とから型巡視船
とから型巡視船(とからがたじゅんしせん、英語: Tokara-class patrol vessel)は海上保安庁の巡視船の船級。分類上はPM型(Patrol Vessel Medium=中型巡視船)、公称船型は350トン型[2]。
とから型巡視船 | |
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基本情報 | |
艦種 | 350トン型PM |
就役期間 | 2003年 - 現在 |
前級 | あまみ型 |
次級 | かとり型 (500トン型) |
要目 | |
総トン数 | 335トン |
全長 | 56.0メートル (183.7 ft) |
最大幅 | 8.5メートル (28 ft) |
深さ | 4.4メートル (14 ft) |
主機 |
新潟16V20FX ディーゼルエンジン×3基 |
推進器 | ウォータージェット推進器×3基 |
出力 | 15,000馬力 |
速力 | 35ノット以上[1] |
兵装 | JM61-RFS 20mm多銃身機銃×1門 |
搭載艇 | 6m型複合艇 |
FCS | RFS (20mm機銃用) |
レーダー | 航海用×2基 |
光学機器 |
赤外線捜索監視装置 (RFS兼用) 遠隔監視採証装置 |
来歴
編集1999年の能登半島沖不審船事件において、当時配備されていた海上保安庁の巡視船艇では、高速かつ重武装の北朝鮮工作船への対応が困難であることが明らかとなった。このことから海上保安庁は、遠隔操作型JM61 20mm多銃身機関砲による精密射撃能力と、30ノット以上の高速力を備えた、警備機能強化型の中・小型巡視船の整備を計画した。これによって開発された中型巡視船(PM)が本型である[2]。
やはり能登半島沖不審船事件の影響で建造された高速特殊警備船が不審船対応任務に特化しているのに対し、本型は、東シナ海および九州北方海域において、外国漁船の監視や不法入国・薬物密輸の取り締まり、海難救助なども行えるよう[3]、汎用性を向上する一方で、船価低減も両立するよう要求された。結果として、高速特殊警備船をわずかに上回る程度の船価に収められている[4]。なお、平成20年度計画での船価は24.5億円であった[5]。
設計
編集設計にあたっては、180トン型PSおよび高速特殊警備船の設計を土台として検討がなされており、半滑走船型、フレームライン形状は角型とされている。前任のあまみ型と比して幅と上部構造を拡大しており、船首ブルワークを廃止しつつも優れた凌波性を実現している。また船質も、高張力鋼から軽合金に変更された[3]。
主機関はニイガタ16V20FX高速ディーゼルエンジン3基、合計出力は15,000馬力、3基の三菱重工製ウォータージェット推進器を駆動する。これは高速特殊警備船と同じ主機出力であるが、より大型の船型で同等の速力を確保する必要から、船体重量の軽減を図っている。警備救難部管理課と装備技術部船舶課によって検討がなされ、3基のウォータージェットのうち中央軸の推力偏向装置を省くほか[2]、船殻や機関部、配線、備品類など、あらゆる部分について軽量化がなされた[4]。17番船「くなしり」就役の際の公式資料で、速力は35ノット以上とされており[1]、京都新聞が「えちぜん」を取材した際の報道や毎日新聞社の報道でも、とから型の最大速力は「時速64キロメートル(35ノット)以上」とされている。
なお、中型巡視船としては初めて公称速力30ノットを越えたことから、高速航行時の振動は想定を超える過酷なものとなっており、船橋は縦揺れが比較的少ない船体中央部に配され、体のホールド性に優れたハイバックシートが採用されたほか、船体各所に応力の計測器を設置するなど、180トン型PSで得られたノウハウが反映されている[6]。
主電源としてはディーゼル発電機2基を搭載しており、通常は1基のみを、出入港時には2基を駆動する。非常用電源としては、劣化判定装置付きのシール型(制御弁式)鉛蓄電池を2群を備えている[3]。
装備
編集主武装としては、高速特殊警備船と同様、船首甲板にJM61-RFS 20mm多銃身機銃の単装マウントを備えている。これは操舵室上の赤外線捜索監視装置との連接によって目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)を備えており、遠距離において精密な射撃を行なうことを可能としている。このRFS連接の遠隔操作型20mm機関砲システムは、一世代前の警備重視型巡視船である、あまみ型やびざん型、みはし型にもバックフィットされており、本型の建造開始と同年に発生した九州南西海域工作船事件において、その威力を実証した[7]。
操舵室上には、RFSの一部となる自動目標追尾・監視機能を備えた赤外線捜索監視装置のほか、遠隔監視採証装置も後日装備された。またマスト上にはレーダーのほか、船名判別暗視機能付き探照灯が装備されている。上部構造物前端部には遠隔操作式の高圧放水銃、操舵室側面には停船命令等表示装置(電光掲示板)を装備している。なお船尾甲板に設置された搭載艇揚降装置は、本型で初めて装備化されたもので、乗員が乗り込んでから数分で複合艇を発進させることができる[2]。
同型船
編集平成22年度計画でも更に2隻の建造が計画されたが、実現しなかった[6]。
計画年度 | 船番号 | 船名 | 造船所 | 竣工・ 配属替え |
所属 | 退役 | 備考 |
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平成13年 | PM21 | とから[8] | ユニバーサル造船 京浜工場 |
2003年 3月12日 |
串木野(第十管区) | ||
PM22 | ふくえ[9] | 三菱重工業 下関造船所 |
2003年 3月12日 |
五島(第七管区) | |||
平成14年 | PM23 | おいらせ[10] | 三井造船 玉野造船所 |
2004年 3月18日 |
青森(第二管区) | ||
平成18年 | PM24 | ふじ[11] | ユニバーサル造船 京浜工場 |
2008年 4月30日 |
御前崎(第三管区) | ||
PM25 | えちぜん[12] | 2008年 4月30日 |
敦賀(第八管区) | ||||
むろみ[13] | 2020年 6月26日 |
福岡(第七管区) | |||||
PM26 | きくち[14] | 2009年 2月17日 |
門司(第七管区) | ||||
PM27 | よしの[15] | 2009年 3月26日 |
徳島(第五管区) | ||||
PM28 | いすず[16] | 2009年 3月26日 |
鳥羽(第四管区) | 潜水指定船 救難強化巡視船 | |||
PM29 | やまくに[17] | 2009年 6月29日 |
大分(第七管区) | 潜水指定船 | |||
平成19年 | PM30 | かの[18] | 2009年 12月16日 |
下田(第三管区) | |||
PM31 | あぶくま[19] | 2010年 3月8日 |
