イネーブリング
(イネーブラーから転送)
心理療法、精神保健の文脈で使われるイネーブリング(Enabling)には、ポジティブなものとネガティブなものの二種類の意味がある[1]。イネーブリングを与える者はイネーブラー(Enabler)、支え手(ささえて)と呼ばれる。
ポジティブな文脈
編集ポジティブな文脈においては、個人の成長・自立を促す反応パターンを指す。これにより、個人は健全な方向へと導かれる。
ネガティブな文脈
編集ネガティブな文脈では、個人のある種の問題の解決を手助けすることで、実際には当人の問題行動を継続させ悪化させるという、問題行動を指している[2][1][3] 。第三者の責任感、義務感によって、結果的に当人の問題行動を維持させている[2]。イネーブリングはアディクションの環境要因の中心である[2]。
典型的パターンは、アルコール依存症患者とその共依存配偶者のペアである[4][5]。イネーブラーはアルコール依存者の問題行動を「尻拭い」するような行動をとってしまう[2][5][4]。例えば職場に病欠連絡を代わって行う、散乱した酒瓶を隠す、酒の購入代金を提供する[5]。他にも、ギャンブル中毒患者の家族が、ギャンブル中毒者の代わりに借金を肩代わりする、といった行動もイネーブリングに含まれる。[6]イネーブリングに含まれる行動としては、「小言・説教・叱責」、「世話焼き・尻拭い」、「監視」などが挙げられる。また患者が病気であることを否認したり、患者の言い訳作りに協力したりすることも含まれる[5]。イネーブリングはアルコールやギャンブル中毒患者の心理的成長を妨害し、また共依存者の陰性感情を増大させる。こういった共依存者は、アルコール・ギャンブル等依存患者の被害者ではあるが、同時に協力者ともみなしえる。
脚注
編集- ^ a b elinewberger.com From the page on 'enabling', by Eli H. Newberger, M.D., referenced by that web page to The Men They Will Become ch.18 "Enabling".
- ^ a b c d B.J.Kaplan; V.A.Sadock『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開』(3版)メディカルサイエンスインターナショナル、2016年5月31日、Chapt.20.1。ISBN 978-4895928526。
- ^ The Role of Enabler: Are You Enabling Addiction In The One You Love?
- ^ a b 春日武彦『援助者必携 はじめての精神科』(2版)医学書院、2011年12月、35-39頁。ISBN 9784260014908。
- ^ a b c d 信田さよ子『アディクションアプローチ : もうひとつの家族援助論』医学書院、1999年6月、56-58頁。ISBN 4260330020。
- ^ 神奈川県. “依存症対応のヒント 家族のためのワークブック”. 神奈川県. 2024年11月25日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- Compassion vs Enabling, entry from August 29, 2009 on the Spiritual Psychology blog