インディカ米

タイ米とも呼ばれるコメの品種の一つ

インディカ米(インディカまい)は、イネの品種群の一つ。世界のコメ生産量の約8割を占める[1]。寒さに弱いため高温多湿な地域での栽培が適しており[1]インド東南アジア中国南部などが主な産地である[2]ジャポニカ米に比べ熱を加えても粘り気が少ない[1]

インディカ
長粒種の玄米(品種:バスマティ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 単子葉植物綱 Liliopsida
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
亜科 : タケ亜科 Bambusoideae
: イネ属 Oryza
: イネ O. sativa
亜種 : インディカ
O. sativa subsp. indica
学名
Oryza sativa subsp. indica

名称はインドから栽培が始まったことに由来し[1]、日本では俗にタイ(タイまい)[3]南京(なんきんまい)[4]とも呼ぶ。またインディカ米の一種にバスマティ米、ジャスミン米などがある。

特徴

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イネ (Oryza sativa) は、indicajaponicaの二つの亜種を含む。前者は長粒、後者は短粒を特徴とするとされており、インディカ米には、米粒が細長くアミロース含量が高くて粘り気が少ないものが多い。しかし、アミロペクチン含有量の高いもち米様のインディカ種も存在する。

また、近年遺伝子の解析に基づき、長江流域で栽培化された単系統の品種群をジャポニカと定義し、長江流域に発する稲作文化の影響下に、西方で新たに野生種から栽培化された、複数の品種群を『インディカ』と定義する見解が生じている。

この定義に基づくインディカ米には、長粒品種と短粒品種が混在しており、従来の見解とは必ずしも一致しない。

生産地

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インディカ米は、インドからベンガル地方のバングラデシュなどの南アジアタイをはじめとするインドシナ半島中国中南部、インドネシアを中心に、カスピ海沿岸、アメリカ合衆国ラテンアメリカなど気温の高い地域で作られる。日本朝鮮半島、中国東北部の東アジア北部は、インディカ種の栽培がない。

調理

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粘りが少なく、独特の香りがある。

ピラフやチャーハンのように、副食材と混ぜ合わせて調理したり、カレーライスガンボのような、スパイスを利かせた濃厚な汁料理とともに供されたり、タイのガパオライスのように、濃い味付けの挽肉とともに供される。いずれも現地で食事する際に、皿で混ぜて食べる場合がほとんどであり、日本の様に単品の白飯で食べる例は少ない。

ピラフジャンバラヤなどでは、具を炒めてインディカ米を加え、スープストックを加えて炊き込みご飯にする。また炊飯する場合は、パスタのように鍋で大量の水でコメを茹で、柔らかくなった頃を見計らい、煮汁を捨てて湯切りして蒸らす「湯取り法」が生産地における一般的で、簡便かつ短時間で済む調理方法である。

しかし、煮汁に含まれる栄養分の損失が大きく、また水資源の浪費や河川の富栄養化への影響も無視できない。それゆえ一部の地域では、アジア各地における電化製品の普及もあって、ジャポニカ米のように炊飯器で「炊く」ことも推奨され始めている。

日本への輸入

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日本に輸入されるインディカ米の用途は、タイ料理インド料理飲食店用の食材と加工原料用(味噌泡盛みりん煎餅)が主体で、主食用としての需要は極めて少なく、一般米穀店やスーパーの店頭では、稀に見る程度である。

中国・東南アジア産のインディカ米は、明治時代から日本に輸入され「南京米」の名称で流通した。しかし日本人には、生産地のように米を調理する食習慣がなく、また調理の方法も知らず、適切な調理が行われなかった。消費者が日本の米と同じように炊飯して食べたことから、パサパサした食感と、独特のにおいが不評であった[注 1]

1928年(昭和3年)3月7日、政府は米価調整を目的に外米輸入制限に関する勅令並びに農林省例を公布。これによりインディカ米を含む外米は許可制となり、加工用の砕米が中心であったラングン米やサイゴン米の輸入は制限される一方、通商航海条約の関係からカリフォルニア米やシャム米は除外されたため、新聞各社は骨抜きとの批判[6]や米価のつり上げを招くものであるとの懸念を示した[7]