福島(第二管区) | ||||
PM32 | みなべ[20] | 2010年 3月8日 |
田辺(第五管区) | 潜水指定船 | |||
平成20年 | PM33 | まつうら[21] | 2010年 9月14日 |
唐津(第七管区) | |||
2024年 1月13日 |
佐世保(第七管区) | ||||||
PM34 | ちくご[22] | 2010年 12月1日 |
佐世保(第七管区) | ||||
PM35 | くろせ[23] | 2011年 4月5日 |
呉(第六管区) | ||||
みやこ | 2013年 8月7日 |
宮古島(第十一管区) | |||||
はりみず[24] | 2018年 12月25日 |
潜水指定船 | |||||
PM36 | おきつ[11] | 2011年 6月28日 |
清水(第三管区) | 潜水指定船 | |||
平成21年 | PM37 | くなしり[25] | 2012年 2月20日 |
根室(第一管区) | |||
PM38 | おおみ[26] | 2012年 5月31日 |
仙崎(第七管区) | ||||
PM39 | おくしり[27] | 2013年 3月29日 |
函館(第一管区) | ||||
PM40 | なつい | 2013年 6月27日 |
福島(第二管区) | ||||
まべち[28] | 2019年 1月8日 |
八戸(第二管区) |
登場作品
編集- 『海猿シリーズ』
-
- 『LIMIT OF LOVE 海猿』
- 「とから」が登場。鹿児島港沖にて、カーフェリー「くろーばー号」が座礁する海難事故が発生したことを受け、現場海域へ急行し救助活動にあたる。
- 『THE LAST MESSAGE 海猿』
- 「きくち」と「やまくに」が登場。福岡沖にて、天然ガス採掘プラント「レガリア」にドリルシップが衝突する事故が発生したことを受け、現場海域へ急行し救助活動にあたる。
参考文献
編集- ^ a b 第一管区海上保安本部広報資料 平成24年1月25日 巡視船艇の就解役について Archived 2012年2月20日, at the Wayback Machine.
- ^ a b c d 「海上保安庁全船艇史」『世界の艦船』第613号、海人社、2003年7月、186頁、NAID 40005855317。
- ^ a b c 海上保安庁装備技術部/水路部/灯台部「海上保安庁の新型船艇と航空機 (特集・海上保安庁)」『世界の艦船』第595号、海人社、2002年5月、150-155頁、NAID 40002156317。
- ^ a b 坂本茂宏「創設50年から60年 そして70年に向けて (創設60周年を迎えた海上保安庁)」『世界の艦船』第692号、海人社、2008年7月、132-137頁、NAID 40016073810。
- ^ 海上保安庁 (2007年12月20日). “平成20年度 海上保安庁予算内示要旨” (PDF). 2015年10月26日閲覧。
- ^ a b 「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、61頁、NAID 40020105550。
- ^ 中名生正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月、168-173頁、NAID 40020597434。
- ^ “所属艦艇紹介”. 串木野海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属艦艇紹介”. 長崎海上保安本部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属艦艇紹介”. 青森海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ a b “所属艦艇紹介”. 清水海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “えちぜん」引き渡し”. 三井E&Sホールディングス. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船の紹介”. 福岡海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船”. 福岡海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属艦艇紹介”. 徳島海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属艦艇の紹介”. 鳥羽海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属艦艇紹介”. 大分海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “保安部紹介”. 下田海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “あぶくま就航”. いわきあいあい. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “船艇紹介”. 田辺海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船まつうら”. 唐津海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船ちくご”. 佐世保海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船くろせ”. 呉海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属巡視船艇”. 宮古島海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “PM34 くなしり”. 根室海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “業務紹介”. 仙崎海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “所属巡視艦艇”. 函館海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “巡視船まべち”. 八戸海上保安部. 2023年3月5日閲覧。
関連項目
編集- 高速高機能大型巡視船 - 九州南西海域工作船事件を受けて整備された海上保安庁の大型巡視船(PL)。より大射程のボフォース 70口径40mm機関砲を搭載している。
- みはし型巡視船/びざん型巡視船 (2代) - 日向灘不審船事件(1985年)を受けて整備された巡視船。本型の1世代前の警備機能重視型巡視船。
- はてるま型巡視船 - 1,000トン型巡視船(拠点機能強化)。