もあり、メインストリームにはなり得ず、今でも反社会的と見なされている。言論の自由も今ではメインストリームだが、ヘイトスピーチや猥褻なスピーチ(タブー)などは今でも公言が憚られるアンダーグラウンドなところがある。
カウンターカルチャー運動は、ポピュラー音楽や映画、現代美術にも影響を及ぼした。当時のアメリカ社会におけるカウンターカルチャーの旗手としては、ティモシー・リアリー、ラルフ・ネーダー、ジョン・レノン、ニール・ヤング、グレイトフル・デッド[8]、フランク・ザッパやヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどがあげられる。
1969年のウッドストック・フェスティヴァルには、30組以上のロック・ミュージシャンなどが出演し、入場者は40万人以上集まり、フリーラブ&ピースそしてドラッグなど当時のカウンターカルチャーを反映した。また、1997年にはカウンターカルチャーの殿堂が設立され、アレン・ギンズバーグらだけでなく、ボブ・マーリィやピーター・トッシュ、チーチ&チョンまでが殿堂入りしている[9]。
しかし、やがてカウンターカルチャー世代は大人になり、社会の中枢になった。仮想敵であったハイカルチャーも失墜した。21世紀の若者にとって彼らの「カウンターカルチャー」は権威に他ならず、その意味を喪失していった[10][11]。アメリカ合衆国の大学英文科はマイノリティ文学に偏重するようになり、人気も凋落している[12]。
- 関連する社会運動
日本のカウンターカルチャー
編集主なカウンターカルチャーの人物、グループ
編集- モハメド・アリ(ボクサー、良心的異端者)
- ソウル・アリンスキー(作家、活動家)
- ジョーン・バエズ(ミュージシャン、活動家)
- スチュワート・ブランド(環境主義者、作者)
- レニー・ブルース(コメディアン、社会評論家)
- ウィリアム・バロウズ(作家)
- ジョージ・カーリン(コメディアン、社会評論家)
- レイチェル・カーソン(作家、環境主義者)
- ニール・キャサディ(メリー・プランクスターズ、文学的インスピレーション)
- ピーター・コヨーテ(俳優)
- デヴィッド・クロスビー(ミュージシャン)
- ロバート・クラム(地下漫画家)
- アンジェラ・デイビス(共産主義者、活動家)
- ボブ・ディラン(ミュージシャン)
- ジェーン・フォンダ(女優、活動家)
- ピーター・フォンダ(俳優、活動家)
- ジェリー・ガルシア(ミュージシャン)
- アレン・ギンズバーグ(ビート詩人、活動家)
- チェ・ゲバラ(革命家)
- ヒュー・ヘフナー(出版人、プレイボーイ誌発行人)
- ジミ・ヘンドリックス(ミュージシャン)
- アビー・ホフマン(イッピー、作家)
- デニス・ホッパー(俳優、監督)
- ジェック・ケルアック(作家、初期のカウンターカルチャー評論家)
- ケン・キージー(作家、メリー・プランクスターズ)
- ウィリアム・クンスラー(弁護士、活動家)
- ティモシー・リアリー(教授、LSD擁護者)
- ジョン・レノンとオノ・ヨーコ(ミュージシャン、アーティスト、活動家)
- ユージン・マッカーシー(反戦政治家)
- ジム・モリソン(歌手、ソングライター、詩人)
- グラハム・ナッシュ(ミュージシャン、活動家)
- ジャック・ニコルソン(脚本家、俳優)
- リチャード・プライアー(コメディアン、社会評論家)
- ジェリー・ルービン(Yippie、活動家)
- エド・サンダース(ミュージシャン、活動家)
- マリオ・サビオ(フリースピーカー/学生権利活動家)
- ピート・シーガー(ミュージシャン、活動家)
- ジョン・シンクレア(詩人、活動家)
- ゲイリースナイダー(詩人、作家、環境主義者)
- ハンター・S・.トンプソン(ジャーナリスト、ライター)
- アンディウォーホル(アーティスト)
- ニール・ヤング(ミュージシャン、活動家)
- 寺山修司(劇作家、歌人)
- 若松孝二(映画監督)
- 大島渚(映画監督)
- 横尾忠則(グラフィックデザイナー、画家)
出典・脚注
編集- ^ "counterculture", Merriam-Webster's Online Dictionary, 2008, MWCCul.
- ^ Eric Donald Hirsch. The Dictionary of Cultural Literacy. Houghton Mifflin. ISBN 0-395-65597-8. (1993) p. 419. "Members of a cultural protest that began in the U.S. In the 1960s and Europe before fading in the 1970s... fundamentally a cultural rather than a political protest."
- ^ "Contraculture and Subculture" by J. Milton Yinger, American Sociological Review, Vol. 25, No. 5 (Oct., 1960) https://www.jstor.org/stable/2090136
- ^ Hall & Jefferson, Resistance Through Rituals (1991), p. 61. "They make articulate their opposition to dominant values and institutions—even when, as frequently occurred, this does not take the form of an overtly political response."
- ^ ウォルター・クロンカイト著、浅野輔訳「クロンカイトの世界」(TBSブリタニカ 1999年)
- ^ Contre-cultures : théorie & scènes Introduction
- ^ Theodore Roszak, The Making of a Counter Culture: Reflections on the Technocratic Society and Its Youthful Opposition, 1968/1969, Doubleday, New York,ISBN 978-0-385-07329-5.
- ^ “The Grateful Dead - Live/Dead”. 2020年4月3日閲覧。[リンク切れ]
- ^ http://sensiseeds.com > Home > Blog > Cannabis News
- ^ 佐々木俊尚 テクノロジー時代のエンタテインメント(第45回)ジーンズに象徴されるかつての“カウンターカルチャー”の消滅(2/2) | ぴあエンタメ情報
- ^ カウンター・カルチャー | 現代美術用語辞典ver.2.0
- ^ アメリカにおける大学英文科の凋落に思うこと:オピニオン:Chuo Online : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
- ^ http://www.subculture.at/tenjō-sajiki/
参考文献
編集- 暮沢剛巳「カウンターカルチャー」(『日本大百科全書:ニッポニカ』)
- 『対抗文化の思想 : 若者は何を創りだすか 』<ダイヤモンド現代選書> シオドア・ローザック 著 ; 稲見芳勝, 風間禎三郎 訳 ダイヤモンド社 1972年;
- Curl, John (2007), Memories of Drop City, The First Hippie Commune of the 1960s and the Summer of Love, a memoir, iUniverse. ISBN 0-595-42343-4. http://www.red-coral.net/DropCityIndex.html
- Freud, S. (1905). Three essays on the theory of sexuality. In J. Strachey (Ed. and Trans.), The standard edition of the complete psychological works of Sigmund Freud. (Vol. 7, pp. 123–245). London: Hogarth Press. (Original work published 1905)
- Gelder, Ken (2007), Subcultures: Cultural Histories and Social Practice, London: Routledge.