イエスの知恵』(イエスのちえ、英語: Sophia of Jesus Christ; Wisdom of Jesus Christ)は、1945年にエジプト南部に位置するナグ・ハマディ付近で見つかったナグ・ハマディ写本に含まれる文書の一つで[1]、1896年にベルリン博物館が入手した「ベルリン写本」に含まれる『イエス・キリストの知恵』とほぼ同じ[2]復活後のイエス・キリストが弟子たちに語る設定のキリスト教啓示講話で、哲学諸派を批判し、天上世界について語る[3]

ナグ・ハマディ写本は3世紀後半ないし4世紀にコプト語で筆写された写本であるが[4]、『イエスの知恵』は他のほとんどのナグ・ハマディ写本と同じくギリシア語の文書からの翻訳で、『イエスの知恵』の翻訳元のギリシア語文書の成立時期については学者によって1世紀末ないし2世紀初頭とする説あるいは2世紀後半から3世紀の初めとする説がある[5]

この文書の元になった書簡『エウグノストス』の写本が2つ現存している。そのうちの一つはキリスト教色のない、グノーシス文書である[6]。『イエスの知恵』は、非キリスト教グノーシス文書をキリスト教グノーシス文書に改変したものである。『イエスの知恵』の主要目的は、非キリスト教グノーシス主義者をキリスト教グノーシス主義に引き込むことにあった[7]

脚注

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  1. ^ 荒井「序にかえて」、v頁、x頁。
  2. ^ 小林「解説 イエスの知恵」、384頁。小林 訳「イエスの知恵」、62頁-101頁。
  3. ^ 小林稔「イエスの知恵」『岩波キリスト教辞典』岩波書店、第2刷、2008年、69頁
  4. ^ 荒井「序にかえて」、v頁、vii頁。
  5. ^ 小林「解説 イエスの知恵」、389頁、390頁。
  6. ^ 小林「解説 エウグノストス」、505頁。
  7. ^ 小林「解説 イエスの知恵」、385頁。

参考文献

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  • 『ナグ・ハマディ文書 III 説教・書簡』荒井献大貫隆、小林稔、筒井賢治 訳、岩波書店、1998年。ISBN 4-00-026109-6 
「イエスの知恵」『ナグ・ハマディ文書 III 説教・書簡』小林稔 訳、岩波書店、1998年。 
荒井献「序にかえて」『ナグ・ハマディ文書 III 説教・書簡』岩波書店、1998年。 
小林稔「解説 イエスの知恵」『ナグ・ハマディ文書 III 説教・書簡』岩波書店、1998年。 
小林稔「解説 エウグノストス」『ナグ・ハマディ文書 III 説教・書簡』岩波書店、1998年。 

関連項目

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啓示宗教