オーランド銃乱射事件

2016年のアメリカ・フロリダ州の銃乱射事件

オーランド銃乱射事件(オーランドじゅうらんしゃじけん)とは、2016年6月12日、オマール・マティーンにより引き起こされた、米国フロリダ州オーランドのナイトクラブ「パルス」で起きた銃乱射事件である。

オーランド銃乱射事件
現場に集結するパトカーと救急車
場所 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国フロリダ州オーランド
標的 ナイトクラブの常連客
日付 2016年6月12日 (2016-06-12)
午前2時から午前5時頃 (UTC-4)
概要 銃乱射事件
武器 SIG SAUER MCX
グロック17
死亡者 50人(容疑者1人を含む)
負傷者 53人
犯人 フロリダ州在住の男
動機 不明(IS戦闘員アブ・ワヒーブ殺害への復讐、同性愛者に対する嫌悪が疑われている)
対処 容疑者を射殺
テンプレートを表示

概要

編集

フロリダ州オーランドのゲイナイトクラブ「パルス」(Pulse)でクラブの客を標的に、マティーンがAR-15系の自動小銃を乱射した後、店内に立てこもった[1]。約3時間後にSWATが突入し、男は射殺された[2]

マティーンは、ナイトクラブの客49人を射殺し、さらに53人を負傷させた後、SWATによって射殺された[3][4][5]

この銃乱射事件は、被害としては2007年バージニア工科大学銃乱射事件を超えてアメリカの犯罪史上最悪(当時)となった[3](2017年には犠牲者数60人のラスベガス・ストリップ銃乱射事件が発生している)。

容疑者

編集

オマール・マティーンは、ニューヨーク州ニューハイドパーク生まれの、アフガニスタン系の両親を持つアメリカ人だった。銃撃当時、彼はオーランドのパルス・ナイトクラブから188キロ離れたフロリダ州フォートピアスの集合住宅に住んでいた。

マティーンは、イスラム教徒として育てられたが、過去に過激派との接触があったとしてFBIにより事情聴取を受けたこともあった[6]

2006年10月から2007年4月まで、マティーンはフロリダのインディアンリバー州立大学で刑事事件の科学鑑定に関する学位を取得した後[7]、フロリダ州矯正局の刑務官として訓練を受けた。試用期間中、マティーンが学校に銃を持ち込むと冗談を言った後、所長の勧告により「行政上の解雇」[8][9]を受けた。その後も、マティーンは法執行機関でのキャリアを追求したがうまくいかず、2011年にフロリダ州の警察官を目指し、2015年にインディアンリバー州立大学の法執行プログラムへ編入しようとしたができなかった[9]。 大学の同級生によればマティーンは2007年の炊き出しでイスラム教の食事法に違反してハンバーガーの豚肉に触れた同級生に、「撃つぞ」と脅していたことを証言している。 また、他の目撃者は、マティーンが酒に泥酔しながら、父親の厳格なやり方に文句を言いクラブから何度も護送されるのを目撃したと語っている[10]

2007年ごろから、警備会社G4Sに勤務し、富裕層が暮らす高級住宅街で警備の仕事をしていた[11]。この際に、G4Sがマティーンに対して銃器使用を許可しているが、その後の調査で、2007年に銃器使用を審査し許可したとされるフロリダ州の精神科医は、マティーンと会ったことも、当時フロリダに住んでいた事も否定し、2006年1月の時点でフロリダでの診療を中止していたと述べた。G4Sはこの事を認め、一連の審査には「事務上のミス」があり、その代わりにフロリダ州の精神科医の診療所を買収した同じ会社の別の医者によって審査を通過したことを明らかにした。この医師はマティーンと面接をしていないが、雇用前に受けたスクリーニング検査の標準的な結果を評価している。その後、G4S は心理検査プログラムの不履行により罰金を科せられた[12]

2009年にネットで知り合った女性と結婚したが、「洗濯が終わっていない」などの理由で[13] 日常的にドメスティック・バイオレンスを繰り返すなどして数ヶ月で離婚した[11]。その前後からサウジアラビアメッカに巡礼するなど、イスラム教への傾倒が強くなっていったという[11]。銃撃当時、マティーンは再婚しており、幼い息子がいた[7]

