アロハ・オエ
アロハ・オエ(ハワイ語: Aloha ʻOe)は、ハワイアン・ミュージックの楽曲。ハワイ王国第8代女王リリウオカラニによって作られた[1]。
ハワイを代表する曲として世界中で広く親しまれている[1][2]。「アロハ・オエ」は「我が愛をあなたに[3]」、「さようなら[4]」または「君よさらば[5][6]」を意味する。
製作年次と歌詞の意味について
編集ハワイ王国最後の女王・リリウオカラニによる作詞・作曲とされ[2][4][5][6][7]、その創作の経緯は以下のような逸話が伝えられている。1878年、当時王女であったリリウオカラニがオアフ島のマウナウィリを訪れた際、従者のボイド少佐 (James Harbottle Boyd) が村娘と抱擁して別れを惜しむさまを見て着想を得たのだという[2][5][6][7]。また、リリウオカラニがハワイ語歌詞と英語歌詞の両方を作詞したとされる[2][7]。
ハワイ王国で音楽指導に携わっていたドイツ人のヘンリー・バーガーによって編曲され[2][5][6]、1883年にロイヤル・ハワイアン・バンドによってサンフランシスコで初演されたのをきっかけに米本土でも知られるようになった[2]。
リリウオカラニが獄中でハワイ王国との別れを惜しんで1890年代に作った、という俗説もあるがこれは疑わしいとされている[5][6][8]。この説は、ハワイ王国廃止後にリリウオカラニがイオラニ宮殿に幽閉されて後世「悲劇の女王」として知られたことに加え、1895年に譜面がアメリカで出版されてミリオンセラーとなったことに影響されているものとみられる[7]。リリウオカラニによる1877年付の自筆メモによって、少なくとも女王作であることは裏付けられている[8]。
ハワイ州立公文書館は、アロハオエの楽譜と歌詞が収録されたリリウオカラニ本人所有だった「A Book of Hawaiian Songs」という名の歌集原本を保管している[9]。同州会計・総合サービス部がその歌集の電子版を公表しており、歌詞自体はタイプされたものだが、手書きによる推敲の跡や注釈が見られる他、多くの曲に署名と制作年がやはり手書きで添えられている[10]。アロハオエについてはリリウオカラニの愛称リリウという署名と直筆で「マウナヴィリ、1877」と書き添えられている[10]。
また、アロハ・オエのメロディーは後に、イエス・キリストの再臨による平和の回復を待望するという内容の歌詞が新たに付けられ、讃美歌[注 1]としても使用されている。
歌詞については、作詞者である女王は単なる恋歌として考えていたにもかかわらず、葬儀の場で別離の歌として用いられたために女王自身が驚いたというエピソードが伝わる[8]。
ヴァースの部分が、1852年にチャールズ・コンヴァースが作曲した「The Rock Beside the Sea」に似ていると指摘されており[2][7]、リフレイン部分も1854年に出版されたジョージ・フレデリック・ルートの「There's Music in the Air」に似ているという指摘がある[7]。
ハワイ語と英語の歌詞
編集出典:[10]
ハワイ語(原語、一部英語)
- Haʻaheo ka ua i nā pali
- Ke nihi aʻe la kanahele
- E hahai ana paha i ka liko
- Pua ʻāhihi lehua[注 2] o uka
- Hoʻōho[注 3]
- Aloha ʻoe, aloha ʻoe
- E ke onaona noho i ka lipo
- A fond embrace a hoʻi aʻe au
- Until we meet again
- ʻO ka haliʻa ʻloha i hiki mai
- Ke hone ae nei ku ʻu manawa
- ʻO ʻoe nō kaʻu ipo aloha
- A loko e hana nei
- Hoʻōho
- Aloha ʻoe, aloha ʻoe, & c.[注 4]
- Maopopo kuʻu ʻike i ka nani
- Nā pua rose o Maunawili
- I laila hiaʻai nā manu
- Mikiʻala i ka nani o ka lipo
- Hoʻōho
- Aloha ʻoe, aloha ʻoe, & c.
英語訳
- Proudly swept the rain by the cliffs
- As on it glided through the trees
- Still following ever the "liko"[注 5]
- The ʻāhihi lehua of the vale
- (Chorus)
- Farewell to thee, farewell to thee
- Thou charming one who dwells in the shaded bowers
- One fond embrace ere I depart
- Until we meet again
- Thus sweet memories come back to me
- Bringing fresh remembrances of the past
- Dearest one, yes, thou art mine own
- From thee, true love shall ne'er depart
- (Chorus)
- Farewell to thee, etc.
