アイ・ウォント・ユー (ビートルズの曲)
「アイ・ウォント・ユー」(原題 : I Want You (She's So Heavy))は、ビートルズの楽曲である。1969年9月に発売された11作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『アビイ・ロード』に収録された。レノン=マッカートニー名義となっているが、ジョン・レノンによって書かれた楽曲[4]。演奏時間は7分47秒と、8分23秒の「レボリューション9」に次いでビートルズの公式発表曲で長い曲となっており[5]、繰り返されるギターのアルペジオや、エンディング部分に含まれているホワイトノイズ、演奏の途中で音が途切れて曲が終わることが特徴となっている。1969年8月11日に完成した本作は、ビートルズの4人が揃ってレコーディングを行った最後の楽曲となった[6]。
「アイ・ウォント・ユー」 | ||||||||||
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ビートルズの楽曲 | ||||||||||
収録アルバム | 『アビイ・ロード』 | |||||||||
英語名 | I Want You (She's So Heavy) | |||||||||
リリース | 1969年9月26日 | |||||||||
録音 |
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ジャンル | ||||||||||
時間 | 7分47秒 | |||||||||
レーベル | アップル・レコード | |||||||||
作詞者 | レノン=マッカートニー | |||||||||
作曲者 | レノン=マッカートニー | |||||||||
プロデュース | ジョージ・マーティン | |||||||||
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背景・曲の構成
編集レノンは、1968年頃から後に妻となるオノ・ヨーコに捧げた曲を作っているが、本作も彼女に捧げたもの[7][8]。歌詞では15種類の単語しか使用されておらず、このことについてレノンは「ヨーコが言うように、溺れそうになっているときに『もし誰かが溺れている私に気づいて、助けに来てくれるだけの先見性をお持ちであれば幸甚に存じます』なんてことを言う奴なんていない。ただ叫び声を上げるだけだ。この曲での僕は『お前が欲しい、欲しくて頭がおかしくなりそうだ、彼女はとてもヘヴィ…』としか歌っていない。それですべてなんだ」と語っている[9]。
ギターのアルペジオによるイントロは6/8拍子となっていて、Dマイナー→Eb9→Bb7→Aaugという進行が用いられている。ブルースコードが用いられたヴァースを歌い終わったあと、「She's so heavy(彼女はとてもヘヴィ)」というフレーズを繰り返すテーマに入り、リードギターで演奏される2番目のヴァースへと続く。再びテーマに入り、3番目のヴァースでレノンの「She's So」と歌ったのち、テーマを3分間繰り返すコーダへと入っていく。コーダでは、ギターのアルペジオがダブルトラックになっており、途中からモーグ・シンセサイザーによるホワイト・ノイズが入ってくる。なお、楽曲は15回目のテーマの途中で突然終了する[10]。
1969年9月にジョージ・ハリスンは、本作について「かなりヘヴィな感じ。ジョンはリードギターを弾いて、ギターと同じように歌っている。リフは実のところ、ごくシンプルなブルース調になっている。それにミドル・セクションが素晴らしい。ジョンのタイミングは驚異的で、コード進行もすごくいい」と語っている[9]。
レコーディング
編集「アイ・ウォント・ユー」は、1969年1月より開始されたゲット・バック・セッション中に幾度となくリハーサルが行われており、同月29日のセッションでは、エレクトリックピアノで参加していたビリー・プレストンが、ヴァースのメロディに乗せてマーティン・ルーサー・キングの演説「I Have a Dream」を元にした即興の歌詞で[9]、同月末のセッションの合間でポール・マッカートニーが独自のアレンジで歌っている[9]。また、同月30日にアップル・コアの屋上で行われた最後のコンサートでも断片的に演奏された[11]。
2月22日にジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えて、トライデント・スタジオでレコーディングが行われた[9]。8トラック・レコーダーのトラック1と4にはレノンとハリスンのギター、トラック2と3にはリンゴ・スターのドラム、トラック5にはマッカートニーのベース、トラック7にレノンのボーカルが録音された[9]。35テイク録音され、最終的なバッキング・トラックはざまざまな演奏を繋ぎ合わせて作成された[9]。
4月18日に場所をEMIレコーディング・スタジオに移し、オーバー・ダビングの作業を行った[9]。なお、空きトラックを作るために、編集が行われたトライデント・スタジオでのマスター・テープからテイク1と命名されたリダクション・ミックスが作成されており、レノンのボーカルとギターがトラック8にまとめられた[9]。同月20日のセッションで、コンガとドラムが録音されたトラック6に対して、プレストンのオルガンが追加された[9]。
8月8日にトライデント・スタジオでの8トラック・マスター・テープの最後のインストゥルメンタル・セクションに、モーグ・シンセサイザーによるホワイト・ノイズがオーバー・ダビングされた[9]。なお、トライデント・スタジオでの8トラック・マスターテープには、オーバー・ダビングが施されていないため、ホワイト・ノイズが入ったセクションは、ステレオ・ミックス作成時にEMIレコーディング・スタジオでのリダクション・ミックスに繋ぎ合わされた[9]。8月11日にもオーバー・ダビングが行われており、同日のセッションがメンバー4人が揃った最後のセッションとなった[6]。
なお、実際の演奏時間は8分4秒あったのだが、ミックスを聴いていたレノンが「そこでテープを切れ!」と叫び、レコーディング・エンジニアのジェフ・エメリックが7分44秒の位置でテープを切ったことから今のような終わり方になった[12][5]。
その他のバージョン
編集2006年に発売された『LOVE』では、本作のコーダが「ヘルター・スケルター」のボーカルとともに、「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」に繋ぎ合わされている[13]。
2019年に発売された『アビイ・ロード (スーパー・デラックス・エディション)』のCD2には、この日にレコーディングしたアウトテイクと、8トラック・リダクション・ミックスのエンディング部分を組み合わせた音源が収録された[9]。この音源ではホワイト・ノイズが入っておらず、プレストンによるオルガンのソロがフィーチャーされており、完成版でカットされたギターのフレーズも含まれている[9]。