動機

編集

マティーンは犯行中の午前2時22分頃に警察に緊急通報をした際、事件の一か月ほど前に起きた、アメリカ軍による空爆でIS戦闘員であるアブ・ワヒーブが殺害されたことへの報復行為であることや、ISILに忠誠を誓う発言、2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件への関与をほのめかす発言をしており[14]、ISは、アマーク通信を通じて「ISの戦士が実行した」との声明を発表しており、事実上の犯行声明を出しているが[15]、はったりの可能性も指摘されている[16]

また、ナイトクラブが同性愛者が多数集う場所で、日頃より男に同性愛者を嫌悪する発言が目立っていたためヘイトクライムの可能性を男の両親やCNNが指摘している[11][17]。また、LGBTQとのつながりについて匿名や名指しで多数の報告があった[18][19]。しかしながら、後のFBIの調査では、マティーンが同性愛者であることや、ゲイバーに頻繁に通っていたこと、また、「パルス」がゲイバーであることを知っていた、などの主張の根拠を確認できなかった[20]。 調査では、マティーンが同性愛者であると主張する目撃者は、勘違いであったり、供述を拒否したりしたことがあり、マティーンが同性愛者であったという情報は信憑性に欠けるとしている[21]。捜査をする警察に近い情報筋によれば、FBIはマティーンがゲイであったことを示唆する写真、テキストメッセージ、スマートフォンアプリポルノグラフィ、電話基地局の位置データなどを、発見していないことが報告されている[20]

反応

編集
 
ミネソタで行われた追悼集会

バラク・オバマ大統領セクシャルマイノリティが襲撃のターゲットとなったことについて、この犯行を「テロ(恐怖)とヘイト(憎悪)の行為」であると断罪した[22]。2016年6月12日時点で民主党の次期大統領候補となる予定のヒラリー・クリントンと、共和党の次期大統領候補となる予定のドナルド・トランプは両者とも犯行を批判する声明を出している[22]

安倍晋三首相は、「卑劣なテロは断じて許すことができない。強く非難する」「日本は、米国国民と共にある。米国、米国国民に対して強い連帯の意を表明する」との声明を発表し、同様のメッセージをオバマ大統領へ宛てた[23]

歌手のシーアが2016年に発表した「ザ・グレイテスト英語版」はこのテロ事件の被害者へ対する追悼の歌ではないかと言われている(ただし本人はそのことに関して明言していない)[24]

シンガーソングライターのマドンナは、同銃乱射事件から着想を得た楽曲「God Control」を2019年に公開。さらに2024年にマイアミで開催したツアーに、100人以上の生存者と犠牲者の家族を招待した[25]