戦時色が強くなった1940年(昭和15年)、東京、大阪、名古屋の米穀卸売組合に対して、コメを販売する場合には外地米を6割の割合で混ぜるよう政府から通達が出される[8]など戦中戦後の食糧難の時代に、ムギなどとともに不足するジャポニカ米の代用食として消費されるのみであった。また刑務所の食事は、本来麦飯であるが、予算やその時代の食料事情によっては南京米の「臭い飯」が受刑者に出された[注 2]。戦後、食糧生産が回復して米不足が解消してからは需要もなくなり、また日本国政府は昭和40年代(1965年 - 1974年)初頭に、米の自給率100パーセントが実現できるようになった頃から、農業保護のために米を禁輸にした。

1993年(平成5年)は記録的な冷夏で、日本産の米は需要1,000万トンに対し収穫量が800万トンを下回る大不作となり、平成の米騒動(1993年米騒動)に見舞われた。日本国政府は米の緊急輸入を行う必要に迫られ、1993年12月、GATTウルグアイ・ラウンド農業合意を受け入れ、米以外の農産物は関税を課して輸入を認めることを決定した。

米については、生産者への配慮から特例として輸入制限を維持したが、代償として国内消費量の4%(段階的に7.2%の77万トンまで拡大)まで無条件に受け入れる義務を負った。同年、タイや中国から大量のインディカ米が緊急輸入されたが、前述のとおり日本人の嗜好や伝統的な調理法に合わないことから消費は伸びず、事態終息後にも約100万トンものインディカ米の在庫が残り、廃棄されたり家畜の飼料に加工されて処理された。

ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて、日本はミニマム・アクセスとして米を輸入する義務を負っている。日本国政府は強制的に輸入したインディカ米の消化に苦慮しており、加工用として売れ残ったインディカ米は、外国への食糧援助用に転用したり、一部は飼料用として備蓄される。1995年から2004年まで集計した輸入インディカ米の用途は、加工原料用が212万トンで最も多く、ついで外国への食糧援助向けの182万トンである。主食用に輸入されている59万トンは、業務用に用いられる中国北部やアメリカ産のジャポニカ米である[10]

インディカ米を扱った作品

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  • コミックス「美味しんぼ」単行本49巻収録「タイ米の味」※4話構成。
  • コミックス「鉄鍋のジャン!」単行本第15巻収録第136話 -「第二回中華料理人選手権大会」の予選「チャーハン勝負」にて、出場者が使用する米(新米、古古米、インディカ米)がくじ引きで決められるシーンで「インディカ米はこの中では一番チャーハン向きかもしれんけど日本人の口には合わん米や!! 一番やっかいかもしれんわ」というセリフがある。

脚注

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注釈

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  1. ^ 「自分は(中略)光沢のない飯を一口掻き込んだ。すると(中略)舌三寸の上だけへ魂が宿ったと思うくらいに変な味がした。飯とは無論受取れない。全く壁土である。この壁土が唾液に和けて、口いっぱいに広がった時の心持は云うに云われなかった。(中略)自分が南京米の味を知ったのは、生れてこれが始てである」[5]
  2. ^ 「食物はずいぶんひどい。飯は東京監獄は挽割麥だが、こちらは南京米だ。このごろ麦の値が高くなって、南京米の方が安く上るのだそうな。何にせよ味の悪いことは無類で、最初はほとんど呑み下すことが出来なんだ。(中略)聞くところによれば、この三度の菜の代が、今年の初めまでは平均一銭七厘であったが、戦争の開始以後は五厘を減じて一銭二厘となったとのこと」[9]

出典

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  1. ^ a b c d インディカ米」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E7%B1%B3コトバンクより2022年10月24日閲覧 
  2. ^ インディカ米」『小学館「デジタル大辞泉」』https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E7%B1%B3コトバンクより2022年10月24日閲覧 
  3. ^ 第1回研究会の記録:タイ米”. 嗜好品文化研究会 (2010年6月5日). 2022年10月24日閲覧。
  4. ^ 南京米」『小学館「精選版 日本国語大辞典」』https://kotobank.jp/word/%E5%8D%97%E4%BA%AC%E7%B1%B3コトバンクより2022年10月24日閲覧 
  5. ^ 夏目漱石坑夫1908年(明治41年)
  6. ^ 骨抜き勅令との批判も『東京日日新聞』昭和3年3月8日夕刊(『昭和ニュース事典第1巻 昭和元年-昭和3年』本編p165 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  7. ^ 制限令は米価のつり上げを招く『中外商業新報』昭和3年3月8日(『昭和ニュース事典第1巻 昭和元年-昭和3年』本編p163)
  8. ^ 外米を六割混入、三大都市で実施『東京朝日新聞』(昭和15年5月3日夕刊)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p739 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  9. ^ 堺利彦「獄中生活」
  10. ^ 農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」2005年

関連項目

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