- I have seen and watched thy loveliness
- Thou sweet rose of Maunawili
- And 'tis there the birds oft love to dwell
- And sip the honey from thy lips
- (Chorus)
- Farewell to thee, etc.
日本語歌詞
編集- やさしくかなずるは
- ゆかしウクレレよ
- ハワイの波しずか
- 夢をのせてゆるる
- アロハオエ アロハオエ
- こだまする あの調べよ
- アロハオエ アロハオエ
- さらばハワイよ
- おとめのかきならす
- うれしギターレよ
- はてなき海こえて
- 遠く遠くひびけ
- アロハオエ アロハオエ
- こだまする あの調べよ
- アロハオエ アロハオエ
- さらばハワイよ
脚注
編集注釈
編集- ^ 聖歌621番(新聖歌464、聖歌667番)「けがれとあらそいは(Until Thou comest again)」
- ^ ʻĀhihi lehua(アーヒヒレフア、学名: Metrosideros tremuloides)はハワイのオアフ島だけに分布する固有種の樹木。Pua(プア)は花の意味で[11]、pua ʻāhihi lehuaで「アーヒヒレフアの花」を表す。
- ^ ハワイ語で多数で声を一緒にして強調するという意味で、この場合コーラスの意味[12]。現代ではフイ(hui)というハワイ語が良く使われる。
- ^ “c.”はコーラス(chorus)の略。
- ^ ハワイ語で花の蕾の意味。身分の高い人の子供や若い人の比喩にも使われる[13]。
出典
編集- ^ a b 中嶋 1993, p. 107.
- ^ a b c d e f g 青木 1979, pp. 38–39.
- ^ 「アロハオエ」『精選版 日本国語大辞典』 。コトバンクより2021年12月21日閲覧。
- ^ a b 「アロハ・オエ」『世界大百科事典(旧版)』 。コトバンクより2021年12月21日閲覧。
- ^ a b c d e f 『文部省選定鑑賞用レコード解説全書』 1955, pp. 136–138.
- ^ a b c d e f 黒沢, 真篠 & 浜野 1954, pp. 76–79.
- ^ a b c d e f g 江波戸 1972, pp. 45–47.
- ^ a b c 「アロハオエ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2021年12月21日閲覧。
- ^ “Music from Queen Lili‘uokalani Manuscript Collections” (英語). ags.hawaii.gov. 2021年12月19日閲覧。
- ^ a b c “The personal hand-written songbook of Liliʻuokalani” (PDF) (ハワイ語). State of Hawaii - Department of Accounting and General Services. pp. 4-5. 2021年12月20日閲覧。
- ^ "pua". Nā Puke Wehewehe ʻŌlelo Hawaiʻi (英語). 2024年12月16日閲覧。
- ^ "HOO-HO". Nā Puke Wehewehe ʻŌlelo Hawaiʻi (英語). 2024年12月16日閲覧。
- ^ "liko". Nā Puke Wehewehe ʻŌlelo Hawaiʻi (英語). 2024年12月16日閲覧。
- ^ 真篠将、浜野政雄 編『世界民謡集』下総皖一 監修、ポプラ社〈少年少女歌唱曲全集 9〉、1962年4月5日、8-9頁。doi:10.11501/1630331。(要登録)
参考文献
編集- 黒沢隆朝、真篠将、浜野政雄『音楽鑑賞指導資料集成』 第4編 (小学校5・6学年用)、全音楽譜出版社、1954年7月20日、76-79頁。doi:10.11501/9541638。(要登録)
- 柴田知常『文部省選定鑑賞用レコード解説全書―小学校―(増補版)』新教育協会、1955年11月10日、136-138頁。doi:10.11501/9548061。(要登録)
- 江波戸昭『世界の民謡をたずねて』自由国民社、1972年7月1日、45-47頁。doi:10.11501/12434379。(要登録)
- 青木啓『世界の名曲とレコード アメリカン・ポピュラー』誠文堂新光社、1979年3月9日、38-39頁。doi:10.11501/12440721。(要登録)
- 中嶋弓子『ハワイ・さまよえる楽園 民族と国家の衝突』東京書籍、1993年10月。ISBN 4-487-75396-1。
関連項目
編集- ベニー・アグバヤニ - 応援歌として使用されていた