出典

編集
  1. ^ “Fifty dead in Orlando gay nightclub shooting, worst mass killing in U.S. history; gunman reportedly pledged allegiance to Islamic State”. Los Angeles Times. (June 12, 2016). http://www.latimes.com/nation/nationnow/la-na-orlando-nightclub-shooting-20160612-snap-story.html June 12, 2016閲覧。 
  2. ^ “アメリカのナイトクラブで銃乱射 「イスラム国」が犯行声明”. FNN. (2016年6月13日). http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00327447.html 2016年6月13日閲覧。 
  3. ^ a b “米フロリダ州ナイトクラブでの銃乱射 50人死亡に”. NHK. (2016年6月13日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160612/k10010554151000.html 2016年6月13日閲覧。 
  4. ^ “フロリダのゲイクラブ銃撃、死者50人 米史上最悪の銃乱射事件に”. AFP. (2016年6月13日). https://www.afpbb.com/articles/-/3090216 2016年6月13日閲覧。 
  5. ^ “米ゲイクラブ乱射事件、ISが犯行声明 「兵士が実行」”. AFPBB news. (2016年6月13日). https://www.afpbb.com/articles/-/3090324 2016年6月14日閲覧。 
  6. ^ “米乱射50人死亡…大統領「テロ、最悪の銃撃」”. 読売新聞. (2016年6月13日). https://web.archive.org/web/20160612130049/http://www.yomiuri.co.jp/world/20160612-OYT1T50080.html 2016年6月13日閲覧。 
  7. ^ a b “フロリダ銃乱射、容疑者の過去が示唆するもの”. ウォール・ストリート・ジャーナル日本版. (2016年6月14日). http://jp.wsj.com/articles/SB11611722697749014104804582127793396054320 2016年6月14日閲覧。 
  8. ^ Felton, Ryan; Laughland, Oliver (2016年6月18日). “Orlando shooter was fired for making a gun joke days after Virginia Tech killings” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/us-news/2016/jun/17/orlando-gunman-omar-mateen-fired-gun-joke-state-department-corrections 2024年4月1日閲覧。 
  9. ^ a b Omar Mateen failed multiple times to start career in law enforcement, state records show” (英語). Sun Sentinel (2016年6月16日). 2024年4月1日閲覧。
  10. ^ Before Orlando massacre, killer Omar Mateen visited parents one last time” (英語). Tampa Bay Times. 2024年4月1日閲覧。
  11. ^ a b c d “米銃乱射容疑者、軍事会社で働き、銃の扱いは手慣れて…”. 毎日新聞. (2016年6月13日). https://mainichi.jp/articles/20160614/k00/00m/030/062000c 
  12. ^ Security firm that employed Orlando club killer fined for inaccurate forms” (英語). Yahoo News (2016年9月10日). 2024年4月1日閲覧。
  13. ^ “フロリダ乱射事件の男の元妻が激白――DVに苦しめられ離婚した”. 東京スポーツ. (2016年6月13日). https://web.archive.org/web/20160617025645/http://www.tokyo-sports.co.jp/blogwriter-sakamoto/4351/ 
  14. ^ “米乱射事件 惨劇の3時間 爆竹のような音の後に悲鳴”. 東京新聞. (2016年6月14日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201606/CK2016061402000113.html 2016年6月14日閲覧。 
  15. ^ “死者50人 オバマ大統領「米史上最悪の銃撃」「憎悪に基づくテロだ」 容疑者はISに忠誠か”. 産経新聞. (2016年6月13日). https://www.sankei.com/article/20160613-IP5YDUJA3BOXTNOBIPKWHCI5GM/ 2016年6月13日閲覧。 
  16. ^ Orlando shooting: ISIS quick to claim responsibility but it's likely bluffing, says analyst”. 2024年4月1日閲覧。
  17. ^ Ashley Fantz; Faith Karimi; Eliott C. McLaughlin (2016年6月13日). “Orlando shooting: 49 killed, shooter pledged ISIS allegiance”. CNN. https://edition.cnn.com/2016/06/12/us/orlando-nightclub-shooting/ 
  18. ^ Omar Mateen's Alleged Male Lover Claims Orlando Nightclub Shooting Was Act Of 'Revenge' - CBS New York” (英語). www.cbsnews.com (2016年6月22日). 2024年4月1日閲覧。
  19. ^ Omar Mateen's Alleged Male Lover: 'He Did It For Revenge' Against Latino Men - CBS New York” (英語). www.cbsnews.com (2016年6月21日). 2024年4月1日閲覧。
  20. ^ a b The FBI, however, has been unable to verify that Mateen used gay dating apps and instead has found evidence that Mateen was cheating on his wife with other women. Officials said there is nothing to suggest that he attempted to cover up his tracks by deleting files. They also added he did not make gay slurs during the shooting spree inside the club, based on witnesses.”. 2024年4月1日閲覧。
  21. ^ Blinder, Alan; Robles, Frances; Pérez-Peña, Richard (2016年6月16日). “Omar Mateen Posted to Facebook Amid Orlando Attack, Lawmaker Says” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2016/06/17/us/orlando-shooting.html 2024年4月1日閲覧。 
  22. ^ a b “50人死亡のオーランド乱射は「テロとヘイトの行為」=オバマ米大統領”. BBC. (2016年6月13日). http://www.bbc.com/japanese/36514143 2016年6月13日閲覧。 
  23. ^ “「卑劣なテロ、断固非難」=オバマ大統領にメッセージ-安倍首相”. 時事通信. (2016年6月13日). http://www.jiji.com/jc/article?k=2016061300233&g=isk 2016年6月14日閲覧。 
  24. ^ Kendrick Lamarを迎えたSiaの新曲「The Greatest」はオーランドのゲイクラブ銃撃事件の犠牲者への追悼メッセージ” (英語). FNMNL (フェノメナル) (2016年9月6日). 2024年11月24日閲覧。
  25. ^ 米歌手マドンナ、銃乱射事件の被害者に敬意 ツアー公演中に”. CNN (224-04-11). 2024年4月28日閲覧。

関連項目

編集