評価
編集『ピッチフォーク』のジリアン・メイプスは、「アイ・ウォント・ユー」について「ジョン・レノンがヘヴィメタルの超越を先取りした」曲と評している[14]。2015年に『ギターワールド』誌に寄稿したジョシュ・ハートとダミアン・ファネリは「50 Heavies Songs Before Black Sabbath」の34位に本作を挙げ、「滅多に聴くことのできないジョン・レノンのリードギターが光るブルージーなロッカー」「この曲がドゥームメタルを何気なく生み出したかもしれない」と評している[15]。
『タイムアウト・ロンドン』誌のジェームズ・マーニングは、本作について「ストーナーロックの礎」という認識を示している[16]。
クレジット
編集カバー・バージョン
編集脚注
編集出典
編集- ^ a b Moon, Tom (2008). 1,000 Recordings to Hear Before You Die. p. 62 . "the most convincing exploration of blues and progressive rock the Beatles ever attempted, "I Want You (She's So Heavy)""
- ^ Perone, James E. (2012). The Album: A Guide to Pop Music's Most Provocative, Influential, and Important Creations. Praeger. p. 213. ISBN 978-0-313-37907-9
- ^ Sander, Ellen (1969-10-25). “The Beatles: "Abbey Road"”. Saturday Review 52: 69. ISSN 0036-4983 .
- ^ a b “59 – 'I Want You (She's So Heavy)' -”. 100 Greatest Beatles Songs. Rolling Stone. 18 June 2012閲覧。
- ^ a b Womack 2014, p. 436.
- ^ a b Wiener 1994, p. 84.
- ^ ジョニー・ディーン 編『ザ・ベスト・オブ・ザ・ビートルズ・ブック 日本語翻訳版』平林祥・新井崇嗣・上西園誠(訳)、ザ・ビートルズ・クラブ(監修)、リットーミュージック、2005年、228頁。ISBN 978-4845612536。
- ^ a b Abbey Road 2019, p. 7.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n Abbey Road 2019, p. 8.
- ^ “Alan W. Pollack's Notes on "I Want You (She's So Heavy)"”. Icce.rug.nl. 2020年9月9日閲覧。
- ^ Lewisohn 2000, p. 312.
- ^ Emerick & Massey 2006, p. 301.
- ^ Winn 2009, p. 98.
- ^ Mapes, Jillian (2017年8月22日). “The 200 Best Albums of the 1960s”. Pitchfork. Condé Nast. p. 10. 2021年10月4日閲覧。
- ^ “The 50 Heaviest Songs Before Black Sabbath — Songs 40 to 31”. Guitar World. NewBay Media (2015年10月11日). 2021年10月4日閲覧。
- ^ “The 50 Best Beatles songs” (英語). Time Out London (2018年5月24日). 2021年10月4日閲覧。
- ^ MacDonald 2005, p. 342.
- ^ Sesame Street Fever/Sgt. Pepper's Lonely Hearts - Bee Gees | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック. 2020年9月9日閲覧。
- ^ “高中正義 フィーチャリング・ポーリン・ウィルソン / カヴァーズ”. CDJournal. シーディージャーナル. 2020年9月9日閲覧。
- ^ Prato, Greg. Furious George - George Lynch | Songs, Reviews, Credits - オールミュージック. 2020年9月9日閲覧。
参考文献
編集- Emerick, Geoff; Massey, Howard (2006). Here, There, and Everywhere: My Life Recording the Music of the Beatles. New York: Gotham. ISBN 1-5924-0179-1
- ハウレット, ケヴィン (2019). アビイ・ロード (スーパー・デラックス・エディション) (ブックレット). アップル・レコード.
- Lewisohn, Mark (2000). The Complete Beatles Chronicle. London: Hamlyn Books. pp. 312-313. ISBN 0 600 60033 5
- MacDonald, Ian (2005). Revolution in the Head: The Beatles' Records and the Sixties (Second Revised ed.). London: Pimlico (Rand). ISBN 1-84413-828-3
- Wiener, Allen J. (1994). The Beatles: The Ultimate Recording Guide. Adams Media Corp. ISBN 1-5585-0414-1
- Winn, John C. (2009). That Magic Feeling: The Beatles' Recorded Legacy, Volume Two, 1966-1970. New York: Three Rivers Press. ISBN 0-3074-5239-5
- Womack, Kenneth (2014). The Beatles Encyclopedia: Everything Fab Four. Santa Barbara, CA: ABC-CLIO. ISBN 978-0-313-39171-2
外部リンク
編集- I Want You - The Beatles